異空人/イクウビト   作:蟹アンテナ

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第55話   城塞都市の日常

異世界に転移してから大陸に進出する為の足掛かりとして、都市開発を続ける城塞都市ゴルグ、仮設の発電所の少し離れた場所に本格的な火力発電所の建設を予定しており、ゴルグ近辺の集落の開発にも着手しようとしていた。

 

「ここが、日本ゴルグ自治区か・・・・まるで駐屯地と地方都市が合体したみたいだな。」

 

「まだまだ日本からの持ち込みが多いが、何れは、近くの鉱山から鉄鋼やら石灰やらが運ばれてくるだろうな。」

 

「現地住民から鉱山の位置の情報提供されているんだろう?重機で掘り返しちまえば良いんじゃないか?」

 

「馬鹿、まだ補強も終わっていないんだ、落盤、落石でぺしゃんこになっても知らないぞ?」

 

「それもそうか、一辺に全て片付く訳はないか、コツコツと開発を進めて行くしかないんだろうな。」

 

「違いない。」

 

元々自衛隊の施設科により、ある程度のインフラが整備されていた日本ゴルグ自治区だが、民間企業の進出によりさらに近代化が進んでいた。

故障が多発した試作型の魔石ジェネレーターも既に3回ほど改良されており、連続運転時間も延長されている。

 

『ソル リゴォ リ ルーザーニャ ディア レ ルジー ラ ニッパーニャ?』

 

 

 

『ルーザーニャ? シャル レ フォン ゴルグガーニャ フォス ヘム ニッパーニャ?』

 

 

 

『フォルル ラーダー! リド ヘル ルジー ラ ニッパーニャ! ラッド リ ヴィク ラ ルーザーニャ! 』

 

『ニェニェニェ! ヘム リキ ラ ゴルグガーニャ! ルジー ラ ワン ナイ ニッパーニャ! ヴィクト?』

 

 

『ルーザーニャ フォン ローダー レ フォレ ラ ゴー ラク ゴルグガーニャ ラフル』

 

 

 

 

日本領に編入されたとは言え、現地住民の比率の多いこの街は、大陸共通語が主流だ。

日本人の住むエリアと、リクビトの住むエリアがきれいに分けられており、商業地区では現地住民と日本人が共に商売をしている。

一部の企業は、早期に大陸共通語を学ばせた職員を派遣し、現地住民を試験的に雇っているらしい。

 

 

「日本本土から、そんなに離れていない場所なんだけど、こういう光景見ているとやっぱり外国なんだなーって思うよな。」

 

「一応ここは、日本だけどな、大陸共通語が分からないと不便な場所ではあるが・・・。」

 

「行く行くは大きな工場を立てて、現地住民を雇って、大陸沿岸部から開発を進めてしまおうと言った所だが・・・・。」

 

「そうも上手く行く訳ないんだよなぁ・・・。」

 

ため息をつくと、さんさんと照り付ける太陽に目を細め、額の汗をぬぐいながら、水筒の緑茶を一杯飲み干し、目的地に向かって歩く。

 

 

「魔鉱石の発電装置を利用して電気分解した水素を溜めているらしいけど、水素自動車はそれ程流通している訳でもないし、本当に資源が足りなくて困ったな。」

 

「油田が確定しただけでも良いだろ、危険な原生生物が闊歩している土地とは言え、あそこは宝の山だ。」

 

「山じゃなくて沼地だけどな、現地の人は魔境として定めて、立ち寄る事は滅多にないらしいが・・・。」

 

「トワビトとか言う種族が住んでいる森よりは近いんだが、あの油田は沿岸部から少し離れているから資材の運搬だけでも一苦労だよ。」

 

「危険な原生生物・・・魔物とか言う奴らが居なければ、開発もずっと楽になるんだがなぁ。」

 

実際に油田の採掘作業は遅々と進んでおらず、必死な思いで運び込んだ資材を魔物と呼ばれる生物に破壊される事も多かった。

 

 

「人が住む土地のすぐ横に、巨大なバッタとか三葉虫の化け物みたいな奴らの生息地が広がっている時点で、正味偽りなく此処は異世界なんだなと実感する処だな。」

 

「虫もデカいがネズミとか犬とかもデカいぞ?マスティフ犬っぽい野獣が、現地の家畜を襲っていたのを見た事あるぜ?」

 

「マジかよ・・・。」

 

「政府がゴルグ自治区近辺から外に出るなと、厳命している理由が良く分かるよ、勝手に外に出たら多分死ぬな。」

 

「それでも勝手に出て行く奴らが居るんだよな・・・身元不明の遺体が見つかったと言う噂も聞いた事があるし。」

 

政府が正式に確認をした訳ではないが、大陸行きの船に密航する者が出始めているらしく、しばしば身元不明の遺体が見つかると言う噂が実しやかに囁かれている。

 

 

「現地住民のじゃないのか?」

 

「遺伝子検査の結果、アルクシアンではなかったらしい、原型が付かない程、欠損が激しかったので性別くらいしか分からなかったが、間違いなく地球人だ。」

 

「うへぇ・・・・絶対俺は防壁の外に出ないぞ、ちなみに性別は?」

 

「女性だとさ、原生生物に食われてはいたが、刃物で刺された様な跡と、金属片が体内で見つかったらしい。」

 

「それって・・・・・。」

 

「盗賊か何かに襲われたんじゃないか?まぁ、何にせよ、勝手にゴルグ近辺から出ていったんだから自業自得ではあるが・・・。」

 

「昔から、危険地域に態々足を運ぶ奴って居るんだよなぁ・・・死人に鞭を打つ気は無いんだが、周りの迷惑位は考えて欲しいもんだ。」

 

「さて、話している内に目的地の宿舎に着いたな、今日は軽くミーティングを済ませて、本格的な作業は明日からだ、しっかり体を休めておけよ!」

 

 

日本ゴルグ自治区の開発のために、日本企業から派遣されたエンジニア達は、自衛隊が整備したインフラに手を加え、更に強固に信頼性の高い物に改造をする。

大陸沿岸部の情勢は不安定なので、防壁内の開発しか許されていないが、いつの日か防壁の外へ街が広がる光景を思い描きながら、彼らは街の開発を進めるのであった。

 


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