異空人/イクウビト   作:蟹アンテナ

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第61話   闇に蠢く鉄の蛇

各地の集落や国と交流を結ぶために、拠点であるゴルグから派遣された自衛隊は、大陸中央を覆うように広がる山脈付近の集落と交渉をしていた。

 

『つまり、土の民とやらは、あの山の洞窟に暮らしている小さな人達なんだね?』

 

『うん、ちっちゃくて、もじゃもじゃしていて、大きな金槌を持っているの!』

 

『その人たちは、どんな感じなのかな?優しそうな人かな?それとも怖い人かな?』

 

『うーんとね、こっちを見つけると、ささっと洞窟の奥に隠れちゃうの!多分凄い恥ずかしがり屋さんなんだね!』

 

山脈近くに集落を築く開拓民が噂をする謎の種族、土の民に関する詳しい情報を収集する為に、手当たり次第に聞き込みをするが目撃証言が少なく調査が難航していた。

 

「そっちはどうだった?こちらは、開拓初期の頃に、土の民を目撃したと言う爺さんに聞こうとしたら、既にボケが始まっていて、曖昧な情報しか得られなかったんだが・・・。」

 

「こっちは、洞窟付近で遊んでいたら土の民を目撃したと言う子供から聞いたんだが、金槌の様な物を持った警戒心の強い連中と言っていたな。」

 

「金槌だって?常に凶器を持ち歩いてると言うのか?いや、工具かも知れないが・・・。」

 

「いきなり襲い掛かれたりしないよな?未知の領域に踏み込むのは常に危険と隣り合わせだ。」

 

「現地住民に穢れた大地と呼ばれた油田で、資源調査中に原生生物に襲われ自衛官が殉職している、この山脈にも未知の脅威が潜んでいるかもしれん、警戒するに越したことは無いだろう。」

 

 

開拓民との交流もかねて、情報交換を行い、数日後、いよいよ山脈の洞窟の調査を開始した。

 

 

「補強されていない洞窟や坑道では落盤の危険性が高い、しかし、こんな事も有ろうと用意してあったコイツが活躍するんだ。」

 

 

自衛官が自慢げに筒状の物体を抱えて、同僚に見せつける。

 

震災対策などで活躍が期待されている、試作型の蛇型ロボットである。

頭部に備え付けられたカメラと、狭い隙間も問題なく侵入可能な柔軟性、そして水中での活動も可能と言う優れものだ。

元々は、とある研究所によって作られた災害対策用ロボットだったが、有志により自衛隊に提供され各地で稼働している。

未調査領域での調査中に野生動物に襲われ殉職する自衛官も多かったが、これらの無人機械に先行させる事によって一気に人的被害が減っており、評価は上々であるという。

 

 

「相変わらず奇妙な形をしているなぁ、うねうねした奴苦手なんだよ。」

 

「まぁ、便利だけどな、洞窟の中で野獣とコンニチワなんてごめんだぜ?こいつを先行させれば、その心配も無いんだが・・。」

 

「最悪でもロボットが破壊されるだけだしな、その場合は厄介な野生動物を駆除する羽目になるんだが・・・。」

 

 

蛇型ロボットが洞窟入り口に設置され、起動を開始する。

 

 

「調査開始、これより洞窟内部に侵入する。」

 

 

無数のローラーが回転し、蛇型ロボットがうねりながら、洞窟内部に侵入を開始する。

 

 

 

『ねぇ、お父さん、まだリクビトは外に居るのかな?』

 

『見張りによると、どうやら開拓民と交流している様に見えるらしいな、このままこちらに気付かず、帰ってくれれば良いんだが・・・。』

 

『逆にここに居座られる可能性もあるぞ?まぁ、鎧虫の生息域に定住する変わり者ならばだが・・・。』

 

『少しだけ様子を見に行かない?斑模様の人達、この洞窟には近づかないんでしょ?』

 

『ペトラ、危ないから止めときなさい、連中の監視ならワシ等がやるからな。』

 

『そうだぞペトラ、もしリクビトに見つかったら頭からバリバリ食われちまうかもしれないぞ?』

 

『えー?見に行きたいなー。』

 

『えーじゃない、言う事を聞くんだ。』

 

『ふーん?それじゃぁ、あの場所を他の鉱夫さんに教えちゃおうかな~?』

 

『お・・・おい、ペトラ!!』

 

『あの場所?』

 

『あ、いや何でもないぞジルバ、こらペトラ、余計な事を言うんじゃない!』

 

『実はねー、洞窟の入り口にねー!むぐっ!?』

 

『ちっ・・・わかった、わかった、ちょっとだけだぞ?その代り俺もついて行くからな?』

 

『わーい!やったー!』

 

『おう、モーズ、ワシもついて行こうかの?』

 

『いや、ジルバはついてこなくても・・・・。』

 

『何、もしもの事があったら大変じゃろう?大人二人も居れば安心と言う物じゃ!』

 

『・・・わかった。(鉱脈の匂いを嗅ぎつけたか・・・ジジイめ』

 

 

一方、自衛隊が操作する蛇型のロボットは、慎重かつ念入りに比較的浅い層を調査していた。

 

