異空人/イクウビト   作:蟹アンテナ

69 / 169
第69話   拡張される動植物研究所

異世界の病原生物が日本に上陸する前に、水際で食い止めるために城塞都市ゴルグに建設された動植物研究所。

まだまだ規模的にはそれ程ではないので、増築が待たれていたが、正式に予算が降りて、建設機械が唸りを上げて地面を掘り返している。

 

主に不足している機器を設置する為の設備や、動植物を飼育する為の大型の檻などを作るのだが、その際に重機の音で捕獲した動植物にストレスをかけない様に隔離する事になった。

 

ギャウン!ニ゛ャ!ニ゛ャ!ギャン!!

 

重機の音はまだ遠いが、少ししたら飼育施設付近にやって来る予定なので、檻の中の飛竜をクレートに移そうと、鍵を開けると満面の笑みで飛竜の子供が近づいてくる。

 

ニ゛ャニ?

 

「ほーら、太郎~?元気にしていたか~?」

 

グゥ?・・・ギャン!ギャン!

 

「ほら、こっち来なさい、ふぐぉっ!?抱っこじゃないから!重い!重い!潰れる!!」

 

クゥゥゥン・・・・すんすん。

 

もう既に大型犬を超える大きさに成長した飛竜の太郎だが、施設にやって来たばかりの頃に抱きかかえられていた癖が抜けきらないのかよく職員に飛び掛かる。

昔から太郎を甘やかしていた職員は、根性で抱きかかえようとする者も居るが、登山用のリュックを背負った成人男性と同じくらいの重量のある太郎を抱えるには無茶であり、腰を痛めて午後出勤となったケースもあると言う。

 

「これこれ、そんなに抱っこして貰いたいなら、お尻掴んじゃうぞ!」

 

ンギャ?

 

「痛ててて、助かった・・・じゃぁ、俺は胸を掴んじゃうぞ!」

 

グゥ・・・。

 

「そ~~れ、わっしょい!わっしょい!」

 

ンギャ・・・ギャッ・・ハッハッハッハッ・・・ニ゛ャン!ギャッギャッニ゛ャッ!

 

二人がかりで太郎を抱えると、そのまま檻の外に置いていたクレートに入れて、鍵をロックし、ローラーカートで一時的に隔離するべく重機の音の聞こえない倉庫へ移動した。

 

 

倉庫には、無数のクレートが山積みになっており、その一つ一つから獣の鳴き声が聞こえてくる。

 

 

「じゃぁ、少し狭いけど、暫くそこに居なさい」

 

クゥゥゥン・・・・クンクン・・・。

 

「そんなに不安そうにしないの、時々様子見しにくるから。」

 

 

上目遣いで蹲る太郎を尻目に、倉庫の扉を閉めて、研究所へ向かうと、途中で研究に必要な機器がトラックから運び込まれていた。どうやら先日荷揚げされたばかりの様だ。

 

「あれは、HPLCに・・・オートクレーブか、人材も資材も足りていなかったから、嬉しいな。」

 

「パラフィルムやキムワイプなどの消耗品もダンボール箱一杯に積まれているな、そういや、在庫が少なくなっていたんだっけかな、助かる。」

 

「キムワイプで眼鏡ふいたり鼻かんだりする馬鹿のせいで、減りが妙に早いんだよ。ここじゃ貴重品だってのに・・・。」

 

「勿体ないから、普通にティッシュ使っているよ、転移前とは状況がまるで異なる。限りある資源は有効に活用するべきだ。」

 

「全くだ、はぁ・・・機材が揃っても人材は補充されない・・・・か、まぁ仕方ないか。」

 

「その癖、本国に居る奴らは、サンプルを寄こせだの、解剖させろ、動物実験させろだの煩いし、こっちの身にもなれってんだよ。」

 

「太郎は間違っても解剖なんかさせないぞ。」

 

「大陸で現地人に魔物と呼ばれている動物にも懐く奴も居るからなぁ・・・ま、そんなこと言っているとラットやマウスも懐くし、連中の言い分も解からなくもないんだが。」

 

「太郎を捕獲した日に持ち帰った岩みたいな飛竜・・・あれは、本国に送ったが、向こうの奴らは大層驚いたそうだ、で、太郎も送って来いと言ってくると・・・。」

 

「貴重な生きたサンプルだから、動物実験は止めるべきだと、所長が断ってくれたが、もう一匹捕獲して来いだの言ってくるし、もうやだあいつ等。」

 

「大体あの森は、入るだけでも命がけだし、自衛隊が銃火器担いでやっと五体満足で帰れるレベルの危険度だ、そうそう飛竜を捕獲する事なんて出来ないだろ。」

 

「しかし、太郎は一体何で調査隊の後をつけて来たんだろうな?それがとても不思議なんだが・・・。」

 

「さぁね、寂しかったんじゃないか?」

 

「あの甘えん坊さを考えると、実際そうなのかもしれんな。」

 

研究室の扉を開けて、それぞれの席に座り、PCを起動すると、やりかけで止まっていた作業を再開し、実験データの編集を始めた。

 

暫くすると、重機の音が響いてきた。どうやら飼育施設付近に手を入れた様だ、これで、飼育施設が拡張される。

そう思うと、自然と気分が良くなった気がして、何の面白みも無い作業が楽しく感じた。

 

 

ゴルグの動植物研究所の職員たちは、まだ知らない。

 

工事の為の重機を見物しに来ていた、現地住民たちに、大陸中の魔物が入った檻を目撃されていた事に・・。

 

 

後日、不安がった現地住民たちの一部が農具などで武装をして研究所に集まり抗議をする騒ぎに発展し、それが巡り巡って大陸初の動物園の開園の切っ掛けになるのは、また別の話。

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。