異空人/イクウビト   作:蟹アンテナ

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第146話  破壊の魔石

大陸中央部に進出した日本は、港町を持つ大陸中央部の国の中で最も近い国ケーマニス王国と国交を結び、日本の影響力を大陸中央部に広げて行くが、その過程で現地の好戦的な勢力と遭遇し、バイオテロやキョーシャ傭兵国の襲撃、技術者の亡命などを経て遂に大陸中央部の覇権国家カークシャ帝国と戦争状態へとなってしまった。

 

カクーシャ帝国の依頼を受け日本を襲撃したキョーシャ傭兵国の傭兵団を殲滅し、逆侵攻して陥落させたキョーシャの首都を占拠した自衛隊は、そこを拠点にカクーシャ帝国軍の侵攻に備えた。

 

「全く、敵を一つ潰したらまた別の敵が現れるとか勘弁だぜ。」

 

「むしろあちらさんの方が本命だろうよ、キョーシャ傭兵国を嗾けた奴らが直接俺たちを叩きに来たという訳だ。」

 

「戦後処理中に横やりを入れられるのは敵わんな。」

 

「トレーラーやトラックでピストン輸送とは言え、物資の集積は進んでいる様だな。」

 

「あぁ、この量ならキョーシャ傭兵国と同格の相手もカクーシャ帝国の主力部隊も余裕で撃破可能だ。」

 

「キョーシャの民間人はどうするんだ?」

 

「自宅から出ない様に指導したり空き家に避難させるさ、まぁ俺たちのせいで空き家だらけってのが複雑な気分だがな。」

 

「元々が魔物の生息地のど真ん中に位置する街なだけあって街の構造自体が堅牢に出来てる、多少損傷個所はあるが、住民が戦禍に晒される心配は殆どないだろう。」

 

「穴の開いた防壁はコンクリートで固めたし、陣地の構築も粗方済んでいるし、帝国が攻めてきても問題ないが、足場固めはなるべく可能な限り進めたいところだ。」

 

「城塞都市ゴルグに比べるとやや小さいが、防壁の厚みはこちらの方が上か、まぁ現在進行形で街周辺に鎧虫や肉食獣が徘徊している危険地帯の真ん中にある国だから防備も充実するんだろうな。」

 

「もしかしたら此処もゴルグみたいに機械化が進んだりコンクリート固めの要塞に生まれ変わるのかもしれんが、今は元の構造物を利用させてもらうとしよう。」

 

 

その後、偵察機や偵察衛星によってカクーシャ帝国の進軍が監視され、数週間かけて過酷な道中をごくわずかな犠牲を出しながらもカクーシャ帝国は、自衛隊の占拠するキョーシャ傭兵国首都へと到達するのであった。

 

『まったく、使えぬキョーシャ傭兵国め、蛮族の街を焼く事すら出来ず逆に占領されてしまうとはな。』

 

『所詮棄民の末裔に過ぎんという事か、お陰で道中魔物の襲撃で損害が出てしまった。』

 

『ニポポ族に寝返った魔法植物学者どもも許しがたい、奴らの国ごと潰してくれるわ。』

 

『む?見えてきたな、しかしニーポニスによって街が改造されている様だ。』

 

『弩砲も無ければ置き盾も無しか、ふん所詮毛無し猿に過ぎぬか。』

 

『道も整備されている様だな、まぁ精々後で利用させてもらうとしよう。』

 

『少人数だけ生かせ、後は皆殺しにしろ。』

 

『くははは、腕が鳴るわ!人類の英知の結晶である鋼鉄の剣は青銅の剣とは違うのだ!』

 

カクーシャ帝国がキョーシャ傭兵国の首都の防壁が見える距離まで進軍すると、自衛隊の動きが慌ただしくなる。

 

「単純に数が多いと怖いな、大陸沿岸部の国とは根本的に規模が違う。」

 

「そりゃぁな、だが俺達からすると少しばかり防具を着込んだ暴徒と大して変わらん。」

 

「なるべく引きつけろ、数を減らした後は回り込んで退路を断つ。」

 

予め角度を設定して置いた120mm迫撃砲に半装填し、カクーシャ帝国軍が目標地点まで到達するまで待つ。

 

「毒を撒いたお返しをしてやれ!奴らを吹き飛ばす!」

 

「ってぇ!!!」

 

