天使の力は圧倒的だった。美しい波紋を描く刀を振りながら片手間に【光線級】をマシンガンで撃ち抜いていく。しかも、上空を自在に飛びながらだ。【光線級】の前で空を舞うのは自殺行為。
それは今を生きる者なら誰もが知っていることだ。
だが、天使は違った。飛び交う閃光を軽やかな動きでかわす。反撃とばかりに弾丸を浴びせる。一連の動きを事も無げに行っている。機体性能だけでなく衛士の腕も我々を遥かに凌駕していた。
『すっご…。』
『なんて機動力なの!あの【戦術機】は一体、何処の国が製造したの?!』
『…凄まじいわね。』
『う、うん。』
皆もあの【戦術機】の動きに驚愕しているらしい。
目の前にまだ敵が居るというのに。我ながら馬鹿だと思う。
『何をやっている!あの【戦術機】が何処で作られたかは知らんが負けていられるか!【BETA】を駆逐するぞ!』
『『『…っ!了解!』』』
中隊長の号令で我に帰り、私達は【BETA】への攻撃を再開する。ふと気づいた。レーダーが回復している?
【光線級】の影響で【重金属雲】が発生している場所ではレーダーは機能しない。それが機能回復していると言うことは…
ー【光線級】の駆除は完了しました。
私の考えを肯定するように未知の【戦術機】の衛士から通信が入る。
誰かの息を呑む音が無線越しに聞こえた。
『…あ!やった、やったよ!唯依!私達、【死の8分】を乗り越えたんだ!』
【BETA】との戦闘において一般の衛士が生存している確率が最も高い時間、それが8分。それを乗り越えれば一流の衛士だと言える。それを乗り越えたと喜ぶ友人
石見 安芸に私は返事を返そうとした。
そのとき、見てしまった。安芸の乗る【戦術機】に【突撃級】が向かっていく瞬間を。
「安芸!」
咄嗟に【戦術機】の手を差し出す。届かないかも知れない。それでも、と思った。志摩子の時もそうだった。一瞬の油断が全てを浚っていく。
【突撃級】の外殼が安芸の【戦術機】に触れるより早く、突然、【突撃級】が姿を消した。瞬きの合間に見えた黄色の光はなんだったのか、わからなかったが安芸の【戦術機】の前には巨大な穴が空いていた。
『えっ?あれ?』
「安芸!大丈夫?!」
『あ?ゆ、唯依?うん。大丈夫、だけど。』
ー戦場で油断しない!死にたいのか?!
『ひぅ?!』
今まで穏やかな口調で通信していた相手からの怒号に私も驚いた。
ー…まぁ、無事で良かったです。それよりも
それよりも?なにか、あるのだろうか。
ー今すぐ、撤退してください。
「…は?」