異空人/イクウビト   作:蟹アンテナ

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第81話   大陸の機械都市

日本によって開発が行われ、生まれ変わった新生ゴルグ、日本の民間企業が多く進出し、インフラ整備が行き届き、日本の技術力を大陸の国々に大きく宣伝をしていた。

もう既に、数ヶ国から日本企業にインフラの整備の注文が入っており、地下資源の採掘権などの交渉で、契約を締結している所もある。

特に最近になって開通した、港と城塞都市を結ぶ貨物列車が、休むことなく大量の物資を運搬し、大陸の拠点となるゴルグの開発をさらに加速させた。

 

「船が港に到着する度に貨物列車が往復しているな。」

 

「昨日は重機の群れで、今日は鋼材の山か・・・防壁の中は、そろそろ空きが無くなって来たし、防壁の外の開発が始まるのかもな。」

 

 

ゴトゴトと音を響かせながら、港で乗せたコンテナを城塞都市に運ぶ貨物列車をフェンス越しに眺めながら、煙草を吸い一服する、ある日本企業の職員達。

 

 

「防壁の外か・・・今の所、昔みたいに盗賊や傭兵の襲撃を受ける事も無くなったし、精々はぐれ魔獣が迷い込むくらいだから問題は無いかもな。」

 

「そう言えば、街が発展するにつれて、街や街道での襲撃が一気に減って来たなぁ、まぁ、これだけの規模になると流石に襲撃は躊躇うか。」

 

「自衛隊の人たちが、彼方此方で活動しているから、その実力が知れ渡ったんだろう、特に巨大な甲獣を被害ゼロで倒した実績がデカいらしい。」

 

この大陸で猛威を振るう最強の捕食者[甲獣]グリプス、種によって体格差はあるが、その多くが屈強な肉体と頑丈な外殻を持ち、一たび姿を現せば大被害を齎すと言う。

ある国の支援活動中に現れた、人里に迷い込み暴れる個体を、重火器で一方的に屠った事で、その名が知れ渡り、斑模様の蛮族と言う偏見と蔑称を吹き飛ばし、かわりに緑の魔法騎士団の異名を持つようになった。

余談だが、甲獣討伐作戦を遂行した自衛官たちは、その国から勲章と男爵の位を授与され、貴族との縁談が舞い込む様になったと言う。

 

 

「高圧的な態度をとっていた国が行き成り下手に出て来たのは、コントみたいなもんだったな、しかし、それだけ弱肉強食な世界なんだろう。」

 

「そうそう、取引先の商人が人格が入れ替わったんじゃないかと思うくらいに態度が変わって驚いた事があったが・・・つまり、そういう事だったんだな。」

 

「さて、そろそろ休憩時間も終わりだ、仕事に戻るぞ。」

 

 

 

昼食の時間が終わり、飲食店がラッシュの時間帯を終えて、食器を片付けている頃、臨時で雇われた現地人がリヤカーで建築資材を運びながら貨物列車を見物していた。

 

 

『あぁ、重てぇなぁ・・・でも、仕事の内容を考えると破格の給料なんだよなぁ・・・。』

 

『あの胴長の鎧虫が休まずに、荷物を運んでいるんだ、俺達も負けないようにしなくちゃな。』

 

元々ゴルグに住んでいた現地の者は、国が崩壊して職を失っていたが、瓦礫の撤去や清掃活動などの単純労働で自衛隊側から給料をもらい、日本企業が大陸に進出してくると自然とそちらに流れていった。

猫の手も借りたい日本企業は単純労働だけではあるが、現地人を低賃金で雇い、物資の運搬などの労働力を確保していた。

日本人から見れば、低賃金の単純労働だが、現地人にとっては破格の待遇であり、職を失った者や元兵士などが飛びつくように日本企業と契約を結んでいった。

 

 

『ニーポニア様々だな、高慢な貴族に頭を下げる必要も無くなったし、給料も高い、ついでに飯も上手いと来た!』

 

『あぁ、オコノミヤキだっけ?最初は見た目で敬遠していたが、あの甘辛いタレのかかった熱々の生地を味わっちまうと今まで食っていた穀物粥が食えなくなりそうだ。』

 

