異世界の大陸の国々は戦乱が続いており、目まぐるしく勢力がアメーバのように変化し続け、ごく最近になって形成された[日本勢力圏]と呼ばれる領域でのみ安定化している。
日本が大陸に上陸してから、日本に対抗するべく連合が組まれようとしていたが、足並みが揃わず、連合を組もうとした国々がそれぞれ好き勝手別々に行動したため、対日本連合結成はお流れとなった。
しかし、その裏で日本自身が行動し、それを阻止してきたのはあまり知られていなかった。
大陸沿岸部では、無国籍のならず者集団が、いつでも使い捨てが出来る使い勝手の良い傭兵として重宝されていた。
ある国の野心を持った領主が、金で雇った腕利きの傭兵団を戦争で疲弊した小国の難民キャンプを襲撃させ、その際、日本の支援団体の職員が十数名殺害される事件が起こり、大陸沿岸部に派遣される日本人に警戒と危険地域への進入禁止令が発令された。
なお、傭兵団は自衛隊によって壊滅させられ、領主は拘束され、実刑判決を受けている。
協定により、領主の身柄は難民キャンプを襲撃された側の国に渡り、現地で裁かれたという。
この事件より前から、大小問わず様々な日本人を狙った事件が発生しており、それらは国籍無き傭兵団と日本側が呼称する正式名称のない犯罪組織が行っていると判明した。
大陸沿岸部の国々の貴族や王族が表に出せないような汚れ仕事を行わせる組織らしいので、現地の文明によって討伐隊が組まれる事はないのだが、日本としては治安を悪化させるテロ組織として排除する必要があった。
当時、ルーザニアと緊張が高まっており、トナーリアとゴルグ日本自治区を結ぶ鉄道の建設が開始される前に、大陸沿岸部での地盤を固めるための不安要素を排除するため、テロ組織の討伐作戦が行われた。
「まったく、最近商談に向かった日本人が、道中で襲撃される事件が多発しているのは、こいつらが原因だったとは・・・。」
「例の事件、難民キャンプ襲撃事件も奴らの構成メンバーが関わっていたらしいな?」
「焼け落ちた村の復興途中にあの虐殺だ。本当に頭にくるよ。」
「某国の野心家だった領主が火事場泥棒的に領土と物資を奪おうとしていたらしいが、結果として拘束されて王家からも見捨てられて処刑されたと。」
「日本でも有罪判決だったが、向こうに引き渡されたんだろう?どんな風に処刑されたんだ?」
「あぁ、蟲うろの刑っていう処刑方で、四肢を粉々に砕いた後縛り付けて、ムカデやらサソリやらがうじゃうじゃいる森に運んだあと、蟲寄せの蜜とかいう薬品を頭からぶっかけて、腹部を切り開いて縛ったまま放置するんだと・・・。」
「やめてくれよ、ぞわぞわしてきた。」
「何でも、ただでさえ鎧虫の生息地に近い危険地帯なのに、腐葉土に毒虫がびっしり隠れていて長靴とかで防御していないと足が腐り落ちる森なんだとか・・・絶対近づきたくないな!」
「むしろ、罪人を運ぶ執行人の方が罰ゲームか何かだろう、執行する方も命懸けの処刑方だな。」
「大量虐殺の大罪人に相応しい報いさ、最初は死にたくないだの叫んでいたらしいが、その内、いっそ殺してくれと言う声に変わって、やがて聞こえなくなったとの事だ。」
「遺族には何の慰めにもならんだろうがな・・・。」
96式装輪装甲車や73式大型トラックなどが、各地に点在する傭兵団の拠点に向かい、同時に討伐作戦を決行した。
「見た感じ普通の農村って感じだな・・・。」
「だが、防壁を超えれば中身は別物だと気づく事になるだろう。」
「事前調査で、このアジトに居る人間は全てテロ組織の構成員と判明している。一般人の様な服装をしているからと言って躊躇するな!」
「便意兵は国際法違反だ、最も前世界の国際法なんてこっちでは関係ないんだがな!」
重迫牽引車で運ばれてきた120mm迫撃砲が展開し、空撮で民家に偽装された兵舎や武具保管庫が確認されており、それが最優先攻撃目標となった。
ならず者たちにとって死は唐突に訪れた。
大地を揺るがす爆炎と、骨肉を砕く破片、耳をつんざく轟音が鳴り響き、無法者のアジトは阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。
『うぎゃああああああ!!!』
『なんだ・・・一体なんだよぉぉ!!!』
『何が起きてい・・・ぎぃえぁぁぁい!!?』
120mm迫撃砲やL16 81mm 迫撃砲による砲撃によって、あらかた施設ごと大地を耕した後、普通科中隊が、残存兵力の掃討を行い、96式装輪装甲車のブローニングM2重機関銃の支援の元、砲撃を生き残ったテロ組織構成員を射殺してゆく。
