異空人/イクウビト   作:蟹アンテナ

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第60話   土の民

 

大陸の中央部には未知の領域が広がっていると言う、しかし大森林を始めとする様々な過酷な地形が大陸中央へ続く道を阻み、荒野の民は荒れ果てた地で開拓をしなければならない。

大森林に隣接した長大な山脈も大陸中央部への道を阻む障壁の一つである。

 

「お父さん、こんな浅い所じゃ魔銅鉱は掘り出せないよ。」

 

「おん?確かに魔銅鉱は無いが、良質な鉄鉱の鉱脈を見つけてな、他のモンに見つかる前に掘ってしまおうと思うんだ。」

 

「鉄鉱かぁ、確かに幾らあっても困らないわね、こんなに便利なのにリクビトは鉄の価値に気付いていないんだよね?」

 

「荒野の連中は、鉄の精製が出来んからなぁ、まぁ、リクビトの連中に鉄器が伝わってもどうせ碌な事にはならんだろうし、このまま知られずにいたほうが良いだろう。」

 

大陸中央部を覆う山脈には土の民と言う、荒野の民に、あまり知られていない種族が住んでいる。

彼らは、元々手先の器用なリクビトだったが、戦乱から逃れる為に旅を続け、魔物が犇めく辺境の山へとたどり着き、魔力の強い洞窟に身を隠すうちに、独自の変異を遂げた種族である。

狭い穴にも入れるように身体は小型化し、落盤や落石などから身を守るために体毛が発達し毛深くなり、洞窟内の岩盤を工具で穿つために手先が器用になり、体格に見合わぬ怪力を得た。

 

「へぇ、これがその鉱脈なのね、でも洞窟の入り口に近いから、リクビトに見つからないようにしないと・・・。」

 

「滅多にこの洞窟に訪れることは無いから心配するな、それに外は狂暴な鎧虫が徘徊しているから好き好んでこの山に近づく者などおらんだろう。」

 

「だといいんだけど・・・・。」

 

「さて・・・採掘を始めるか・・・・・むん?」

 

鶴嘴を振りかぶり、岩壁を掘ろうとした時、微小な振動を感じた。

意識を向けてみると、洞窟の入り口付近から微かに何かの音が聞こえる、恐らくこれが振動の発生源だろう。

 

「ペトラ、お前は街に戻っていなさい・・・。」

 

「お父さん?一体何を・・・・っ!入り口の方から音が!?」

 

「鎧虫でも入り込んだか・・・何にせよ、穏やかでは無いな、少し厄介な事になりそうだ。」

 

鶴嘴を横に置き、念のために荷車に積んでいたバトルアクスを取り出し、壁に身を隠しながら洞窟の入り口に近づく。

 

「な・・・なんだこれはっ!!?」

 

暗闇に慣れた目に、外界の光が染みるが、それどころでは無い、異形の鎧虫らしきものと、斑模様に染めた奇妙な格好のリクビトの集団が、洞窟周辺をうろついている光景が目に映っていた。

 

 

 

碌に整地されていない土がむき出しの道を進む自衛隊。

要塞都市ゴルグを拠点にし、国交を持っていない国や集落などと接触し、交流を持とうと各地へ赴くが、その道中は決して安全なものでは無く、賊や野獣の襲撃などに備え、武装車両で移動をしている。

 

大陸中央部への道を阻む大森林に隣接する山脈付近には、集落はごく少数しか確認されておらず、その殆どが開拓民で、自給自足の生活を営んでいるに留まっている。

 

しかし、開拓民の口から、鉱物資源の情報を得ると、資源調査の為に大森林に連なる山脈へと向かう事になった。その際に奇妙な噂も耳にする事になるのだが

 

 

「これまた、デカい山だなぁ・・。」

 

「山の上層部はうっすらと雪がかかっているな、相当高そうだ。」

 

「おいおい、ボーっとしているなよ?ここら辺は危険生物の生息が確認されている、現地民も滅多な事では訪れない場所らしいじゃないか。」

 

