東方空雲華~白狼天狗の頁~   作:船長は活動停止

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えーと、なんというか、言い訳すると期間が長すぎたためところどころ設定とかよくわからないことになってますが………すみません。
それと例大祭行ってきました。楽しかったです




第七十六話 悪事をするにもそれなりの理由がある

 

 

 

「ぇ…………ぇ……………?」

「……………俺が出来るのは………せいぜい………このくらいだ………」

 今にも消えそうな声で、それでも村紗にしっかりと抱き締めた橙矢は口を開く。

「ごめん……………ごめんな村紗。お前がそんなに辛かったなんて……」

「ァ…………ァァ…………ァァァァ……!!」

 鎖が再び出てくると後ろから橙矢を拘束して引きずる。だがそれでも村紗を放しはしなかった。

「もう………放さないからな………」

「ぃ………ァ…………!」

 村紗が橙矢の肩口に歯を突き立てる。それは肉を引きちぎって焼けるような痛みが全身を駆け抜ける。

「──────!!」

「ハ……なシて……!やめテ………!ハナれてよ!もウ……………こんな所………ワたしの居場所ナンて………ナイんだから………。だカらせめ……て、一緒二………死んデよ橙矢!!」

(………あぁ、そういうことか)

 今になってようやく気が付いた。

 自分が受け付けなかったためにこの少女は全てを捨てた。

 全ては、東雲橙矢の為に。

「………なら、俺が─────」

 口を開いた瞬間妖気が戻っていたのか村紗の身体から今や妖怪の橙矢ですら毒々しく感じるほど濃密な妖気が放たれる。

「───────」

 意識を保つのも困難になる中で必死に耐えていたがそれでも押し負けて落ちていく。だが村紗だけは決して、放しはしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………」

 次に橙矢の視界に映ったのは何もない深淵だった。

「………………………」

 一応、辺りを見渡しても何もない。というよりも何も見えない。

「…………ァ………ァ………」

「……?」

 集中しなければ聞こえないほど微かな声が何処からか聞こえてそちらに足を向ける。

「誰……か…………いない……の」

 歩を進めるほどその声は聞こえてくるようになり、そしてその声には聞き覚えがあった。

「村紗か?」

 橙矢が声を上げるも、声の主には聞こえてないみたいだった。

「こんな暗い中じゃ見付けらんねぇよ。ったく」

「…………?だ………誰………?」

 愚痴を溢したのには反応し、その後に引き摺る音がした。

「誰って……それはこっちの台詞なんだがな」

「……………………私、は………むら、さ……。村紗水蜜」

「……やっぱりお前か村紗。俺は……まぁ言わなくても分かるだろ」

「………………橙矢」

「正解。………それより村紗、姿を見せてくれ。こちとらずっと真っ暗闇の中でいい加減疲れたんだ」

「………………そう、橙矢にはそう見えるんだ」

「何言ってる。ここが何処であれ俺はお前の姿が見たいんだ」

「…………私の姿。うん、それもそうだね」

 すると少しだけだが視界が晴れる。先程に比べればマシになった方だがそれでもまだ見えづらい。

 目を細めながら再び辺りを見渡す。すると明後日の方角に一人、膝を抱えて踞っていた。

「…………………」

 歩き出してその者の前に来ると片膝を落とした。

「………………村紗、村紗なんだろ。起きろ」

「………………橙矢」

 村紗が顔を上げて橙矢を視界に入れる。しかしその目は屍同然の元だった。

「…………村紗、大丈夫か?」

「………………なんで、なんで橙矢………殺して……くれない……の………」

「まださっきのこと引き摺っているのか。……忘れろ。俺はただお前と話したいだけだ」

「…………は………………ははは………馬鹿言わないでよ…………私なんか死んでも……………誰も悲しんだりしないから」

 橙矢から視線を外すと背を向けた。

「……………………なんでそんなこと言えるんだよお前」

「…………私、色んな人に迷惑かけて、傷付けて。……その上橙矢の…………あの、白狼天狗を殺しかけた。そんな奴の誰が……。ほら、それがこれだよ」

 村紗の上空にある映像が映る。それは村紗目線の、椛を強襲しているものだった。

「……………ね?見たでしょ?これが私の本性。分かったでしょ?」

「………………………」

「………………あのね、橙矢。見れば分かるように私は幼い頃、というか人間の頃、この身体の時に溺死して舟幽霊になった。そこからは舟をひっくり返しての毎日。…………悪くなかったよ。それが舟幽霊としての私なんだから。けどね、そんな私でも聖は受け入れてくれた。………その聖も人に裏切られて封印されるんだけど」

