外道屋のドラゴンボール   作:天城恭助

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これはやっても良かったのだろうかと疑問に思いつつも終盤だし別にいいよね的なノリ。


69 奥の手

 諦めるには、まだ早い。

 まだここで誰も死んではいない。

 というより、私と同一人物だと言うディザルムが好んで人を殺すことは考えづらい。西の都を破壊したのは、おそらく悟飯たちの怒りを焚き付けるためで、闘うことを引き起こすためだ。それは何のためか。本人も言った通り私への嫌がらせだろう。ならば、何故私に嫌がらせをするのか――

 しかし、この考察をしている様な時間はない。今できる最善を尽くす以外にできることはない。少し取り戻した力でできる対抗策。少しと言っても、これだけあればかなり色々できそうだ。

 

 

 

 

「さて、どの様に殺してさしあげましょうか……」

「へ……万事休すか……?」

「フリーザ!!」

 

 悟飯が大声で叫ぶと同時に気弾を放った。フリーザは飛び上がって避けた。悟空は、爆風にあおられながらも何とか立っていた。

 

「くたばりやがれぇ!!」

 

 フリーザが飛び上がった、その背後からラディッツは、次元刀で斬りかかった。

 

「殺った!」

 

 フリーザは脳天から真っ二つに……なってはいなかった。

 

「何ッ!?」

「甘いよ。残像っていうやつさ」

 

 残された残像は消え去り、本物はラディッツの背後を取っていた。そして、フリーザの尻尾がラディッツの首を絞めていた。

 

「お前をこのまま一思いに殺すのは容易い。でも……それで俺の気が晴れると思うなよ!」

 

 ラディッツをサンドバックのように何度も何度も殴りつけるフリーザ。

 

「助けに入りたければ、どうぞ。すぐに死ぬことになるけどね」

「く……くそっ……!」

 

 悟飯は助けに入ることはできず、悟空は立っているのがやっとの状態だ。悟天、トランクス、ベジータは未だに気絶している。

 イーヴィはディザルムを警戒して、身動きが取れなかった。

 

「早くしないと、ラディッツが死んでしまうぞ。俺はお前が何をしようが邪魔をするつもりはない。何をしようとしているかも大体見当がつくしな」

 

 おそらく、ディザルムのその言葉に嘘偽りはない。既に対策をされているとわかっていても行動するしかない。この手は少々ベジータから怒りを買いそうでもあるが、最も勝率が高い。

 気絶しているベジータの左耳に神の力によって創り出したポタラを付けた。

 

「悟空っ! 受け取って!」

 

 イーヴィは悟空にポタラを投げて渡した。悟空はふらふらながらもしっかりとキャッチできたようだ。

 

「それを右の耳に付けて!」

「……事情はよくわかんねぇけど、イーヴィがそう言うってことは逆転できる何かがあんだな……!!」

 

 フリーザはラディッツをサンドバックにするのに夢中だ。目の端で気付いているようにも見えたが、放っておいても大丈夫と軽くみたのだろう。

 

「これでいいか!?」

「ばっちし!!」

「なんだっ!?」

 

 悟空はベジータに、ベジータは悟空に引き寄せられた。そして、そのまま二人が激突したと思った瞬間、発光し、一人の人間へと変わった。

 

「これは……なるほど。ベジータとカカロットで合体したわけか……まぁこの際、仕方ない。絶対にフリーザを倒すにはこれぐらいしなくちゃならないってことだろう」

 

 二人の意識が混ざり合い、新たな人格が生まれているがベースは悟空とベジータだ。ややベジータの要素が強く、この合体に関して多少の不満があるのだろう。だが、仕方のないことだと割り切ってくれたようだ。

 

「なんだ、貴様は?」

 

 さすがのフリーザも唐突に現れた、人物に驚きを隠せないように見える。

 

「ベジータとカカロットが合体して、ベジットってところかな」

「合体……だと? サイヤ人が合体したところで、この進化したフリーザ様に勝てると思うのか?」

「どうだろうな? まぁ、良い戦いにはなると思うぜ」

 