『それも捨てがたいが、やっぱりホットドッグだろう?パンも柔らかければ、肉も美味い!さらに新鮮な野菜も挟んでいると来た、貴族様だってこんな美味いの食った事ないだろう。』

 

 

日本企業に雇われたゴルグの住民は、社員食堂を初めて利用した時に、そのレパートリーの広さと味に感動を覚えていた。

今まで彼らにとって食べるという事は、体を動かすために腹を膨らませるだけであり、食の娯楽と言えるのは、ドロドロとした穀物酒くらいであった。

副次的なものとはいえ、それが噂になり、更に就職希望者を増やしたのは日本企業にとって嬉しい誤算であった。

 

『仕事は重労働かも知れないが、あの飯が食堂で食えるんなら耐えられると言う物さ、後はペラペラ銀貨。』

 

『獣皮紙の時点で銀貨じゃないだろう、でも、持ち運びもしやすいし便利な金だよな、最初は不安になったけど。』

 

『ニーポニアの金さえ持っていれば、他所の街で商人と有利な交渉も出来る、それだけこのペラペラの価値が高いという事なんだろうよ。』

 

『そのペラペラ1枚で小銀貨10枚分の価値があるんだろう?半信半疑でニーポニア本国から来た飯屋で使ったら、普通に使えるし銅貨や鉄貨が釣銭に渡されるし、本当にびっくりしたよ。』

 

『しかし、本当に奇妙な国だな、通貨に獣皮紙を使ったと思ったら、銅貨や鉄貨は普通に存在するのに、銀貨と金貨が存在しない。』

 

『まぁ、ニーポニアにも何かしらの事情があるんだろう、金も銀もニーポニアには価値のある金属らしいしさ。』

 

『そうだな・・・この獣皮紙に描かれた絵も寸分の狂いも無く一枚一枚、同じ絵が描かれているし、それだけでも芸術的な価値がある、恐らく金属を節約しつつ獣皮紙に金としての価値を持たせたのかもな。』

 

『変な話だが、金の為に金をかけるって奴だな、この光加減によって中心に浮かび上がる絵とか、文字は映る銀色のキラキラとか、どういう風に描いているのか皆目見当がつかないし・・。』

 

使い古されたボロボロの鞄から、一万円札を取り出し、太陽光に当てて観察する。

 

『このペラペラをニーポニアが置いた魔道具に入れれば、食べ物と交換できる券が買えたり、飲み物が出てきたり便利だよなぁ。』

 

『ニーポニアはこの街を魔道具で満たして、勢力を拡大している。ニーポニアの通貨でしか動かないこの魔道具もその一端だな。』

 

『銀貨を穴に入れようとしても大きさが合わなくて入らないし、ニーポニア式じゃない銅貨を入れてもそのまま出て来ちゃうし、本当にニーポニアに塗り替えられたって感じだな。』

 

ふと、貨物列車の道を辿って見ると、破壊されて放置された元の防壁が見えた。貨物列車が通る部分だけ、解体されて無くなっているが、ニーポニアは文化遺産として残す様だ。

 

『・・・・思えば、あの防壁があんな事になってしまう力を持った国と戦ったんだよな、俺達は・・・。』

 

『生き残ってこの先を見れる俺達は、幸せ者なのかもしれないな、奴隷にされる事も無かったし、危険な鉱山で無理やり働かされる事も無かった。』

 

『国が戦いに敗れるという事は、その国民全てが奴隷になるか殺される事を意味する事だったが、ニーポニアにおいては違う様だ。』

 

空を見上げると、巨大な鳥が轟音を響かせながら城塞都市の外部にある、[巨鳥の道]へと舞い降りる姿が見える。

 

『本当に・・・何もかも規格外だな・・・。』

 

 

大陸と日本を結ぶ要所となりつつあるこの街は、空港や港、そして後に大陸中を結ぶ予定の長距離列車の拠点となる。

空中大陸との連携で、世界各地の資源地帯を把握しつつある日本は、確かに前に進み始めていた。


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