異空人/イクウビト   作:蟹アンテナ

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第162話  旅人 ジェイク・マイヤーの手記6

「速報、臨時ニュースです。」

 

「本日、大陸中央部の国カクーシャ帝国は無条件降伏を受諾、カクーシャ帝国の敗戦という形で終戦となりました。繰り返します、本日、大陸中央部のカクーシャ帝国は日本に降伏し終戦となりました。」

 

私は、ゴルグガニアのショッピングモールと呼ばれる商人たちの城の巨大な動く絵を眺めながらいつの間にか大陸中央部の大国との戦争が終わっていることを知った。

ほんの少し前に開戦の情報を聞いたばかりだと思っていたが、あまりにも早すぎる終戦であった。

 

動く絵には、鎧虫から火を吹く槍が放たれ地方要塞と思われる砦を吹き飛ばす光景が映し出されており、その破壊力に見物客たちは圧倒されている様であった。

 

『やべぇなあ、遠目から見ても落とすのに苦労しそうな要塞が一発で瓦礫の山だぜ』

 

『ゴルグガニアの兵舎に何匹かあの鎧虫を見かけるが、あれ程の力を秘めているなんてな』

 

『ニーポニアの操る鎧虫を見ればおっかなくて戦争なんて仕掛けないと思っていたが、とびっきりの自信家が山脈の向こう側に居たもんだ』

 

『自信家とは言わないわ、蛮勇って言うんだよそう言うのは』

 

大森林と山脈を隔てた向こう側の話なのでまだ詳しいことは分からないが、どうにも大陸中央部に進出したニホンの工業力に押され、更に魔力至上主義の価値観を持っていたため魔力を持たないニホンを憎み、戦争の口実をつくり侵略して奴隷化させた後に技術を吸収すると言う目論見だった様だ。

まさに無謀、もはや蛮勇通り越して手の込んだ自殺とも言える愚行であるが、逆に言えばそれだけの実力があったと言うことなのだろう。

ただ今回ばかりは相手が悪かった様だ。

 

ここ、ゴルグガニアはこの大陸に上陸したばかりのニホンに無礼を働き使節団を磔にして処刑するという蛮行に及んだため、一夜にして滅ぼされたという。

現在はニホンゴルグ自治区としてごく僅かに生き残った貴族を雇用する形で運営されているが、ほぼ完全にニホンの植民地である。

その元貴族と言うのも大半が戯れに村娘に産ませた庶子で王都に居場所が無かった故に戦渦を逃れたのだと言う。

 

嘘か本当かは不明だが、この街の町長の母は毛糸玉を投げて遊んでいるときに貴族の馬車に毛糸玉を当ててしまい、その怒りを買って連れ去られ12歳という齢で町長を身籠り、母子共々奴隷の様に館の下働きをさせられていたらしい。

 

そうなのだ、ニホンがこの大陸に訪れてから久しく忘れかけていたが、本来この世界というのはそう言う形であり、そしてそう言う価値観であったのだ。

弱ければただ奪われる、それこそが世界の絶対の理であった筈、しかし圧倒的な力を持ちつつもそれを良しとしない存在がこの大陸に現れたのだ。

 

『最初から俺たちみたいにニーポニア側につけば甘い汁が啜れたっていうのに馬鹿な連中だよ』

 

『正直魔力無しとかそう言うのどうでもいいわ、ちゃんと対価を払ってくれて美味いもん食わせてくれるなら誰だって良い』

 

『さて、かぁちゃんに何か土産でも買ってやろうかな、ニーポニアの鍋は丈夫だから調理器具でも買いに行こうか』

 

魔力無し、確かに魔力の強さによって格を決める習慣のある地域は大陸沿岸部側にも見られるが、魔力が弱くてもそれ以外が有能ならば正当に評価される価値観が主流だ。

話に聞く大陸中央部ほど魔力至上主義に染まっている国は沿岸部では殆ど無いが、一応は存在している。

正直碌でもない話なので、自分から進んでそういった物に関わらないようにしているが、知識としては知っておかなければならない価値観だろう、避けていても向こうからやって来る事もあるからだ。

 

『私を誰だと思っている!?私は・・・・==家の!』

 

ああ、これだ。

今でこそ滅多に現れることは無くなったが、ニホンに留学や観光目的で訪れた貴族や王族が狼藉を働き警備兵に連れ去られて行く光景があるのだ。

 

『ええぃ!魔力無し共め!その汚らわしい手をどけろ!』

 

取り押さえを振り切ろうと片方の手に魔力が集まり炎が迸る。あの男正気か?

