異空人/イクウビト   作:蟹アンテナ

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第91話   日出ずる餅

異世界に転移してから月日がたち、大陸の開拓の足掛かりとなる拠点、城塞都市ゴルグは年明けを迎え、お祭りムードになっていた。

 

建物の窓から大小様々な日本の国旗である白地に赤い丸が掲げられており、売店ではいつもと違う雰囲気の商品が並んでいた。

 

『なぁなぁ、ゴルグガニアの雰囲気が前来た時と違うんだが、こりゃ何だ?』

 

『何でも年明けを祝うお祭りだとか、彼らにとって縁起が良い日なんだとさ』

 

『縁起が良い日か、俺たちにとっては収穫祭以外で縁起の良い日なんてそうそう無いがなぁ・・・。』

 

『ニッパニアの風習って言うのは変わっているな、そう言えば前の祭りも赤と白の飾りが多かった気がする。』

 

『あの白い団子の山は一体何だろうな?上に黄色い木の実が必ず乗っかっているが・・・。』

 

『尖った木の置物も気になるが、多分縁起の良い物なんだろう、ニッパニアはそういったものを好むと聞いた事がある。』

 

 

旅人が商店街を歩いていると、甘い香りの黒い汁物を出している店が目に留まる。

ドロドロして黒い液体の中で、白い何かがチラチラと見えるのは不気味でも奇妙でもあるが、客は笑顔でそれを食べている。

 

『前はこんな食べ物売っていなかったぞ?』

 

『黒くて不気味だな。』

 

『でも良い香りだ、そこそこ小腹もすいてきた事だし試してみるか』

 

『美味かったら俺の分も買っといてくれよ。』

 

仲間と別れて暫く雰囲気が違う城塞都市ゴルグを歩き、土産店を見物していると、先ほど別れた旅仲間が血相を変えて現れた。

 

『お・・・おい、さっきの黒くて白い食べ物、とんでもない代物だったぞ!?』

 

『うぉ!?どうしたんだ一体?』

 

『どうしたもこうしたもあるもんか!良いから食ってみろ!』

 

木箱の封を解き、蓋を開けると、黒い何かに埋もれた白い物が入っていた。まだ温かいのか湯気がでており、甘い香りが漂ってくる。

 

『食うって、此処でか!?ま・・・まぁ、うん食ってみるか・・・。』

 

ごくりと唾を飲み込み、木箱に備え付けられていた木製の二股フォークで白い物を突き刺し口に運ぶ。

 

『ふむ・・・はむおぉぉぉっ!?』

 

強烈な甘さと、食べた事も無い柔らかな食感に雷が落ちたような衝撃が走る。

白い物にフォークを突き刺し口に運ぶ、それを只管無言で何度も繰り返し、木箱の中身はついに空になる。

 

『・・・・・とんでもない物を食わされた。』

 

『だろぉ?』

 

悪戯が成功した様な笑顔で、仲間の顔を覗くと、商店に飾られている白い物に指をさして自慢げに説明を始める。

 

『この白い奴はモチと言うらしいぞ!!』

 

『モチ・・・・。』

 

『この前、この街に来た時も食ったことがあると思うが、ニッパニアの主食であるオ・コメを何度も潰して練り上げて作るそうだ。』

 

『オ・コメ・・・・。』

 

『ちなみにモチは、オ・コメの中でも粘度の高いモチ・コメと言う特別な品種を使わないと作れないらしい。』

 

 

『モチ・コメ・・・。』

 

『で、モチを年明けに二段重ねにして飾る奴は、特別にカガ・モチと呼ぶらしい・・・って、お前さっきからどうしたんだ?』

 

 

『カガ・モチ・・・なぁ、お前・・・こりゃぁ、商機なんじゃないか?』

 

 

『商機?・・・何のことだ?』

 

『これだよ!この穀物なんだ!これ程のものが作れるんなら、その種子を買い取って売れば大儲けが出来るぞ!!』

 

 

『大儲けって・・・異国の作物がどれだけ育てるのに苦労するのか分かってんのか!?』

 

 

『んなもん知った事か!俺はやるぞ!惚れた!オ・コメの無限の可能性に惚れてしまった!』

 

 

『だぁー!モチに頭やられちまったんじゃねぇのか?言い出したら止まらないんだから、お前はっ!』

 

 

 

ニッパニアの特別な日にだけ出回る食べ物、モチ・・・・元々知られていたオ・コメの亜種モチ・コメの噂は、瞬く間に大陸中に広がり、その味にほれ込んだ大陸の国々がニッパニアから輸出された種籾を育てようと試みるのはまた別の話。

 

 

 

 

 

 

オ・コメ

 

ニッパニアが主食とする穀物の一種で、踝までつかる程の泥の中で成長する。

噛めば独特の甘みと食感があり、腹もちも良い。

それだけでなく、狭い土地でも大量に取れ、大地の力を吸い取り過ぎない驚くべき性質を持つ。

その代り、この穀物の生育に適した土壌を整えるのは難しく、多くの費用と時間が必要になるだろう。

 

 

モチ・コメ

 

ニッパニアが主食とする穀物の一種で、オ・コメに比べてコシのある食感。

基本的にオ・コメと似たような性質であるが、ニッパニアはこの穀物をモチと言う食品に加工する。

そのまま炊いて食べても美味であるが、モチに加工した場合、様々な料理に派生することが出来る万能性を持つ。

 

 

モチ

 

モチ・コメを炊いて木槌で何度も潰すことによって作られるニッパニアの食品。

ニッパニアの豆を発酵させた調味料に浸して食べる方法が主流のようだが、その他にも甘く味付けした豆と共に煮詰める調理法や、豆を砕いて粉にしたものを塗して食べる調理法もある様だ。

まるで穀物を圧縮した様な腹持ちの良さが人気で、ゴルグガニアを訪れた旅人が土産に買って行く事も多い。

 

 

カガ・モチ

 

ニッパニアが年明けの祝いの日にだけ作る特別なモチ

大小合わせて二段重ねのモチの上に、黄色い木の実を乗せて飾ると言う奇妙な風習であるが、ニッパニアの商店に並ぶその姿は壮観でもある。

ただし、カビが発生しやすく飾る期間を過ぎた頃には食べられなくなってしまう事も多い。

しかし、カビが生えた部分を切り取り、カビに浸食されていない綺麗な部分を食べる事も出来なくはない様だ。

 

 




三が日を過ぎちゃっていますが、明けましておめでとう御座います。
今年もよろしくお願いします。

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