未来から帰って来た死神   作:ファンタは友達

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第八話(第二十八話)

翌朝、銀華零と狐蝶寺は桟内之内の元へ出発するために瀞霊廷の北にある黒稜門に集合していた

 

「さて、そろそろ出発しますが準備は大丈夫ですか?」

 

「うん。留守もちゃんと山吹ちゃんに任せて来たし」

 

「それでは参りますか」

 

「おいおい、俺が見送りも無しにお前らを行かせると思ってたのか」

 

その声が聞こえたと同時に雷山が瞬歩で現れた

 

「あら、南美ちゃんは来なかったのですか?」

 

「ああ、あいつならまだ寝てる」

 

「そうなんですか?南美ちゃんも相変わらずですね」

 

「まあな。…お前らに言う必要はないと思うが、気を付けて行けよ。いくら治安が良い方だとは言っても流魂街にはゴロツキが思いの外いるからな」

 

「分かっていますよ。ああそうだ、桟内之内さんに何か伝言があれば伝えますがどうします?」

 

「そうだな…」

 

雷山は口元に手を当て桟内之内に何か伝言がなかったを考えている様子だった

 

「…特にないな。まあ、何か用が出来たらこっちから出向くから気にしないでくれ」

 

「そうですか。では、行ってきますね」

 

その後雷山は【神臥(かみふし)】に向け歩いて行く銀華零たちの姿が見えなくなるまで見送ったのだった

 

 

 

 

 

~ 北流魂街1地区【熊好(くまよし)】付近 ~

 

 

「あの…銀華零さん」

 

歩いている途中に少年が銀華零に訪ねて来た

 

「どうしました?」

 

「その…桟裡之内史十郎さんとはどのような人なんですか?」

 

「どのような人…ですか。そうですね…」

 

少年のその問いに答えたのは少年に後ろを歩いていた狐蝶寺だった

 

「史十郎おじいちゃんはすごい厳しい人だったよ!特に雷山君に対してはね。もしかしたら(総隊長の)おじいちゃんより厳しいかも」

 

「そんな人に僕みたいなのが会っても大丈夫なのかなぁ…」

 

それを聞いた少年はいっそう不安そうな顔になってしまい、狐蝶寺は焦りだしてしまった

 

「え…あ、いや…でもね!」

 

そんな狐蝶寺を制して銀華零が語り始めた

 

「厳しいことは確かですが、その厳しさの中に必ず優しさと言うものが入っていましたよ。それは雷山さん自身も気付いていたことです。それが証拠に雷山さんも桟内之内さんもお互いにいがみ合ってはいますが、緊急事態が起きた時は誰よりもお互いを信頼していますからね」

 

「そ、そうなんですか…」

 

「そうなんだよ!昔の話だけど、私が虚に襲われた時なんか普段全く息が合わない雷山君と史十郎おじいちゃんが息ピッタリに私を助けてくれたこともあったくらいだよ」

 

「何だがやっていける気がしてきました。いつか僕も銀華零さんや狐蝶寺さん見たな死神になりたいと思います」

 

「その頃に私たちがいるかは分かりませんが、頑張ってくださいね」

 

「うんうん!その意気だよ!」

 

 

 

 

 

それから数十分歩いたのち銀華零たちは”北流魂街2地区”【神臥】と呼ばれる場所についた

 

 

~ 北流魂街2地区【神臥】 ~

 

 

「さて、そろそろ【神臥】の辺りでしょうか」

 

少年が前を向くとそこには集落のような風景が広がっていた

 

「やっぱ一桁の地区は平和だねー。【更木】とは大違いだよ」

 

「そうですね」

 

銀華零は狐蝶寺の話を聞きつつ、辺りをキョロキョロと見渡し誰かを探しているようだった

 

「…あの方に聞きましょうか。すいません、少しよろしいですか?」

 

銀華零は自身から一番近くを歩いていた初老と思われる女性に声をかけた

 

「おや、死神さんがどうされました?」

 

「この辺りに桟裡之内史十郎と言う方が住んいるはずなんですが、どちらの家に住んでいるか分かりますか?」

 

「ああ!桟裡之内さんかね。あの人ならあの家に住んどるよ」

 

そう言って初老の女性今いる地点からは4軒先の家を指さした

 

「ありがとうございました」

 

「いえいえ。困ったときはお互い様じゃ」

 

そう言い初老の女性は去って行った

 

「桟内之内さんの家が分かりましたね」

 

「じゃあ、早速行っちゃおう!史十郎おじいちゃん久しぶり!」

 

「あっ!ちょっと待ってください、春麗ちゃん!!」

 

「とやー!!」

 

狐蝶寺が家の中に飛び込むと奥の座敷に一人の老人が背を向ける形で座っていた

 

「…ん?この声はもしや…」

 

「春麗ちゃんも相変わらずですね。もし違う方の家だったらどうするんですか…」

 

「銀華零…狐蝶寺…元気でおったか…!!」

 

振り返った老人は銀華零たちの姿を見て驚いた様子だった。先に言っておくがこの老人こそ雷山たちの育て親である桟裡之内史十郎本人である

 

