異空人/イクウビト   作:蟹アンテナ

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第74話   敗者の墓標

ルーザニアの城下町付近に姿を現せた異形の軍勢、声を大きくする魔法でも使っているのか、町全体に響く声量で降伏勧告を呼びかけている。

 

「おいっ・・なんだよあの化け物は!?」

 

「も・・もしかして、アレが例の蛮族?魔法が使えない弱小種では無かったのか!?」

 

「羽虫からも声が!?一体何が起こっている?」

 

突如現れた軍勢に城下町の住民たちは、扉と言う扉を閉じて、小さな隙間から覗きながら不安そうに住居に籠った。

 

一方、山頂の城塞都市では、慌ただしく武器庫から投石器やバリスタを引っ張り出し、異形の軍勢に対して攻撃準備をしていた。

 

「高い位置から放たれる投石器の威力は、平地で放つそれとは違うぞ!」

 

「鎧虫程度、叩き潰してくれる!魔法が使えぬ劣等民族め!」

 

常時待機している防衛兵器に武器庫に格納している投石器やバリスタが加わり、城塞都市はまるでハリネズミの如く攻撃的な姿に変貌する。

 

「陛下、攻撃態勢は整いました。」

 

「うむ、ニッパニアに動きはあるか?」

 

「いえ、生意気にも我らに降伏勧告を呼びかけ続けている様です。」

 

「ふんっ、無謀も此処まで突き通せば逆に大したものよの、お蔭で態勢を整える時間が稼げたわ。」

 

「新型の炸裂岩の威力を披露するには丁度良い相手です、蛮族共の慌てふためく姿が目に浮かびますな。」

 

「我らに仇なす愚か者共に教育してやらねばならぬ。我が妹のハイ・ターイそして、勇ましく散ったハイ・ジーンの敵討ちを果たそうぞ!」

 

城の一角に設けられたテラスから、眼下に広がる城下町を見渡し、砂粒の様に見える深緑の影を見つけると、ルーザニア王ハイ・ヴォックは凶悪な笑みを浮かべた。

 

 

場所は変わって、城下町付近の峡谷にて・・・。

 

 

『アー・・・ジカーン・・・セマッテル・ナ』

 

『マッ・・サーシ・コーナル・オモッテ・タ・ヨー』

 

相変わらず、降伏勧告を呼びかけている自衛隊だったが、ルーザニア首都の本格的な攻撃までタイムリミットが迫っていた。

 

 

『シカタ・ナ・イ・コーゲ・カイシッ!』

 

峡谷に巧妙に隠されていた各種火砲から次々と榴弾が天高く発射され、ルーザニア城下町を飛び越え、直接山頂の城塞都市に飛んでいった。

 

 

ルーザニアの兵士にとって死は唐突に訪れた。今まで聞いた事も無い様な轟音を響かせ、城壁が一瞬で瓦礫と化する。

一瞬で死ぬことが出来た者は幸運であろう、しかし、中途半端に生き残ってしまった者は、体中の骨を砕かれ、破片を浴び、地獄の様な苦痛が全身を引き裂く。

 

「ぐわああぁぁぁ!!」

 

「腕が・・・腕が食われたぁぁぁ!!」

 

「い゛・・・い゛や゛だ!・・・死にたくな・・・がああぁぁっ!!」

 

 

155mmりゅう弾砲やMLRS等から放たれた榴弾やロケット弾が、頑丈な筈の城壁を粉砕し、高熱の赤き破壊が、死を伴って城塞都市を舐めまわす。

 

「一体何が起こったのだ!?ニッパニアは悪魔でも味方につけているのか!?」

 

「悪魔だと?そんな生易しいものでは無いぞ!?」

 

「邪神だ・・・ニッパ族は邪神の加護を受けているのだ!!」

 

「蛮族だと?いや違う、このような・・・このようなモノ、奴らは人間では無い・・・・化け物だ・・・。」

 

出撃しようと城壁の内側に待機していた兵士たちは城門ごと吹き飛ばされ、榴弾の雨に遅れる様に、無数のロケット弾が到達し、数千を超える命が一瞬にして消滅する。

 

破壊が通り過ぎた後、不意に砲撃が止む。

余りの出来事に生き残りは、放心状態になる者が多かったが、彼らに訪れる不幸は此処で終わらなかった。

 

