古明地さとりは覚り妖怪である   作:鹿尾菜

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depth.253廻天楼閣 中

「なんでパルスィは怒ってるんだい!」

初手スペルカードを切り出したパルスィに向かってそう叫ぶ。飛び交う弾幕の音で途切れ途切れにしか聞こえないだろうけれどそれでも叫ぶ。

すでに戦いは始まっちゃったしあたいまでなぜか狙われている身だ。

「私が妬ましいと感じるほどの妬ましさがそこにあるからよ」

 

「それであたいを巻き込まないでよ‼︎」

空を飛び回り狙いを定めさせないようにしながらでも流石にパルスィの言い分には叫びたくなってしまう。

おっと!回避…

体をフラットスピンのように失速落下させて進路上に張られた設置弾幕を避ける。

反撃しないとやられるねこりゃ…

「なにごちゃごちゃ言ってるのよ。そいつが邪魔をするんだったらぶっ飛ばせばいいだけよ」

 

「そうだな。まあ邪魔ってわけじゃないけどなんか術かけただろ」

霊夢も魔理沙も戦闘狂じゃないのかい⁈

若干理性が飛びかけているように見えたのはやっぱり見間違いじゃないか。でも面倒だねえ…正気に戻すにはパルスィを叩きのめせばいいんだけどあたいまで攻撃対象。三つ巴になってもいいんだけどそしたらあたいも吹っ飛ばされちまう。痛いのは嫌いなんだよなあ。

「術なんてかけてないわ。私はただ心の中の妬みを引き出しただけよ」

薄ら笑いを浮かべ見下し気味にそういう彼女。流石にあれじゃあ普通の人でもキレるわなあ。

それにその妬みって……

2人の目線を追いかけてみる。

うーん?そういえばパルスィって大きかったような。

あたいより一回りくらい身長は低いのにあたいより意外と大きい。あーそういうことか……確かにあれは人によっては妬みの種だったね。

一瞬こっちを睨まれた。ついでに視線は胸。

まさかあたいもこれで同一視された?そりゃないよ!

スペルを射出する銃を引き出す。

銃口の長いそれはずっとあたいの背中でガチャガチャと暴れまわっていたもの。

セーフティを解除スペルカードを挿入。起動…発射用意完了。

目標、弾幕。

三人から放たれる全ての弾幕を射界に納めるように移動する。あかり時間はかけられない。チャンスは一瞬だけ。

 

「『猫符キャッツウォーク』!」

放たれたスペルカードが弾幕の中で炸裂。周囲の妖弾、魔弾を弾き飛ばし相殺する。

そのまま足早にその場を離れる。死角から飛んできていた魔弾があたいが少し前にいたところを通過していった。あっぶな…

 

「妬ましいからって戦うのやめてよ‼︎こんな戦いなにも生まないでしょ!」

それにこんなことしている場合じゃないって言ってるじゃん‼︎お空の容態がどうなっているのかちょっとは考えておくれよ‼︎

 

「そうね…誰も得しないわ。私がスッキリするけれどね」

全然こっちの思い伝わってない…

「酷い!」

ええい‼︎博麗の巫女は鬼か!いや鬼はそこらへんにゴロゴロいるけれどさ!

「戦う理由なんてそんなものでしょ」

なんだろう…胃が痛くなってきた。こんなことしている場合じゃなのに…

再び解き放たれる霊弾。あれでまだスペルを切ってないんだから恐ろしい。通常弾幕だけで勝ちに行くっていうのは本当らしい。一度真上に上昇した霊弾が降下して目標であるあたいとパルスィの方に向かっていく。

迎撃…しようにも速度が速いしこの距離じゃ迎撃する隙を突かれる。急降下で速度を稼ぎ逃げ出す。

急旋回。それでも霊弾は付いてくる。旋回半径を強引に縮める。

当たる直前にいきなり動かれたからかそのままあたいを追ってきた霊弾はオーバーシュート気味に…パルスィを追尾していた弾幕の中に突っ込み盛大に花火を打ち上げた。

危ない危ない…

 

ホッとしたのもつかの間。今度は協力な魔力の収束を感じ取る。鳥肌が立ち本能が警告を促す。

「これでトドメだぜ!大人しく胸をよこせ」

 

「言ってることがめちゃめちゃだよ‼︎」

 

魔理沙の手に収まる小さなそれがまばゆい光を放っている。このままじゃまずい。

逃げる選択肢一択だ!