「……………あぁ、知ってる。雲居さんに聞いてるよ」

「うん…………。聖を助けるまでかなりの時間を有したよ。私は以前のように戻って、だけどそれも一輪やナズーリンに助けられて。そして………幻想郷にたどり着いた。そこからは順風満帆だったよ。………橙矢に会うまでは」

 未だ橙矢に背を向けたまま上空を見上げた。

「……………いつからかな、気が付いたら橙矢のこと、好きになってたんだ。それからは会うたび、顔を見るたび嬉しくて…………。けど、その隣にいるのは私じゃなくあの白狼天狗なんだって気付いた時から、辛くて………辛くて。私が私じゃなくなっていくような感覚がして。………………そして橙矢が外に行っちゃった時。そこからもう私は自分が抑えきれなかった」

「だからってな。あれはやり過ぎだ」

「分かってるよ。………分かってるんだ。それでも………許せなくて」

「……………………お前の気持ちは分かる。俺も似たような理由で異変を起こしたからな」

 脳裏に過るは半年前の叢雲の異変の事。殺されにいった神奈をために幻想郷全土を目の敵にして、各所を潰して回っていた。あの頃を。

「だがそんな馬鹿げた異変は俺で最後でいい」

 村紗のもとまで歩むと後ろから軽く抱き締める。

「……………ッと、橙矢………」

「ごめんな。お前を一人にして。何度もお前を裏切って。…………けど、あのまま操り人形になってても俺達は必ず幸せになんてなれない」

「……とぅ……や…………」

「だから戻ってこい村紗。お前の中にある妖気は俺が引き受ける」

「け、けどそんなことしたら橙矢………」

「お前を助けるためだ。安いもんさ」

あぁ、そうだった。橙矢はこういう人だった。

「………ぅ…………うぅ………」

 村紗が抱き締めている腕を掴むと顔を押し当てて嗚咽の声が漏れる。

「………………村紗」

 つねに自分の護りたいものを優先して、それで自分が傷つくことも厭わない。

 そんな橙矢を独り占めしたくて。

「ごめん………なさい………橙矢………!ごめん………」

「………俺に謝るな。他に謝るべき人妖がいるだろ?」

「うん………うん……………」

「………よく、一人で耐えたな村紗」

 けどその橙矢にはすでに大切な者がいて、もう私に入るところはなくて。それを橙矢が幸せと言うのなら、それを受け入れなければ。本当の意味での彼の幸せを望んでいるならば…………。

「…………だって、これに負けたら、私、村紗として橙矢に二度と会えないような気がして……」

「そうか。よく頑張った。後は俺に任せておけ。お前は休んでいろ」

「…………うん。任せるよ。けど、何でだろうね………橙矢の腕の中はこんなに暖かいのに……………離れてっちゃうんだろう………」

「………離れていったのはお前の方だ」

「………………どうだろう、ね」

「……そろそろ戻ろう村紗」

「…………………橙矢」

 身体を橙矢の預けるようにもたれると眠るように目を閉じた。

「…………おやすみ、村紗。次起きた時には……全て終わってるからな」

 微睡みに落ちていく中で橙矢の声だけははっきりと聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 濃密な妖気が放出されて数分。晴れるのを待たずにそこへ突っ込もうとする椛をいまだに布都と天子は押さえ込んでいた。

