異空人/イクウビト   作:蟹アンテナ

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第64話   異形の羽虫

洞窟の深部にこだまする不気味な咆哮、巨大な凶器を振り下ろし堅牢な筈の城壁を大きく削り、土煙が舞う。

地下に潜み、土の民を襲い食らう黒き甲獣は、空腹より目覚め、再び災いを城塞都市に振りまこうとしていた。

 

『魔術師部隊!防衛兵器の起動はまだなのか!?』

 

『今やっています!』

 

『弓兵が火矢を放っているが、長くは持ちこたえられないぞ!?急がせろ!!』

 

岩盤を削るために発達した巨大な爪を振り回し、城壁の上から矢を放つ弓兵に城壁の破片をぶつけ、無力化する。

運の悪かった者はその場で即死し、更に運の悪い者は、甲獣の目の前に落ち、生きながらに食われた。城塞都市は混乱の極みに達していた。

 

「何て無茶苦茶な・・・。」

 

「大森林方面に派遣された部隊が遭遇した奴と同タイプの原生生物か・・・情報よりも小さい様だが・・・。」

 

「どちらにせよ、このままだとこちらも危険だぞ!?本部に早く連絡を!!」

 

「既に連絡済みです、増援が到着するまで持ちこたえてください!!」

 

『リクビトよ、間が悪い時に来てしまったな、だが、こうなっては覚悟するしかあるまい・・・しかし、今回はやけに凶暴だな。』

 

『寝覚めでも悪かったんじゃろう、ついでに腹も減っている様じゃ、幸いリクビトのお蔭で住民は奥に避難しているので、人的被害は兵士のみにとどまりそうだが・・・。』

 

『兵士も大切な我らの同胞だ!我々も加勢するぞ!ジルバ!ついてこい!!』

 

慌ただしく、館の兵士が武器を持って城壁方面に駆けて行く、自衛隊員達も背負っている武器の状態を手早く確認し、城壁に近く、背の高い建物へ向かう。

 

『準備完了、弓兵を退避させてください!!』

 

『良く持ちこたえてくれた!地獄に落ちろ!黒き甲獣よ!!』

 

事前に着弾予測がされた場所に投石器から発射された大岩が降り注ぐ、その殆どは近くに着弾するものの直撃はしなかったが、数発の大岩が甲獣の頭部と背中に命中する。

 

オオオオオオオオオオオォォォォォォン!?

 

曲線を描きながら直撃した大岩は、凄まじい運動エネルギーを持って、黒き甲獣に傷を負わせる。しかし、それだけでは終わらなかった。

 

『くははははぁっ!!これだけで終わりではないぞ!!』

 

直撃時に砕け散った大岩の断面は無数の青白い発光体が埋め込まれており、それが激しく光り輝き、青白い爆発を引き起こす。

外れて地面に落ちた大岩もそれに連鎖反応を起こして、次々と爆発を起こす。

 

『どうだ!黒鉄重甲獣め!!10年分の魔石を集めた、炸裂岩だ!貴様もこれでお終いだ!!』

 

『凄まじい魔力の濃度だ・・・これ程魔石を使えば当たり前か・・・。』

 

『やった・・・のか?』

 

青白い粒子の煙で覆われてその輪郭を薄ら確認できる程度だが、少しずつ煙が晴れて行き、その姿が現れる。

 

オオォォォン・・・。

 

『うっ!?こいつはっ?』

 

『手傷は与えたが・・・あれだけの爆発に耐えるだと!?』

 

鱗の隙間から赤黒い体液をまき散らし、爪や外殻などに細かいひびが割れているが、黒き甲獣は健在だった。それどころか、先ほどの攻撃で激昂している様である。

 

オオオオオオオオオオオォォォォォォン!!!!

 

地の底から響くような唸り声を上げると、後ろ足を何度も地面に蹴りつけ、首を引っ込める。

 

『いかんぞ!!突っ込んでくる!』

 

『弓兵!!火矢を放っている場合では無い!退避しろ!!』

 

今にも城壁に突進を開始しようとしていた、次の瞬間!!黒き甲獣に2本の光の矢が降り注ぎ、前脚の外殻を吹き飛ばし前のめりに転倒させる。

 

『なっ!?一体何だ今のは!!』

 

光の矢が放たれたと思われる監視塔の方向を向けば、斑模様の奇妙なリクビトが特大の杖の様な物を構えていた。

 

「こんな距離で当たるのかと思っていたが、当たるもんだな。」

 

「横風が無いのも大きいですよ、しかし、カールグスタフでは火力不足か・・・。」

 

