異空人/イクウビト   作:蟹アンテナ

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第141話  人の造りし怪植物

キョーシャ傭兵国の同時襲撃を自衛隊が撃退したころ、ケーマニス王国で謎の疾病が流行り始めていた。

主に大河などの水源付近で確認された病で、日本が水質検査をした結果、ある種のアルカロイドを主成分とした毒素が大量に検出された。

 

キョーシャ傭兵国の戦闘を終え基地に帰還した自衛隊は、新たな問題に頭を悩ませ、毒素の発生源を調査する事にした。

 

「ドローンやヘリを使って上流を辿っているが、特に変わったものは無いな・・・。」

 

「見落としが無いか注意深く調べろよ?何処かの連中が上流に毒を流したのかもしれんしな。」

 

「しかし酷いもんだ、魚が大量に流れてくる・・・生態系に甚大な被害が発生しているな。」

 

「早く原因を見つけないと・・・・?ちょっと待て、ドローンを一度そこに待機させろ!」

 

「ん?あぁ・・・・何かあるな。」

 

遠隔操作でドローンの高度を下げて、川の上流の違和感のある場所をより詳しく調査する。

 

「何だあれ?ラフレシアとハスの花が合体したみたいな植物だな・・・。」

 

「濃いピンク色と言うか・・・何ともどぎつい色合いだな、こんな植物今までの生態調査で見つかっていなかった筈だが・・・。」

 

突如奇妙な花が動くと、ドローンめがけて黄緑色の液体が花の先端から噴射される。

 

「おわっと!?なんじゃこりゃ!?」

 

「ドローンには命中しなかったが、今のはヤバいな・・・少し距離を取れ。」

 

奇妙な液体を噴射した花はグラグラと揺れ動くと、蔦をうねらせながら川底を歩くように移動を開始した。

 

「おいおい、自立歩行する植物なんて聞いたことも無いぞ!?」

 

「水の中で良く見えなかったが、クソでけぇ!まるでパニック映画の怪物みたいだ!」

 

「奴の周辺が黄緑色に濁っている・・・もしやこいつが疾病の元凶か!」

 

ドローンは距離を取り、一時帰投し、日本ゴルグ自治区の空港からケーマニス王国の空港に着いたばかりのグローバルホークと交代する形で奇妙な植物の監視を続けた。

 

「高高度撮影によると、奴は1体だけじゃないな・・・枝分かれした中流にも一定間隔で確認されている。」

 

「事前の調査では確認されていなかった生物だ、接近する際は最大限警戒しろ!」

 

部屋に資料を持った若い自衛官が入ってきて、中間報告をする。

 

「報告します!例の植物は、自立歩行するだけでなく、放出した毒素と触手の様な器官を使って魚を捕食し、時には鎧虫や魔獣すらも狩りの対象となる様です!!」

 

「・・・・いよいよもって怪物だな、早く処分しなければとんでもない事になる。」

 

「例の植物が近づいた集落は水を摂取していなくても体調を崩す者が出てきたそうです。気化した毒素を吸い込んだ可能性もあります。」

 

「念のために化学防護車をゴルグ駐屯地から持ってきて正解だったな」

 

化学防護車は怪植物に近い集落の救援に行き、96式装輪装甲車は目標の撃破をする為、パンツァーファウスト3やカールグスタフなどの携帯火砲を装備した部隊が乗り込み、ケーマニス王国自衛隊駐屯地から出動した。

 

川沿いの街道を進む96式装輪装甲車は、怪植物に近づくにつれ川の色が黄色く濁るのを確認し、毒に苦しむケーマニスの民の為に足を急がせた。

 

「あれが例の植物か・・・うわぁ、ガキの頃に見た放射能で巨大化した怪獣植物を思い出すぜ!」

 

「生物学者が怪獣王と娘の遺伝子をバラに組み込んだんだっけ?まぁ、似ているっちゃ似ているが・・・。」

 

「ま、大きいと言っちゃ大きいが、精々大型バス程度だろう?装甲に覆われていない車両と考えれば対処できない訳でもないさ。」

 

「こいつよりもデカい甲獣とかのせいで何だか感覚が麻痺してきているが、それでも十分に巨大だからな?非装甲車とは言っても、毒劇物噴射機を載せている相手だと思え、迂闊に近づくなよ?」

 

96式装輪装甲車の後部油圧式ランプドアから降車した自衛隊は、パンツァーファウスト3やカールグスタフを構えて照準を付ける。

もぞもぞと、触手をのたうち回らせるように移動する巨大な怪植物に向かって、複数の光の矢が放たれ、耳をつんざく様な轟音が辺りに鳴り響き、盛大に黄緑色の体液をまき散らしながら怪植物は沈黙した。

 

「やったぜこの野郎め!」

 

「これで、ここら辺の汚染はこれ以上広がらないか?だが、自然環境に放出されてしまった毒素は簡単には消えないか・・・。」

 

「一体この化け物は何だったんだろうな・・・?いや、待て離れろ!!」

 

バラバラになった樹皮から新たに触手が生え始め、攻撃された方向を無差別に毒液を噴射して反撃する怪植物。

そこまで毒液噴射の射程距離がある訳では無いが、気化した毒が自衛隊の居る方向に流れ始めていたので、自衛官たちは急いで96式装輪装甲車に乗り込み距離を取った。

 

「おい、見たかアレを?」

 

「えぇ、日本ゴルグ自治区の発電施設で発生した事故と酷似しております。」

 

「うねる触手の中心部に輝く魔石の塊・・・つまり、何かしらの植物が魔石を取り込み突然変異した物か!!」

 

「96式装輪装甲車はNBC防護がされている、毒ガスの類は防ぐことが出来るが、ああも暴れられると厄介だな。」

 

「重機関銃で魔石を破壊する!ぶっ放してやる!!」

 

車内からの遠隔操作で、96式装輪装甲車に搭載された重機関銃が怪植物の核となる魔石に照準を付ける。

 

ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!