 ベジットは首を鳴らして、構える。

 

「その余裕いつまで持つかな?」

「御託はいいからかかってこいよ」

「減らず口をっ」

 

 フリーザはラディッツをベジットに投げつけた。

 

「おっと」

 

 ベジットはラディッツを受け止め、その硬直を狙ってフリーザは攻撃した。

 そのパンチをなんとか屈んで避け、フリーザはすぐさま屈んだベジットに蹴りを放つ。それも躱してベジットは距離を取った。

 

「ちっ」

 

 フリーザはこれで仕留められると思っていたためか舌打ちを打つ。

 

「全く……汚ぇマネしやがるな。ラディッツ、大丈夫か?」

「あぁ……なんとかな……」

「よし。悟飯!」

「は、はい!」

 

 悟飯がベジットの下に向かった。そして、ベジットはラディッツを悟飯に渡した。

 

「ラディッツとチビ共連れて、ここから逃げろ」

「ぼ、僕も……! いえ、わかりました。負けないでください」

「……必ず、勝てよ……」

 

 ベジットは2人の言葉にサムズアップで応えた。

 悟飯がトランクスと悟天も背負ってこの場から離れようとするとフリーザが狙い撃とうと指先を悟飯に向ける。

 

「止めろ」

 

 ベジットはフリーザの腕を掴んで止めた。フリーザはすぐさま振り払い、パンチをしたが、ベジットはそれを受け止めた。

 

「確かに、随分と強くなったようだね」

「まぁな。これで勝てねぇようならプライドどころか精神的に壊れちまうぜ」

「ふっ、ぬかしたな。勝てて当然というわけか。このフリーザ様をコケにしやがって!」

 

 

 

 

 その一連の流れを見ていたイーヴィたちはただ眺めているだけだった。

 

「これでようやく……」

「面白くなる?」

 

 ディザルムの呟きに対してイーヴィは先読みして言った。

 

「わかっているじゃないか。ま、それも当然の話か」

 

 同一人物であれば展開や手段の好みぐらいはわかる。互いにそれを理解していた。

 

「あなた、本当に勝つ気があるの? 確かにあのフリーザは現時点で強力無比。それにスーパーサイヤ人ブルーにはなれないだろうけど、あのベジットよ」

 

 おそらくは現時点で最高の強さ。実際のところはわからないが、破壊神ともまともに戦えるはず。

 

「勝つ気があるとかないとか、そこは問題じゃない。目的を達成できるかどうかだ」

「それであなたの本当の目的はなんなの?」

「先刻も言った通り、嫌がらせだよ」

 

 嘘は言っていない。だが、本当のことは言っていない。それは推測でしかないが間違っていないとほぼ確信をもっていた。ただ、そう確信を持ててもその本当のことは未だにわからなかった。

 

「なんでも思い通りに行くとは思わないでね」

「それはこっちの台詞だよ。君らはずっと俺の術中だ」

 

 

 

 

 

「これが超ベジット!」

 

 ベジットが超サイヤ人へと変化する。その気の圧はゴールデンフリーザにも劣らぬように見える。

 

「ただの超サイヤ人じゃないか。今更そんなもので俺に勝てるか?」

「勝てるさ」

「生意気なサイヤ人がっ!」

 

 右手の人差し指からビームを連射するフリーザ。ベジットはそれを簡単に躱してみせた。

 

「どうした? そんなもんかよ」

「これならどうだ!」

 

 フリーザは両手の指からビームを放った。

 

「さっきと大して変わらないじゃないか」

「ふっ」

 

 ベジットの言葉をフリーザは一笑に付す。舐められているのは腹が立つが本当にそうならこの攻撃は決まる。

 

 

 ベジットは先ほどよりも数を増したビームを難なく避ける。だが、ベジットは違和感を覚え始めた。そして、確信へと変わる。

 

「ふんっ!」

 

 ベジットは自身の後ろから飛んできていたビームを拳で弾き飛ばした。

 

