異空人/イクウビト   作:蟹アンテナ

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第15話   海神の巨槌

海の国が消滅したことで、海の民は安住の地を失い途方に暮れている所、異世界から突如現れたニホンと言う国が彼らに新たな住居としてイズ諸島近海を彼らの生活場所として提供し、付近の住民と奇妙な共生関係になってから暫くして。

 

海の国の聖歌隊員リンダは、海の国の跡地の様子を見るために、「転移」の爪痕である海底峡谷へ泳いでいた。

「見事なまでに海底がパックリ割れているわね・・・」

 

海の国を滅ぼした「災厄」と入れ替わる形で、この世界に組み込まれた証拠であり、その底は、未だに魔鉱石の青白いマグマが煮えたぎっていた。

「本当に何もかも無くなってしまった・・・私たちの聖歌の為のホールも、残っていないか・・・。」

「・・・少し、遠くに行き過ぎたわね・・・戻らないと・・・。」

 

 

ニホンに戻るため、反転し、海流に乗るために足鰭を動かそうとしたその時、遠方の砂場で爆発音が響いた。

「っ!?な・・・何?」

 

ニホンの漁師達が、拘束魔法を利用した漁をする事もある海域で、このような異常現象が起こる事を見逃すことは出来ない。

慌てて、爆発音が聞こえた場所へ泳いでみると、砂煙の中から岩の様にごつごつした物体が現れた

「あ・・・・ああっ・・・こ・・・これはっ!!」

 

それは、ウミビトの中ではある意味見慣れた物であった、だが、加工される前の生きた状態で見る者は海の国の中でもそうは居ない。

「重宝玉貝!!(ディプサ・サルタ!!)」

 

分厚い貝殻は、あらゆる衝撃を防ぐ盾に加工され、生成される巨大な真珠は、水竜の鱗すら貫通する槍の刀身に加工される。

しかし、個体数が少なく、生息域も深海になるため、探知力の高い専門の魔術師を派遣しなければ、まず見つからない。

それが、何故こんな浅瀬の砂場に転がっているのかは、不明だが、彼女にとって、海の民にとって大発見もいい所だった。

 

「転移の際に、海底から吹き飛ばされてきたのかしら?何にしても、こうしてはいられないわ!」

 

彼女は、体内に宿る水の魔石を振動させ、付近の海水と共振させて魔力を帯びた水流を発生させる。

「大口を開いているんなら、奇襲出来る筈・・・・はぁぁっ!!!」

 

凄まじい水流が、水の槍と化し、直線上の物を貫く聖歌魔法、水槍(アルネ・スロアー)を放つ・・・しかし。

バグン!!

 

「え?」

水の槍が到達する寸前に、防衛本能が働き、僅かな海中の魔力の濃度の変化を感知し、貝殻を閉じ、これを防御する

 

ギチ・・ガチガチ・・・・ガッポン!!

 

そして、分厚い貝殻を激しく振るわせた後、凄まじい勢いでこれを閉じる事で、爆発的な水流が発生し、周囲の物を薙ぎ払った。

「きゃあああああああああああ!!!」

 

その凄まじい衝撃波を浴び、リンダは吹き飛ばされながら意識を失った。

 

 

 

後日

 

「まさか、重宝玉貝がこんな浅瀬に生息しているとはな」

「いやいや、何かしらの影響で浅瀬まで移動しちゃったんでしょ、それにしてもリンダちゃんも災難だねー」

「阿呆抜かせ、本来たった一人で挑む相手じゃない、功を焦ったアイツが悪い、良い薬になればよいが」

「ヴィーナちゃんひっどーい、リンダちゃん、這う這うの体で報告しに来たのにー」

「ふん、この狩りで貴様の軽薄さも叩き直されるのならば何もいう事はあるまいさ」

「大丈夫だよ、重宝玉貝の事はしっかり予習してきたからさ、このネレイナちゃんに任せなさいー!」

「どうだか・・・・おっと、お喋りはここまでの様だぞ、ネロ、奴だ。」

 

 

「うへぇ、聞いた話通りのデカブツねぇ。」

「面妖な・・・。」

 

本来光の射さない深海に生息する重宝玉貝が明るい砂場に鎮座する光景は、ウミビトから見ても異様な光景であった

 

ギチギチ・・・ギギギ・・・

 

周囲に気配を感じたのか、貝殻を小刻みに震わせて不気味な音を周囲に響かせる。

 