射角を取られちゃまずいと上に上昇。当然その照準はあたいを追いかけるわけで、収束が限界になったそれが光るのを一瞬だけやめた。

でもそれは本当にわずかな時間であって、直後には極太のレーザーがまっすぐこちらに向かってきていた。

霊夢は…パルスィの方に集中している。なら対処するのは目の前のこれだけで良い。

体を横ひねり推力を無理やり上下反転。

銃でちょっと大きめの弾幕を作り出し、レーザーに向けて放つ。

接触まで後二秒。

放った弾幕がレーザーと接触。ようやく進む方向が変わった直後、すぐそばで発生した爆発であたいの体は下に向かって吹き飛ばされた。

 

一瞬足元が熱くなった。

振り返れば、二本目のレーザー砲があたいのすぐ後ろを通過していっていた。

 

「っち…読まれてたか」

 

なんとなくだけど想像はできていた。

そもそもあれが連射できないなんて確証もないからね。

流石に三連射はできないみたい。

 

緑に怪しく光る目が一層濃くなった。

確かあれって嫉妬の深さで余計洗脳が強くなるんだっけ?

でも聞いたって洗脳じゃないっていうからなあ…感情を表しやすくしているだけだってことか…

ということは人はみな闘争を求めるものなのか。まあ生き物自体が元々生への闘争を求めて今まで生きがならえてきたものだから必然できてもあるのだけれど。

「おもしれえ!もっとやろうじゃないか!」

箒の後ろに手に持っていた何かをセットした魔理沙が笑顔を浮かべる。

もう嫌だ!なんて叫んだところでやめてくれるはずはない。

 

あたいにできることは踵を返して逃げるだけ!

「鬼ごっこか?いいぜ受けてたつ!」

 

そう叫ぶなり轟音が周囲に響き渡る。その音の主は後ろから追いかけてきている魔理沙だった。

とてつもなく早い。このままじゃ追いつかれる。

 

左右に旋回を繰り返し射線を通さないようにする。どうやらあの状態だと前にしか撃てないらしいから。

シザースするように軌道が絡みあう。バレルロールをして軸線から外れ、縦に旋回を繰り返す。

世界が逆さまになる。

慣れてないと吐きそうだよ。

 

速度があっても旋回がそれに追いつかなければ撃ち落とすことはできない。どうやら向こうは苛立っているようだ。

当たらないとわかっているのに無理やり上から被せるように攻撃してきたり突き上げを行なってくる。

 

当たらないとはいえ心臓に悪いっての‼︎

反撃をしたくないから避けることに専念する。原則空戦を行うときは速度を落としてはいけない。だからなるべく高度優位を保つように逃げ回る。

高度優位が保てなくなったら速度優位を保つように努力する。向こうだってあたいより早いとはいえ減速するときは減速するし高度が下がるときは下がる。

それに…ずっとその加速をやっていられるわけじゃないだろう?

 

 

 

でも終わりというのは案外呆気なくて、飛び交う弾幕のうちランダムに放っていたであろう弾幕に偶然パルスィが飛び込んで終わった。結果だけ見ればなんともあっけなく、されどその過程はとてつもなく険しい。紙一重の戦い。なんだか不思議なものだ。そう思うのはあたいだけだろうか?

 

嫉妬の感情を揺さぶられるのが止まったのか2人ともピタッと攻撃を止めた。正気に戻ってくれたようでなによりだよ。

 

速度を落としまた地面に降り立つ。

 

「あー疲れた……」

そう言うのはパルスィ。被弾でボロボロになっているけれど戦う前と対して振る舞いは変わらない。

 

あたいは生き延びる事は出来た……

ただあたいはパルスィより疲れた。もうやだこんなの……

「ほんとにこっちは忙しいんだからやめてよね…」

こんなところで余計な体力を奪われるのは心外だった。でも一番の被害者であるはずの2人は全く気にしている様子がない。だから強く責めることは出来なかった。

「悪かったわね」

めんどくさそうに言われてもねえ…だったら今度飲み物一本奢ってよ。

 

