約束の一週間後、神の神殿に界王神界に行くもの、見送りに来たものが揃った。
界王神界に行くのは、イーヴィとラディッツと魔人ブウだ。ベジータも連れて行こうとしたのだが拒否された。イーヴィが居ると戦いが茶番にしかならないと思っているようだ。
見送りに来たのは、チチやブルマ、クリリン、ヤムチャ、ピッコロ……原作で最後のブウ戦の後に戻ってきた時に神殿に居たメンバーだ。
その場にいたクリリンやヤムチャがブルマにどうして同行しないのかと聞かれて戦いに付いていけないと言う様な会話をしていた。
悟天やトランクスも付いていこうとしていたが、チチやブルマに止められていた。スキを伺うもピッコロの監視も振り切ることはできなかった。
「みなさん、準備はよろしいですか?」
「おい、待て。カカロットと悟飯はどうした」
「悟空と悟飯なら既に界王神界に居るよ」
悟飯は界王神界で潜在能力を引き出した後、悟空が手合わせを望んだ。悟飯がそれを拒む理由もないのでそのまま修行としてずっとやっていたようだ。
「それでは行きます。カイカイ」
界王神の瞬間移動により、界王神界に到着する。そこには、老界王神と悟空と悟飯が待っていた。
「お前さんがイーヴィか」
「そうよ」
「色々聞きたいことはあるが、この件に関しては一理ある。さっさとどうにかしてしまえ」
「えぇ。そのつもりよ」
魔人ブウを近くに呼び、イーヴィの前に立たせる。
「みんな準備はいい?」
悟空や悟飯を見やり、確認し頷くのを確認した。
ブウに手をかざし、精神を集中させる。
「はっ!」
魔人ブウの背から小さな何かがはじき出された。それはすぐに小さな人型の魔人ブウへと変化した。
「ホッホゥ!!」
寝たような状態からすぐに覚醒し咆哮する。
「ウォー!ホッ、ホッ、ホッ!」
ゴリラのドラミングの様に胸を拳で叩く。
「あれが魔人ブウか?」
「そう。この宇宙を滅ぼしかねない破壊獣」
「それじゃ、早速オラが……」
「いえ、お父さん。僕に行かせてください」
悟飯が前に出る。老界王神の潜在能力の解放もあり自信に満ち溢れている。
実力的にもあの魔人ブウ純粋を単独で倒せてもおかしくない。
「そうだなぁ……よし、悟飯行ってこい!」
「はい!」
「頑張れよ、悟飯!」
ラディッツも声援を送る。自然と一対一を考えているが、平和を脅かす敵だとわかっているのだろうか。
「お前らブウと格闘試合をするんじゃないだぞ! 一緒に戦わんかい!」
「ご先祖様、この人たちに言っても無駄ですよ。ここは任せて私たちは安全な場所に行きましょう。私たちが居ても足手まといになるだけですから」
「ふん。わかっとるわい。お前ら頼んだぞ」
「俺も一緒にいっていいか? サタンのところに戻りたい」
「え? あなたもですか……一緒に戦って、ってこの人たち一緒に戦わないんでしたっけ……いいですよ。行きましょう」
「ありがとう。お前イイヤツだな」
「……カイカイ」
魔人ブウにお礼を言われ、何とも複雑な気分になりつつも、ブウと共に地球へと瞬間移動した。
いつの間にか静かになっていた魔人ブウを見やると立ったまま涎を垂らしながら寝ていた。
「あ、あいつ……! 寝てやがる」
「なんかやりにくいなぁ」
そう言いつつ、気を高める。ブウはその衝撃で目覚めまた咆哮を挙げてドラミングを始める。
「ふざけやがって……!」
悟飯は先制攻撃とばかりにブウを蹴り飛ばした。ブウはそのまま吹き飛んだが、その状態でもドラミングをやめていなかった。そのまま岩山に激突して様子が見えなくなった。
悟飯はエネルギー弾で追撃を始めた。爆音と衝撃で大きく土煙が立ち何も見えなくなっていく。煙が晴れたときには、十数メートルはあった岩山が跡形もなく消し飛んでいた。ブウの姿が見えないと思ったが、すぐに空に姿を表した。バラバラになったがすぐに空で再生したようだ。
「ギギギッ! シャア!!」
少しばかり怒りの形相を見せたと思えば、瞬時に腕を伸ばし、悟飯の腕を掴んだ。
「なっ!?」
悟飯はそのまま引き寄せられ、ブウがヘッドバットをくらわせた。怯んだところをパンチの連打が悟飯を襲う。何発もくらってしまったが、悟飯はカウンター気味に膝蹴りを入れ仰け反ったところにかかと落としで叩き落した。地面に追突し、立ち上がったブウの頭は潰れていたが、すぐに元通りに戻った。
ブウ相手の肉弾戦に意味があるのか疑問が浮かぶ。痛みがないわけではないようだが、何事もなかったような状態にすぐに戻る。悟飯はその後も比較的攻勢で押しているように見えるが、その実ブウにダメージを与えられている様子がなかった。
