彼らは、奇跡によって不死となった。

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第1話

彼らの歴史というものを信じるのであれば――。

 

変革は前歴902年、聖・ルドヴェルクの実験から始まる。

嘗てその世界には、あらゆる魔法や奇跡も存在しないはずだった。

ただ無数の戦争や困窮が犇めき合い、苦しみが止めどなく産まれるという地獄であったとも。

一切の神秘すら無い乾ききった荒野のような世界であったとも伝えられている。

そんな世界を小規模な実験で崩壊させた、たった一人の男、聖神・ルドヴェルク。

彼らにとっての遍く始祖と言えるだろう。

我々にとっては忌々しき怨敵であるけれども。

ともかく、彼らの世界は聖ルドヴェルクの実験なるものが実行に移された時から、

すべてが変わった。何もかもが、途方もなく変質を遂げた。

実験は、人々の前で魔法や奇跡をその世界にたやすく産み出してしまったのだ。

不可思議な力だと恐れるものもいた、見えない魔法に疑惑を覚えるものもいた。

しかし、奇跡は、その誰も彼にも訪れたのだという。

信じる、信じないも、関わりなく。降り注ぐ光のように平等に。

 

それは本当の奇跡だった。

 

生まれし時以来、光を得たことのない者の瞼が見開かれ世界を認識し、涙を流し続けたこと。

事故によって下半身が動かせなくなった者は、自然と立ち上がり歩みを始めたことを。

彼らの歴史において、賞賛するように記している。

それらの姿すら映像として切り取っているのだから、よほど驚いていたに違いない。

障害や病と呼ばれるものは、その一切を奇跡に否定され、実験によって根絶されたのだ。

彼らは喜んだ、健やかなる体が無償で手に入ったのだと。

もう戦争による汚染や、経済活動における労働によって理不尽に健康が奪われることがない。

彼らは喜んだ、もはや死に怯えることも、苦痛に身を捩ることも無いのだと。

ありとあらゆる苦しみから開放されたように思われた。

実際にそうだったのだから否定しようがない。

 

だが、それ故に彼らは知ることになる。

聖・ルドヴェルクの実験は、確かに彼らの世界に喜びと奇跡を振りまいた。

彼らはその甘い果実に齧り付き、嚥下し、体の一部として取り込んだ。

奇跡という名の猛毒を。彼らが喜びの中で得た物の名は『不死』。

永遠に続く寿命によって齎されることになる苦痛を――。

 

それ以降の歴史、不死化以来の彼らの歩みは非常に複雑怪奇極まる物だ。

だが一つだけ確かなものがあるとすれば、それは『飽き』であると言えるだろう。

彼らが気の遠くなるような生命活動の末に得たのは倦怠感だった。

生き続けることの苦しみ、死ぬことの無い永遠。

彼らが安らぐ冥府はもう何処にもないのだ。

彼らは皆、発狂し、停滞し、そして狂いを正して戦争を再開しては飽き、

そして永い沈黙の末にある技術を産み出してしまった。

偉大なる狂人の称号を持つ、ナイヴンがその技術を発見し広めた。

永遠の不死の中に有りながら邁進を止めなかった彼らにとっての狂人の一人。

我々にとっての不倶戴天にして史上最悪の怨敵の一人が、ある時、こう言った。

 

「なにも自らで、自らを死に至らしめなくとも」

「死ぬことができないなら、殺されればいい」

「誰かが、私達を殺してくれればいいのさ」

 

そう、その無責任極まる言葉に彼らは乗った。

それが我々の世界に破壊と絶望の象徴である竜が舞い降りたのと、ほぼ同時期である。

ナイヴンが生み出した世界間移動技術によって、彼らに侵攻された世界は4千にも及んだという。

 

その内の一つが我々の世界。地球における人類文明。

そこへ飽きを満たすためと、自殺を目的とした彼らの侵攻が始まったのだ。

2017年の11月14日、すべての始まりの日の出来事は今も血肉に彩られている。

ワシントンで、モスクワで、ロンドンで、東京で、パリで、ベルリンで。

ありとあらゆる場所に竜は現れ、人々を殺戮して回った。

その表皮に現代兵器は通じず、核攻撃は逆にその放射線によって人類に被害をもたらした。

だがそれでも彼らに被害を与え、技術を吸収し、人類はしぶとく生き残った。

以来、彼らとの戦争が続いている。

まるで彼らにとっての奇跡のように、我々にとってはこの戦争が不死を得ているように思えてならない。

我ら人類は何れ、偉大なる勝利とともに彼らの不死を突破するだろうか?

その答えは、聖・ルドヴェルクも知らないであろう。




某所の雑談がネタ元、作成許可に感謝を。

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