「あれは、威嚇だな、これ以上近付いたら唯じゃおかないぞ、と言う意思表示と言う奴だ。」

「ああ、リクビトによると、大陸のほうでも鎧虫の一種が似たような行動をするらしいわね。」

「ねぇ、どうするの?殻が分厚くて攻撃が全く効かないらしいけど・・。」

「奴が衝撃波を出すときに一瞬だけ殻を大きく開く、そこに聖歌魔法 鮫牙(スクラトゥス)を打ち込む」

「それって、タイミングを誤ったら危なくない?」

「大人数で絶え間なく水槍を放ち疲労を誘う方法も無くは無いが、この人数では短期戦しかあるまい」

「ま、今の海の国が動かせる人員なんてたかが知れているし、5人も聖歌隊が集まれば良い方なんじゃないの?」

「よし、私の牙槍を触媒にする、合わせろよ?」

 

 

 

聖歌隊の一人が、槍を掲げタクトの様にリズムを取りながら上下させる。

~~~♪♪♪~~~♪♪♪

体内に宿る魔石を振動させ、海中を伝わり、聖歌隊同士の魔力を共鳴させ、魔力を帯びた水流が水獣の牙の槍に集まる。

 

 

ギチギチ・・・・ガコン!

威嚇から外敵の排除行動へと移り、貝殻を大きく開き、衝撃波を放つ準備をした・・・・その時!

 

「~~~♪♪♪♪・・・・・行くぞ!!聖歌魔法 鮫牙(スクラトゥス)!!!!」

 

圧縮された魔力が槍に集中し、凄まじい破壊力の水槍が突き進み、重宝玉貝に直撃、水の大爆発を起こし海底を砂煙が覆う

 

「単純な破壊力だけなら水槍の10倍だ・・・流石に奴も無事では済まないはず・・・・。」

 

ギギ・・・・ガチガチ・・・ガコン

 

「馬鹿な!あの速さの鮫牙を直前に防ぐだと!?」

 

ごぼぼ・・・・ガッポン!!

 

「っ!?・・・・ぐうっ・・・あああああああああああああぁぁっ!!」

 

 

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「・・・・で、聖歌隊のメンバー5人も負傷したと」

「あの海域には近づかない方が良いと思います、ニホンの漁師の方にもお伝えした方が良いかと」

「ふむ、では大使館に連絡を・・・それと、重宝玉貝の監視を続行しろ」

「はっ」

「・・・そう言えば、第3太陽丸が近海で漁をしているらしいが・・・無事だと良いのだが・・・。」

 

 

「うーみぃーの、おとっこーはぁーー♪♪たいりょーーきぃ♪♪かっついーでぇーーー」

「船長、音痴な歌うたっていると魚が逃げてしまいますよ。」

「るっせぇ!別な世界に飛ばされて、ヘンテコな魚や化け物みてぇなカニが襲って来たり商売あがったりだ!歌わずにはいられるか!」

「ですが、単純な漁獲量なら地球以上ですよ、手つかずの漁場が延々と広がっているのです、調理法さえ確立すればビジネスチャンスですよ?」

「確かに味は悪くねぇけどよぉ・・・はぁー、久しぶりにカレイの煮つけが食いてぇなぁ・・・。」

「この世界にも似たような魚が居るじゃないですか・・・。」

 

一方海中

「あれは・・・ニホンの船だ・・・あれは、拘束魔法ティーチ・ア・ミィか?」(注.底引き網です。

「なるほど、不可視の壁で海底の魚を丸ごと捕獲するのか・・・むっ!?あの方向は・・・いかん!!」

 

 

「さて、そろそろ引き上げるか?」

 

ごおおおぉぉぉぉん!!ガキン! ピンッ!

 

「な・・なんだ!?網が丸ごと持っていかれた!?」

 

 

「ぬぅ・・・まさか、ティーチ・ア・ミィが破られるとは・・・あの衝撃波、侮れんな・・・。」

「ニホン程の力を持った国ですら重宝玉貝には敵わぬか・・・」

「っ!?誰かが潜って行く!?馬鹿な、誰か止めさせろ!!」

 

 

「はぁ、何で俺がこんな事を・・・どうせ岩か何かに引っかけたんだろ?・・・おっ?」

ギギギ・・・ガチガチ・・・。

 

「シャコガイ?か?こんな海域に・・・なんて大きさなんだ、異世界のシャコガイなのか?」

 

ガリガリ・・・ごっぽん!!

 