 

「おい、見ろよ、あれ多分鉱脈だぜ?」

 

「それよりも、明らかに採掘された跡があるじゃないか?もしかしたら、本当に開拓民が言っていた様に未知の種族がこの洞窟の奥深くに潜んでいるのかもしれないぞ?」

 

「線の様なものが洞窟の奥に続いているな・・・何かを引きずった跡かも知れない進んでみるか・・・。」

 

「うわっ、急な坂になっている様だな、落下してカメラを破壊しない様に注意しろ。」

 

 

 

 

『リクビトどうしているかなー?もしかして洞窟にひょっこり顔を出したりしてー?』

 

『こらこらペトラ、騒ぐんじゃない、はぁ・・何でこんなことに・・・。』

 

『まぁまぁ、娘っ子は元気が一番じゃよ、それよりもモーズ、お前が秘密にしているあの場所とやらはあれじゃろ?鉱石の臭いがプンプンするぞい!』

 

鶴嘴を振るう真似をして、にやけ顔をするジルバ、それを見たモーズは渋い顔をする。

 

『全く、ペトラが余計な事を喋らなけりゃこんな事にはなっていなかったんだが・・・。』

 

『お父さんが様子見を許してくれなかったからだよーだ!さてさてーそろそろ、洞窟の入り口・・・ん?』

 

『どうしたペトラ・・・何だこの音は?』

 

何やら聞きなれない音が、洞窟に響いてくる・・・ふと上を見ると、奇妙な物体が落下してくるのだった。

 

 

「おい、見ろよ、これって岩を削って作られた階段じゃないか?」

 

「どう見ても人工物だな、間違いなくこの洞窟に何かが居るな。」

 

「どうする?開拓民の連中によると警戒心が強くて滅多に姿を現さない連中らしいじゃないか?このまま奥に進んで良いのか?」

 

「そうだな・・・下手したら彼らの領域を侵すことになるかもしれないな・・・、」

 

「一応進めるところまで進んでおくか、もう少しだけ調査を続けよ・・・あっ!!???」

 

「何だ!?画面が・・・ずり落ちたのか?おいおい!」

 

 

かつん、かつんと、落下しながら何度か壁に跳ね返り、岩肌にローラーを擦りつけ辛うじて減速するが、勢いは止まらない・・・そして・・・。

 

ずぽっ・・・。

 

蛇型ロボットは、落下した先で何かに挟まるのだった。

 

 

『ひいいぃぃぃやぁぁぁぁぁっ!!とって!お父さん!とって!!服の中に何かがぁぁっ!!』

 

『ペトラ!落ち着け、この・・・娘に何しやがる!!』

 

『なんじゃこれは!?蛇・・・蛇か!?』

 

『やだぁぁっ!!とって!とって!そこ・・・だめぇっ!!・・・ひっ・・お・・・おしりぃぃっ・・・。』

 

娘の一言でぷつんと頭の中で音がした様な感覚がすると、モーズは鬼の様な形相で服の中で蠢く蛇を鷲掴みにする。

 

『この野郎めぇぇぇぇ!!!』

 

引きずり出された蛇の様な生き物に向かって、背負っていた金槌を振り下ろし、岩が砕ける様な音を立てて蛇の様な生き物は動かなくなった。

 

『うっ・・・うっ・・・ひっぐ・・・。』

 

『大丈夫か?ペトラ?』

 

『モーズ・・・暫く、そっとしておけ、しかし、一体何じゃこれは・・・。』

 

『蛇?・・・いや、鎧虫か?・・・だが、これは明らかに生き物では無い、人工物?だが勝手に動く物など・・・。』

 

『勢い余って叩き潰しちまったが、何だったんだこいつは?・・・いや、娘の服の中で暴れまわった奴だ、こうなって当然だ。』

 

先ほどの娘の姿を思い出した後、不機嫌そうに眉間のしわを寄せると、蛇型の物体を睨めつける。

 

『洞窟の外のリクビトが操っていた鎧虫と同じ臭いがするのぅ・・・もしや連中が持ち込んだのでは?』

 

『リクビトが?・・・って事は奴らが娘を・・・許さねぇっ!』

 

『阿呆、違うわい、ワシが言いたいのは、こいつを使って奴らに変わって洞窟を調べさせたんじゃないかの?』

 

『間諜と言う奴か?こんな蛇に?・・・・もしそうだとしたら、連中はただモンじゃないぞ?』

 

『相当な手練れの魔術師団じゃな、これは本格的に対策をした方が良さそうじゃ・・・直ぐに町に戻るぞ!』

 

『あ・・・あぁっ!わかった!・・・ペトラ・・ほら、行くぞ!』

 

 

洞窟の奥に潜む未知の民は、粉々に粉砕された鉄の蛇を抱えながら彼らの集落に戻るのであった・・・。

 

 

「一体何だったんだ?」

 

「カメラが激しく揺さぶられて訳わからんかったが、最後に映像に移っていた奴って・・・。」

 

「もじゃもじゃの体毛と背の低い人物・・そして大きな金槌・・・。」

 

「あれが・・・・・・・・土の民?」

 

 


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