異空人/イクウビト   作:蟹アンテナ

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第37話   オノカマキリと香辛料

上から見ると綺麗な正六角形の防壁に覆われた、城塞都市ゴルグ、防壁の工事が終わり、いよいよ都市の改造に取り掛かりつつある現在、様々な商人がこの街を往来していた。

 

「・・・やはり、ニッパニア相手に、商機を見出し、ゴルグガニアを訪れる連中が多いな。」

 

「だからこそ、やりやすいと言う物だ。」

 

しかし、ゴルグに訪れる者は、商人だけでは無かった。

 

「ニッパニア本国は、海を越えた先にあるらしいが、どの程度この街を統治できるか、どの程度の規模の国力を持つのか、

それを推し量るには、こうして商人の真似事をしながら潜り込むのが一番だ。」

 

「あぁ、そうだな、一応俺達も商人の経験があるし、調査のついでに小銭稼ぎも出来る、割の良い仕事だ。」

 

『アノ・スミマ・セン~』

 

声をかけられた方向を見ると、斑模様で、どこか薄汚れた様な衣装の若者が近づいてきた、恐らくニッパニアの兵士だろう

 

 

「おや?ニッパニアの兵士様、何がご用で?」

 

『エーット・・・ツーヤック・タ・ノーム』

 

「食糧、トル?取り扱って・マス・ましたか?」

 

「あぁ、私達は、鎧虫を専門とする商人でして、食用から武具用と様々な用途の鎧虫を取り扱っております。」

 

「ジャァ・食用の、虫・鎧虫、お願シマスー」

 

「それでは、この斧蟷螂の卵巣なんてどうでしょう?とても狂暴なので、中々手に入らない珍味中の珍味!」

 

「魚卵に似た食感で、塩漬けや塩焼きが絶品なのですよ!」

 

『ムス・ノ・タマゴ?ダージョブ・ナノー?』

 

『サソリ・ミタ・ヤツ・ウマカッタ・ジャナカー』

 

ニッパニアの兵士は、時々、彼らの母国語と思われる言葉を挟み、仲間同士で会話をしている様だ。

 

 

「(やはり、ニッパニアの言語は、この大陸のどの系統とも違うな・・・。)」

 

「(くそっ、奴らが何を話しているのが分かりさえすれば・・・解読はまだなのか?学術院のボンクラどもめっ)」

 

 

「それでは、食ベル・食べる物・買います・マシタ?」

 

「それでは、銅貨4枚になります。」

 

「ウワー・タカイナー・・・それでは、それ、買います・貰いマス?」

 

「有難う御座います。」

 

「(しかし、片言とは言え、末端の兵士が大陸語を話せるとは・・・)」

 

「(発音がややウミビト訛りの所を見ると、海の国と同盟を結んだと言う情報は正しそうだな。)」

 

 

「リョーリ・ハン・ニ・モットコー」

 

「アイツ・ラ・コレ・チョーリ・デキルカー?」

 

「(海の国の協力があるとは言え、この短期間で、これ程に大陸語を兵士に習得させることが出来るとは・・・)」

 

「(やはり、侮れんな、ニッパニアは・・・)」

 

 

斑模様の兵士達は、露店近くの天幕に入って行き、仲間と何か話している様だ。

 

 

「・・・・?あれが奴らの天幕か?意外と近かったな?」

 

「俺が様子を見に行く、幸い、興味本位で覗く連中が多いから大して怪しまれんだろう。」

 

「だが気をつけろよ?」

 

 

斑模様の兵士が入って行った天幕を覗くと、火を噴く魔道具らしき物の上に、先ほど売った斧蟷螂の卵巣が、香ばしい匂いを放ちながら

鍋の上を、じゅうじゅうと音を立てて踊っていた。

 

 

「はれまぁ、見てみろよ、ニーポニアの連中、便利な魔道具をもってるぜ?」

 

「ジャー・ポニスは珍しい物を沢山持っているんだな、売ってくれないかなぁ・・・?」

 

「あの魔道具、中々高くつきそうですね。(移動式の調理器具だと?魔道具でそんな物を作っているのかっ!?)」

 

 

斑模様の兵士達は、折り畳み式のテーブルの上に置かれた金属の器からパラパラと黒い粉を焼いた斧蟷螂の卵巣にかけて食べている様だ。

 

「(あれは何だ?塩?岩塩?しかし、黒い岩塩など・・・。)」

 

「ヤッパリ・シオコショー・ガ・イイーナ」

 

「ショーユ・モー・アウ・カモナー」

 

「あっ!?あの器知っている!確か、商人の間で噂になっているニパンの香辛料だわ!」

 

「こ・・・香辛料!?高級品じゃないか!!」

 

「香辛料をあんなに気軽にパラパラと・・・。(一体どうなっているんだ!?奴らは正気か!?重量あたり、砂金と同じ価値がある物をあんなに大量にっ!)」

 

「アジ・オンチー・ニ・ナルゾー?」

 

「イイ・ジャ・ナイカー・ケチケチ・セズニー」

 

「(洒落にならん経済力だ、あんな汚らしい衣装の末端ですら、香辛料に手が出せるとは・・・。)」

 

 

あまりの光景に、ふらふらと、天幕から露店へ戻る密偵、先ほどの光景を、仲間に伝えると青い顔で、露店を畳み始めた。

 

 

「材質不明の透明な器に、金属の器の香辛料入れ・・・ニッパニアは、末端の兵士にもそれを支給出来る国力を持つとは・・。」

 

「やはり、正面からぶつかるのは無謀だ・・・しかし、奴らを止めるにはどうすれば・・・。」

 

「兎に角、情報を伝えるのが先決だ。」

 

「他国と連合を組んでニッパニアを抑えるにしても、力不足だ、全然経済力も兵力も足りない・・・。」

 

「ニッパニアを抑えるよりも、奴らに組した方が、我が国として利がありそうだな?」

 

「あの国が我が物顔で、大陸を闊歩するのは気に食わんが、あれを敵に回すなど自殺行為と同じだしな。」

 

「さぁ、我が主が早まった真似をしない内に、早く情報を届けるぞ!急げば来週までに間に合う!」

 

 

商人に扮した密偵達は、走竜に連結した荷車に、露店の道具を全て詰め込むと、ニッパニアの城門へ走り去った。

 

 

 

 

 

 

アクスラマティア 通称:斧蟷螂

 

和名:クロヅヤオノカマキリ

 

分厚いキチン質の鎌を持つ、巨大な蟷螂型生物。

シロガネオオノコカマキリの近縁種で、金属質生物を捕食しない為、頑丈さでは劣る。

しかし、キチン質の鎌は斧状になっており、Vの字に分かれた爪で挟み込んだ後、そのまま斧状の鎌で地面に叩き付け

獲物を両断するなど、攻撃面ではシロガネオオノコカマキリを超えており、非常に好戦的で危険。

肉は味の薄い淡白なエビの様な味で、火を通すと濃い桃色に変色し、汁が滴る。

低脂肪で高たんぱくな栄養価を持つが、こちらはビタミンB群も豊富。

全身が素材となり、食糧から武具など、余すことなく使える為、大陸では高値で取引されている。

生のままだと足が速いが、燻製にすると数か月は持つ。

繁殖期になると、雌をめぐって盛大に雄同士の戦いが起こるが、戦いに敗れて死んだ雄も交尾に成功した雄も、雌に食べられてしまう運命である。

交尾中に雌に襲われて死ぬよりも、交尾で力を使い果たして死ぬ雄の方が多い。

 

 


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