「っ!?があああああああっ!!!」

 

 

ダイバーが漁具の異常を確認するために、海へ潜るも、ウミビトの攻撃や、船の発する騒音に気が立っていた重宝玉貝の衝撃波を浴び意識を刈り取られてしまう。

 

あばら骨を数本折る重傷を負った彼は、病院に緊急搬送され、日本政府は近海で目撃されたこの害獣を駆除する事を決定した。

 

 

 

数日後・・・

 

 

巨大貝襲撃事件があった海域に白一色に塗られたヘリコプターが腹部に灰色の物体を抱えて飛行していた。

 

「水中戦のプロフェッショナルである人魚でさえ、手を焼く生物だ、銛で突ついた程度では駆除できんぞ?」

「まぁ、そのためにこれを持って来たんですけどね。」

 

本来は潜水艦への浅海面での攻撃や警告・威嚇目的に使用される対潜爆雷を抱えた哨戒ヘリSH-60Kは、ソノブイから送られてくる情報を元に機体を旋回させ、腹部から海中に潜む者にとって凶悪極まりない物体を投下した。

 

ドオオオオォォォォォォン・・・・・・・・・・・。

 

 

海中を蹂躙する衝撃波と、海面を貫く水柱を上げて、後に静寂がその海域を支配した・・。

 

「目標の沈黙を確認、帰投する。」

 

 

「・・・・・これが、ニホンの水軍の力・・・。」

 

事前に通告があって、避難していたウミビトたちは、平穏の戻った重宝玉貝の居た海域へ向かい、原型を留めないほどに四散した重宝玉貝の残骸を見て絶句する。

 

「まるで、海神の槌で叩き潰された様だ・・・どんな魔導を使ったというのだ?」

「ジエイタイの方から聞いたのですが、バグ・ラ・ウィと言う広範囲魔法を使用したらしいです。」

「バグ・ラ・ウィ・・・・まさかティーチ・ア・ミィを超える魔法があるとは・・・それも、まるで格が違う・・・。」

「ティーチ・ア・ミィですら、本気の魔法ではなかったというのか?何と恐ろしい・・・。」

「初遭遇の時に彼らと敵対していなくて本当に良かった・・・運が良いとしか言いようがない・・。」

 

その後、日本政府は、重宝玉貝のサンプルを一部受け取り、残りは海の国の武具を充実するためにウミビト達に提供したという。

 

 

 

 

ディプサ・サルタ 通称、重宝玉貝

和名:オニハガネシャコガイ

 

全長4メートルを超える巨大な二枚貝。

普段は海中の岩に挟まって海中のプランクトンを捕食しているが、外敵が近づくと貝殻を高速で開閉して衝撃波を発生させる。

その威力は凄まじく、至近距離では鉄の板も容易く粉砕し、周囲に死をまき散らす。

また、魔力の濃い海域では、高純度、高濃度の魔石を核とした、真珠を生成する。

貝殻と真珠は、常識では考えられないほどの軽さと硬度をもち、タングステンも顔負けの強度と、高い魔法的親和性を持ち、ウミビトが扱う武具の素材の中でも最上級の品質を持つ。

個体数が少なく、滅多なことでは見つけることが出来ないが、発見できたとしても、本種を狩るのには犠牲を覚悟で大人数で挑むしかない。

 

 

拘束魔法ティーチ・ア・ミィ(人魚視点

 

ニホンの魔術師が使用する強力な拘束魔法。

水上では、その実態を確認できるが、水中に降ろすと、背景と同化する魔法の糸を何重にもからめた網を使い、範囲内の生物を拘束する。

捕えられたが最後、魔法の糸で出来た檻の中に閉じ込められ、宙吊りにされてしまう。

 

 

広範囲魔法バグ・ラ・ウィ(人魚視点

 

ニホン水軍の使用する究極魔法の一つ。

まるで、伝説の海神が振り下ろす巨槌による大破壊を彷彿させる驚異の破壊力を持っており、その範囲内の生物は皆、一瞬で絶命する。

ニホンが操る、黒き海獣も同等かそれ以上の破壊をもたらす魔法を扱う事が出来るらしいが、詳細は不明。

ニホンの底知れぬ軍事力の一端が垣間見れる。


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