異空人/イクウビト   作:蟹アンテナ

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第83話   魔光と突然変異

異世界大陸に進出した日本が、大陸の拠点としている城塞都市ゴルグ、機械化が進み夜も眠らぬ街となりつつあるが、それを支える物は魔石を利用した発電施設であった。

 

 

「だぁーーーっ、魔石式発電機にまた、蔦が絡みついてやがる!!」

 

「初期型の奴は特に酷いが、最新型の奴には全く蔦が絡みついていないな・・・一体何が違うんだ?」

 

「さぁな、でも現地のリクビト連中は、初期型の発電機の近くが心地よいとか言っているから、周辺に何かしらの影響を与えているんだろう。」

 

「ふむ・・・・そう言えば、初期型の魔石式発電機は、外部に青白い魔光パルスが隙間から見えているから、これが原因なのかもな。」

 

「密閉度が高い新型の奴は、魔光が漏れていないから、周りの植物に影響を与えていないのか、じゃぁ、旧式の奴も覆って魔光を押さえておくか?」

 

「やめとけ、やめとけ、放熱の為に隙間開けているんだから、素人が下手に弄ると故障してしまうぞ。」

 

「ちぇっ・・・まぁ、そろそろ試用期間も終わりに近づいているし、少しずつ新型の発電機に移って行くから面倒な手入れからも解放されるのも時間の問題だな。」

 

 

日本の有志の企業が、開発した魔石式発電機によって広範囲に電力を供給しているが、魔石と言う物質はまだ未知の部分が多く、同時期にゴルグに従来の火力発電も建設されており、魔石式発電に異常が生じた際のバックアップを兼ねている。

魔石の性質が解析されるにつれ、バージョンアップが進んでおり、ゴルグのある一角は魔石式発電機の実験場か博物館の様な光景が広がっている。

 

そして、初期型の試用期間が終了する直前、事件が発生した。

 

初期型の魔石式発電機から眩い燐光が漏れ始め、盛大に部品をまき散らして爆発を起こしたのである。

幸い、その場に人は居なかったので、被害は巻き込まれた他の発電機と、発電機を覆うフェンスのみで、人身事故には至らなかったが、青ざめた企業は即座に調査団を派遣した。

 

 

「あーあー・・・こりゃ酷いな・・・。」

 

「発電機がまっ黒焦げだぜ、一瞬だけ広範囲を電気が荒れ狂ってリヒテンベルク図形が出来あがっているよ。」

 

「それにしたってこれは・・・蔦が絡んでいたのか?変な消し炭が発電機にへばりついてやがる・・・。」

 

「もしかして、これが故障の原因?メンテナンスの際に草刈りはしていたと聞いたが、これは一体どういう事だ?」

 

 

ボコボコ・・・・ッ・・メキメキ・・・。

 

 

「ん?なんだこの振動は?」

 

「っ!!何だ!?発電機がっ!!」

 

 

突如、黒焦げになった発電機が浮き上がったと思ったら地中から触手が伸び始め、発電機を握りつぶす様に蔦が外装を破壊し、内部の高純度魔石に蔦が侵入した。

 

「うわあああぁぁっ!?なんじゃこりゃー!!」

 

「化け物!!?ひぃっ!?」

 

発電機内部の魔石を取り込んだ瞬間、植物は、内部の管が青白く光り、脈動した後に他の発電機に触手を伸ばして次々と魔石を取り込んで行く。

 

「ま・・不味いぞ!?このままだと発電機が全てやられる!何とかしないと!」

 

「警察・・・はまだ居ないんだった・・・・・・自衛隊を呼ぶんだ、早く!!」

 

数名の調査団に派遣されていた職員が触手に弾き飛ばされ、怪我を負うが、人間には興味が無い様で、魔力を帯びた物質を取り込もうと周辺を探る様に触手がうねっている。

 

自衛隊が駆けつけた頃には、電柱程のサイズまで急成長しており、その中心部にはかつて、魔石式発電機の物だった魔石がコアとして鎮座していた。

 

「うわぁ・・・パニック映画に出て来そう・・・。」

 

「言っている場合か、あいつを何とかするんだよ。」

 

「無傷の発電機も近くにあるから、火炎放射器は使えないし・・・困ったな」

 

「取りあえず、あの狙ってくださいと言わんばかりに発光するアレを撃ち抜いてみるか、良く狙えよ。」

 

ロクヨンで発光するコアに向けて狙いを定め発砲すると、何かが砕け散る様な音共に青白い粒子が舞い上がり、触手の集合体は、一瞬だけ痙攣すると見る見る内に萎れて行き、遂には完全に枯れてしまった。

 

その後、直ぐに触手を振り回していた謎の植物の残骸は自衛隊によって回収され、その正体を突き止めるため、生物研究所に持ち運ばれた。

 

 

 

「・・・で、こいつは結局何だったんだ?」

 

「この地で広範囲に生息している蔦植物の変異体でしょうね、魔光パルスを長期間浴び続けた事によって突然変異を引き起こしたのでしょう。」

 

