異空人/イクウビト   作:蟹アンテナ

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第49話   ワイバーン・パピー

ある獣は、悲しみに暮れていた。

親兄弟は、岩でできた様な外敵に食い殺され、群れは散り散りになり、自分自身も当てもなく孤独に山を歩き続けるしかなかった。

 

ある日、山の上から恐ろしい咆哮が聞こえてくる。あの恐ろしい岩の獣の鳴き声だ、獣は恐怖におののき、岩陰に隠れて様子を伺った。

 

岩の獣は山の上から急降下し、見た事も無い、不思議な動物に襲い掛かっていた。

その不思議な動物は、二足で歩き、体の表面に草木の様な模様の物体を纏わりつかせており、背中に黒く太い木の枝の様な物をぶら下げていた。

 

二足歩行の不思議な動物は、木の枝の様な物から炎を吐き出し、岩の獣を攻撃するが、岩の獣はひらりと火球を飛び避け、空から不思議な動物に向かって雷を落とした。

あの雷は、群れの仲間を一撃で何匹も殺した死の閃光だ、見るからにひ弱そうなあの動物が耐えられる訳が無いと思った。

 

しかし、二足歩行の動物の中でも耳の長い個体は、光の膜で雷を防いでいた。予想外の光景に驚いていると、岩の獣は閃光を浴びて岩の壁からずり落ちて、もがき苦しんでいた。

岩の獣は怒り、再び空から雷を落とそうと翼を広げたが、二足歩行の動物の放った小さな火の玉で翼に穴をあけられ体制を崩し、彼らは再び木の枝の様な物から火球を撃ちだし、今度は命中させた。

どれだけ爪で引っ掻いても、どれだけ牙を突き立てようとも、ビクともしなかった岩の獣の胸殻は、見事に吹き飛ばされ、岩の獣は恐ろしい叫び声を上げて地面に崩れ落ちた。

 

二足歩行の奇妙な動物は、岩の獣をバラバラに解体して集団で何処かへ持ち帰ろうとしている様だ、恐らく巣に岩の獣を持ち込んで、仲間と一緒に食べるつもりだろう。

獣は、岩の獣の肉と、その身に宿す青い石を食べると大きな力を得られると本能的に確信していた、せめて食べ残しのお零れにありつければ、と不思議な動物の後をつけた。

 

しかし、二足歩行の動物の巣までかなりの距離があるらしく、山を下り、森を抜け、荒野へと向かうようであった。

獣は、あまりにも元の住処から離れすぎているので、岩の獣の肉を諦めて山に戻ろうとしていた、その時、聞いた事も無い音と共に首筋にチクリとした痛みを感じた。

痛みの感じた部分を見ると、モコモコしたものと鈍く輝く棘の様な物が首筋に突き刺さっていた。獣の意識が遠のく・・・あぁ、毒を持った虫に刺されてしまったのだろうか?そう感じると気を失ってしまった。

 

 

 

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グゥゥゥゥ・・・・グルルルルルゥ・・・。

 

 

檻の中から爬虫類が唸り声を上げて、檻の柵をガリガリと齧り暴れている。

 

「それで、結局こいつは一体何なんだ?」

 

「大森林の中央部に生息する爬虫類の一種と言うしかありませんな、何故調査隊についてきたのかは分かりませんが・・・。」

 

白衣を着た生物学者と、調査隊に派遣されていた自衛官が要塞都市ゴルグの一角に設けられた生物研究施設で話をしている。

 

「トワビトですら見た事も無い動物らしいぞ?解体した岩の鱗を持つ奴と似ているから、それの幼体か何かじゃないのか?」

 

「遺伝子情報は極めて近い様です。幼体かもしれませんし、その近縁種である可能性もありますね。」

 

「はぁー・・・まぁ、貴重な生きたサンプルだ、ちゃんとデータを収集しないとな。」

 

グルルルルルゥ・・・・クゥゥン・・・・。

 

檻の中から悲しげな声が聞こえてくると、異臭が漂ってくる。

 

「うぇっ、糞たれてやがる・・・。」

 

「おっと、これも貴重なサンプルですな・・ちょっとちょっと、檻の扉を開けるから、その子押さえつけてて!」

 

グゥゥゥ・・・ギャフン・・・。

 

首根っこと背中を押さえつけられ、不服そうに上目づかいで睨めつける爬虫類、特に抵抗もせず、檻の端っこに排泄された糞を回収される。

 