『うわああああああ!』
『何だこいつらは!?』
『ニッパ族だ!ニッパ族が復讐しに来たんだ!!』
『魔力無しの劣等種族じゃなかったのかよぉぉぉ!!!?』
テロ組織のアジトは死体の山が積み重なっていた。
体中穴だらけになった死体ならマシな方で、その殆どが砲撃によって人としての原型を保っていなかった。
『げごおろろろぇぇぇ!!?』
ブローニングM2重機関銃の機銃掃射によって上半身と下半身が泣き別れした農作業服の男が奇声を上げながら転がり、顔の穴と言う穴から血を噴き出し絶命する。
「くそ・・・っ!」
「躊躇うな、奴らはテロ組織だ!」
若い自衛官は、頭ではテロ組織の構成員だと理解出来ていても、民間人の服を着た逃げ惑う者を射殺するのに抵抗を感じていた。
『やめてくれぇぇ!俺はただの農民だ!』
「っ!!」
『なんで・・・なんでこんな惨たらしい事をするんだよぉ!?』
『黙れ!貴様らならず者全員の顔は割れているんだ!大人しく投降しろ!』
『そんな・・・嘘だ・・・。』
『両手を上げてうつぶせになれ!武器は捨てろ!』
『畜生!ならば死ねぇ!!』
懐から短刀を取り出し、自衛官に突進をするが、その刃が届く前に89式5.56mm小銃がバースト射撃をし、胸から喉にかけて複数の穴が開き、ならず者は絶命する。
『あ・・・げはぁ・・・。』
『警告はしたぞ・・・。』
「今ので最後か?全く、投降すればもう暫くは生きれたと言うのに・・・。」
作戦領域が比較的近い別動隊の砲撃音が響いており、テロ組織掃討作戦が順当に進んでいる事が感じられた。
「目標アルファ制圧完了!」
「目標ベータ、動く人影は見受けられず。」
「目標ガンマ、制圧したが、負傷者1名、軽傷だ。」
一つ一つは小さな農村の様だが、無法者の巣窟であったアジトは、たった数時間足らずで全て自衛隊の手によって壊滅した。
「まったく、唯でさえルーザニアとかいう国にちょっかいかけられているのに、ならず者討伐とはな・・・。」
「野蛮人だの魔力なしだの、いい加減うんざりだぜ、どっちが野蛮人だっつーの!」
「私語は慎め、生き残りが居ないか念入りに調べるぞ!」
ならず者とは言え、一応近隣の村とも交流があったために、自衛隊の制圧作戦を目撃した近隣住民は、一部恐慌状態に陥り、村を捨て逃げ出す者も出たという。
自衛隊は顔認識システムを用いて、近隣の村にテロ組織の構成員が出入りしていないか確認をしており、撃ち漏らしが無いように村を逃げ出す人間を調べ上げ、人目のつかない場所に逃げたところ処理をし、念入りに根切をした。
近隣住民に恐怖感を与えてしまったが、大陸沿岸部の治安を悪くしていた大規模な犯罪組織は消滅し、後に治安の安定化に大きく貢献したとデータに残る事になる。
それから暫くして、日本は国を跨いだテロ組織のアジトを殲滅したことを発表し、大陸沿岸部の国々に衝撃を与えた。
彼ら自身、その実態を正確に把握していなかったにも拘らず、まるで千里眼で全てを見透かしたように無法者のアジトを見分けて、構成員すらも調べ上げ、全くの抵抗を許さずに一方的に壊滅させてしまったのだ。
武装も決して正規軍に劣ったものではなく、下手な歩兵よりも充実した装備が行き渡っていた筈だが、傭兵団としても優れていた無法者は誰一人日本の兵を殺めることが出来ず一方的に蹂躙されたのだ。
まるで演習と言わんばかりに、撮影された掃討作戦の様子を見せられた大陸沿岸部の国々の重鎮達は、顔を真っ青にし、日本に対抗する連合を組むことが如何に無謀な事か強制的に理解する事になったのだ。
しかし、テロ組織討伐作戦が行われ、大陸沿岸部の国々に討伐作戦の映像を公開したころ、ルーザニアはゴルグに向けて進軍を開始していた。
もし、もう少し早く討伐作戦が行われていれば、もしルーザニアが日本の軍事力を知る機会があれば、歴史は変わっていたのかもしれない・・・。
だが、軍事力を見せつけられ、日本と対立する事が如何に無謀かと知りつつも、戦いを選ぶ国は少なくは無かった・・・。
プライド、矜持、執着、利権、様々な物を守るために人は愚かな戦いを続けるのだ。
後に日本は、大陸沿岸部から大陸中央部へと進出するのだが、新たな場所でも日本は思い知ることになる。
惑星アルクス人の生物としての本能を、魔力の優劣による判断を、地球人のそれを上回る闘争本能と凶暴性を・・・・・。
大陸中央部の予行演習的な物ですが、ちょっと戦闘描写を忘れつつありました。
うーん、民間交流も良いけど、時々は魔物相手に戦闘シーンを書いた方が良いのかも・・・。