「やはり悟飯では倒しきれないのではないか?」
「いや、悟飯はオラたちの中で一番強い。悟飯に勝てなきゃオラたちでも勝てるか……」
「一対一を望んでおいて難だが加勢するか?」
「まだ決着はついてねぇし、必要ねぇと思う。イーヴィはどう思う?」
「え? 私?」
話しかけられて驚いたような様子を見せるイーヴィ。どちらかといえば何かに集中していたところを中断させられたようなそんな感じだ。
「なんだよ。聞いてなかったんか?」
「いや、聞いてないことはなかったけど……今のところ悟飯が優勢みたいだし、このまま倒せるんじゃない?」
それはそれで退屈だが、安全に安全を重ねてしまった時点で展開にこだわるのもどうかと思い始めていたイーヴィだった。現時点においても更なる安全策を重ねようとしていた最中だった。
ブウは腕を切り離し、丸めて悟飯に投げつけた。普通はありえないトリッキーな動きだが、悟飯はだいぶ慣れてきたのか捌くのが上手くなっていた。ブウの表情に焦りの色が見えてくる。投げつけられた腕を地面に叩き落し、ブウに攻撃を仕掛けようと一気に距離を縮めようと動いたが、ブウは足を地面に突き刺しそのまま悟飯の下から足を延ばして攻撃した。悟飯は完全に不意を突かれたがそれでも避けた。が、ブウはニヤリと笑った。先ほど叩き落された腕が形を変え、悟飯を包むほどに拡がった。
「な、なんだ!?」
悟飯はそのままブウの腕だったものに包まれ、ブウ本体に吸い寄せられ一体化した。
「いぃっ!?」「はぁ!?」
悟空とラディッツがその状況に驚いた。ブウの形がどんどん変形していった。身長が高くなり、悟空や悟飯が着ているような道着を身に着けていた。
「マ、マジか……それは想定してなかったわ……」
イーヴィにとっても予想外であった。その能力を持っていることは知っていたが、どういう条件で使うのかがいまいちわかっていなかったためだ。
「おい、これどうすんだよ!? 悟飯が吸収されちまったぞ!」
「し、知るか! おい、イーヴィ! 何とかできんのか!?」
「ん? いや、まぁ……できるよ」
想定外ではあったが、対処できない事態ではない。今のイーヴィは神龍以上になんでもできる自信があった。
「ほ、ホントかぁ!?」
「あの太っちょの魔人ブウからあの小さな魔人ブウを出した時と同じ要領でいけるわ。ブウと悟飯を分離させるのはね。多少気をためる時間がいるから、私の目の前で棒立にさせて15秒時間をくれたら確実よ」
「……キツイな」
「あぁ。ブウのやつ、悟飯を吸収して気がめちゃくちゃでかくなってやがる」
悟空の超サイヤ人3ではもはやどうやっても勝つことは叶わないレベルで力の差が付いてしまっていた。少しの間、時間稼ぎするのにも苦戦することは必至だった。
「最悪、私の目の前に立たせるだけでもいいんだけど、確実に成功させるためにもお願いね」
「あぁ!」
「やってやる!」
イーヴィは気弾を撃つときの様に右手を前に出す。
ラディッツは超サイヤ人に悟空は超サイヤ人3になって、ブウに飛び掛かった。
「ギヒヒィ~」
ブウは凶悪な笑みを浮かべ悟空たちを迎え撃つ。ほぼ棒立の状態であったにもかかわらず、すぐ目の前まできた悟空とラディッツのほぼ同時のパンチに対してどちらもいなして悟空とラディッツで同士討ちをさせた。
「ギャハハハハ!!」
その様子を笑うブウ。
「こ、この野郎っ!」
次元刀を使いブウを切り裂くが、ブウは斬った直後には元通りになった。
「何っ!? ぐぉっ!!」
すぐにブウのパンチをくらい吹き飛ばされ岩山に激突するラディッツ。
「兄ちゃん!」
悟空は肩に違和感を感じ振り返るとブウが肩を人差し指でちょんちょん叩いていた。
「舐めやがって……!」
悟空が拳の弾幕と言わんばかりの攻撃をするが、ブウは身体を変形させて遊びながら避けていた。そして、攻撃のわずかな切れ間にヘッドバットをくらわせる。
「がぁっ!」
悟空が仰け反り少し後退する。ブウの方を見やれば、指でかかってこいと挑発する。
「この完全に遊んでやがる……」
突如、横から巨大な気弾がブウの上半身を消し飛ばした。
「俺を忘れるんじゃねぇよ」
ラディッツが放った気弾であったが、ブウは何もなかったように復活する。ラディッツを一瞥することもなかった。
その様子にラディッツは久しく忘れていたサイヤ人らしい怒りがこみ上げる。
「ぶっ殺す!」
ラディッツはブウに再び飛び掛かった。
「兄ちゃん! ダメだ! そんなんじゃやられちまう!」