「はいはい、良い子だねー、じゃ閉るね。」

 

ガシャンと、音を立てて扉が閉じ、鎖と南京錠で施錠される。

 

「意外とおとなしいもんだな、さっきまで散々暴れていたのに・・・。」

 

「狭い場所に長時間閉じ込められてストレスが溜まっているのでしょう、広めの檻の調整が終わったら、そこに移す予定です。」

 

「しっかし、こんなに早い時期に生物研究所が設置されるとはなぁ・・・未知の細菌やウィルス対策と聞いていたが、こういう奴も扱っているもんだな。」

 

「感染症対策と言うのは第一目標ではありますね、細菌・ウィルス・寄生虫、異世界の大陸では様々な脅威があるのです。動植物の生態調査もその一環ですね。」

 

「日本本土に妙な病気を持ち込んだら、たまったもんじゃ無いからな。」

 

「此処で食い止めるためにも、現地の研究施設は必要だったのです、しかし、まだまだ未完成な部分も多くて、増築が待たれます。」

 

「まぁ、現時点では研究所と言うよりは研究資材をログハウスに押し込んだだけと言った感じだしな、そう言えば、保管庫自体は大分完成に近づいているんだって?」

 

「そうですね、大森林の動植物を保管、飼育する施設はほぼ完成と言って良いでしょう、後は今回の調査で捕獲した生物の飼育をしながら調整を進めてゆきたいと思います。」

 

ングゥ・・・・ガリガリ・・・。

 

何かもの言いたげな目線で檻の柵を前脚で何度も引っ掻く爬虫類、唸り声を上げながら何度もそれを続けると諦めた様に檻の端っこで丸まってしまう。

 

「まるで犬みたいだな。」

 

「うーむ、このまま狭い場所に閉じ込めるのも良くありませんね、少し予定を切り上げて移動してみましょうか」

 

 

檻を専用のカートに乗せると、数軒隣の建物内にある、大型の檻に爬虫類を移し、様子を見る事にした。

獣は、暫くキョロキョロと周囲を確認すると、山積みになった藁に潜り込み鼻先だけを出して動かなくなってしまう。

 

「ふむ、色々な視線を浴びて精神的に疲れたのでしょう、暫くそっとしてあげましょう。」

 

「意外と繊細な動物なんだなぁ。」

 

「少し調べたのですが、あの動物はまだ幼体の様なんです、親からはぐれたのか元から単独で過ごすのかは不明ですが、まだまだ未発達な部分が多いのですよ。」

 

「そうか、まぁ餓鬼んちょなら、外部からの刺激に弱いのは解るな。」

 

「取りあえず、餌の鎧虫のひき肉だけ置いておきましょう。」

 

 

後日、空になった餌の皿を遊び道具に、口で咥えて床に叩き付けたり、投げ飛ばしたりする幼竜の姿を見る事になる。

 

ギャン!グワッ!ギャウン!!

 

「こらこら、ぎゃんぎゃん吠えるんじゃない!」

 

ンギャ・・・ギャ・・・ニ゛ャ・・・ニ゛ャン!

 

「にゃん でも無いからな?」

 

ふしゅん・・・・ニャフン・・・。

 

要塞都市ゴルグの生物研究所が後に、大陸初の動物公園になるのは、また別の話。

 

 

 

 

 

 

ヴィヴルム 通称 飛竜

 

和名:カンムリオオミズチ

 

大陸中央部と沿岸部を隔てる様に広がる大森林の中心に聳える山に生息する大型の爬虫類。

元はトビトカゲの様な生物だったが、魔石で突然変異したグループの中でも、最も変異前に近い種である。

生体は犬や狼に近く、群れのリーダーに従い、上下関係にも厳しい。

平均的に3メートルから3メートル半まで成長するが、体が大きな個体では5メートルに達する事もある。

翼の部分に体内の魔石と連動した器官をもち、自ら発生させた魔力の渦に乗る様に飛行をすることが出来る。

近縁種の鋼飛竜に比べて体が軽いので飛行能力に勝る。

他のユニークな近縁種に比べて地味ではあるが、頭部から胴体にかけて羽毛に覆われている部分がある。

体内にブレスを発射する為の器官らしきものが存在するが、研究が進んで居ないので用途は不明である。

 

 

 

 


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