 

「正当防衛だ、確保する」

 

警備兵が腰から小さな魔道具を取り出すとチカッと眩い光が男を照らし、その瞬間男は奇妙な声を上げて弓なりに仰け反り失神する。

ほんの一瞬であるが、強烈な魔力の様な物をあの道具から感じたので意識を奪う魔術が込められた鎮圧用の魔道具なのだろう。

ニホン人は魔力をその身に宿す事はないが、魔道具を操ることで擬似的に魔法を再現することに成功しており、下手すると本物の魔法使いよりも強力な魔法を行使することだって出来るのだ。

 

『あーあ、全く折角楽しく買い物していたっていうのに』

 

『まだ居るんだなぁ、あの手の輩って』

 

『あの、あれはどういう騒ぎだったのですか?』

 

一部始終を目撃していたと思われる観光客に話しかけると、ため息をつきながら事のあらまし説明してくれた。

 

『この店があまりにも大きいからニーポニアの王城だと思い込んで、大陸中央部行きの船に載せろって騒ぎ始めたんだよ』

 

『祖国でどれだけ権力があるのかは知らないけど、勘違いと思い込みから他国に迷惑をかけるって恥ずかしい話だよな』

 

『・・・・なんというか、凄まじいですね』

 

全くもって呆れた話である。

 

『案外、祖国の奴らが持て余した結果国外へ飛ばされただけかもな』

 

『それはそれで迷惑な話ですね』

 

『国同士の交渉をしたいのならば大使館に行けばいいのに馬鹿だなぁ』

 

世界を知りたくて故郷から旅立った私もまだ見ぬ大陸中央部の世界には確かに興味をそそられる。

しかし、私は大陸沿岸部ですら全てを見たことがないのだ。

そもそも私の足で歩いていたら一生涯かかって半分でも見れれば良いほうだろう。

 

・・・・・・ふと、1階の角に並べられている鎧虫の売り場が目に入る。

ニホン人がたまに町中であれに乗って行き来している姿を見ることがあるのだ。

唸り声を上げる鎧虫は自走している様だったが、それを模した細身の荷車は人力で走らせている様に見えた。

もしあれが手に入れば・・・・・。

 

「アノ・すみません。この鎧虫おいくらございますでしょうか?値段教えやがれください!」

 

私は勝手に開く扉を潜り、鎧虫を売る店へと踏み込んだ。

 

 

・・・・・・・それから暫くして、私は新たな旅の相棒となる自転車なる乗り物を手にしていた。

本当は、バイクなる鎧虫を手に入れたかったのだが、あれには特殊な訓練を受けて初めてそれを動かす資格を得る物で、そもそも自転車にすら乗れない私は話にもならないと言う事なのだ。

最初は補助輪なる部品をつけていたのだが、それでも何度も転び膝を擦りむきながらも感覚を掴み、補助輪を取り外しても走らせることが出来るようになっていった。

 

運転免許証なる資格を得るために金を稼がなくてはならない、私は唸り声を上げながら走る鎧虫に思いを馳せながら、新たな相棒とともに荷物運びや宅配の仕事で日銭を稼ぎ、いつか大陸沿岸部や大陸中央部を相棒とともに旅をする事を夢見た。

 

『しかしながら、すっかり愛着が湧いてしまったな』

 

感覚をつかむまでに何度も横転したため傷だらけになりつつも、その輝きを放つ自転車を撫で、焼き固めた黒い砂利の道を走る。

ふと、気がつけば自転車を手に入れてからすっかり行動範囲が広くなっていたことに気づく。これもニホンが齎した恩恵のひとつなのだと噛み締めた。

 

 

 

瞬間魔力照射機・・・低出力型魔力パルス照射機

 

魔力パルスグレネードのデータが度重なる戦争で蓄積された結果開発されたアルクス人用の鎮圧用機材。

マグネシウムと魔石の粉末を混ぜて点火することで対象を気絶させる程度の出力に抑えられた魔力パルスが発生し、反射板に何度も跳ね返りながら収束し指向性の魔力パルスがむけられた方向に直進する。

基本的に再利用が出来ず、カートリッジを差し替えて使う使い捨て型なので一昔前のカメラを彷彿させることから、イチコロカメラの愛称で呼ばれている。

なお、志願して魔力パルスの実験に参加した被験者には現在のところ健康被害が発生しておらず、後遺症は見られなかった。

 

 

 

 

 




今回はここまで・・・。

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