「お久しぶりです。桟裡之内さん」

 

「史十郎おじいちゃん久しぶり!!」

 

桟内之内は約500年ぶりに会う二人の姿を見て感激している様子だった。護廷十三隊隊長と言うのはその重責と任務の危険度から100年続けば良い方と言われているため、桟内之内の感激の中には今なお護廷十三隊隊長の席にいる二人のその努力を称賛している意味も含まれていた

 

「二人共立派になって…」

 

桟裡之内は満足げにうんうんと頷いていたが何かを思い出したように途端に不機嫌になり辺りを見回し、一言呟いた

 

「…奴はいないのか?」

 

「…奴とは誰の事でしょうか?」

 

銀華零も狐蝶寺も”奴”と言うのが雷山の事を指しているのを分かっていたが、銀華零は桟内之内にその名前を呼ばせるためにあえてそうやって質問を返した

 

「ぐぬぬ…雷山だ。雷山、雷山悟の餓鬼のことだ!!」

 

桟内之内は銀華零に怒っている様子だったが、それとは裏腹に銀華零はまるで故人を偲ぶように話を進めた

 

「雷山さんは数年ほど前に亡くなられました…」

 

銀華零のその回答に桟内之内は先程の怒りに満ちた顔から一変して目を見開き驚いた顔になった

 

「ッ!!バカな…雷山が死んだだと…!?信じられん…」

 

「…嘘ですよ。雷山さんなら、瀞霊廷でお留守番をしています」

 

「銀華零…お前図ったな…」

 

「ねっ!言ったでしょ。雷山君と史十郎おじいちゃんは意外と信頼し合ってるって」

 

「もう良い!この話題は止めだ!それで、今回二人が来た理由であろうその少年は何だ?」

 

銀華零に一杯食わされた桟内之内は雷山の話題を止め、今回自身を訪ねて来た最大の理由であろう狐蝶寺の後ろに隠れる少年のことについて聞きだした

 

「単刀直入に言います。桟裡之内さん、この子を預かってはもらえませんか」

 

「いきなり預かれと言われてもな…」

 

「史十郎おじいちゃん、私からもお願い。この子の引き取り手がいないんだよ!かといってこのまま流魂街に放りこむわけにもいかないし、頼れるのは史十郎おじいちゃんしかいないんだよ!」

 

「ぐぬぬ…」

 

しばらくの沈黙の後桟内之内は少年を預かることを承諾した。この場に居る四人は知る由もないが、それはまさに雷山が予想していた通りの構図となっていた

 

「…分かった。二人の頼みなら仕方あるまい、この子供はワシが預かろう。見たところこの子供には十三隊の上位席官クラスまで行ける素質がある。それにどうせ元柳斎が命令したんだろうしな」

 

「ま、まあそんなところだよ。じゃあ、よろしくお願いね!」

 

「やれやれ、ワシも随分と丸くなってしまったの」

 

「桟内之内は昔から優しい方ですよ。それでは私たちはこれで」

 

「ああ、近々また来るが良い」

 

「…雷山さんは連れて来てもいいですか?」

 

銀華零がそう質問した時、桟内之内は一瞬不機嫌そうな顔をして銀華零たちに背を向けてしまった

 

「…まあ、久方ぶりに雷山の顔を見るのも悪くはないかもな」

 

背を向けた直後桟内之内の方からそう一言聞こえた

 

「ふふっ、相変わらず素直じゃないですね」

 

「じゃあまた来るね!」

 

そう言って銀華零と狐蝶寺は桟裡之内の元を去って行った 

 

 

 

 

 

~瀞霊廷・五番隊隊舎内~

 

 

「何で起こしてくれなかったんですか!?私もお見送りすると言ったじゃないですかぁ!!」

 

椅子に座る雷山に椿咲が泣きながら怒っていた

 

「何度も声を掛けたぞ。その度にお前は、『あと5分…あと5分…』と起きなかったじゃないか」

 

「そうなるから頑張って起こしてくださいと言いましたよぉ」

 

「無茶言うな。こうなるだろうから前もって起こし始めたと言うに、その時間を全部使ったのはお前自身だぞ」

 

雷山は椿咲がなかなか起きないであろうことを予想していたため、前もって2時間前に起こし始めようと計画を立てていた。しかし椿咲は目を覚まして1分もしないうちに再び寝始め、『あと5分寝かしてください…』と言う行動を何回も続けたためにその2時間と言う猶予がすべて無くなってしまい、結果的に雷山一人で見送ることになったのである

 

「うぇぇぇん!!」

 

「はぁ…もう二度と会えなくなる訳じゃないんだから、見送り一回行けなかったくらいで泣くなよ……ん?」

 

その時雷山は何かの気配に気が付いた

 

 

 

 

 

―――――同時刻・瀞霊廷上空

 

 

「さて、それではみなさん。準備の程はよろしいですか?」

 

一人の虚がそう言うと同時に黒腔ガルガンタが開き始めた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すべてはわたくしの野望の為に―――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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