未来から帰って来た死神   作:ファンタは友達

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第六話(第二十六話)

 

 

~五番隊・隊長執務室~

 

 

 

「あっ!隊長、やっと帰って来たんですか!?」

 

「思いのほか時間がかかってな。俺がいない間何かあったか?」

 

「いいえ、何もありませんでしたよ。あと隊長に怒られるのが嫌だったので私が判断できる範囲の書類は見ておきました!」

 

「普段からそうしておけば俺は怒んないんだよ。隊長になりたいんなら毎日それを続けろ」

 

「ま、毎日はちょっと…ところでその子は誰ですか?」

 

椿咲は雷山の後ろに隠れている少年について聞いた

 

「ああ、こいつはそうだな…”旅禍疑惑のある少年”と言ったところだな」

 

「この子が旅禍なんですか!?まだまだ幼いじゃないですか!!」

 

椿咲は少年の両肩を掴んで驚きの声を上げた

 

「……!?」

 

少年は驚いたまま固まっていた

 

「だから言ったろ?一人うるさいのがいるかもしれんがってな。それと椿咲、お前は大きな声を出すな。もう少し声を抑えろ」

 

「でもですね!この子が旅禍なんて私は信じられませんよ!?」

 

「だー、もう。話をややこしくするな!”旅禍疑惑がある少年”と言ったろ。まだ旅禍と決まったわけじゃないから騒ぎ立てるな」

 

「ちぇ…ところでこの子はこの後どうするんですか?」

 

「ああ、それなら四十六室の決定が出されるまで五番隊(うち)で預かることにしたぞ」

 

「ええ!?」

 

「そんなに驚かなくてもいいだろ。預かると言っても数日の間だ」

 

「たったの数日なんですか!?」

 

椿咲がそう口走った時、雷山は(あ…そっちの意味で驚いていたのか…)とある意味想定外の事態に少し驚いた

 

「もっと預かっておきましょうよ!なんならまた隊長が総隊長を説得して五番隊に入れちゃいましょうよ」

 

「バカ言うな。あれを何度もできる程俺に権力なんてねぇよ!どうしても入れたいんならお前が山本を説得してこい」

 

「嫌ですよ!!私が総隊長を苦手にしているの知ってるんですか!?」

 

「んなもん知るか。第一お前、山本相手だろうと悪戯を仕掛けるじゃないか。そんなことやっておいて山本のことが苦手と言ってもまるで説得力がないぞ」

 

図星を突かれた椿咲は黙り込んでしまった

 

「まあ、お前の悪戯癖が直らんのはとっくに知ってるから構わんが、そいつにちょっかいは出すなよ。後で文句を言われるのは俺でもありお前自身でもあるんだからな」

 

「はーい…」

 

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

 

 

「ところで雷山隊長」

 

少年を隊舎内にある宿舎へ送り届けた椿咲が執務室に入って早々に口を開いた

 

「今度は何だ?」

 

「あの子が旅禍じゃないと判断されて流魂街へ送り届けることになった場合ってどうするんですか?」

 

「ああ、それなら俺が信頼できる奴に任せるつもりだ」

 

「白さんたちですか?」

 

「違う違う。そもそも白たちは流魂街に住んでないだろ。桟裡之内史十郎(さんうちのなかしじゅうろう)と言う俺たち3人の育て親だ」

 

「え、そんな人生きているんですか?」

 

「さあな、少なくとも死んだという話は聞いたことがない。まあ、あのじじいがそう易々と死ぬとは思えないしな」

 

椿咲はその時その桟内之内と言う人物に雷山がある程度の信頼を置いていると感じた

 

「その…桟裡之内さんってどんな人なんですか?」

 

「…そうだな。とにかく手厳しいじじいだったよ。もしかしたら今の山本以上に厳しいかもな」

 

「そ、そうなんですか…?」

 

椿咲は冗談が通じず、とにかく厳しい人物が苦手であったため、内心会いたくないなと思っていた

 