「まじかよ、昔怪獣映画でこういう奴見かけたぞ?放射能で巨大化したバラみたいなお化け植物。」

 

「流石にそれ程たちの悪いものじゃありませんよ、そもそも、急激な変化によって細胞組織がアンバランスになっており、枯れるのも時間の問題でした。」

 

「枯れたのはコアを直接破壊されたのが原因じゃなかったと?」

 

「それもありますが、魔石と絡みついてコアと化した細胞組織は、悪性腫瘍の様な形に変異しており、強力過ぎる魔光パルスに耐えきれず半ば自壊していました。」

 

「確かに自然界には存在しない濃度の魔石だが、まさか発がんするとはな・・・人間には影響はないんだよな?」

 

「我々含む地球の生物は、元々魔石を利用しない生物ですからね、精密検査を重ねましたが、ほぼ無害と見て間違いないでしょう。」

 

「現地人達への影響は?」

 

「・・・・非人道的な人体実験は禁止されております、それが例え地球人じゃなくても・・・です。」

 

「まぁ、そうだよなぁ・・・。」

 

眼鏡を指で押して、位置を調整すると、鞄の中からファイルを取り出して、テーブルの上に置く。

 

「しかし、同じような事故で魔光が周辺に漏れた事があったのですが、1名、強烈な魔光パルスを浴びて意識不明になったリクビトがおります。」

 

「何だって!?そいつはどうなったんだ?」

 

「その人物は、元々とある国から派遣されたスパイで、重要施設の破壊活動を行おうとしていたのです。」

 

「・・・・・・・・。」

 

「そして、今回破壊されたタイプと同系統の発電機・・・それから魔力を感じたのでしょう、魔石を奪取しようと破壊した瞬間、魔光パルスを浴びて神経を焼かれた様です。」

 

「自業自得とは言え、何ともエグイ話だな・・・。」

 

今度は別のファイルをテーブルの上に追加で起き、資料を指さす。

 

「そもそも、アルクス人は魔光パルスで、やり取りすることが出来、神経を惑わしたり、細胞に調整した魔力を流すことで細胞分裂を促進し傷を塞いだり、まさに魔法の様な現象を引き起こすことが出来ます。」

 

「現地人も魔法って言っているしな、特に精神操作魔法は、聞く限りではハッキング合戦の様だ。」

 

「では、その魔光パルスでやり取りするアルクス人に、強力かつ無秩序なパルスを浴びせたとします・・・どうなるでしょうか?」

 

「あぁ・・・焼き切れたって・・・。」

 

「そうです、アルクス人が生理的に必要不可欠な魔光も強すぎる物では毒となります。」

 

「おっかないな・・・魔石が人体に悪影響のある物質じゃなくて良かったぜ。」

 

「噂では防衛研究所で、対異世界人スタングレネードの開発が進められているとか・・・魔石を利用した兵器の開発は、表向きにはされていない事になっているのですけどね。」

 

「なんつーか、聞いているだけで碌な事になりそうにないな・・。」

 

「恐らくアルクス人・・・いえ、この星の原生生物すべてに強烈な影響を与えるでしょう。」

 

話を聞いた研究員の表情が強張る。

 

「あぁ、あくまで噂の域を出ませんからね、でも、精密魔石回路の大爆発現象の確認実験の件もありますから、魔石の兵器利用は時間の問題と見て良いでしょう。」

 

「危険物質がごろごろ転がっていて大丈夫なのかね、魔石自体は珍しくもなんともないんだろう?」

 

「昔ほどは見かけなくなったみたいですけどね、でも地下の埋蔵量は大したものですよ、むしろ地表に出ている物は、全体のほんの極僅かな方ですし。」

 

「突然変異を引き起こしたり、爆発したり放電したり、全く持って訳わからん物質だな、魔素と言うのは。」

 

「そうそう、訳わからんからこそ研究されている訳ですよ、この物質を知る事によってこの新しい世界の法則が理解できると言う事です。」

 

「まぁ・・・これ程の資源、利用しない手はないがな・・・。」

 

「さぁ、この変異体の研究を続けましょう、何かしらの対処法が見つかるはずですし・・・。」

 

 

 

その後、各メーカーは、魔石を動力に組み込んだ製品は、魔石が外部に露出しない様に密閉度に力を入れて開発するようになり、自然環境下に高純度魔石が露出される事は少なくなった。

しかし、今回の事故でまき散らされた大量の魔石粒子が、周辺に影響を与えるのはまた別の話であった。

 

 

 

 

 

 

 

ハリツキヅタ変異体

 

 

魔素の集まる魔石式発電所の敷地内で発生した植物の変異体。

元々は枯れた樹木に絡みつき、太陽光線を代わりに吸収する寄生植物の一種であったが、魔光パルスを浴び続ける事により魔光で光合成する植物に変異した。

そして、魔光の発生源である魔石を取り込む事により無秩序な変異が始まり崩壊・暴走状態になった。

強烈な魔素が全身を廻っている所に魔石を砕かれ、魔力を失いリバウンドに耐えきれずに崩れ落ちた。

 

 


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