異空人/イクウビト   作:蟹アンテナ

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第65話   大地の民との国交

「大丈夫か?飛べるか?」

 

「駄目だ、尻尾がヘタレちまった様だ。先に帰投してくれ。」

 

「了解した、洞窟を調査中の部隊と合流してくれ、オーバー」

 

テールローターに異音を感じ、緊急着陸したものの応急修理が出来ないので、仕方が無く近隣の部隊と合流しようとするパイロット、しかし、ふと周りを見渡すと武装した現地住民が集まってきていた。

 

「あー・・・不味いなこれ・・。」

 

『お主は何者じゃ、洞窟の外のリクビトの仲間か?その羽虫は一体なんだ?』

 

「大陸共通語か・・・何とかなるかもしれないな・・・。」

 

自分を落ち着かせるために息を吐き出し、呼吸を整えると、武装した現地住民に口を開く。

 

『あー・・・私、日本国、自衛隊です。仲間、危機を察して、空から来ました。』

 

『仲間の危機?あぁ、やはり地下都市に訪れた斑模様のリクビトの仲間か、お主も似たような服装じゃな・・・ふむ・・。』

 

『黒い獣、襲われていた。大丈夫ですか?』

 

『お主らの魔導と、後ろの羽虫のお蔭で何とかなった、それは感謝するが、それ程の鎧虫を引き連れ何をするつもりじゃ?いや、そもそもどうやって仲間の危機を知った?』

 

『あー、仲間、遠くからでもわかる合図、使える。』

 

『合図?ふむ、何らかの手段で連絡を取り合えるという事じゃな、気になるが詮索はせんよ、それよりも、仲間と合流したいのではないか?』

 

『仲間、あの街に居る、知ってる?会えれば助かるます。』

 

『いいだろう、案内する。その鎧虫は置いて行くのか?』

 

『あー、ヘリコプター、動かせない、置いて行く。』

 

『ヘリコプター・・・か、変わった名前の鎧虫じゃのう、まぁいい案内しよう、ついてくるが良い。』

 

 

斑模様のリクビトを城塞都市に案内するツチビトの兵士達は、時折後ろを振り返って、黒き甲獣を滅した異形の羽虫を見ながら城塞都市に戻るのであった。

 

 

「急にフラフラと着陸したからどうしたかと思ったが、テールローターの故障か、何にせよ無事でよかった。」

 

「まったく、とんだ災難だよ。ここ最近、原生生物の群れの襲撃や例の厄介な国(ルーザニア)のせいで忙しなかったが、遂にガタが来たという事か・・・。」

 

「大穴から侵入するときに擦ったのか?それとも、先ほどの戦闘でか?」

 

「いや、どちらも問題は無かった、被弾もしていないしな、一応しっかりとメンテナンスはしているが、まぁ今回運が悪かったんだろう。」

 

「確かに困ったことになったな、外なら兎も角、地下で身動きが取れなくなるとは・・・バラして運ぶにしても通路が狭いしなぁ。」

 

「最悪大穴を通って、大型ヘリコプターに吊り下げて貰うか、しかしなぁ・・・。」

 

不時着したパイロットと会話をしていると、突如扉が開かれ、赤銅色の髪を持つ男と白髪交じりの老人が現れる。

 

『仲間と合流できて何よりじゃの、羽虫使いよ。』

 

『話している所悪いが、本題に移って良いか?』

 

『えぇ、構いませんよ?』

 

立ち話をしていた自衛隊員たちは、石で出来たテーブルの席にそれぞれつき、後から入って来た二人のツチビトも席に座る。

 

『先ずは、先の戦いでの助太刀に感謝する。しかし、あれ程の魔導を操り異形の羽虫を従えるお前達は一体何者だ?ニポンはあれ程の怪物を大陸に持ち込み何をするつもりなのか?』

 

『途中で思わぬ横やりが入ってしまいましたが、当初の通り、この大陸の国々と交流を持つために、海の向こうからやってきました。しかし、この大陸は我々が想定した以上に過酷な地でした、それが戦力を持ち込んだ一つの理由です。』

 

『確かにこの大陸には鎧虫を始めとした狂暴な魔物で犇めいておる、あの黒鉄重甲獣(ベルクードグリプス)もその一つじゃな。』

 

『だがあの羽虫はそれらの魔物すら一瞬で消し去らんばかりの力を秘めている。まるで御伽噺の魔族の様にな。』

 

