異空人/イクウビト   作:蟹アンテナ

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第93話   スペッカの苦悩

鋼鉄の嵐が降り注ぎ殆ど原型を留めていないルーザニアの王城、戦後処理と損害の埋め合わせの為に忙殺され、未だに瓦礫の撤去にすら着手できずにその巨大な躯を横たわらせている。

 

中枢機能が失われていたが、早めに避難していた王女と一部の文官が生き残っていたので、辛うじて復帰が出来た。

 

現在は、比較的被害が少なかった山の中腹の関所に各資料や器具が移されており、多少の不便はあるが、それでも少しずつ復興は進みつつあった。

 

 

「姫様!国境付近に蛮族共が現れ、村が襲われました!!」

 

「また・・・か、損害は?」

 

「はっ、矢が民家の屋根に僅かに刺さっただけで、突撃される前にジエイタイが蛮族の前に立ちはだかり、蛮族共は逃げ去ったとの事です。」

 

「全く情けない限りだ、ニッパニアに感謝だな、複雑な気持ちではあるが・・・。」

 

「未だに我々が奴隷に堕ちて居ないのが不思議でしょうがないです、本来なら敗北するとは国そのものが消滅する事を意味する筈です。」

 

「だが、我々は独立を許された。」

 

「監視下に置かれていますがね。それでも、此処まで温情をかけてくるとは想像したことすらありませんでした。」

 

「ニッパニアにはニッパニアの戦いの掟があるのだろう、この大地に広がる幾多の国々が持つ不文律の掟とは全く違う何かが・・・そう、彼らの矜持らしき物を感じる。」

 

「蛮族共には理解出来んのでしょうな、ニッパニアの思考が・・。」

 

「よせ、我らも直接相対するまで彼らを蛮族呼ばわりしていたのだ、残念ながら我らもその手合いと同類だろう。」

 

「!・・・い・・いえ、口が過ぎました。」

 

「何にせよ、国境警備を増員せねばな、ニッパニアに打診してみるか」

 

ルーザニア側から国境警備の為の兵を増員する許可を得ようと、城下町の大使館に使者を送り、協議をすると、日本はすんなりと了解し、国境の警備が施設を含めて増強される事になった。

 

日本も流石に国を守るために兵を国境警備に当てる事は当然と考えており、国を守る力を使うことを禁じる事は無かった。

 

日本側も敗戦国ルーザニアを狙ったハイエナ国家が次々と国境を侵犯して来ることに頭を悩ませ、直接日本にお零れに預かろうと接触してくる使者たちの応対にも苦労していた。

 

「先の戦いは見事でした、あの悪辣で狡猾なルーザニアの蛮族たちをその力で屈服させた貴国に敬意を表します。」

 

「・・・・お褒めに預かり光栄に存じます。しかし、貴国は占領下のルーザニアに侵入して何をされているのでしょうか?」

 

「っ!!・・・ほうほう、これはこれは妙な事をおっしゃりますなぁ、我々はルーザニアの動向を国境付近から監視をしているだけで、領域を侵すことはしておりませんよ?」

 

「成程、では先ほど国境付近でルーザニアの警備隊と交戦した襲撃者の身に着けていた装備が貴国のものと一致したのは何故でしょうかな?」

 

ドローンによって撮影された写真を取り出すと、使者の顔がどんどん青ざめて行く。

そもそも、彼らは写真と言う物自体の存在を知らず、そして何故自分たちの装備の詳細が知られているのか分からなかった。

 

情報伝達が極めて未熟な世界では、情報の共有がされておらず、噂が独り歩きして全く別の情報になっていることも珍しくないのだ。

 

それ故に、まるで自分たちを丸裸にするような力に恐怖し、武力とはまた別の力を持つ日本に戦慄を覚えるのであった。

 

「これは・・・一体どういう事だ?」

 

「この特徴的な青銅剣の形状、そして鎧、貴国にある砂壁工房の卸す物と酷似していると思うのですが?」

 

「っ!何故工房まで・・・い・・・いや、知らぬ!奴らは盗賊に違いない!」

 

「・・・・お引き取りを、占領下とは言え他国の主権を侵害する様な国とは交渉は出来ない。」

 

「な・・何故だ!ルーザニアは敗者だ!何故貴国が守る必要がある?それに、我が国もルーザニアには散々辛酸をなめさせられたのだ!我らにも取り分が無ければおかしい!」

 

「我々には与り知らぬ所でございます。」

 

「ルーザニアがあれ以上軍備を増強できなかったのは、我らが奴らを削っていたからこそだ!我らの手柄は一体どうなる!?」

 

「・・・これ以上の交渉は無意味でしょう、お引き取りを・・。」

 

「くっ!・・・覚えておれっ!!」

 

 

日本ゴルグ自治区やルーザニアに設けられた大使館にこの手の輩が連日の様に押し寄せ、日本が大量に確保したであろう[元ルーザニア国民の奴隷]を購入しようと、交渉を持ちかけてくる者も多い。

 

当然ながら奴隷を禁止する日本はルーザニア国民を奴隷化せず、監視下の元ではあるが自治を認めており、復興の為に物資を送り届けてもいる。

 

しかし、日本はゴルグ自治区の開発を優先しており、広範囲に自衛隊を展開する能力は無い、ルーザニアに派遣された自衛隊員の数も少数であり、国境警備も彼ら自身の手でやって貰わなければ、とてもでは無いが手が回らないのである。

 

「お疲れさん、毎度の事ながら連中もしつこいもんだね。」

 

「いえ、慣れていますから、それにしてもルーザニアの姫様は大したものですね。」

 

「あぁ、あのお嬢ちゃんか、唯でさえ国がボロボロになり復興に苦労していると言うのに、横槍を入れられちゃぁ堪らないだろうなぁ。」

 

「あの方はあの年齢であの書類の山をほぼ一人で処理しているのです、あれほどの逸材は滅多にお目にかかれませんよ。」

 

「補佐する文官も、砲撃で大分お亡くなりになっているそうだしな、彼女が倒れたら中枢機能が再び麻痺するんじゃないか?」

 

「なまじ自己処理出来てしまうのですから、周りが支えてあげないと気付かない内に限界を迎えてしまうでしょう、我々にとってもそれはよろしくない。」

 

「生き残った王族の中でまともな状態なのはスペッカ姫だけ、本来なら王座に就く筈の王子も先の紛争でPTSDになり療養中、ゴルグの件もそうだが、中枢を叩きすぎるのもまた問題だな・・・。」

 

「今後の課題ですね、そう何度も戦争なんかしたくないですが・・・。」

 

 

その後、ある程度ゴルグ自治区の開発が進み安定すると、ルーザニアに派遣された自衛隊を増員する事になり、ルーザニアの国境を侵犯する件数は激減した。

 

日本側も深くは干渉したくなかったが、復興と自立の為に最低限のサポートをすることになったのである。

 

その一方で、ハイエナの様に火事泥棒的に国境付近の村を襲っていた国々は日本に対して不満を覚えるのであった。




ルーザニアの国境を襲撃していたハイエナ国家の言い分では、ルーザニアが自分たちの支配下に置いていた村を奪ったと主張していたりします。

しかし、アメーバのように領土が拡大縮小を繰り返す戦乱の世では、その主張もあいまいで、戦禍に巻き込まれた村はその度に荒れて行きます。

調査によると、元々ルーザニアの開拓者が泉を発見し、そこを開拓して小さな集落を形成した説が現時点では有力だったりします。

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