異空人/イクウビト   作:蟹アンテナ

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第89話   魔力無し

異空間に浮かぶ惑星アルクス、日本がアルクスに転移してから暫く経ち日本は大陸に進出し、小競り合いに巻き込まれつつも拠点を設け、少しずつその勢力を広げていった。

日本の国力を恐れた国々は、連合を組み日本の襲撃に備えたり、小国を飲み込むであろう日本と同盟を組みお零れを狙う国もあった。

 

しかし、彼らの予想に反して日本側から攻め込む事は決してなく、日本からの接触も交易や文化交流を目的とした交渉が主であり、平和国家を自称するだけあって非好戦的であった。

 

そして、そんな彼らを甘く見て無謀にも戦争を仕掛けた国々は、圧倒的な破壊力を持つ兵器と軍勢によって灰燼に帰した。

それによって大陸諸国は、日本に挑む事は国を滅ぼすと同義と言う共通認識を持つに至った。

未だに魔力の無い劣等民族や亜人と平気で手を組む蛮族と日本人を蔑視する地域もあるが、表立って態度を露わにする事は滅多にない。

 

 

「活気がある街だな、ここら辺では人口が多い方と聞いているが・・・。」

 

「豊穣祭の時は一時的に王都よりも人が多くなるらしいぞ?まぁ、近くに大きな川もあるし、この国の交流の要でもあるからな。」

 

 

大陸に進出した日本は企業それぞれのルートで各国と交渉に出向いており、インフラの整備や交易品などと引き換えに資源の採掘権などを得ていた。

 

 

「日本の地方都市くらいは人口ありそうだな?」

 

「流石にそこまでは居ないだろ、それでもここに来る途中の村々に比べたら多いけどさ」

 

「国土の殆どが禿山で、首都以外にほぼ人が住んでいない国もある。この世界は集落から少しでも離れたら文字通り人間の領域ではなくなるんだ。」

 

「あぁ・・・。」

 

「それを考えたらこの規模の街を複数持つこの国は、この世界でも有数の大国と言っても過言ではないだろうさ」

 

「面積だけなら日本ゴルグ自治区よりも広そうだな?発展度合いは雲泥の差だけどな。」

 

「あー・・・ゴルグは日本の大陸の拠点ではあるけど、あのバカでかい防壁のせいで街を広げるのが難しくなっちゃっているんだよなぁ。」

 

「防壁の外に町を広げて、更にその外側を設置の楽な鉄条網で囲って、徐々に発展させようと言う計画もあるらしいぞ?」

 

「最近周辺諸国からちょっかいをかけられる事も少なくなって来たし、それも良いかもしれないなぁ・・・。」

 

 

雑談を交わしていると目的地が見えてくる、インフラ整備の交渉をしに街を訪れた日本企業職員が領主館の前に立つと、召使が現れ職員達を案内する。

 

 

青銅製と思られる調度品の飾られた部屋に案内されると、この世界基準では仕立てのしっかりとした服を着た壮年の男が椅子に座っていた。

 

『遠路はるばる御足労頂き申し訳ない、私がこの街、そしてこの地方を治める者だ。』

 

『始めまして、私たちはこう言う者で・・・・はい・・・・此方こそよろしくお願いします。』

 

日本企業職員と領主が互いに自己紹介を行うと、雑談を交えながらもインフラの整備や鉱物資源の採掘権の交渉を進めて行く。

 

『しかし、あの鉱山の採掘権とは、ニッパニアも変わったものを要求しますなぁ。』

 

『変わった物・・・と言いますと?』

 

『いえいえ、以前地質調査・・・と言う物を行ったニッパニアの学士様があの鉱山に大層興味を示されましてな。』

 

『はぁ』

 

『確かに、あの鉱山はかつて青銅が良く採掘されていましたが、既に青銅は掘りつくされ、奥に続く道も現在、地下水で水没しており閉山されているのですよ』

 

『つまり、廃鉱と?』

 

『えぇ、加えて奥に進むにつれ岩の質が変わって行き、深部は灰色の頑丈な岩盤に阻まれ、鋭利な鶴嘴でも穿てないために、甲獣の額とも呼ばれているのです。』

 

『ふむ・・・。』

 

