VividStrikeScarlet!   作:tubaki7
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♯38

 次元航行艦アースラではその時間帯にしては珍しく乗組員たちが忙しなく動いていた。艦橋に至っては、チーフオペレーターであるエイミィの指示が鋭く飛ぶ。

「サーチャー、もっと範囲広げて!何がなんでも見つけ出すよッ」
「何事かしら?」

 自室で事務仕事を片付けていたリンディもエイミィからの「直ぐ来てください!」の連絡を受けてブリッジに姿を現した。クロノも同様である。コンソールを走る指を休めることなく、モニターから目を離さずに報告だけを上司二人に告げる。

「転送ポイントに向かっていたブレイブハートの信号途絶、同時にアスカ君のバイタルも検知できなくなりました!」
「なんだって!?」
「消えた・・・ってこと?」
「現在調査中です!」

 マズいことになった。そうクロノは苦虫を噛みしめるように顔を歪める。ここのところ頻繁に起きている謎のエネルギー反応に加え、ロストロギア関連とおぼしき事件の多発。人的被害はまだないと調査を急がなかったことがこんな形で裏目にでてしまうとは。執務官として、判断が甘かったと自身の気の緩みを後悔する。

「このこと、みんなには?」
「いえ、まだです」
「そうか・・・エイミィ。フェイトとアルフに連絡を」
「了解!」
「・・・無事でいてくれよ、アスカ」









  ◇







 轟く爆発音。立ち上る煙に破壊される建造物。飛び交う、光と光。それらは激しく時にぶつかり、離れを繰り返している。

「へぇ、結構やるのね」

 ピンクの髪を優雅に風に靡かせながら余裕の様子で自身の毛色と同じ銃のトリガーを引く。放たれた光の弾丸は矢の如く空を切り、アスカめがけて一直線・・・・と思いきや、急に軌道を変えて両サイドから挟み撃ちにするように向かってくる。それを冷静に見極めて跳躍して回避するも、今度は跳んだ隙を狙っての5発。躱せないと悟った後一発目を右手で払い、二発目三発目と手、足を使って払いのける。しかしそれまでに幾度となく繰り返された行動の疲労により、二発は直撃を受けてしまった。幸い大したダメージではないが、もう既に幾度となく食らってしまっている。このままこんなことを続ければじりじりとダメージが募っていくばかり。最悪、敗北もありえる。

「伊達におっかなーい教官たちに鍛えられてないからね」
「ふーん・・・じゃ、こういうのはどうかしら」

 まるで遊ぶ子供のような無邪気な顔で自身の周りにスフィアを展開する。その数に引きつった笑みを浮かべるアスカはすぐさま防御の姿勢を取る。

「それ!」

 少女の合図と同時に雨のように降り注ぐ光球は先ほどまでと違い、一発一発の重さが増していた。防御の硬さには自信があるが、こうも雨のように浴びせられては身動きすらとれない。なんとかして反撃の機会を――――そう思考していた矢先、突如体を激痛が襲った。ガード越しに見えていたはずの姿はそこにはなく、視線を下に動かせば、剣の柄で思いっきり鳩尾を殴られていた。アスカの視界がふさがれたほんの僅かな間に、彼女は開いていた距離を詰めて直撃打をあびせたのだ。威力を殺すことも、受け身すら取らせてもらえずにアスカは宙を舞って地面に叩きつけられる。

「グハッ・・・!」
「もうお終い?さっきまでの威勢はどこへやら。ま、早々にお寝んねしてくれた方がおねーさんは楽なんだけどね」

 コツ、コツ、と足音を立てながらこちらにゆっくりと歩み寄ってくる。何とかして慣れない治癒魔法をかけようとするも、意識が朦朧としている為上手く発動できない。ブレイブハートも尽力してくれてはいるが、今は主のバイタルをなんとか安定させるので手一杯の状況だ。

「さて。貴方に恨みはないわ。別にわたしを恨んでもらっても構わない。本音を言うとこんな事したくはないけどね、こっちも時間が限られてるから・・・・不確定要素は捕獲対象より最優先で取り除く。より確実に目的を達成するために、ね」
「な、何を言って・・・・っ」
「こうでもしないとちょぉーっと、ため込んでたものが爆発しそうでね。まあここで始末する人に愚痴をこぼすくらいはいいじゃない?」
「・・・・っ、まだ、俺は諦めちゃ・・・!」
「諦めるも何も、もう終わりなの。聞き分けの悪い男は嫌われるわよ?」

 銃口をこちらに向け、冷たい視線を送ってくる。

「さようなら」

 トリガーにかけた指に、力が籠った。










  ◇








「・・・・?」

 ピクニック。そう言ってもいい程に穏やかな気候に恵まれた天気の中、目的地を目指す。そんな道中でふと何かを感じて振り返る。誰かが後を付けているという訳ではない。そう、本当に不意に振り向いただけ。