一息すらつけずに、先ほど空から降伏勧告を呼びかけ続けていた羽虫が、舞い降り、その腹から次々と深緑の兵士たちを吐き出したのであった。

 

 

場所は変わって、城下町の住人たちは、自分たちの頭上を飛び越えていった光の槍が山頂の城塞都市を破壊し瓦礫の山に変えた光景を見て戦慄した。

目の前の異形の軍勢は突然大きな音を立てて視界が塞がる程の煙を上げたので、火の不始末でも起こしたのかと思ったが、それは違った。

 

「城が・・・山頂の城塞都市が燃えている・・・。」

 

「奴らは一体何をしたんだ!?」

 

大きな音がしたと思えば、時間差で山の上の城塞都市に爆発と黒煙が上がる。尾を引く光の槍は、目視しやすいのでニッパニアの攻撃だと直ぐに気付く事が出来たが、砲撃は見えない攻撃としか認識できない。

正体不明の破壊魔法を放つ目の前の軍勢に、自分たちが何を相手にしているのか、この国の住民たちは強制的に理解させられた。

 

「化け物っ!!」

 

「あの様な魔法を操る人間がいると言うのか!?何が蛮族かっ!怪物ではないか!!」

 

「っ・・・・・お・・・おいっ!自警団が突っ込んで行くぞ!?誰か止めろ!!」

 

山の麓の城下町の警備を任せるために、有志の民に騎士団が直接、戦闘訓練を行わせ、自警団を結成させたのだが、それは下級市民の防衛に騎士団を使う気にはなれない国が、国民を納得させるために行ったものであった。

切込みには申し分ないのだが、如何せん教育らしい教育を受けていない自警団では、些か蛮勇に過ぎ、はぐれ甲獣(グリプス)に突撃する事もある程で、危険察知や引き際と言う物を理解しない。

 

「ニッパニアの鎧虫は、唯の鎧虫では無い!甲獣以上の脅威だ!無謀すぎる!!」

 

街の防壁の扉から一斉に飛び出していった自警団は、ニッパニア軍が陣を構える峡谷付近に到達したところで、何かが弾ける様な連続音と共に血を吹き出しながら倒れて行く。

最初は何をやっているのか遠目からでは理解できなかったが、通常弾に混じり光を放つ曳光弾を見て、強力な遠距離攻撃を受けているのだと理解した。

 

「何だあれは!?爆発こそ起こらないが、兵士一人一人が、あの様な強力な魔法を使えると言うのか!?」

 

「馬鹿な・・あの噂は本当だったのか・・・?」

 

「お前?なにか知っているのか?」

 

頭を抱え、唇を青くしている男に声をかける。

 

「ゴルグガニアの城壁がたった一撃で大穴を開けられたとか、無数の光の矢が鎧と盾ごと重装兵を薙ぎ倒したとか・・・唯の誇張された噂話だと思っていたんだ。」

 

男は、「それが・・・こんな・・・。」と続け、血の気の失せていた青い顔は白くなっており、死人の様な容姿となっていた。

 

小銃による銃撃に迫撃砲が加わり、更に視界は煙に覆われて行く・・・。

 

音が鳴りやむと、視界を妨げる煙が風に流されて行き、赤く染まった土と元は人間だった何かが散らばっていた。

煙が晴れ、次第にニッパニアの軍勢の姿も見えてくる。

 

「警告する、抵抗するならば先ほどの歩兵と同じ末路を辿るだろう。武器を捨てて投降せよ。」

 

再び町全体に響く音量で、ニッパニアから降伏勧告がされる。城下町の住人たちは、すぐさま農具や刀剣を下ろし、降伏した。

 

 

そして、王城にて。

 

「ば・・馬鹿な・・・あれ程の精強な我が軍が、蟻の様に叩き潰されて行く・・・。」

 

「へ・・・陛下・・・我々は悪夢を見ているのでしょうか・・・?」

 

城から下界を一望できるテラスから兵舎や武器庫などが光の槍に吹き飛ばされ、出撃しようと整列していた兵士たちが肉塊に変えられて行く光景を目の当たりにし、衝撃を受ける。

 

「陛下・・・一度戻りましょう、危険です。」

 

王の間にルーザニア王を連れ戻すと、玉座に座った王は、わなわなと震えだす。

 