「死ににいくつもりか犬走椛!」

「けど!橙矢さんがまだあの中に!」

「だからといってお主をあそこに行かせるわけにはいかん!死ぬぞ!」

「そうよ!あんたが東雲を信じないでどうするの!?大人しく……してろ!」

 顔の真横に緋想の剣を突き刺すと椛の動きが止まった。

「…………東雲に何かあれば私と尸解仙がどうにかする!だから………あんたは大人しくしてなさい!」

「ぃ……いや……!橙矢さん!」

 まだ諦めきれないのか制止を振り切って駆け出す。しかしその足に弾幕が撃ち込まれて勢いよく地を転がった。

「お主………いい加減にしろ!」

「アアアァァァァァァ!」

 叫ぶと同時に妖気の勢いが強まる。それは離れていた天子と布都も吐き気が催すほどだった。

「これ………マズいんじゃ………」

「東雲………!」

「橙矢……さ………」

 しかしそれは一気に爆散した。

「ッ!」

「………………何?」

「………東雲!無事か!」

 煙幕で見えない中、布都が声を上げるがそれには誰も応えなかった。

「くそ………東雲!しのの……………」

 声を荒げていた布都が何かを見付けたのか、目が開かれる。

 視線の先には血まみれの橙矢が村紗を抱き締めていた。しかも二人とも意識がないのかそのままピクリとも動かなかった。

「橙矢さん!」

「待て!行くな白狼天狗!」

「いい加減にしろ!もう妖気は消えた!橙矢さんは致命傷を………」

「それでもだ!」

 布都が椛の後頭部を掴むと橙矢へと向けさせた。

「確かにあの舟幽霊から妖気は抜けた!だが………」

 すると橙矢の身体が大きく脈打った。

「……………え?」

「ァ…………ァ………」

「……………橙矢…………さん………?」

「…………やはりそうなったか。奴め、村紗水蜜の妖気を……喰ってる……!」

「ハァ!?尸解仙、あんた何言ってるのよ!そんなことできるわけ……」

「残念だが可能だ。だが奪う、ということとは違う。渡されるものだ。つまり村紗水蜜が自ら手放し、それを東雲橙矢が受け止めた。ということだ。………だが無謀だ。そんなことして正気を保てるはずがない………。村紗水蜜の二の舞になるぞ」

「ァァァ……………ァ………む……ラ……サ……ァ…」

 溢れんばかりの妖気を無理矢理抑えながら村紗を横にさせる。

 だがそこで限界だったのか頭を抱えると暴れ始める。

「ァァァァ!!」

「ッ!村紗水蜜を安全な場所まで連れて行け!その間我が押さえる!」

「私も行くわ。白狼天狗、アンタが運びなさい!」

 二人して橙矢に向かっていくのを横目に村紗へと駆け出して傍らに立つと持ち上げた。

「まったく……最後の最後まで世話の焼ける………!」

 退却する直前目の前に飛んできた緋想の剣が突き刺さった。

「……………え?」

「逃げ……なさい白狼天狗!」

 橙矢の方を向くとすでに布都が壁に叩き付けられ、天子が橙矢の足元に倒れていた。

「橙矢さん………」

「────────!!」

 屈んだかと思うと目の前にまで迫っていた。

 村紗を庇うように退くと刀を抜いて振り抜く。

「橙矢さん………貴方………」

「ォ………ァ…………ァァァ………!」

 悶えながらも椛を睨み付けると橙矢も刀を抜いた。

 それは黒い妖気に包まれると地に突き刺す。そこから振り上げると地から斬擊が飛び出して椛に向けて走る。

「そんなもので……!」

 椛も橙矢同様突き刺すと妖気を放つと周囲から衝撃波が発生して斬擊を防いだ。

「…………………橙矢さん、いくらなんでも人が良すぎます。………あれほどの妖気を自分一人で受けきろうなんて」

「────ならば、私が止めましょう」

 橙矢の背後から声がすると橙矢の胸から手が貫いてきた。

「ッ!」

「ァ………ァ………?」

「馬鹿なことはするものではなくってよ、東雲さん」

 手が抜かれて橙矢が倒れるとそこにはスキマ妖怪が佇んでいた。

「…………八雲……紫……………」

「こんにちは白狼天狗さん。よくここまで八尺様を追いつめてくださいました」

「………そんなことより!橙矢さんに何をした!」

「そんなこと………。かなり重要なことなのだけれど…………まぁいいわ。なに、東雲さんには傷ひとつつけてないわ。ただ彼は無理矢理馬鹿げた妖気を取り込もうとして、逆に飲まれそうになった。だからその妖気を抜いただけです」

