異空人/イクウビト   作:蟹アンテナ

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第51話   マイクロチップ爆弾

異世界に転移して、異世界人と遭遇してから間もなく発見された新資源、「魔鉱石」、

この惑星を構成する主な物質の一つで、様々な超常現象を引き起こす物質として注目が集まっていた。

 

最近になって、魔鉱石に興味を持ち研究をしていた、一部のマテリアル企業が魔石の単結晶の精製に成功、本格的な魔道具の開発を開始しようとしていた。

 

「リクビトの魔法陣のスケッチは全部、頭に叩き込んだか?」

 

「んー、少し怪しい部分はあるけど、ある程度は詰め込んだよ?」

 

「魔石の性質がある程度解明されて来たらスパコンに演算させて理想的な魔法陣を描かせることが出来るかもしれないな、この技術が上手くいけば今までの常識を打ち破る事が出来る。」

 

「無限のエネルギーは人類の夢だからねー、それが実現できるかもしれない奇跡の物質が目の前に転がっている、これはもう好奇心を抑えられないじゃないか。」

 

「天守博士の論文は見たか?観測衛星ひすい1号が観測したデータによると、魔鉱石はこの星だけの物質だけでなくこの次元の宇宙の全域に存在するらしい。」

 

「あー見た見た、何でも元の次元で言うグーゴルプレックス量のエネルギーのやり取りが既に行われていたかもしれないとか言う奴ね。」

 

「この次元は、異次元同士を結ぶ通り道みたいなもので、何もないところから唐突に物質が現れたり消滅したりする現象に関わっているかも知れないとかなんとか・・・。」

 

「時空の歪みが物質として固定されたものとか言われているけど、本当はどうなんだろうかね、凄く危なそうだけど普通に素手で触れるし。」

 

「本当に不思議な世界に来てしまったものだ、だが、興味深い。」

 

リクビトの魔法陣のスケッチが描かれた書類の束を机にしまうと、ドスンと、新しく机の上に置かれたソラビトの魔法陣のスケッチが描かれた書類の束を見てため息をつく。

 

「さて・・・・あー、次はソラビトの魔法陣か・・・リクビトの奴よりも細かいなぁ・・・。」

 

「自作のマムシ酒があるけど飲んでみる?」

 

「遠慮しておくよ、栄養剤に関して俺は錠剤派なんだ。」

 

 

それから暫く経って、精製した魔石の単結晶を使用した実験が某企業の実験施設で行われることになった。

 

「今回使用する魔法陣はリクビトの使用する火の魔法陣の実験だ、異次元から取り入れるエネルギー量が不明なため危険を伴うので、野外実験となる。」

 

「専用のソフトで魔術式を改良させたデザインだけど、集積回路並みに複雑で細かく編みこんであるから多分凄いことになるよ。」

 

「十中八九爆発するだろうよ、わかりきっている事だ。」

 

「問題はその規模なんだよね、今回使用する魔石の量も極めて少ないし、魔術回路も試作段階だから、まさか原子力爆弾並みになる訳ないと思うし・・・。」

 

「しかし、潜在的にはこの星を滅ぼすかもしれない危険性を孕んだ物質であるのは確かだ、だからその扱いに関して慎重にならざるを得ないだろう。」

 

「あっ・・・始まるみたいだよ!サングラスを付けて!」

 

 

実験装置を起動すると、荒野にぽつんと置かれた魔石を加工した魔術回路に魔力が流れ、鋭い青白い光が放たれた後、光が赤みを帯び始め、魔術回路は大爆発を起こす。

遠く離れているにもかかわらず、叩きつけるような轟音と閃光が放たれ、ごうごうと大気の渦が砂埃を巻き上げる。

 

「これは・・・・予想外過ぎるだろう」

 

「もう軽く兵器だよね、これ。」

 

「俺たちみたいな民間に扱わせるには危険すぎないかこれ?」

 

「諦めろ、魔石を含む鉱物はこの世界の彼方此方に転がっているんだ、遅かれ早かれ利用する企業が他にも現れるだろう。」

 

「ウラニウムやプルトニウムみたいな危険物質が石ころみたいに転がっている世界か・・・アルクス人が俺たちの技術に追いついたらどう言う事になるんだろうな。」

 

「最悪この星と共に心中だろうさ、石器時代からやり直せることが出来ればまだ良いほうだろう。」

 

 

 

今回の魔術回路実験によって得られたデータを元に魔石の出力を調整する研究が優先される事になった。

日本政府は、魔石の兵器としての利用に関して待ったをかける事になった。

 

 

 

 

魔法回路

 

魔鉱石を精製して得られる魔石は、特定の配列に結合すると何かしらのエネルギーを異次元から吸収するか異次元に放出する特性がある。

もっともポピュラーなのが顔料に魔鉱石の粉末を混ぜて、魔法陣を描く方法であるが、魔力の制御がうまいものは体内で術式を構成して魔法として放つことができる。

純度の高い魔石を液化させて印を刻んだ石板に流し込み凝固させたものを永久魔法陣として利用もするが、魔石の精製が面倒なうえに液化させる技術も途絶えているので惑星アルクスに現存する永久魔法陣は希少。

現存する永久魔法陣も当時の魔法技術の限界か、「上に乗っていると傷が早く治る」ものや、「気温を一定に保つ」程度にとどまっている。

今回、特定の配列で、どのように魔石が反応するか集積回路の様に魔法陣を複雑に細かく編みこんだ魔石を使用した実験をしたが、異次元から取り込むエネルギーが膨大になり大爆発が起こった。

ビー玉サイズの集積回路魔法陣だったが、その爆発の威力は500ポンドの無誘導爆弾と同等だったという。

 


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