「お・・おのれえええええええええええええぇぇぇぇ!!!ニッパ族めえええぇぇぇぇ!!」

 

「陛下!!」

 

王の顔は、はっきり認識できるほどの青筋が浮かんでおり、怒りのあまりに茹蛸の様に赤面させている。

 

「殺してやる!滅ぼしてやる!内臓を引き千切り、煮えたぎる鉛を鼻から流し込み、生皮を剥ぎ取ってくれる!」

 

人間の顔は此処まで歪むのだろうか、聞くに堪えない言葉を吐き続ける国王の姿に家臣たちは顔を蒼白させる。

 

「陛下!お気を確かに!」

 

「煩い!煩い!貴様が先に死ね!!」

 

「あぎぃっ!?」

 

ルーザニア王ハイ・ヴォックが持つ王笏が青白く発光すると、文官の頭部に氷の柱が生え、王の間に鮮血が飛び散る。

 

「な・・・。」

 

「生き残った兵を集めよ!!蛮族共を皆殺しにするのだ!此処までルーザニアを・・ハイ家を貶めるとは万死に値する!!」

 

狂った様に王笏の先を赤い絨毯の敷かれた床に打ち付け、音が室内にこだまする。

 

しかし、次の瞬間、王の間の装飾された扉が爆音と共に吹き飛ばされ、扉近くの運の悪い兵士や家臣を巻き込まれ、その場に居合わせた者達が硬直する。

 

「残念ながらそれも叶いますまい、ルーザニア王、ハイ・ヴォック陛下?」

 

「ルーザニア王、ハイ・ヴォック、貴様をテロ容疑で拘束する。」

 

「な・・き・・貴様ら、何時の間に!?蛮族が王の間に土足で踏み込みおって!であえい!であえぃ!」

 

扉の爆破に巻き込まれなかった近衛兵がすぐさま駆けつけ、戦闘能力を持たない文官は、蜘蛛の子散らす様に逃げて行く。

 

「蛮族共め!王の御前であるぞ!無礼者め!」

 

「劣等民族がわざわざ死にに来たようだな!!」

 

近衛兵は、槍や剣等、変わったものでは杖を振り上げながら、扉を破壊した自衛隊に飛び掛かる・・・しかし。

 

 

「っ!!?」

 

ーーー・・・・・乾いた連続音。

 

「が・・・はっ・・・。」

 

たった数名の兵士が放った無数の光の矢が、十数名の近衛兵を打ち倒す。

 

「馬鹿な・・・何だと言うのだ・・・。」

 

ルーザニア王ハイ・ヴォックは、見えない何かに薙ぎ払われる様に倒された近衛兵達の姿に驚愕し、思わず後ずさる。

 

「大人しく投降すれば、命まで取ることは無い・・・無駄な抵抗は止めろ。」

 

ルーザニア王ハイ・ヴォックは鼻で笑い、要求を突っぱねた。その顔には明確な怒りと恐怖が滲んでいた。

今この瞬間は、命をとることは無いのだろうが、ニッパニアに囚われてしまえば、一方的な裁判を受け、処刑されてしまうのが目に見えていたからだ。

 

「ぐっ・・・使えぬ駒め・・・」

 

ハイ・ヴォック王は、王笏を構え、王笏の先端に取り付けられた魔石に光の粒子が集まる。

 

パキパキと音を立てて杖の先端に大きな氷の塊が出現し、強い魔力が注がれているのか王笏全体が淡く発光していた。

 

「ハイ家に逆らった貴様らには死んでもらおう!ひれ伏すが良い!!」

 

杖の先端から十分な大きさに成長しきった氷の槍を発射し、着弾地点に氷の破片が勢いよく散らばる。

 

寸前の所で氷の槍を回避した自衛官たちは、ハチキューを構え、反撃する。

 

連続した発砲音と共に足を撃たれたルーザニア王は、勢いよく転倒し、四つん這いになる。

 

「ぐぅぅぅっ・・・来るな!近寄るなぁぁぁ!!!」

 

這いずりながら、自衛官たちから逃れようと、近くに転がっている近衛兵の兜や王の間に飾られている宝飾品のゴブレットなど手あたり次第投げつけながら扉の方に逃げる王。

 

「ちっ・・・醜いな・・・。」

 