「とは言っても、デカい蠍とか百足みたいなもんだろう?そんなもん道中で山ほど倒してきたさ」

 

「まぁ、殆どは車の速力に任せて引き離していたがな、崖の一本道で通せん坊している奴とかは仕方がないから蜂の巣にするしか無いが、無暗な殺生はしないに越したことは無い。」

 

「さてと、野営の準備をするぞ?鉄条網は既に設置済みだが、相手が頑丈な鎧虫の場合は突破される可能性もある、油断せずに作業に移れ。」

 

 

それぞれ各員分担し、天幕の設営や、トラックからの荷降ろし、夕食の準備などの作業が行われる。

 

 

「なぁなぁ、所でさ、妙な噂を聞いたんだが・・・・。」

 

「あっ?なんだよ、こっちはまだ作業中だぞ。」

 

「ちょっと位いいじゃないか、あの山にさ、小人が出るらしいぜ?」

 

「小人?一寸法師みたいなもんか?」

 

「いいや、流石にそこまで小さくないが、何でも穴や洞窟に身を潜めて岩壁を掘りながら暮らしているって噂だ。」

 

「モグラみたいな奴だな?つまり、未確認種族の集落が存在するかもしれないって事か?」

 

「まぁ、ここら辺は野獣が出没する危険地帯らしいし、滅多に近寄らない上に目撃証言も少ないから、単なる噂かも知れないが、なかなか興味深い話じゃないか?」

 

「もし本当に居たら資源調査が上手く進むかもな、最も相手が温厚な性格をしているならばだが。」

 

「ちなみに、開拓民の連中はそいつらを 土の民 と呼んでいるらしい。」

 

「・・・・・それ、漢字に直して略したら失礼になりそうだな。」

 

「・・・・・せめて大地の民と呼ぶ事にするか。」

 

「違いない。」

 

 

 

暫く洞窟の外の様子を伺った後、斑のリクビトに気付かれない様に、急いで荷車に荷物を乗せて街に戻ると、街はちょっとした騒ぎになっていた。

 

 

「お父さん!!」

 

「おおっ!モーズ!!戻って来たか!!」

 

「ジルバかっ!大変なことになったぞ!洞窟の外にリクビトが集まってきている!」

 

「なんだとっ!?」

 

ジルバは、あまりの衝撃で一瞬硬直するが、直ぐに思考を切り替えてモーズに話しかける。

 

「リクビトの奴らは、この洞窟に気付いているのか?」

 

「いや、その様子は無い・・・それに、あの体格ではこの狭い入り口を通るにも一苦労だろう。」

 

「お父さん、私怖いよ・・・。」

 

「大丈夫だペトラ、俺が付いている、連中がもし襲い掛かって来るなら鉄の斧で両断してやる。」

 

「早まるなよモーズ、徒にリクビトに危害を加えて敵対する様な事になれば、我らとて唯では済むまい。」

 

「分かっているジルバ、いくら短気な俺でもそれくらいは心得ているぞ。」

 

「リクビトの連中がこの洞窟に気付かないならば、そのままやり過ごせ、もし気付いたのならば様子を見つつ、接触を待て、こちらから赴く必要は無い。」

 

「盗賊の類ならば返り討ちにするまでだが、荒野の開拓民ともなるとやり辛くなるな。」

 

「リクビトは口封じのために問答無用で殺すことも平気でやるらしいが、我らは蛮族では無いからな。」

 

「お父さん、リクビト・・・・来るの?」

 

「まだ判らんな、だがしかし、あれ程の集団で洞窟に押しかけられては堪ったもんじゃない」

 

「面倒なことになったわい、まぁ、今まで山と魔獣や鎧虫に守られていたが、何時までも洞窟に身を隠す事も出来ないという事だろうの。」

 

「何にせよ、街の幹部連中を集めなければならんな、ジルバ、西側から声をかけてくれ、俺は東側から行く!」

 

「・・・・・。(リクビトは怖いけど、外の世界は見てみたいな、どんな光景が広がっているんだろう?)」

 

 

 

 


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