防壁の内側から上空に轟音と共に砲弾が放たれる。

カクーシャ帝国軍は聞いたことも無い音に驚き、一体何が起きたのか周りを見回す兵士も居たが、次の瞬間赤々とした炎と共に地面が爆ぜ、一瞬で百名以上の兵士の命が文字通り消し飛んだ。

 

『ぐわああああぁぁ!』

 

『足が、足が千切れ・・・がああああ!』

 

一瞬で死ねた兵はまだ運が良かった方で、中途半端に生き残ってしまった兵は地獄の苦痛を味わいのたうち回っていた。

 

『何だこれは!?奴らは魔力を持たない猿では無かったのか!?』

 

『くそっ!優れた魔術師が奴らに加勢したに違いない!』

 

『いや、しかし・・・あり得るというのか?あれ程の破壊力のある魔導など聞いた事が・・・。』

 

魔術に知識のある騎士が疑問を口にしようとするが、それは最後まで続かなかった。

再び空気を切り裂き落下してきた迫撃砲弾に肉体が血の煙と化し仲間の肉体と共に土と混ざり、その痕跡さえ消え去ってしまった。

 

各陣は大混乱に陥っていた、大気を叩くような音が聞こえた後、大気を切り裂く音共に赤黒い炎の花が咲き、破壊と死がまき散らされる。

 

ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!

 

土嚢が積み上げられた機銃陣地からM205三脚によって支えられているブローニングM2重機関銃が火を噴き、カクーシャ帝国軍の戦列をなぎ倒して行く。

 

『ぎええええぇぇ!!』

 

『おのれ、おのれえぇぇ!!』

 

『魔力無しでは無かったのか、この様な魔導、許されて良い物なのかっ!?』

 

機銃陣地の隙間からMINIMIや89式5.56mm小銃が連続して発砲し、防壁に近づいていたカクーシャ帝国兵が血を噴き出して倒れて行く。

 

『見えた、あれだ!奴らは魔力無しが故に魔道具を使っているのだ!』

 

『何と分不相応な!』

 

『つまり、奴らも例の魔石を手に入れたというのか?』

 

『だとしたら不味い、一時撤退・・・いや、転進するのだ!』

 

多くの者は、想定していなかったニーポニスの軍勢の破壊力に戸惑い迷走し逃げ回っているが、階級の高い将兵は焦燥感のある深刻な表情をしながら思考を回転させていた。

 

(馬鹿な、間諜が齎した情報は本当だったのか?確かに幻覚魔法をかけられた痕跡は無かった様だが、現実的に魔力無しがこの様な魔導を操る事など・・・。)

 

(違うな、恐らく奴らは我々よりも先に人食い族の集落を見つけ、魔石を引き抜いたに違いない!)

 

(先を越されたのは悔しいが、ならば対抗するには例の物を使うしかないか。)

 

(うん?何だあれは?鎧虫かっ!?)

 

軍馬の上から指示を出し、兵を誘導していると奇妙な物体、鎧虫の様な形状をした何かが林から数体飛び出し退路を塞いだ。

鎧虫の頭部が開くとニーポニスの兵士が鎧虫の中から姿を現した。

 

『くっ!鎧虫を操るだと!?どけぇぇ!!ひき潰してくれるわ!』

 

騎兵が鋼鉄の槍を突き出しながら鎧虫らしき物体に突撃を開始する。

だが、騎兵たちは無謀の代償を支払う事になる。

 

回り込んだ96式装輪装甲車が上部のブローニングM2重機関銃から火を噴き、左右同時に火線が交差する十字砲火が撤退するカクーシャ帝国軍を面で制圧する。

 

撤退するつもりが死地に飛び込む羽目になったカクーシャ帝国軍は、砂糖菓子が溶け崩れる様に消し飛び、火線が通り過ぎると其処には人間の体と金属の混ざった汚泥の山が積みあがっていた。

 

『あが・・・げ・・げっげっ・・・。』

 

下半身と泣き別れをしつつも即死を免れた将兵は口から血の泡を噴きながら、焦点の定まらない目で96式装輪装甲車を見つめた。

 

(これが・・最期か、だが・・・・報いる時・・・が・・。)

 

(お前には・・・済まなかったな・・。)

 

辛うじて動く片腕を伸ばして首だけになった愛馬の頭を撫でると将兵は意識が薄れもう二度と目を覚ます事は無かった。

 

 

一方、逃げ遅れキョーシャ傭兵国の防壁付近に取り残されていた部隊は、進軍する事も撤退する事も出来ずに迫撃砲の雨と機銃掃射によって殆どが死に絶えていた。

 