「ちっ」

「イーヴィとの戦いの経験が役に立ったぜ」

 

 本人の意図しない背後からの攻撃。気を探知・把握し対処する戦士たちにとってもわかりづらい攻撃だ。ベジットはフリーザが何かを仕掛けてくるという勘と悟空がイーヴィと闘った際の経験がその攻撃を避けさせた。

 

「今のはほんの小手調べですよ。次から本番です。行きますよっ!」

 

 フリーザは先ほどにも増して連続でビームを撃ち続ける。ただし、出鱈目に上下左右様々な方向にだ。フリーザが撃ったビームは、壁に当たると方向を変え、乱反射を繰り返す。反射したビームは消えることなく増え続ける。ビーム同士が接合し巨大化したり、壁に当たって複数に分裂を何度も繰り返し、その挙動を予測するのは不可能だ。ビームの密度は更に濃くなっていき、空間のほとんどがビームに塗りつぶされていく。

 

「これはお前も困ったことになるんじゃないのか?」

「心配ご無用です。当たったところで困りませんからね」

 

 フリーザにビームが当たったが、それも壁に当たった時と同じように反射した。

 

「なるほど」

 

 ベジットはいつも通り余裕の構えを見せるが、額に少しばかり汗を張り付けていた。

 

「ぶっつけでできるかは怪しいが少しばかり賭けをする必要がありそうだ」

「何を言っているんだ? お前はこのまま俺にハチの巣にされるんだ!」

 

 フリーザがベジットに向けて指を向けるが、ベジットは動じず目を閉じる。

 

「とうとう諦めたか? それで許したりしないがな!」

 

 フリーザがビームを放つ。しかし、ビームはベジットに当たることなく消滅した。

 

「なにっ!?」

 

 ベジットは赤いオーラを纏い、全身も少しスリムになっていた。つまり、超サイヤ人ゴッドになっていた。

 

「他のサイヤ人の手を借りられない今できるか心配だったが、問題なかったようだ」

「少し驚いたが、孫悟空がその状態になっても俺に敵わなかったんだ。貴様が何になろうと俺に勝てるものか」

「カカロットと今の俺とでは基本パワーが何倍も違う。それがゴッドの力を得たならカカロットの超サイヤ人ゴッドとは比較にならないと思うぜ」

「だからなんだ! 貴様は俺には勝てないんだ!」

 

 フリーザは口では強がったが、わかってしまっていた。今のベジットが自身よりも強い力を持っていることを。しかし、自身のプライドを曲げてまで鍛えて付けた力をサイヤ人二人の合体で超えられてしまったことを認めることができなかった。

 

「あっそ」

「この!」

 

 フリーザはエネルギー弾を放つが、ベジットは姿を消した。

 

「どこに消えた!?」

「後ろだよ」

 

 ベジットが肘でフリーザの後頭部を殴りつけた。吹き飛んだフリーザを追いかけ蹴りで叩き落す。

 

「ぐぬぬ……くそぉ……!」

 

 フリーザは何とか立ち上がろうとすると目の前にはベジットの掌があった。

 

「二度と生き返ってくるなよ」

 

 ベジットはそのままの体勢でエネルギー波を放った。

 

「ち、ちくしょぉおおおおおおお!!」

 

 フリーザは跡形も残らなかった。

 

「ふぅ……しかし、これだけやって壊れないとはどんだけ頑丈なんだ。この建物は」

 

 

 パチパチパチと拍手を鳴らす、ディザルム。

 

「お見事。さすがだ」

「それでどうするんだ? 今度はお前が戦うのか?」

「そうだね。ただ俺としては、勝つ気も負ける気もないというか、目的は既に半ば達成しているしね」

「何?」

「後はどう終わりを迎えるかだよ。勝敗は割とどうでもいいんだ」

 

 まるでイーヴィの様なディザルム。同一人物であるというのだから当然のことなのだろうが、姿形を変えた状態では違和感がある。

 