当然ながら、そんなもので自衛官を退けることなど出来ず、最後に王冠まで投げつけてくる始末。

 

「往生しろ!」

 

這いずるルーザニア王の横腹を蹴り上げると、ルーザニア王は呻き声を上げた後、芋虫の様に痙攣する。

直ぐに、取り押さえ、流れるような動きで、両手を後ろに回した後に手錠をかけ、拘束する。

 

「全く・・・王族の証たる王冠まで投げつけてくるとは・・・最初っから王の素質が無かったんじゃないか?」

 

「ぐぇぇぇ・・・あが・・・あがががっ・・。」

 

その後、外で待機していたイロコイに拘束したルーザニア王ハイ・ヴォックを乗せ、ゴルグガニアまで搬送するが、銃撃による負傷からか応急処置を施されていたにも関わらずルーザニア王は衰弱死した。

少なくない失血をしていたのが原因では無いか?日本に比べて衛生環境が整っていなかったのが原因ではないか?等と諸説はあるが、有力なのは魔力を持たない民に一方的に蹂躙された衝撃から、精神的に壊れてしまい生きる活力を失ってしまったのではないかと言われている。

 

かつて、ゴルグガニアに並ぶ軍事国家とも言われたルーザニアを束ねる王の末路は、余りにも惨めな物だった。

 

 

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ルーザニアの城塞都市の地下に広がる巨大な地下迷宮、有事の際は緊急脱出用の通路として使用されるが、今までこの地下迷宮を使うほどの非常事態に見舞われる事無く過ごしていたので、大まかな地図しか残されていない。

 

一応過去の再調査で、地下迷宮に住処を作った野獣や魔物が駆除され、何通りか外部に通じる出入り口を確認しているが、補強工事すらされず、簡単なマーキングをするに留まった。

 

「非常事態時に使用する通路だと言うのに、何と言う杜撰な・・・。」

 

「姫様、ニッパニアが攻めてきます、早く進みましょう。」

 

「わかっておる・・・っきゃぁっ!?」

 

ずんっ・・・と揺れを感じ、天井から埃がパラパラと落ちてくる。

 

「ニッパニアの攻城兵器は、此処まで届くのか・・・早く脱出しなければっ・・・。」

 

 

古びた煉瓦が敷き詰められた道を歩いていると、急に視界が広がる・・・どうやら山の斜面に空いた穴から外が見える様だ。

 

「・・・・そんな・・・城が燃えている・・。」

 

ハリネズミの様に武装されていた筈の城塞都市は、巨人の振り下ろした金槌に砕かれた様に瓦礫と化しており、黒煙が天高く立ち上っている。

 

ルーザニアの王女ハイ・スペッカは、膝から崩れ落ち、頬を涙が伝う。

 

「姫様・・・。」

 

「ルーザニアは・・・この国はもう終わりだ・・・。」

 

「ハイ・スペッカ王女殿下、貴女だけでも生き残れば、また再建できます・・・かつて、初代国王ハイ・クオリア陛下が成し遂げた様に。」

 

「ははっ・・・どうだろうな・・・私の様な小娘に国民がついてくるのやら・・・。」

 

自嘲気味に乾いた声で笑い、立ち上がり膝の埃を払うと、護衛の兵士たちに向き直る。

 

「先に進もう、まだ地下迷宮に入ったばかりだ、先は長い。」

 

「はっ!」

 

手入れのされていない通路は足場が悪く、割れた煉瓦に足を躓かせる事もあり、脱出用通路を進む王女と護衛達の気力を削いで行く。

 

「これは・・・何という事だ、通路が崩れて先に進めない・・・。」

 

「ニッパニアの攻撃で山が揺れたのだろう、仕方がない別の道を進もう。」

 

脱出ルートは幾つか地図に簡単に記されている、少し遠回りだがニッパニアの陣を構える峡谷の反対側に出る事が出来るルートが確認できる。

 

「此処からだと、こちらの道を進んだ方が良いな、行こう。」

 

古びた煉瓦の通路から、少しずつ人工物が無くなって行き、ジメジメと湿った鍾乳洞の様な道に変わって行く。

 

「大分深くまで降りて来たな、恐らく山の中腹近くだろう。」

 

「水の流れる音が聞こえますな、そして動物の気配・・・気を引き締めて行きましょう。」

 

