異空人/イクウビト   作:蟹アンテナ

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第53話   魔鉱石の研究

惑星アルクスに転移してから暫くして発見された新資源魔鉱石、未だにその特性の全ては把握できていないが、万能エネルギー資源として早い段階から注目が集まっており様々な魔法装置の試作品が作られる事になる。

 

某企業の研究室にて・・・。

 

「ソラビトがリクビトだった時代に作られた魔法回路は、精密で有用な物が多いですね。」

 

「高純度の魔鉱石が大量に眠る地で暮らしていたから魔石使い放題だったと言うのもあるが、彼らの技術力の高さは強い好奇心と探求心によるものだろう」

 

テーブルの上に置かれ大量の資料を眺めながら話す。

 

「彼らの研究がなかったら俺達も魔法回路の開発に更なる時間を要した筈です、ソラビトの先人たちに感謝ですね。」

 

「簡単な魔法回路、所謂、魔法陣と言われる顔料と魔鉱石の混合物で描かれる方式のものが、大陸に住むリクビトの使う主流の魔法だ、ソラビトの技術には及ばない。」

 

「触りには良いですがね、構造が単純だから理解しやすいですし、模様さえ覚えれば再現は簡単だと思います。」

 

「問題は、我々の体が魔鉱石を利用できるように作られていない点だ、アルクス人は自前で魔法陣を起動する為の魔力を流せるが、我々は機械装置を用いて擬似的に再現する事しかできない。」

 

「魔鉱石に電気的又は物理的刺激を与えると特殊なパルスを発する性質が解明されていなければ、そもそも魔法回路なんて使用できませんしね。」

 

「起動用の魔力パルスもそうだが、魔鉱石を精製して高純度の魔石に加工する技術が無ければ、実用性のある魔法回路は作れないぞ。」

 

大陸で使用されている魔法は極めて原始的な魔法回路で、大陸の小国群では十分な性能でも、日本が要求する実用性には程遠いものであった。

 

「高純度であればあるほど、魔力を生み出す力が増すのは判明していますけど、不純物の種類や含有量で変質化する研究結果も報告されております。」

 

「あぁ、聞いている、その代表例が海の民の希少金属を含む魔石だろう?アルクス人の生体に大きく影響を与える特殊な魔石だな。」

 

「アルクス人が持つ自己回復能力を極限まで活性化し、傷をたちまち癒す驚異の力を秘めており、遺族の許可を得て海の民の魔石の研究が行なわれております。」

 

水の魔石は、アルクス人の生体に作用し、代謝を活性化させ、自己回復力高める効果があるが、魔石を元から利用しない地球人には全く効果が無く、工業的な用途も見つかっていない為、研究が俟たれている所だ。

 

余談であるが、大陸の国々が、未だに水の魔石を入手する為にウミビト狩りの許可を求め、日本に打診してくる事があり、当然日本政府は人道上許可できないと要求を跳ね除けているが、

それを理由に貿易を拒否したり、酷い時には武力をちらつかせる等、外交官を大いに悩ませている。

 

 

「ちなみに、ソラビトの魔石はウミビトの魔石とは違うのか?」

 

「物理干渉力を持った魔力を放出する性質が確認されておりますね、生体への影響は未知数ですが、恐らく飛行する為の重要な器官として進化したものでしょう。」

 

「リクビトの魔石は単純に魔力のタンクみたいなもので、科学的に合成する魔鉱石の単結晶と性質自体は変わらないが、これはどういう扱いなんだ?」

 

「何にも特化していないので何にでもなるという事でしょう、ウミビトやソラビトにも扱うのが苦手な魔法は存在しますしね。」

 

ウミビトは住んでいる場所が海中なので、火炎魔法の技術が未発達で、ソラビトは翼に変化してしまった指があまり器用では無く、複雑な魔法を使えなくなってしまっている。

それらに比べて、リクビトは、技術さえ習得させてしまえば、あらゆる魔法を使用する事が出来るらしい、その代り高出力では無いらしいが・・・。

 

「ふむ、なかなか奥が深いな、何にせよ人工魔石は生体由来の魔石にはなりえないという事か、人工魔石は単純に工業用だな。」

 

「電撃魔法で電力を取り出す方法や、火炎魔法を利用した製鉄など様々な利用法がありますね。」

 

「特に今は、魔石を利用した発電装置の開発が急務だ、試作型だが魔石式ジェネレーターの開発に成功した所もあるらしいな。」

 

「今すぐ民間用に流通させることは出来ないですけど、大陸の拠点でモニター試験が行われているそうですよ?」

 

「魔石式ジェネレーターのモニター試験か、まぁ、今は大量に電力を使うような所じゃないから、データ収集には丁度良いという事か。」

 

「故障が多いとも聞きますがね、魔石内に魔力が溜まるまでチャージしなければならないのも今後、改良して行かなければならない点であります。」

 

「安全対策はしていると思うが、まさか行き成り爆発なんて起こさないだろうな?」

 

「火炎魔法の回路を組んでいなければ、大丈夫でしょう、理論上は・・・多分。」

 

「多分か・・・はぁ、まだまだ未解明な部分が多いから注意するに越したことは無いがな、課題が多いな。」

 

 

魔石を用いた工業用品の開発競争は、始まったばかり、日本の企業はこの新たな資源の用途を見出す為、日夜研究に励むのであった。

 


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