「あぁ、そうだ。どうしてこんな嫌がらせをするのかを言っていなかったね。そもそも俺がこの世界に現れた明確な原因は俺自身もわかっていない。だが、推測される原因は魔人ブウをイーヴィが倒してしまったことだ」

 

 まるで因果関係が見えてこない。

 

「君もイーヴィが未来の出来事を色々と知っていたことを聞いただろう? あの魔人ブウを倒すのは本来なら孫悟空が元気玉で倒すはずだったんだ。そして、悟空は『今度はいいやつに生まれ変わって、一対一で勝負をしよう』と、願うんだ。それを閻魔大王が聞き届け10年後にはそれが叶うはずだった」

「それと私に嫌がらせすることと何の関係があるのよ」

「話は最後まで聞け。この世界は……イーヴィにとっては物語の世界だ」

「な、なな、ここで暴露するぅ!?」

「な、何……?」

 

 さすがのベジットもその事実には驚きを隠せないようだった。

 

「イーヴィが未来を知っているのも当然だ。物語としてこの世界の話を繰り返し見てきたのだから。そして、本来であれば10年後に魔人ブウの生まれ変わりと悟空が修行しに行くところで物語は完結する。しかし、イーヴィが魔人ブウを倒してしまったことでそこで物語は完結してしまった」

 

 しかし、そこまで話を聞いてもこの嫌がらせには繋がらない。

 

「完結してしまったこの物語だが、イーヴィはこの世界の住人ではない。いずれ元の世界に帰る。イーヴィが帰れば変化はそのままにイーヴィの痕跡がこの世界から消える。だが、イーヴィが残した痕跡が大きすぎる。どれもこれもイーヴィが居なければ成立しないようなふざけた現象ばかり、だからイーヴィがこの世界から居なくなる代わりに俺がこの世界に誕生した」

「……? 待って、その理屈なら私が元の世界に帰った後にあなたが誕生するんじゃないの?」

「その辺は、元悪神だからの一言に尽きる。この膨れ上がった力を使えば、時間の概念を捻じ曲げるのも容易い。つまり、俺は悪くない」

「この……どこぞのレプリカか過負荷みたいなこと言ちゃって。それでなんで誕生したら私に嫌がらせすることになるのよ?」

「俺はイーヴィと全く同じ記憶を持っているが、俺はお前と同じように元の世界に帰ることができない。この世界の住人として誕生したからだ。故郷に帰ることもできなければ、友に会うこともできない。一生この世界に縛り付けられたままになった。これで、恨まないはずもないだろう。例えそれが、同じ自分自身だったとしても」

 

 元の世界に帰れない。それは確かに自分にとっても死ぬことの次に嫌なことかもしれない。この世界も好きではあるが、結局は自分にとっての現実ではない。

 

「てめぇの理屈はわかった。だが、西の都を壊す必要はなかったはずだ」

「そうだね。だから、壊してない」

「何!? 確かにお前が見せていただろうが!」

「まぁ、正確には壊した直後にすぐに元通りに修復したんだけど。西の都にいた人たちは白昼夢でも見た気分なんじゃないかな」

 

 い、命が軽い。ドラゴンボールにそれは付き物な感じもするが。頭の中で『でぇじょうぶだ。ドラゴンボールがある』という台詞が浮かぶ。

 

「なら、もう闘う理由もないはずだが? 目的はもう達成したんだろう?」

「ここまでやって闘わないなんて選択肢はないだろ。俺はこのやりきれなさを全て何かにぶつけたい」

 

 ベジットが笑みを浮かべる。

 

「いいぜ。お前の苛立ちに付き合ってやるよ。全力で来な」

「そう言ってくれると思ったよ。サイヤ人ならね」

 

 

 ……うーん。私空気。そんでもって、私のキャラじゃなくない?

 尽きぬ違和感に困惑しつつも、戦いを眺める以外にできそうなことはなかった。




次回で最終話。
と、思ったけどまだ続きますってパターンはないです。気が向いたら書くかもしれないけど。

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