「だが反対に白や春麗にはとても甘かった。おかげで俺はいろいろ大変だったんだ」

 

「そうなんですか?」

 

「春麗のあの性格を見て、大変じゃなかったと本気で思うか?」

 

「あっ…」

 

椿咲は現在の狐蝶寺の性格を身をもって知っていするため、幼少の頃の今よりも手が付けられないであろう狐蝶寺はそれはもう凄まじいものであったことが容易に想像できた

 

「だろ?」

 

「なるほど、雷山隊長が面倒見がいいのはそういう過去から来ているんですね!」

 

「今となっちゃ良い笑い話だが、当時は本気で春麗と絶縁したいと思ってたくらいだよ。…さて、俺の昔話はここまでにしてお前ももう自室に戻っていいぞ。珍しく仕事していたしな」

 

「じゃあ、お言葉に甘えて。お先に失礼します。……ちょっと待ってくださいよ!珍しくって何ですか!?」

 

「そのままの意味だ。まあ、お前のことを少し見直したよ。あくまで少しだけだがな」

 

「なんか嬉しくないですね」

 

「本来なら普通に仕事して褒められるということ自体おかしいことなんだからな。それくらい分かれよ?」

 

「ちぇ…」

 

椿咲は不満そうに呟いた

 

「まあ、お前がちゃんと仕事するようになったらいつでもお前に隊長の座はくれてやるから、精々がんばれよ」

 

「…はーい。じゃあ、失礼します」

 

そう言って椿咲は自室へと戻って行った

 

「…仕事をサボる癖が直れば、器と実力、共に隊長として相応しいんだがな。全く…根は真面目なのに勿体ない…」

 

椿咲が出て行ったのを確認して雷山はそう独り言を呟いた

 

「さて、俺もそろそろ…ん?」

 

席を立ち上ろうとした雷山の目に一枚の書類が映った

 

「五番隊が担当している地区の書類か。…どういうことだ?」

 

雷山が見ている書類には現世にて五番隊が担当している地区の虚関係の事が書かれていた。一見すると、その書類には何の問題がないように見えたが、一つだけ目を向けるべき問題点が隠れていた

 

「比較的小型の虚一体と交戦…結果的にその虚は退却したがその地区の全隊士が負傷し、現在義骸にて回復中…援軍を求む…」

 

(これはまさか…)

 

雷山は隊士全員が負傷したと言う点に違和感を覚えた。いくら虚の攻撃により傷を負ったとしても隊士全員が同じ虚から攻撃を受けるのは考えにくかったためだった。そして何より雷山には”比較的小型の虚”に覚えがあった。

 

「まず間違いなく大虚(メノス)だな。しかし…」

 

雷山は”比較的小型の虚”をアジューカス級の大虚(メノスグランデ)と推察した。しかし、尸魂界にてその霊圧が感知されなかったのが気にかかった

 

「……」

 

(過去にこんなことはなかった気がするが、一応他の奴の意見を聞いてみるか…)

 

 

 

   ~ 翌日 ~

 

 

 

~十三番隊隊舎・隊長執務室~

 

 

 

「あれ、どうしたの?雷山君が自ら来るって珍しいよね」

 

「ちょっと用事があってな。現世で十三番隊が担当している地区の報告書って来たか?」

 

「来たよ。それがどうかしたの?」

 

「見せてもらってもいいか?」

 

雷山にそう言われた時狐蝶寺は困ったような顔をした

 

「それがその…分かんないんだよね。ほら、私って片付けが出来ないじゃない?だから書類の整理とかは全部山吹ちゃんにお願いしてるんだよ」

 

「そうなのか。そういや山吹はどこに行ったんだ?」

 

雷山はその時執務室内に山吹の姿がないことに気づいた

 

「山吹ちゃんなら他の隊に書類を届けに行ってるよ。でもそろそろ帰ってくるんじゃないかな」

 

狐蝶寺がそう言った時だった

 

「隊長、ただいま戻りました」

 

襖が開き山吹が中に入って来た

 

「ホントに帰って来たな…」

 