一応目印に地面に金属の杭が刺さっているが、洞窟の湿気にやられたのか青い錆に覆われており、元は綱が引かれていたのであろう杭の穴には朽ち果てた繊維片が垂れ下がっているだけであった。

 

ごるるるるる・・・・・。

 

突如通路のわきから赤黒い鱗を持った大型爬虫類が現れる。

 

「火吹きトカゲ!?この様な所にっ!?」

 

「姫様、退避してください。」

 

「行くぞ化け物め!!」

 

ハイ・スペッカ王女の護衛が、短槍や斧などで火吹きトカゲに切りかかる。

 

キュオオオオオオオオオ!!

 

火吹きトカゲの口が大きく開かれると、喉から押し出される様に紅蓮の焔が突き進む。

 

狭い通路では、回避が難しく、凶悪な威力を誇る火炎放射だが、金属の大盾に阻まれ、護衛の兵士達には届かない。

 

火炎放射が止むと、その隙をついて、杖を持った兵が氷の塊を精製して、口の中に氷結の魔法を叩き込む。

 

キュオオオオオオオッ!?

 

火炎放射を放つ口が塞がれ、気道まで塞がれたのか苦しそうにもがき、何度も頭部を壁や地面に叩き付け暴れる火吹きトカゲ。

 

そこに、首や腹などに短槍や斧などが叩き付けられ、短い悲鳴を上げると、そのまま動かなくなった。

 

「まさか火吹きトカゲまで巣食っているとはな・・。」

 

「姫様、大丈夫ですか?」

 

「あぁ、しかし今まで良く迷宮から地上に這い出て来なかったな・・・。」

 

「入り口付近は定期的に討伐が行われておりますからね・・・皮や肉は臨時の収穫にもなりますし・・。」

 

「見事な火吹きトカゲだな・・・今は捨て置く事しかできないのがもどかしいが、先を急がねばならん。」

 

「生き物の気配が集まってきています、先ほどの戦いで侵入者を感知したのでしょう。」

 

「更に悪い事に、火炎放射のせいで盾が燃えて使い物になりません・・・暫く炎が消えないと思うので、これも破棄する事にします。」

 

火吹きトカゲとの戦闘で、注意を深め、集まって来る生物の気配を避ける様に天然洞窟を進んでいると、急に広い場所に出る。

 

「洞窟の壁面が淡く光っている・・・これは・・・魔鉱石かっ!?」

 

「洞窟が脈打っている様だ、光が流動する・・・っ奥に何か!?」

 

広場の中央部に石板の様な人工物が聳え立っている、石板の中心部には青白く光り輝く巨大な魔石が埋め込まれており、広場全体を照らしている。

 

「この様な物が城の地下に存在するとは・・・これは一体なんだ?」

 

ハイ・スペッカ王女が、石板に触れた途端に魔石が光り輝き、青白い閃光がスペッカを貫く。

 

「きゃああああぁぁぁっ!?」

 

「姫様ーーーっ!!」

 

意識がそこからぶつりと途切れ、再び目を覚ますと星空の様な空間に彼女は居た。

 

「此処は一体どこだ・・・?」

 

(この記録を読んでいるという事は、王国に危機が迫っているという事だろう、嘆かわしい事だ・・・。)

 

「っ!何者だ!?」

 

声の主は、スペッカ王女の問いかけを無視する様に続けられる。

 

(ルーザニアの王族の血を引く者よ、我の記憶を魔石に封じ込めた、生き延びてこれを後の世代に語り継いでほしい。)

 

「一体何を言って・・・。」

 

(かつて我々は高山に住む部族の一つであった、しかし紺碧の大地で起きた大戦の影響で我々も人食い族の侵攻を食い止めるために、手を貸さなければならなかった。)

 

星空の様な空間は、急に青空に変わり、山の上にある小さな集落の上空から見た様な位置に固定される。

 

「・・・・・・・・。」

 

(人食い族達との戦いは熾烈を極めた。英雄と唄われた超人たちの力も海の民の聖歌魔法も、人食い族の誇る蛮力の前に、少しずつ押されていった。)

 

(我々も彼らに加勢し、多くの犠牲を出しながらも、人食い族の数を確かに減らして行ったのだ。)

 