  言い知れぬ、不安がなければ。

「ヴィヴィオ、どうかした?」

 急に立ち止まって後方を振り返ったまま立ち尽くしているヴィヴィオにリオが問う。それに彼女は「なんでもない」と努めて笑顔で応え、再び歩き出す。

「・・・もしかして、ヴィヴィオさんも感じましたか?」

 隣に並んだアインハルトがヴィヴィオにだけ聴こえるよう声のボリュームを落として話す。

「もってことは、アインハルトさんも?」
「はい。なんだか胸騒ぎがして・・・」
「私もなんです。こう、よく言い表せないですけど、先輩に何か良くないことが起こってるきがして」
「そう言えば、今日はティアナさんと一緒にロストロギアの回収任務に同行していると聞きました。もしや、とは考えたくはないのですが・・・」
「ありえないって話じゃないですよね・・・うぅ、無性に先輩に連絡したい」

 でも、とヴィヴィオはじれったさを隠す様子もなく頭を掻く。今は任務中となれば一般からの回線は絶対に出ないからだ。ヴィヴィオは司書資格はもっていても管理局員ではない為専用の回線にアクセスすることはできない。ノーヴェに相談するのが一番だが、いらぬ心配をかけさせてはならないと幼心ながらも考えてしまう。母である高町なのはの愛弟子であるティアナが一緒なのだから、それこそ無用な心配といえるかもしれないがそうも言ってられない不安に駆り立てられているのもまた事実。

  結局、悶々として気持ちを抱えたまま、一行は目的地へと到着してしまった。













  ◇












「ちょッ、どーいうことよこれ!?」

 少女、キリエ・フローリアンは驚愕の声をあげる。一度ならず二度までも、という言葉があるように良くないことが一度起きたからと言ってじゃあ次はいいことが絶対起こるなんてことはない。現に今、その光景が目の前にある。

「・・・良かった、間に合って」

 そう呟くのは、金の髪を風に靡かせる白いジャケットの少女。

「大丈夫ですか?」

 身を案じてくれるのは、目の前の少女とはまるで対照的な印象を受ける翡翠の髪の少女。しかしそれらはアスカにとって見慣れた、それでいてこの場に本来であればいない筈の人物の物。それだけに、キリエ以上に驚愕を隠せないでいた。

「え、あ、う、うん・・・」

 とりあえず返事を、と返す。しかしながら訳が分からない。どうしてここにこの二人がいるのか。今はルーフェンに行っている筈、しかもこの世界にいるという事は時間渡航をしたということに他ならない。聞きたいことがありずぎて頭がパンクしそうになっているアスカの耳に、今度は聞きなれない声が聴こえた。

「見つけましたよキリエッ!」

 キリエに向かって放たれる数発の光弾。キリエは忌々しい、と顔を歪めつつその弾丸をバックステップを使って回避し、一端距離を置く。一度ならず二度までも。さらには三度。一度目はアスカ、これはまだいい。今しがた排除で来たから。しかし二度目、見知らぬ二人の介入によりアスカの排除に失敗。そして三度目。これがキリエにとって最も起きてほしくない、率直に言ってしまえば「面倒」なことだった。赤い三つ編みにキリッとした端正な顔立ち。幼いころから、ずっと隣にいた今は敵とみなした――――姉。アミティエ・フローリアン。

「ヴィヴィオさん、アスカさんは無事ですか?」
「みたいです」
「怪我はしていますが、骨は折れてないようです」
「ヴィヴィちゃん、ハルちゃん、どうして二人がここに・・・?」
「説明は、とりあえず後回しにさせてください。今はこの不肖の妹の説得を優先させていただきます!」

 構えるヴィヴィオとアミティエ。キリエは奥歯をギリッと噛みしめながらもアミティエを睨み据える。

「なんで来たのお姉ちゃん。たしかもう2、3日は動けない筈だけど」
「そこは気合と根性ですッ!・・・それに、人様にご迷惑をおかけしてしまっている妹を正しい道に導いてあげるのも姉の務めですから」

 〝正しい道〟。それを聞いた途端に一気に頭に血が登って行く。が、それではダメだと自制心をなんとか働かせて拳を固く握るだけにとどめる。冷静になるのよキリエ。今は、そんなことしてる場合じゃない。そう言い聞かせながら深呼吸する。

「・・・あ、そ。でもね、今更もう止まれないの。今日の所は退いてあげるけど・・・・次に会った時は、お姉ちゃんでも容赦しないから」

 そう言ってどこかへと飛び去って行く。後を追おうと一歩踏み出すアミティエだったが、アスカを抱えていたアインハルトから彼が意識を失ったと報せを聞き踏みとどまる。

「キリエ・・・・」

  様々な思いが交錯する中、彼女の切なげな声は夜の闇へと溶けて消えた。