「あっ、雷山隊長。今日はどうされたんですか?」

 

「ん?いや、ちょっと用事があってな」

 

「そうだ!山吹ちゃん。この間来た現世の報告書ってどこにしまったの?」

 

「はい、それでしたら…」

 

山吹は入り口から3つ目の棚から書類を引っ張り出してきた

 

「現世関係の書類はこれで全部です」

 

「ありがとう!それでこの間のは…あったあった!ほらこれ」

 

狐蝶寺はそう言うと書類を雷山に手渡した

 

「……」

 

「これがどうかしたの?」

 

「いや、十三番隊の方は特に問題はなさそうだな」

 

「そうなの?」

 

「春麗、ついでにこの報告書についてどう思うか意見を聞きたいんだがいいか?」

 

「別にいいよ。だけど、雷山君が私に意見聞きに来るなんてかなり珍しいよね」

 

狐蝶寺は昨晩雷山が見つけた報告書を受け取りその内容を確認した

 

「…これってさ、大虚(メノスグランデ)の事だよね。しかもアジューカス級の」

 

「やっぱりお前もそう思うか」

 

「うん。いくら強くても普通の虚がその場にいた人全員に傷を負わせるのは難しいでしょ。私が虚だったら、一人に傷を負わせた時点で逃げるよ」

 

「…もう1ついいか?大虚が現れて尸魂界に感知されなかったことってあったか?」

 

「私が覚えてる範囲じゃないと思うよ?あんまり覚えてないけど…」

 

「……まあ、このことは一応山本の耳に入れておくか」

 

「あ、これからおじいちゃんの所に行くの?」

 

「…?そのつもりだが」

 

「じゃあ私も付いて行くよ。ちょうどおじいちゃんにも用事があったしね。山吹ちゃん、留守任せてもいい?」

 

「いいですけど…一体どうしたんですか?」

 

「私と山吹ちゃんのこれからに関わることだよ」

 

「…?」

 

山吹は狐蝶寺の言っていることの意味が分からず困惑している様子だった

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

「…お前、山吹には言ってないのか」

 

「うん。ギリギリまで黙ってるつもりなんだ」

 

その時雷山は狐蝶寺が今から山本に会いに行く理由を察した

 

「まさかお前が今から山本と会う理由って…」

 

「そうだよ。これからおじいちゃんに隊長を引退するっていうのを言いに行くんだよ」

 

「はぁ…お前山本にも言ってなかったのかよ。一番最初に言うべき相手だろ」

 

「しょうがないじゃない。最近いろいろあって言いに行く暇がなかったんだよ」

 

雷山は呆れた様子で狐蝶寺の話を聞いていた

 

「白も山本に言ってないのか?」

 

「分かんない。最近白ちゃんとはお互いに忙しくて会ってないしね」

 

「…まあ、引退するのはお前らの都合だから俺がとやかく言うつもりはないが、山吹くらいには早めに言っといてやれよ。お前から聞かされるのと他人から聞くのじゃ受け取り方が違うだろうしな」

 

「うん。そうだね」

 

 

 

~一番隊隊舎内・隊長執務室~

 

 

 

「して雷山。儂に何用じゃ」

 

「少し気になることがあってな。一応お前の耳に入れておこうと思ってだな」

 

「気になる事じゃと?一体なんじゃ」

 

「ああ、簡単に言えば、現世で駐在任務をしている奴らがアジューカスと交戦したみたいなんだ」

 

「アジューカスじゃと?」

 

元柳斎は現世にアジューカスが出現したと言う報告を受けていないため若干驚いた様子だった

 

「やはりお前の所にも報告が来てなかったか…」

 

「どういうことじゃ」

 

「百聞は一見に如かずだ。とにかくこれを見てくれたら大体分かるだろ」

 

そう言い雷山は報告書を元柳斎に渡した。報告書を見た後元柳斎は一言、『なるほど…』と呟いた

 

「現世で大虚(メノス)が現れることは稀にある事じゃが、問題はその事態を我々が把握できなかったことじゃな」

 