(しかし、英雄たちの力の源が海の民の持つ青き秘宝と血肉と判明すると、我らの中で裏切者が現れた。)

 

「・・・・この声は・・・この記録は、まさか・・・。」

 

青空は、少しずつ夕暮れの様に染まり、やがて禍々しい血の様な色の瘴気の渦が空に満たされる狂気の空間に変わっていった。

 

(英雄たちを、そして海の民を裏切った一派は、人食い族の陣営に付き、形勢は逆転し一気に我々は紺碧の大地から、山々に追いやられてしまった。)

 

(人食い族達の侵攻は続き、各拠点を落とされ、遂に山に逃げ込んだ我らの集落にまで達した。)

 

(壊滅的な被害を出しながらも、囮に出ていった仲間達の犠牲を払いつつも、今まで誰も開拓しようとしなかった高山に僅かな生き残りが辿り着き、辛うじて生をつないでいた。)

 

禍々しい空は、やがて幻想的な星空に変わり、集落の上空から視界が移り、やがて見覚えのある山が見えて来た。

 

「この山は・・・・ルーザニアの王都ではないか!・・・まだ何も開拓されていない頃はこの様な形をしていたのか。」

 

(やがて少しずつ数を増やしていった我々は、高山を削り外敵から身を守るための防壁を作り始めた。)

 

(高山に広がる地下洞窟を繋ぎ、岩壁を削り、時折襲い来る魔獣に被害を出しつつも惑乱することなく冷徹に計画を進めていった。)

 

(そして長い時を経て、大戦で培った建築技術を持つ技官達を総動員して決して揺るがぬ城塞を建造することが出来た。)

 

「これは旧都か・・・しかし、今はもう・・・。」

 

(これ程の大事業を成し遂げた後に残ったものは呆けにも似た空気だった、少なからず達成感も喜びも感じていた。)

 

(だが、今まで出してきた犠牲に目を瞑り、全てが終わったと、それらの差し引きで穢れた手をぬぐえるほど我々は腐ってはいなかった。)

 

(この地下迷宮は、我らの墓標、無能な我らを呪った、犠牲者の血にまみれた慰霊碑。かつての友を裏切り落ち延びた、我ら高き民を戒めるための敗北の碑。)

 

(ルーザニアの王族の血を引く若者よ、後世に語り継ぐが良い、若さは記憶を引き継ぐ資格、王国に危機が迫りし時に記憶の鍵は解き放たれる。)

 

(そして紺碧の大地[アルクス]を取り戻す日まで・・・・・全ては戦友達の為に。)

 

急に視界が目も眩まんばかりの光に覆われる。

 

再び目を覚ました時は、護衛の兵士たちに介抱されており、その顔は涙に濡れていた。

 

「姫様、お目覚めですか・・・一体何故涙を流しているのです?お体は大丈夫ですか?」

 

「あ・・・あ゛あ゛・・・大丈夫だ、ひぐっ・・・これが・・・この記憶が・・・。」

 

「姫様?」

 

「ルーザニアの起源だと言うのか・・・。」

 

「姫様・・一体何が起こったと言うのですか?」

 

「そ・・ぞれは・・・。」

 

 

突如、広間の横穴から、強い光が照らされる。通路の奥から斑模様の兵隊が現れたのである。

 

「っ!!姫様、ニッパニア軍がっ!!」

 

「おのれ蛮族め、姫様に手出しはさせんぞ!!」

 

武器を構える護衛の兵士達、しかし、スペッカ王女は手を差し出し静止させる。

 

「お前達も見たであろう、我々では手も足も出せぬ・・・・。」

 

「我々が時間を稼ぎます、お逃げ下さい!!」

 

「もう・・・いいんだ、辱めを受けてでも生き延びよう、武器を捨ててニッパニアの軍門に下ろう。」

 

「姫・・・様・・・。」

 

護衛の兵士たちは己の無力さに涙を流し、膝をつく。

 

「この記憶を・・・語り継がねば・・・生き延びて生き延びて、この身が擦切れようとも・・・。」

 

 

 

 

 

 

その日、日本はルーザニアとの戦争に勝利して、王都に駐在する軍を派遣し、占領下に収めた。

最後に、グローバルホークによって撮影された、地下通路の入り口から進軍した別働隊によって、洞窟の中心部で遭難していた王族の少女が保護された。

 

 


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