ソードドリフターズ・クロニクル   作:濁酒三十六

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40話・悪忌判官

 戦も既に佳境となり、オルテの前衛が最早風前の灯である事が織田信長…島津豊久には見えた。…しかし何故か完全な勝ち戦とは思えず、敵への攻撃を緩めようとはしなかった。那須与一もエルフを指揮しながら敵側を観察…敵前衛側は衰える一方で後衛が全くと言っていい程に加勢に来ない。…もしキリト達による両脇よりの奇襲が気付かれたとしても、この状況はまるで攻めるのを止めてしまったとしか思えない程である。オルテの陣で何かか起きているのだと与一は感じ取りオルミーヌより預かった水晶玉を手に取った。

 

「オルミーヌ殿、早急にノブノブを呼んで下さいませーっ?」

《与一さん?少々お待ちください、ノブー、与一さん呼んでますよーっ!》

 

 オルミーヌの応答から直ぐに信長の声が水晶玉より響いた。

 

《何じゃい、この忙しい時に小便か!?》

「小便はさっき済ませました~。」

《…したのか。》

「この戦、我等の勝ちでしょうが…、何やら厭な予感が致しまして……、故にキリキリの達の援護へ向かいまする!」

 

 其れを聞いた信長は口をへの字にして渋顔を作り…暫し沈黙。そして目を細め炎の壁の向こうを睨む。

 

(こ奴もお豊と同じく幾多の戦を生き抜いた強者だ。その直感…無視は出来ぬな!)

《解った、ソチラにお豊と馬を一頭寄越す。其れで行け。

…だがお前一人でだ!エルフ衆も連れていくな。》

「承知致した!」

 

 与一との会話を終えて直ぐに信長はオルミーヌに豊久を呼び出す様指示した。

 

()()()()()()()()()、お豊に城壁上の兵全部降ろして与一と指揮代わらせろ!」

 

 相変わらずのセクハラ言動にオルミーヌは眉間に皺を寄せて「このヒヒジジイめっ!」と毒吐いて水晶玉を持ち変えて豊久を呼ぶと、「()()()()()()。」と既に後ろにいて城壁上からやはりエルフ達を引き連れて来ていた。

 オルミーヌは「エエーッ!!」と驚きの声を上げ、信長は呆れたと言わんばかりに拍子抜けな表情をした。

 

「ほんと、島津は戦となると動きが早すぎるわい。馬鹿ですか?」

(だい)が馬鹿じゃあ、首取んぞ!」

「ちっ、妖怪首置いてけめ!晴明(ハルアキ)呼んで祓うぞコラ!」

「おい、勝手に御師匠様の名前出さないでよ!」

 

 何処かで同じ様な戯言罵り合いを聞いた様な気がすると思いながらオルミーヌも参加してしまうが…切りの良い処で信長が我に返り豊久に何故降りて来たのかを尋ねた。

 

「上でん矢ぁ射る必要がのうなったから降りて来ただけばい。……それにキリトんとこが気にのうてのう。」

「…で、あるか。俺も勝ちが見えた時から寒気がして堪らん。オルテ側で何かが起こっておるやも知れん。

お豊、与一がキリトに加勢に行く、あ奴に代わり指揮を頼む。

降りて来た皆も半分に別れて増援だあ!」

「承知した、半分は(おい)に付いて()いや!」

 

 豊久達が直ぐに両翼の応援に入り、与一が馬を駆り出陣したのを遠目に確認する信長。此方の奇襲は敵将のいる後衛をキリト達と疾風の旅団が両端から襲撃するもの、作戦そのものは上手くいったのだろう…。しかし何か想定外のファクターが入り込んだかの様に心がざわつく。

 

「……厭な予感がするわい。」

 

 信長は後ろに組んだ手を強く握り締め、柄にもなくキリト達の無事を願った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次から次へと襲い来る敵兵をアスナとエギル達は次々と斬り捨てては薙ぎ倒し、無双をオルテに見せつけた。しかし、騎馬を駆るキリトとは離れ離れとなり敵将も見つけられずアスナは焦りを感じていた。

 

「アスナさん、すみません!キリトを見失いました……!」

 

 何とか彼の位置を確認していたエルフもオルテ兵の猛攻でキリトの影を追い切れなかった。アスナは彼の事も心配だが別の事も気にかかり思考を巡らせ、今の状況を把握しようとした。

 

(此だけ敵の指揮官を探してもいないのは既に逃げたからかも知れない。

……だけど未だオルテの兵士は此方に向かって来る。指揮官が逃げる為の時間稼ぎ?…いえ、其れにしては逃げる兵達が疎ら過ぎる。敵将の退却の号令が上がっていない!

まだかなりの兵士達が戦場に残っているのに全てを見捨て逃げるなんて……?)