「ああ、こちら側のミスかそれとも…」

 

「…虚圏で何やら起きているのかもしれん、少し前に起きたあの事件のように」

元柳斎が言っているのは、雷山が未来世界へ行く原因となった事件のことである

 

「あれはあの破面が自分の意志でやっていたことだから虚圏は関係ないはずだぞ」

 

「…この件は近々隊首会で話し合わねばならぬな。このことはしばらく内密にしておこう。おぬしらはもう戻って良いぞ」

 

「あっ、私は雷山君とは別件なんだよね…」

「雷山とは別件か。して何用じゃ?」

「え…あ…」

 

その時狐蝶寺は隊長を止めるということが後ろめたいということもあり珍しく元柳斎の前で委縮してしまった

 

「…珍しいこともあるもんだな。いつも気楽でいるお前が山本相手に委縮するなんてな」

 

その姿を見た雷山は仕方なく狐蝶寺が訪ねてきた理由を答えた

 

「山本、春麗は白と共に隊長を止めるんだそうだ。その事を言いにここまで来たって訳だ」

 

「つまりは引退…いや、名目上は除籍となるかの。……残念じゃが、狐蝶寺隊長。今はそれを見送ってほしい」

 

「…え?」

 

「今現在、護廷十三隊は八番隊、九番隊の隊長二名が不在の状態じゃ。それに加え、おぬしと銀華麗隊長が抜ければ、いくら雷山がおると言うても護廷十三隊の戦力が低下するのは必至じゃ。先ほどの件で万が一虚圏との総力戦に発展すれば甚大な被害が出かねぬ状態になる。それはどうしても避けたいのじゃ」

 

「う、うん…分かった…」

 

「すまぬがこのことを銀華麗隊長にも言うといてくれんか」

 

「それなら俺が言っておこう。それでもう一つ聞きたいんだが…」

 

雷山が聞こうとしたことを元柳斎が察した

 

「構わん。いずれは狐蝶寺隊長も知る事じゃ、おぬしが聞きたいのはあの少年の件じゃろう」

 

「ああ、流魂街へ行かせる許可は下りたのか?」

 

「まだ出てはおらぬが、明日(みょうじつ)までには処遇を決定すると四十六室は言うておった」

 

「そうか。じゃあ、また明日聞きに来よう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~その日の夜~

 

 

 

「…悪いな。忙しいときにわざわざ時間を取らせちまって」

 

「いや、それは気にしなくてもいいですよ。本当はがこちらから出向くべきだったんですよ」

 

「いきなり瀞霊廷に帰ってこいと言う方が酷だろ」

 

「はははっ!それもそうですね。それで今度はどんな用で来たんです?」

 

「ああ、虚圏関連でちょっと聞きたいことがあってな。簡単に言うと、虚圏内で虚たちの頂点に君臨している大虚は何て言うんだ?」

 

「…さすが雷山隊長ですね。何でもご存じだ」

 

「世辞は良いから早く教えてくれないか?」

 

「我々虚討伐遠征部隊が調べた情報ですと、名前は”イミフィナリオ・エンペル・ヴェルティス”。ヴァストローデ級の大虚で虚圏内では【虚圏の女帝】と言う通称で呼ばれていることは分かっています。それと…」

 

「それと…?」

 

「実力はヴァストローデの中でも群を抜いていると噂されています。我々もまだ確認していないので何とも言えませんが、雷山隊長や山本総隊長と同等かそれ以上と予想しています」

 

「なるほどな…。ありがとうな、随分と参考になった」

 

「いえ、こちらこそ。雷山隊長、瀞霊廷に何かあればいつでも呼び戻してください」

 

「まだ戻れそうにないのか」

 

「はい、もうしばらくは戻れそうにないですね」

 

「そうか。お前らも十分に気を付けてな。次会った時は棺桶の中なんてシャレにならないからな」

 

「はい、肝に銘じておきます」

 

「じゃあ、また会おう」

 

 


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