ほんの僅かな生存者も体の何処かしらを欠損しており、身動きが取れない状態であった。

 

「酷い有様だな。」

 

「ちょっとした街の人口が失われたのかもしれんな。」

 

「これでカクーシャ帝国も諦めてくれれば良いが、そうもいかんだろうな。」

 

「ゴルグといい今回のカクーシャ帝国といい、どうしてここまで好戦的なんだか・・・・。」

 

「まぁ所詮俺たちは魔力無しのエイリアンで、連中にとって人間ではないという事なんだろう。」

 

「カクーシャ帝国の首都の制圧ともなると骨が折れるぞ?今までの相手と比べて規模が違う。」

 

「まぁ要所を抑えれば何とかなるんじゃないか?注意しなければならないのが今回も丸焼きにしない事だ。」

 

「ゴルグとかザーコリアとかな、前者は兎も角後者は国民によって丸焼きにされたんだが・・・。」

 

機銃陣地から戦場を眺めていた自衛官が何か違和感を感じると、草の茂みから赤い閃光が走り、炎の塊が唸りを上げて96式装輪装甲車に向かって行くのが見えた。

 

「なっ!?RPG!!!」

 

96式装輪装甲車が急発進し、炎の塊の射線から逃れると、僅かな時間差で先ほどまで96式装輪装甲車がいた場所が大爆発し、天高く火柱が立ち上がる。

 

「馬鹿な、重火器並みの破壊力はあったぞ!?」

 

「反撃しろ!また来るぞ!」

 

ブローニングM2重機関銃が草の茂みに放たれると、暫くして激しい魔力爆発と共に肉片が舞い、戦場は静寂に包まれた。

 

「弾速はそこまででもないが、もし直撃していたら幾ら96式装輪装甲車でも大破は免れなかったかもしれん。」

 

「奴らを少し侮り過ぎたか?この世界の魔法と言うのも油断できんな。」

 

「まだロケットランチャーみたいな魔法を使う奴が潜んでいるかもしれん、慎重に調べろよ。」

 

その後、カクーシャ帝国のキョーシャ傭兵国制圧部隊は全滅し、96式装輪装甲車を攻撃した魔術師の者と思われる肉片の傍に、緑色の魔石が埋め込まれた破損した杖が発見され、これを回収し解析されることになった。

 

緑色の魔石には、トガビトの遺伝子を含んだ組織片が確認され、魔石に絡まるように伸びた干乾びた管からトガビトの村長に近い遺伝子が確認され、ドーリスの両親の魔石の可能性が浮かび上がった。

 

一通り、解析が進んだ後は、魔石はトガビトの村へと持ち込まれ、ヴェルナー村長に確認を取ると、魔石の波長がヴェルナー村長の息子のものと一致し、この魔石がドーリスの両親の片割れ、父親の魔石であることが判明した。

 

『あぁ・・・あぁ・・・・・馬鹿息子め、こんな所に居たのか。』

 

『ヴェルナー村長・・・・。』

 

『よくぞ、良くぞ取り戻してくれた、有難うニホンの民よ、有難うイクウビトよ・・・・。』

 

感受性の高い若手の外交官は、釣られて涙を流している者も居る。

基本的に身内以外を信用しない排他的なトガビト達が、同胞の、それもトガビト達を導く長の肉親の魂が戻ってきた事で、魔石を取り戻してくれたイクウビトに心を開きつつあった。

 

『あの、ドーリスさんは・・・?』

 

『あぁ、あの子は初の任務で村を後にしておるよ、ふふふ、あの子が戻ってくるのが楽しみで仕方がない。』

 

『そうでしたか、確か外の国の動向や情勢の調査でしたっけ?』

 

『そうだ、確かに村の外の情報はそなた達から伝えて貰ってはいるが、やはり直接確認せねばならんからな。』

 

『えぇ確かにそうですね。』

 

『カクーシャ帝国の暴君共と戦った直後なら猶更だ、此処暫くはこの周辺は荒れるだろうな。』

 

『まぁ我々も目を光らせておきますよ。』

 

しかし、派遣した調査部隊は帰還予定の日を過ぎても戻る事は無かった。

ヴェルナー村長の孫娘であるドーリスも含めて・・・・・。




うーん、時間はかかりましたが何とか投稿しました。
資料集めしながら話を練ると時間が幾らあっても足りないです。
暫く離れていた事もあって、物語の流れを思い出すのにもちょっと時間がかかりました。
もう少しテンポよく投稿したいですが、上手くいかないものですね。OTL

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