 

 …と、彼女の左から剣を振り上げる兵士が立ち塞がるが、エギルの戦斧が此を叩き潰した。血飛沫がアスナの顔にかかり、驚いた彼女は思わずエギルの顔をまじまじと見てしまう。

 

「油断するなよ、()()()()()()さんよ。

まだ敵将が見つからない…早く探し出さにゃあコッチももたんぜ!」

 

 SAOの時に付けられた渾名を言われて苦笑いとなるアスナだが、その敵将の行方についてエギルの意見を聞いてみた。

 

「その敵の指揮官ですが、こんなに探しても見つからないのは流石におかしいと思います。既に逃亡したか…討たれたかしたのではないですか?」

「…そうだな、だがクライン所で討ち取ったっつう掛け声はまだない。敵の撤退の声も上がってない。まだオルテは此方を攻めている。何処かに隠れている可能性は捨てきれない。」

「…でもこの周囲が山に囲まれた狭い戦場で今まで遠くから指示を出すには軍の行動は早く思えます。私はこの混戦の中で()()()()()()()()()()()()()()()()……。」

 

 アスナはエギルに自身の意見を述べた途端に思わず口をつぐみ、まるで我に返ったかの様に自分の顔半分を掌で隠した。敵とはいえ彼女は今、敵将の生死を戦いの中で情の一欠片もなく論理的に思考してしまった。そんな自分に少なからずショックを感じてしまった。エギルはアスナを心配そうに見、軽く溜め息を吐き彼女の肩をポンと軽く叩いた。

 

「先ずはキリトを探して合流しよう。その間に敵指揮官が見えなければクライン達に撤退の合図を出して俺達も退こう。」

「…はい。」

 

 アスナ達はもう一度仲間達を集めてキリトとの合流を優先し、その後は疾風の旅団と共に自陣への撤退を決めた。…だがアスナもエギルも気付いてはいない。自分達が彼から意図的に引き離されている事を……。オルテ指揮官の陣にいた兵士で漂流者達に一矢報いたい者達がクラディールの指示に従っているのである。

 キリトが其れに気付いた時には既に遅く、アスナ達が何処にいるのか分からず、しかし静かではあるが一筋の殺意が自分に向けられている事に気付きその殺意の先にいる人物を睨めつけた。

 

「…へえ、クラディールの奴なかなか良い仕事するじゃないか。今暫くは脇に置いてやるか。」

 

 騎馬より降りた人物は肩に羽織った羽織が少し乱れたので直し狐目の鋭い視線をキリトに向けた。

 

「よう、キリト。ジャンヌが廃城を襲撃して以来だな。…つつがなしか?」

 

 キリトは返事を返さず口を開かない。…だが彼の姿を見てから全身からブワッと汗が吹き出、自分も騎馬から降りると突然矢が馬の額に深々と刺さり“ズシン”と音を立てて倒れた。キリトは矢を射たその者を今一度睨む。

 

「そんな顔するなよ、前にお前だって馬殺したじゃん。ほれ、此方のも殺すから。」

 

 言うが早きか、弓から素早く持ち変えた太刀で自身が乗って来た馬の喉元を斬りつけて殺した。キリトは不快感を露わにして目を細めた。

 

「馬を殺して逃げる手段を消し去るか。…一体何の様だよ、“源義経”!」

()()()()()()()だ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、なぁ…“桐ヶ谷和人”~。」

 

 …と、突然キリトは瞬時に背の鞘に収まっていたダークリパルサーを抜いて二刀流となり、義経に向かって走り両手剣で思い切り上段から振り下ろした。義経もまた直ぐ様太刀を抜きこの斬撃を受け止めた。

 

「ハッ、いきなり本気か?見かけより短気だな、そんなに本名を言い当てられたのが不思議か?」

「当たり前だ、何故平安時代の人物であるアンタが俺の本名を知っている!?誰に聞いたんだ!?」

 

 キリトは問いながらも体重を乗せながら両手の剣に力を込め、義経はその圧力に受け止めた太刀を支え切れなくなる。だが途端に義経はスッと背中を地面に向けて倒れ込みキリトに両足を伸ばし挟み身体を捻った。キリトは急にのし掛かっていた上半身を義経が下へと下がった為に前のめりとなって足挟みに反応出来ずに横倒しとなり、義経はその隙に立ち上がり後ろへと跳ね退いた。

 

「焦るなよ小僧、俺が何故知っているかなんてタダで言う訳なろう。此からは児戯の時間だ、お前が俺に一太刀でも浴びせられれば教えてやる。

もし出来なければ、お前…死ぬやも知れんぞ?」

 

 そう言って源九郎判官義経は太刀を構えてキリトを見据える。キリトもまた直ぐに立ち上がり両手の剣を構えた。

 

「分かった、…ならもう聞かなくてもいい。

与一さんから源義経が何れだけ危険な人物かは聞かされてる。殺していいのなら……、今この場で殺す!!」

「いいぜ、キリトォ。殺れるものならな、多少は俺を楽しませてくれよ!」

 

 そして二人同時に駆け出し、刃を重ね刃鳴を鳴らし始めた。

 




今回でガドルカ編終わらせられませんでした。
次回こそガドルカエンドっす。

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