 

上部に備え付けられたブローニングM2重機関銃が火を噴き、怪植物の魔石をうねる触手ごと粉々に粉砕し、大量の木片や繊維片をまき散らす。

 

怪植物は、魔石を砕かれた瞬間痙攣する様に震えた後、見る見るうちに変色し、萎れ始め黒ずんだヘドロの塊の様な物体になれ果て、今度こそ生命活動を完全停止した。

 

「あんまりこいつに触れるのは気が進まないがサンプルを回収するぞ!急げ!」

 

その後、水源各地に潜む怪植物は全て駆除され、徐々に毒素は薄れ始め、浄水器を使うならば飲用可能程度には水質が戻った。しかし、生態系に与えたダメージは極めて深刻で、無事だった水域の動植物を確保した後、生物研究施設で調査と繁殖を行わせ、浄化が終わった後、放流などを行う予定である。

 

 

「しかし、何でこんな怪物が現れたんだ?」

 

「自然発生と考えるにはあまりにも不自然だ。」

 

「それも、こんな情勢の時に・・・どうにもきな臭いな・・・。」

 

怪植物の繊維片を調べる研究員たち、そこに慌てたように報告書を持った連絡員が研究室に入ってきて、担当者に書類を渡した。

 

「あぁ、ご苦労・・・・何?」

 

「どうしましたか?」

 

「こいつらに埋まっていた魔石が偶然無傷で回収できたらしいが・・・。」

 

「魔石が?・・・・これは・・・まさか・・・。」

 

「魔法回路が組み込まれていたとは・・・つまり、こいつの正体は・・・。」

 

「生物兵器・・・でしょうか・・・。」

 

生物研究所が報告した内容を日本国政府は重く受け止め、更なる調査を行わせた。

 

なお、怪植物の毒に苦しむ村に救援に駆け付けた化学防護車両の自衛官たちは、防護マスクや防護服などのNBC対策装備の異様な姿に怯えさせてしまい、村の子供が泣き出すトラブルなどが発生してしまったのは余談である。

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・カクーシャ帝国軍のある駐屯地にて

 

 

 

 

 

『全て倒されただと!?』

 

『魔獣使い族の高位魔術師が直々に仕上げた魔道具によって生み出された怪物がこうも容易く撃破されるとは・・・。』

 

『所詮は蛮族の面妖な術か・・・奴らの村を焼き払え。』

 

『いいえ、奴らは蛮族ではありますが、優れた薬師でもあります。魔石で生み出された植物から抽出された毒や薬品は、今や多くの高貴な血を引く者が利用しております。』

 

『ふん、利益に上手く食い込みおって・・・致し方あるまい、命拾いしたな?』

 

『魔法植物の原種は、精々小さな虫を捕食する程度・・・魔道具の力で巨大化し、魔獣を捕食するほどに成長しましたが、本能で動くために制御が出来なかったのでしょう。』

 

『毒で蛮族共を弱らせたのはそれなりに効果があった様だな?』

 

『しかし、ニーポニスが介入した事により、向こうに与えた被害は限定的になってしまいました。恐るべき対応力と速さです。』

 

『我々の行動を奴らに察知された様子はあるか?』

 

『今のところその様な素振りはありませんね。魔法植物の種子の設置も野盗まがいのゴロツキに任せております。口封じも抜かりなく行っております。』

 

『良くやった。今は時間が必要だ、何か・・・何か付け入る隙がある筈だ。』

 

『このまま監視を続けます。』

 

 

 

日本の存在を快く思わない拡張主義の国々は、様々な手で日本勢力圏への妨害工作や破壊活動を行っている。そして、この魔法植物の河川の汚染は、この世界で日本が受ける初めてのバイオテロであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人造怪植物、もしくは人造魔法植物

 

大型魔石を加工した魔道具が組み込まれた巨大な食虫植物で、主に魚を捕食するが、野生動物や人間、そして鎧虫と魔獣すらも捕食対象とする。

半ば本能的に活動し、原始的な知能を持つため、敵対した生物の動きに反応し、防御や攻撃を行う。

日本ゴルグ自治区で偶発的に発生してしまった怪植物の様に、細胞が癌細胞化しておらず、凶暴化と自立歩行などの方向性が定められた変異をしており、埋め込まれた魔道具の技術力の高さが伺える。

体液は有毒であり、毒のカクテルともいえる分泌物を水源に垂れ流し、弱ったり絶命した獲物や水中生物を触手状の器官で巻き取り、飲み込み、強酸性の消化器官で吸収する。

周辺の生物を無差別に襲い掛かるために、生物兵器としては制御不能な失敗作であるが、科学力が未発達な現地文明が生み出したものとしては、極めて高度な物なので、今後の技術の発展次第では日本国にとって脅威となり得る存在である。


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