異空人/イクウビト   作:蟹アンテナ

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第22話   森の守護者 永久人

異世界の大陸に横たわる広大な大森林。大陸奥地に進むための玄関口にして、大陸有数の危険地帯。完全武装した兵士でも生きて帰れるものは少ない。それ故に調査が進んでおらず、過去に数回各国の調査団が派遣され、多くが帰らぬものとなる凄惨な結果となり、それ以来、調査は打ち切られている。

しかし、強大な魔物すら及ばない高空から、大森林を見つめる者が居た。電子の目を持って、グローバルホークが観測装置を用いて、大森林の隠された姿を暴こうとしていた。

 

 

 

「よう、アルティシア、また炎爪熊を仕留めたんだって?」

 

「村の畑を荒らしていた犯人がコイツだったからね、暫く肉料理には困らないと思うよ。」

 

「撃ち込んだ魔石の矢で心臓を凍り付かせたのか、えげつないねぇ。ま、腐りにくくなるし、勝負も一瞬で決まるし、毛皮も傷まない。一石二鳥って奴だ。」

 

「お蔭で大分費用がかさんだけどね。普通の矢だったら、数週間は追いかけっこさ。」

 

「あの大きさの魔物を氷漬けにするんだ、結構良い値だったろ?」

 

「それでも、仕留める事が出来たのだから、収穫のほうが上だよ。奴の爪も魔石みたいなものだしね。」

 

「あぁ、見たよ。あれほど状態の良いものは滅多に見かけない。良い仕事をしてくれたよ。」

 

「いい加減君も大物狙った方が良いんじゃないかい?タルカス、君ほどの槍の名手がレディカクラウロ数匹程度の戦果と言うのも正直あれだよ?」

 

「村の門番が活躍するときは、あまり好ましくない事だろうよ?別にこちらから出向いて魔物どもを潰す気にはならんし、我々に害する魔物だけを仕留めればそれで良いのさ。」

 

「村周辺に危険な魔物がうろついているだけで事だろうに・・・まぁ、魔物なんぞよりも、荒野の連中のほうがよっぽど厄介・・・・っ!?」

 

 

ゴォオオオオオオオオオオオオオオオォォ!!!!

 

大気を叩く様な轟音と共に、空に巨大な槍の様な物体が上空を通り過ぎ、集落全体を眺める様に旋回しつつ、森の外へ飛んでいった。

 

 

「な・・・何だ今のは!?」

 

「見た事も無い魔物・・・いや、そもそも生き物なのか!?翼の生えた槍の様にも見えたが・・・。」

 

「少なくとも自然と生まれたものでは無さそうだね、古の魔導文明の産物か、それとも荒野の民の新型魔導兵器か・・・兎に角、村を見られた可能性があるのが不味いね。緊急招集がかけられるかもしれないね。」

 

「面倒な事になりそうだ・・・。」

 

 

 

 

 

 

 

「グローバルホークが大森林地帯に集落のような物を観測したらしいです。」

 

「人が住まぬ土地では無かったのか?いや、そもそも、あんな危険な場所に好き好んで住む者が居るなんて。」

 

「集落近くに開けた場所があります。少し狭いですが、ヘリが着地出来るかもしれません。」

 

「何にせよ、接触するときは細心の注意を払え。無用な争いは避け、あくまで友好的に。」

 

「了解です、彼らならあの大森林の情報を多く持っているかもしれませんしね。」

 

 

 

 

 

 

 

数日後、朝の弱い日差しが昼の強い日差しに変わりつつある頃、大森林の空に無数の羽音が響き渡った。

UH-1Jの編隊が大森林の奥にある小さな草原に降り立ち、その腹部から数十人ほどの奇妙な斑模様をした兵士を吐き出し、再び空へ消えていった。

 

「まさかこんな奥地に草原があるなんてな。」

 

「草原と言うか、背の高い木が生えていない場所と言うか・・・。」

 

「何となく手入れがされた痕跡の様なものを感じるな。だが、大分昔に放棄された様な・・・。」

 

「見てください、鉄製の鍬が落ちていますよ?酷く錆びていますが・・・。」

 

「開拓したが、管理が出来ず放棄した畑だったのかもしれんな。近くに集落らしきものが確認できることと関係があるとみて間違いないだろう。」

 

「村に直接降りれないんですかね?」

 

「阿呆、そんな事したら相手を無駄に刺激する事になるだろ。下手したら攻撃されかねん。」

 

「隊長!あれを見てください!!」

 

「あれは・・・・成程、例の集落か・・・」

 

 

 

トワビト・・・・元々は、リクビトだった種族だが、莫大な魔力が満ちるこの大森林に適応する事で、強い魔力と長寿を誇る種族へと進化した。

外界と交流を断っており、外部から訪れる冒険者などを幻術で誘導し、集落から遠ざける。

集落全体にはその幻覚魔法を高出力で作動させ、村の住民の精神の深部を共鳴させ続ける事で無意識に幻覚魔法を使用する強力な擬態をしている。

これのお蔭で、大森林の深部に到達した冒険者や調査隊などに長らく発見されていなかった・・・・・異世界から現れた魔法が効かない種族が現れるまでは・・・。

 

 

「幻覚魔法の出力を最大出力で!自警団の方は、門の守備を固めて!」

 

「くそっ、一体何なんだ!鉄の羽虫がリクビトを落としていったぞ!?」

 

「斑模様の奇妙な格好をしている!森の景色に溶け込むつもりか?味な真似を・・」

 

「魔術師部隊はどうした!?」

 

「既に奴らに向かっています。幻覚魔法を至近距離で浴びせて追い払えれば良いのですが・・・。」

 

「あれ程の羽虫を操る者たちだ・・・・一筋縄ではいかんぞ!魔法戦を準備しておけ!」

 

「アルティシア、奴らは何者なんだ?」

 

「分からない、少なくとも寄せ集めの傭兵連中では無い様ね。動きに規律がある、つまり正式に訓練された兵士・・・。」

 

「こんな奥地にか?我らの領域を侵しに来たと言うのか?」

 

「彼らの目的は分からない・・・でも、出方によっては・・・。」

 

「あんまり早まった真似をするなよ?アルティシア。」

 

 


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