『その甲獣の額とも呼ばれた岩盤を何とかする為に、我が国精鋭の魔術師がありとあらゆる手段をもって魔法で岩盤を破壊しようと試みたのですが』

 

 

領主の男は嫌らしい笑みを浮かべ、大袈裟に両手を広げた後、そのまま両手で頭を抱えるような動作をした。

 

 

『しかし、あぁっ、何という事でしょう!甲獣の額は炸裂の魔法によって砕け散ったものの、魔術師を飲み込む炎を吹き出し、鉱山の一区画を焼き尽くしたのです!!』

 

(・・・それって、唯の粉塵爆発では・・・。)

 

『その影響で水溜りのあった場所に穴が開き、通路は水没、魔術師の遺体も回収できずに鉱山の入り口は閉鎖されたのです。』

 

『それは・・・大きな事故でしたね。』

 

『ニッパニア人は魔法が扱えないと聞いておりますので、その焼け焦げ水没した鉱山を渡すのが心苦しくて仕方ないのですよ。』

 

『魔法・・・ですか?』

 

『えぇ、水没した通路に甲獣の額と呼ばれた岩盤・・・魔法に秀でた我が国でも手を付けることが出来ない廃鉱された鉱山では釣り合わないでしょう?』

 

『・・・・。』

 

『ですので、代わりと言っては何ですが、採掘量こそ少ない物の幾らか安全で我が領地に近い鉱山の採掘権も用意しております。』

 

『それって、防壁の外に山に見えるあの小さな集落の事ですか?』

 

『えぇ、そうです。あの廃鉱に比べて幾らか安全とは言え、黴臭くて湿っぽく、先月落盤事故も発生しています。』

 

『それでも火だるまになるよりはマシですけどね』と領主の男は付け加えると、笑みを浮かべるがどことなく侮蔑の感情が混じっていた。

 

『どうでしょう?廃鉱と裏山の鉱山の採掘権を合わせて頂くのは・・・そのかわり・・・。』

 

『いえ、その必要はありません。我々の採掘技術なら廃鉱された鉱山の開発も進められると思いますし』

 

『ほう?』

 

領主の男は方眉を上げる

 

『当初の予定通り、この街の発展のお手伝いをさせて頂きますが、追加で融資する事はありません。』

 

『私の提案を断ると?』

 

『地質調査の結果が出るまで保留という事にしてください、その時は宜しくお願いします。』

 

『ふむ、まぁいいだろうニッパニアは魔力を使わぬ奇妙な術を扱うと聞く、余計な話をしてしまったな忘れてくれ。』

 

 

つまらなそうに息をつくと、獣皮紙にサインをして魔石を砕いた顔料に指を浸し、書類に押し付ける。

 

『これで交渉成立だな、お互いの発展を願っているよ。』

 

『こちらこそ、宜しくお願いします。』

 

領主の館を出た後、不機嫌な面持ちで街の外に待機している車に歩いて行く

日本企業職員は、表面こそ平静を保っていたが、暗に馬鹿にされていることに腹を立てていた。

 

 

「ムカつくおっさんだったな。」

 

「隠しているようで全然隠せていない所とかな、魔法が使えないだけで随分と侮られたものだ。」

 

「魔法か・・・確かに憧れはするけど、体の構造自体違うし、魔法とは言っても出来る事はたかが知れているんだよなぁ。」

 

「体の構造的には使えない力だけど、道具にするなら使えるんだよな、ほら、この魔鉱石式電熱ライターとか」

 

ポケットから青白い結晶体に繋がれたライターを取り出し、煙草に着火する。

 

「はぁーうめぇー・・。」

 

「車に乗る時は止めてくれと言っただろうに、はぁ・・・帰るぞ。」

 

 

後日、重機が貿易都市に運ばれ、河川の改修工事や道のアスファルト舗装などが行われ、現地住民を驚かせた。

そして採掘不可能と思われていた鉱山の開発も行われ、電動ポンプで地下水を排水し、粉塵爆発の対策がされた安全に気を配った採掘により次々と有用な鉱物資源が運び出されていった。

 

余談であるが、自分達では採掘不能だった鉱山がいとも容易く掘り進められ、精製技術の無い未知の金属(日本にとってはコモンメタル)が見つかった為、領主は酷く悔しがったと言う。

 


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