異空人/イクウビト   作:蟹アンテナ

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第76話   飛竜の一日

城塞都市ゴルグに設けられた生物研究所、異世界の大陸から集められた動植物を研究し、

生物学の更なる進歩と、未知の病原生物の日本上陸を阻止する為に、日夜活動を続けている。

 

 

しかし、日本が集めた生物の中で、現地住民が魔物と呼び恐れる大型動物も含まれていたため、最近では近隣住民から苦情と不安の声が届いている。

 

 

ギャウン!ギャン!ギャン!

 

「ほれ、餌だぞー、またトレーを壊すんじゃないぞ?」

 

ニ゛ャギャ!

 

「壊したらごはん減らしちゃうぞ?」

 

ニャフン・・・。

 

 

大陸中から集められた動植物の中でも、特に大陸中央部を覆う大森林と言う高濃度の魔力が満ちている場所に生息する生物は、特異な性質を持っている。

多くは強力な魔力を秘めており、狂暴な生物も多いので、飼育には細心の注意が必要だが、中には人に懐く生物も居る。

肉のお零れ目当てで自衛隊の後をつけて来た、飛竜の子供がそれである。

 

 

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ある獣は昔を思い出していた。

 

故郷の山で岩のような獣に群れの仲間を食い殺され、散り散りになり、自分自身も孤独に過ごしていたが、故郷の山を離れた時に転機が訪れる。

 

最初は、見た事も無い二足歩行の動物に捕えられ、食べられてしまうと恐ろしく感じていたが、二足歩行の動物は自分に食べ物を分け与えてくれた。

 

獣は知っていた、血縁関係のない後から群れに入って来た仲間が、最初は食糧を分け与えて貰っていなかったのを・・・・。

獣は知っていた、新米の群れの仲間は、率先して群れの為に外敵を追い払ったり、獲物を捕まえやすくするために追い立ててくれていたことを・・・。

獣は知っていた、暫くして群れの仲間と正式に認められた新米は、群れ全体の連携で仕留めた獲物を、そこで初めて分け与えて貰えることを・・・。

 

・・・・そう、獣は本能的に知っていたのだ・・・。

 

獣は孤独な毎日から、初めて満ち足りた生活を手にしたのだ・・・。

 

二足歩行の動物の群れに加わった覚えも無ければ、彼らの為に体を張った覚えも無かったが、獣はとても嬉しかった、自分に貴重な食糧を分け与えてくれたのだから。

それ故に、早く自分でも食糧を調達できるように、日夜、食糧が入れられた奇妙な光沢を放つ岩を、獲物に見立てて叩き付けたり転がして追いかけたりしているのである。

 

 

『コラー・タロー・マターコワシターナー!!』

 

ギャン!ギャン!ギャッ!ギャッ!(あそんで!すき!すき!

 

『グェェ・・・オモッ・・ナッターナー?ダッコ・ハ・ムリヨー?』

 

クンクン・・ギャン!ギャッ!ギャッ!!(もちあげられるのすき!かおなめる!すき!

 

『モーソロソロ・サンニー・ジャナイト・ムリダナー?』

 

ニ゛ャニ?(なに?

 

『ナン・デモー・ナー・ヨ?』

 

グゥ?(そう?

 

 

檻の中で飼育員と遊んでいると、檻の外でカートに荷物を積んだ男が檻の前を通って行く。

 

『オーイー!コレ!ドコニ・ハコ・ブンダー?』

 

『アーソレハ・ソーコ・ニー・モットコ・ンドヨー?』

 

ギャ!・・グルルルルルッ・・・グウゥゥゥゥゥ!!!(こわい!やだ、やだ、ないない!

 

『アア・ソージキ・モ・アル・ノカー・・・ハヤク・ハコンデー!』

 

グルルルルル!!グゥゥゥゥゥゥゥ!!!ふーーーっ!!(やだやだ、こわい!あっちやって!ないない!ふーーっ!!

 

『ホラホラー・モー・コワイノ・ナイーヨ?』

 

ニャフン・・・クンクン・・・。(ないない?こわいの、ないない?

 

『ホラー・ナニモ・ナイーヨッ?』

 

クンクン・・・ンギャ・・ギャ・・・フギャ・・ふしゅん!!(ないない?あそぶ!すき・・・ふにゃ・・くしゅん!!

 

飛竜の子供がくしゃみをすると同時に、その直線上の空間が一瞬だけ歪み、爆風の様な衝撃波が放たれ、床に転がっていたトレーを盛大に壁に叩き付けた。

 

『オアーーーーッ!!?ナンジャ・コレハー!!??』

 

ギャン!ギャン!ギャ!ギャ!(あそぶ!あそぶ!すき!すき!

 

『チョ・・チョット・マッテテ・・・・ショチョー!ショチョー!』

 

グゥ?ギャフン・・・ンギャン・・・。(えぇ、ないない?つまんない・・・。

 

飼育員は慌てて、研究所の所長に飛竜の放ったブレスの報告をしに、檻の外へ走り去って行く。

走り去った飼育員の後姿を飛竜の子供は暫く見つめた後、つまらなそうに、ふてくされた顔で山積みになった藁に体を横たえた。

 

 

 

その日、長い間、用途不明のブレス発射器官の正体は、衝撃波ブレス用の器官と判明した。

飛竜が成長し、未発達だった器官が成熟した事により、飛竜の研究が一気に進んだのであった。

 

 

 

飛竜の衝撃波ブレス

 

 

魔鉱石には、物理干渉力を持つエネルギーを放出する特性があるが、それを熱や電気などのエネルギーに変換する事で魔法と言う現象を引き起こしている。

しかし、未加工の魔力を放出しても、物を押す程度に留まり左程威力も無いが、出力を高めるとそれは衝撃波となり、重量のある物体も吹き飛ばす事が出来る。

エネルギーを放出するだけなので、複雑な工程を組まずに済む分、負担が少ない。

飛竜は、外敵を空中で衝撃波ブレスを集団で浴びせる事で、相手のバランスを崩し墜落させる戦法を用いる様だ。

 

 

 


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