異空人/イクウビト   作:蟹アンテナ

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第73話   亡国への道と喉元の刃

山をくり抜き堅牢な城塞と化した城塞都市国家ルーザニア。

元々は人食い族から逃れるために、険しい山々に身を隠し、過酷な環境下で開拓を続けた民の集落であったが、長い年月を経て国となったものである。

 

そして、ルーザニアは現在上から下へと、蜂の巣をつついたような騒ぎになっていた。

 

日の出と共に突如現れた異形の羽虫が、降伏勧告文と、その裏側に黒い煙を上げて崩れ落ちた砦の精巧な絵が描かれた紙をばら撒いたのである。

人々は異形の羽虫に怯え、そしてルーザニアが戦争をしている蛮族の国ニッパニアのばら撒いた紙を見て狂乱状態に陥った。

 

 

「これより御前会議を開始します!!」

 

 

今回の御前会議は、定期のものでは無く緊急に開かれたものである。

事が事だけに、会議に参加した者達の顔は暗く、もしくは青く、緊迫した空気が漂っている。

 

「先ほど空から飛来したニッパニアの物と思われる羽虫がばら撒いた紙に描かれた砦は恐らく山頂砦でしょう。」

 

「山頂の砦が陥落しただと!?馬鹿な、ニッパ族は嘘をついている!唯の心理戦だ!」

 

「だが、これ程精巧な絵を寸分違わず1枚1枚描けるのだろうか?それに、ばら撒かれた紙によっては微妙に角度が違う絵もある。」

 

「ニッパニアは・・・魔力を持たぬ蛮族では・・・・なかったのか・・・?」

 

ニッパニアの持つ得体の知れない力の一端を、ここに来て初めて理解する面々、しかし、玉座に座る人物は怒鳴り声を上げてそれを否定する。

 

「黙れ!!魔力を持たず、一切の魔法を使うことが出来ぬ蛮族に何を恐れろと言うのだ!!兵を集めよ!今すぐにだ!!」

 

「し・・しかし、空を我が物顔で飛び、こちらの手の届かぬ位置から、この様な脅しをかけてくるニッパニアにどの様に対抗すれば・・・。」

 

「所詮鎧虫を操りいい気になっただけの蛮族だ、それに、我らには地の利が・・・そして魔導がある!」

 

「鎧虫を操ると言っても、地を這う種だけでなく、空を舞う種までも手懐けるとなると、唯の蛮族ではありませぬぞ・・・。」

 

 

怒り狂う王と、空を舞う羽虫の件で狼狽える臣下達、それを冷めた目で見つめる少女が居た。

 

 

(蛮族、蛮族と・・・そこまでして、ニッパニアの力を認めることが出来ないのか・・・?)

 

誰にも聞こえない様に、小さくため息を付くルーザニアの王女ハイ・スペッカ

彼女もニッパニアの操る羽虫の姿を直に見て、内心、盛大に衝撃を受けているが、ルーザニアの重鎮の面々のあまりの情けなさに、現実に戻らざるを得なくなってしまったのである。

 

(正直予想外だった、あの様な羽虫を操るとは・・・そして、羽虫の腹から顔を覗かせていた斑模様の兵士・・・あれがニッパニアの兵士か。)

 

「蛮族にしては力を持つ方なのであろう、それは認める、しかし我らはリクビトの中でも高等種族に部類する存在、鎧虫に頼り切った弱小軍など魔導の力にひれ伏すのみ!それこそが世の理なのだ!!」

 

(馬鹿げている、あれだけの機動力にどの様にして対抗できると言うのだ?投石器の岩礫を当てるのは無謀ぞ、それにあの兵士の持っていた杖・・・アレが例の魔道具か?)

 

「・・・た・・・ただいま兵士を集めますので、お待ちくだされ!」

 

(金属の礫を吐き出す魔道具、そして異形の羽虫・・・勝ち目など最初から・・・。)

 

「おのれニッパ族め!調子に乗り追って!!」

 

(父上、貴方は何故あの様な国に戦を仕掛けたのですか?・・・これでは、我が国は・・・。)

 

暫くすると、兵を召集する為に離れていた貴族が、駆け足で戻って来る。

 

「兵を集めました!城門前に集合しております、王命を!」

 

「うむ、ルーザニアに仇なす蛮族に鉄槌を下す!先行隊と合流し、ニッパ族を・・・。」

 

ルーザニア王ハイ・ヴォックが王命を下そうとした時、突如兵士が慌てて広間に転がり込んでくる。

 

「で・・・伝令!!無数の鎧虫とニッパニアの軍勢が城下町の付近に姿を現しました!!」

 

「何だと!?」

 

「そんなっ!!(早すぎるっ!このままでは・・・。」

 

思わず玉座から身を乗り出すが、鼻を鳴らすと再び玉座に座りなおす。

 

「ふんっ・・・こちらから出向く手間が省けたと言う物だ・・しかし、ジーン・・敗れたと言うのか・・。」

 

蛮族の討伐へと出撃した先行部隊を撃破したのだろう、ハイ・ヴォック王は息子がどの様な運命を辿ったのか、それを想像して一瞬だけ悲しげな表情を見せる。

 

「兄上・・・。」

 

ハイ・スペッカも同様に兄の最期に悲しんでいた、対立する事が多く、意見も食い違う兄であったが、少なくとも腹違いの妹なりに兄として気遣ってくれていたのだ。

 

「ニッパ族め・・ハイ家に土を付けてくれたこと・・・後悔させてやるぞ!!」

 

(・・・もう遅いよ、父上・・・未だかつて敵軍に此処まで攻め入られた事など無かったのだ、それがどういう意味を成すのか理解できない訳でもありませぬか?)

 

ルーザニアの王女ハイ・スペッカは、密かに王城の地下に広がる天然洞窟を抜け、王都からの脱出をすると心に決めるのであった。

 

(地下迷宮は、広大過ぎて全貌を把握出来ていない・・・王城の地下ながらも野生の猛獣も出没する天然迷路だ、護衛が必要だな・・・・。)

 

 

一方、ルーザニア首都の目前へと迫っている自衛隊は、車両に備え付けられたスピーカー装置でルーザニア側に降伏勧告を読み上げるのであった。

 

『アーッ・・・アーッ・・・テステス・・・・』

 

「我々は、日本国自衛隊である!ルーザニアに告ぐ!王城は既に射程に収めている!無駄な抵抗はよせ、我らに降伏せよ!」

 

『アー・・チョット・・・コーアツ・・スギ・・ナイカー?』

 

『バカ・・・コーイウノハー・・・サーショ・カージン・・・ナダーヨー。』

 

『マイク!マイク!オト・・・モレテールッ!』

 

「ご・・・ごほん、無駄な抵抗は止めろ!既に王城は射程距離内だ!武器を捨て、投降せよ!!」

 

自衛隊の降伏勧告は、車両からだけでなく、ヘリコプターによって城下町上空からも行われた。

 


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