「ツチビトとか言う連中も良くやるもんだよ。最初の岩石爆弾で倒せたかと思っちまったぞ?」

 

「指向性の爆発では無かったのだろう、黒色火薬と同程度と言った所か・・・。」

 

「もうひと押しだ!MINIMIを食らえ!!」

 

監視塔から放たれる無数の光の束は、黒き甲獣の頭部に殺到し火花や血しぶきを上げる、美しくも恐ろしい魔導にツチビトは戦慄していた。

 

『な・・・何と言う強力な魔法だ!!』

 

『見ろ!奴が後退しているぞ!?火矢の比では無い・・・なんて威力だ!!』

 

その一方、自衛隊側も焦りが見えていた。

 

「畜生、これだけ銃弾を浴びせても倒れないのか!」

 

「無反動砲に耐える獣に小銃を食らわせても牽制程度にしかならないぞ?」

 

「念のためにMINIMIを持ち込んだは良いけど、元々そんなに弾は持ち込んでいなかったのよね。」

 

「くそっ・・・増援はまだなのか?」

 

城壁の上から呆然と自衛隊の銃撃を見ていたツチビト達は、黒き甲獣の呻き声で我に返り、再び弓を構える。

 

『何だか知らんが、好機だ!我々も矢を放つぞ!!』

 

再び城壁の上から無数の火矢が降り注ぐ、自衛隊の曳光弾と弓兵の火矢が織り成す光の曲線が、美しく甲獣を血祭りにあげる。

 

その時、聞きなれぬ音が洞窟の上部から響いてきた。

 

『一体なんだ?この音は?』

 

『おいっ!!あれを見ろ!!』

 

弓兵の一部が指をさしながら、洞窟の天井を指さす。そこには、崩落して青空が見える大穴から異形の羽虫が2匹舞い降りる姿が見えるのであった。

 

「おいおい、増援ってコブラかよ!?」

 

「しかも、2機・・・地下洞窟にヘリコプターなんて、無茶な真似をするなぁ・・・。」

 

「てっきり後続部隊が携帯火器で砲撃してくれるもんだと思っていたが・・・・。」

 

洞窟内部に侵入した2匹の羽虫は、その羽音を洞窟中に反響させ、城塞都市周辺を睨みつけるように旋回をする。

 

『何という事だ・・・唯でさえ黒鉄重甲獣に襲撃されていると言うのに、羽を持つ鎧虫が2匹もだと!?』

 

『我々の命運も此処までと言うのか・・・・。』

 

気が付けば、監視塔のリクビトも魔力が切れたのか、閃光の魔導を放たなくなっている。黒き甲獣も2匹の羽虫に意識を向け睨みつけている。

次の瞬間、異形の羽虫の頭部から咆哮と共に強力な光の熱線が放たれた。

 

ヴイイイイイイイイイイイン!!!

 

モーター音と発砲音が混じった独特の音を立てながらコブラの編隊がM134ミニガンを発射し、黒き甲獣の外殻を吹き飛ばし、蜂の巣にする。

 

オオオオオオオオオオオォォォォォォン!!

 

怒り狂った黒き甲獣も負けじと、手ごろな大きさの岩石をつかみ、その怪力を持ってコブラに向かって投石をするが、機動力に優れるコブラには命中せずに明後日の方向へ飛んで行く。

 

「こんな高さまで岩石を投げつけてくるとは・・・正直ヒヤッとしたぜ、お返しだ!!」

 

コブラの両脇に備え付けられたM200ハイドラ70ロケット弾ポッドから、無数のロケット弾が発射され、次々と鱗や甲羅に突き刺さりその体を解体して行く。

 

声にならない悲鳴を上げ、黒き甲獣は、原型をつかめない程にバラバラに粉砕されてしまった。

 

『な・・・ば・・・化け物っ!!』

 

『くそっ、この距離では矢が届かない・・・むっ、着陸するぞ!?』

 

『っ・・・人・・・リクビト!?あの羽虫にリクビトが乗っていたと言うのか!?』

 

『それにあの服装・・・斑模様の・・・まさか・・・。』

 

ふと監視塔の方に目を向けると、魔道具と思われる照明器具を点滅させ、鎧虫の方向に合図を送っており、手を振っている者も居る。

 

『あの斑模様のリクビトの戦力の一端だと言うのか、あの羽虫は・・・。』

 

『奴らは・・・一体何者なんだ・・・・?』

 

ツチビト達は、監視塔の上で手を振る自衛隊に畏怖の目で見続けるのであった。

 


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