 橙矢を貫いた手を開くと可視出来る程の妖気が掌で渦巻いていた。

「直に起きます。安心しなさい。それよりも………すべきことがまだ残っているでしょう?」

 橙矢から視線を外すと村紗に向けた。

「彼女は人間を襲った。そして殺した。それはスペルカードルールに違反します。……然るべき対処が必要です。それが例え」

 傘を持ち上げると村紗に構えた。

「殺すことになろうと」

 スキマが開かれると高速で弾幕が放たれる。突然の急襲に椛は反応出来ず、一拍遅れて村紗に駆け出す。

「やめろッ!」

「もう遅い」

 紫の低い声が聞こえると同時に弾幕が直撃する音が響く。

「……………な、」

 次に出てきたのは紫の驚愕した声だった。

 村紗に直撃するはずの弾幕は、彼女を庇った橙矢の背に撃ち込まれてた。

「………ッ。………やく……も……さん………ッ!どういうことだッ!」

 足も限界に来ているのか震え始め、息も途絶え途絶え、さらに今の紫の弾幕によってすでに死に体だった身体がより壊れ始める。

「今さら………出てきて何が殺す……だ!ふざけるな!誰が……殺させるか………ゴホッ!?」

 膝をついて血を吹き出す。そんな橙矢に椛が駆け寄った。

「橙矢さん!駄目です!動かないでください!」

「どけ椛!村紗が………殺され………かけてんだぞ!!なのに………それを、黙ってみて……ァ……オェェ!」

 先程とは比べ物にならないほどの血を吹くと倒れた。

「橙矢さん!!」

「………貴方の悪い癖よ。東雲さん」

「八雲……紫ィィ!!」

 地を砕くほど力を込めて紫に駆け出す。

「貴女も黙りなさい」

 椛の目の前の空間が裂けるとそこに突っ込ませた。次に椛の視界に映ったのは目一杯に広がる岩壁だった。

「寝てなさい」

 激突して怯んでる隙に弾幕を撃ち込まれて避けきれずに地に倒れた。

「………さて、これで片付いたわね。後は………」

 八尺様に視線を向けるとその背後にスキマが開かれる。

『…………!私が、見え………』

「今の貴女を戻すことくらい。訳ないですよ」

 そのままスキマに吸い込まれるとその姿が最初からいなかったかのように消えた。

「八く、も………さん………!ぁ……なた……は………!」

「………しぶといわね。東雲さん」

 ボタボタと血を垂らしながら橙矢が紫へと歩み寄る。その姿はまるで幽鬼だった。

「………いい加減大人しくしてください東雲さん。………心苦しいですが……仕方ないことです」

「ァ…………ァ…………!俺は………!」

 刀を引きずりながら村紗の前に立つ。

「殺さ、せや………しない………絶対………!」

「…………少し痛いだろうけど、そこは我慢してください」

 瞬間、橙矢の脇腹に弾幕がねじ込まれて吹き飛ぶ。

「──────」

「…………大人しくしておけばいいものを」

「ぅ…………あ……ァァァァ………!」

 吹き飛びながら刀を投げつけて紫の足元に突き刺さる。

「………何、を─────」

 橙矢の方を見るが姿は見えなかった。

「…………!」

 スキマに潜って少し離れたところに立つと先程まで紫がいたところを橙矢が刀を振り抜いていた。

「ハ………ァ………やらせる……かよ………!」

「…………貴方、そういえば追い込まれるたび化け物と化するんだったわね」

 刀を紫に向けながら睨み付ける。それを真っ直ぐ受け止めると橙矢の周りにスキマを開かせた。

「逃がさないわ」

 橙矢が反応するよりも速く鎖を吐き出すと拘束した。

「…………こんなもので……!」

「いいえ、終わりよ」

 背後から弾幕を撃つと後頭部に直撃させる。

「ァ…………」

 橙矢がぐらついてそのまま倒れる。

「少し寝ていなさい東雲さん」

 身動きが取れない橙矢目掛けて弾幕を放った。

 

 

 

 

 


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