『憎き甲獣の死骸を確認ついでにお主らの羽虫を拝ませてもらったよ。だが、あれも鉄蛇と同じく人の手によって作られた鎧虫じゃった、複数の部品を複雑に組み合わせた異形の羽虫じゃな。』

 

『あれはヘリコプターと言う乗り物です。ご指摘の通りあれは生物では無く、無数の部品を組み合わせて作り上げた航空機という分類される乗り物の一種ですね。』

 

『お主らの鉄蛇には驚かされたが、今回はそれ以上じゃ、しかも調べれば魔術式はおろか、魔力の痕跡すら確認できなかった。ニポンは魔力を使わず魔法を使う事が出来るのかの?』

 

『あれは魔法ではありません、我々は魔法を使うことが出来ない種族なのです。正確には貴方達がリクビトと呼称する種族とは全く違う種族になりますね。』

 

『魔法では無い?ではあれ程の力は一体どこから・・・いや、その前にリクビトでは無いと申すか?・・・ふむ、確かにお主らから魔力を全く感じぬ。一体どういう事じゃ?』

 

訝しげな眼で白髪交じりの老人は自衛隊員達を見つめる。

 

『正直お前たちの存在はこの大陸で異質過ぎる。俺たち自身、地下に籠る変わり者だと言う自覚はあるが、お前達には劣るだろう。もう一度聞く、お前たちは何者だ?』

 

『海の向こうからやって来た、これは本当の事です。しかし、信じてくれないかもしれませんが、元々我々の国は別の世界に存在していた島国だったのです。』

 

『別世界じゃと!?』

 

『一体何を言って・・・・!?』

 

『なぜ我々がこの世界に飛ばされたのかは未だに正確につかめていないのですが、海の民によると大規模な魔力爆発が海底火山で起こり、気が付けば見た事も無い陸地・・・そう、我が国がこの世界に出現していたと言うのです。』

 

『海底火山!?海の中でも火山が存在すると言うのか!?いや、そもそも島国ごと別の世界から引き寄せる力が存在すると言うのか!?』

 

『・・・我々にとっても別の世界へ転移する事は異常事態でした。元の世界がどうなってしまったのか知る術はありませんが、国交を持っていた国を全て失い、すがる思いでこの大陸にやって来たのです。』

 

『俄かに信じがたいが、お主らが大陸の国々と交流を持とうと言う話には理屈として通るのぅ、この魔力とは異なる奇妙な力を操るのにも説得力がある。』

 

『リクビトではない別世界の種族・・・・か』

 

『大陸のとある人達には、イクウビトと呼ばれる事もありますね。我々は自分たちの事をその様に呼ぶ事はありませんが、まぁ、お好きなようにお呼び下さい。』

 

『イクウビト・・・・。』

 

『私達は、貴方達ツチビトと交流を持ちたいと思います。新たな世界で、新たな友と共に助け合い、生きて行きたいのです。』

 

『異世界の国ニポンと、異世界の民イクウビトか・・・実に興味深い。』

 

『うむ、同感じゃのぅ、海の向こうの世界の話を聞けると言うだけでも興味をそそられると言うのに、異世界からと来たか!これ程の存在との出会いは奇跡としか言いようがないの!』

 

『では国交を結ぶ為の細かい交渉は、外交官がこの街に来てからにしようか。』

 

年若いツチビトが扉の奥から現れ、会話に交じる。

良く見ると、その後ろから先ほど会議室に居た地下都市の有力者の面々が入室してくる。

 

『おおっ、お主らも来たか、しかし立ち聞きしとらんで入って来れば良かったじゃろうに。』

 

『いや、何となく入る間を逸してしまってな、興味深い話をしている様なので入らずそのまま続けさせてもらった。』

 

『元より国交を結ぶ予定ではあったが、まさか異世界の国とはな、益々もって興味深い。』

 

『悩みの種であった黒き甲獣を倒してくれた礼も言わなければならないしのぅ。』

 

『俺も異存はないぞ?しかし、国交か・・・何時までも地下に引き籠っては居られないという事か、これも時代の流れと言う奴だな。』

 

『それでは、我々は外の仲間たちと合流して、この事を本国に伝えようと思います。まだ国交を樹立出来てはいませんが、これから宜しくお願いします。』

 

『あぁ、外交官がこの街に訪れたら歓迎しようじゃないか、盛大にな。』

 

後日、地下都市に訪れた外交官は、ツチビトの作る強烈な酒で歓迎され、轟沈する事になると言う・・・・それは、また別の話。

 


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