ブウはそれを一瞥することもなかった。ラディッツは拳を振りかぶりそのままパンチする……かと思いきや、ブウの腰を掴みにかかった。
「?」
ブウはまた打撃で来ると思っていたためか、少し驚いていた。そのまま後ろに回り込んだ。
「舐め腐ってんじゃねぇぞ! コラぁ!!」
そのままジャーマンスープレックスを決めた。魔人ブウの頭は完全に地面に突き刺さって埋まった。
「カカロット!! 抑えろ!!」
「あ、あぁ!!」
悟空は、ブウの腕を足で抑えつけ足を両腕で掴んだ。
「イーヴィ! これでいいだろ!」
「逆さに棒立ちさせるとは、お見事! いやぁ、プロレスで遊んでてよかったねぇ」
「ふざけてる場合か!! 早くしろぉ!! 長くはもたんぞ!」
ブウは、振りほどこうと暴れるが四肢を完全に封じられている。力の差があれどこれほど完璧に抑えられては、簡単には抜け出せない。
イーヴィはブウの近くまでいきデブのブウにやった時の様に、特殊なエネルギー波を飛ばす。
ブウの背から小さな物体がはじき出され、それは悟飯となった。
「うぉっ!?」
ブウの背が元の大きさに戻ったために、ラディッツと悟空の抑えが外れた。ブウの大きさの変化に合わせて抑えることはさすがにできなかったようだ。
「予想以上に上手くいったわね」
イーヴィはそれこそ二人が倒されても一人でどうにかする自信もあった。もちろん、悟飯を救出しつつだ。
「だが、まだ終わってないぞ」
「あぁ、悟飯も気絶したままみてぇだし」
ブウは地面から飛び出し、怒りの形相を浮かべている。せっかく吸収したものをはぎ取られ頭にきているらしい。
「もう私たちの勝ちは決定したようなものだけどね」
「は?」
「いってぇどういうことだ?」
イーヴィは上を指差す。
「い、いつの間に……!」
「で、でけぇ!」
そこには、惑星と見紛う程巨大なエネルギー球だった。
「早く悟飯を連れて離れなさい!」
「あぁ!」
ラディッツと悟空はすぐに悟飯を連れて遠くに飛びさる。
ブウは巨大なエネルギーに対してエネルギー弾を撃ち込むがそのまま吸い込まれていく。
「これが私の元気玉……神としての力が集まったモノ。その名も信仰玉よ!」
イーヴィは信仰玉のすぐ下のところまで瞬間移動した。
「これで終わりよ!!」
イーヴィは信仰玉をブウに投げつけた。魔人ブウはそれを受け止めた。しかし、その巨大なエネルギーを押しとどめるのは魔人ブウと言えど不可能だった。
「保険をかけておいて正解だったわ」
イーヴィの神としての力はどれだけ多くの人から強い感情を向けられているかによる。ほぼ万能な力ではあるものの大きな事象ほど大きく力を消費してしまい、自身の存続さえ危ぶまれる。今までアイドル活動やら武道会出場、研究開発、都市開発etc……と、様々な活動を行ってなお大きく力が溜まることはなかった。それにも関わらず一連のブウに対する力の行使が可能となったのは偏にドラゴンボールのおかげだ。ドラゴンボールで「すべての人々がイーヴィに対して特別な思いを抱かせる」という願いを叶えたのだ。何故か、イーヴィの関係者に対してはあまり効果がないが、重要なのは数なので莫大な力を手に入れられた。
「さようなら、魔人ブウ。さようなら、ドラゴンボールワールド」
「ぐ……ぎぎ……!!」
「また会うこともないでしょうけど、末永く続くといいわね。終わってしまったはずなのにまだまだ続くこの世界をいつまでも楽しみにしてるから!」
それは誰に言っているのか、その場の誰にもわかることはなかった。ただの一ファンの発言でしかないので当然である。
「それじゃあね。はぁああああああ!!」
最後の気による一押しをする。ブウは押さえ切れなくなりそのまま圧倒的なエネルギーの奔流に細胞の一片も残さず消し去った。
直線上の岩山も削り取り、その後信仰玉は宙へと飛んで行った。
イーヴィは悟空とラディッツと喜びを分かち合い。いつものように最初から倒せただろと図星を突かれたりした。悟飯も無事意識を取り戻した。
こうして、本来であれば宇宙の存続さえ危ぶまれるほどの大災厄――魔人ブウをほぼ被害なく倒したイーヴィ。後は元の世界に帰るだけ。一抹の寂しさを感じつつ惜しむことはない。
「明日にはお帰りか……」
そう独り呟いた。
次回、エピローグという名の新章に突入します。
つまり、もうちっとだけ続くんじゃ。
予定では3~5話ぐらいで終わらせる予定です。もっと長引く可能性もあるし超の方も気が向いたら書くかもしれません。でも、次で最終章なのは確定事項です。