「準備運動も済んだしさっさと行きましょう。どこへいけばいいの?」

息切れすらしていない霊夢が歩き出す。向かうは旧都。

「取り敢えず地霊殿だね。こいしとも合流したいし」

やや丘になっているこの場所だからこそ見える地霊殿を指差す。それを確認した二人はあの大きい建物のところまで行けばいいのねと言って飛んで行ってしまった。

あたいの案内はもういらないと言わんばかりだ。多分胸が大きいことが原因でさっき戦う羽目になったから色々と感じるところでもあったのかもしれない。

あれ⁇そういえば今厳戒態勢だったような……

いいや。覚えていないし。

「じゃああたいはこれで」

二人を追いかけるために飛び上がろうとする。

「あれだけ余裕そうに戦ってるんだったら大丈夫でしょ」

その言葉が気になって動きを止めた。

「どういうことだい?」

まさか博麗の巫女を試したのだろうか?でもそんなことをする必要があるのかな?

「なんでもないわ。あの2人を連れて気なのはどうせお空のことでしょ」

え?そうだけど…どうしてそれを知っているんだい?お空の事は鬼の四天王にしか教えていないしあの二人がその事を外部に漏らすなんて事は考えられない。

「なんでそれをって顔しているわね。簡単よ。さとり(あいつ)相談されたのよ。お空が心配だって」

それはさとりが失踪する2日前のことだったらしい。相談してたんだ…あたいじゃなくてパルスィに…でも、それってさとりはこのことを想定していたの?そうとしか思えないんだけれど……

実際こうなることを予測しているかのようにさとりが残したものが機能している。

「そうだったんだ……」

そんなのあたいにも相談してくれればよかったのに…やっぱりこういうことは難しいのかな?

「あんたもあいつも不器用でやになっちゃうわ」

 

「あはは……なんかすまないねえ」

確かに不器用かもしれない。もしあたいがさとりに相談を受けていたらどうなったかな?そうしたらあたいはお空につくかさとりにつくかで板挟みだったかな…

「ほんとよ。どいつもこいつももっと素直になれっての」

ある意味パルスィの方が一番さとりに近いかもしれない。

「あいつがあまりにもさとりらしくないからでしょ。私はただ心の底に隠れた嫉妬心を表に出すだけよ。ついでにある程度貰っていくけれど」

さっきも2人からある程度嫉妬心を吸い上げたのだろうか?やられた割に結構ツヤツヤしている。

「でもあれって胸の事なんじゃ」

 

「きっかけはそれかもしれないけれど嫉妬心っていうのは根本が同じだから結構吸い出せるものよ。人って嫉妬に駆られると破滅するし。まあ私としては破滅したあとの方が極上なんだけどね」

うわ…さすがだよ。

「嫉妬をわざと与えて破滅させてから再収集でもしているのかい?」

 

「あらよくわかったわね。気に入らない相手だったらたまにやっているわよ」

流石だね…まああたいも時々死体を持って帰る癖があるのだから人のことは言えないかなあ。言う必要もないし性格が悪いと文句を言えるほどあたいは性格がいいとは思ってない。それが罪だったとしてもだ。どうせ妖怪に罪だろうとなんだろうと関係ないけれど……

「それよりいいの?」

 

「いいってなにが……」

 

なんかサイレンの音がなっているような……

咄嗟に旧都の方を見れば地上から棒のようなものがせり上がってきているのが見えた。

あ、しまった‼︎旧都の防衛装置が作動しちゃってる‼︎

やっば‼︎そういえば厳戒態勢の時は宙を飛んじゃダメって決まってるんだった!

「こんなことしてる場合じゃなかったああ‼︎」

 

「あらかじめ伝えておけばよかったのに」

呆れた声が聞こえる。

「忘れてたんだよ!」

すぐに2人を追いかける。どうせあのままじゃ空で逃げ回っているはずだから。

でもエコーあたりに伝えておいたから大丈夫なはずなんだけど…なんでえ?

え?まさかあたいが同伴していなかったから?そんなまさか…

 

 

そのまさかだった。

 

「こちらエコー。ターゲット確認。先導なし。迎撃を許可する」

見張り台に備え付けられた20×80の双眼鏡から目を離しため息をつく。

迎えにお燐さんが行くと行ったのだから連れてくると思ったらどうやらこれだけ…おそらくお燐さんはやられたのだろう。となればあの2人は敵で有るという認識だし下手に招き入れたら全てを破壊して去っていく危険がある。地霊殿を任されている身からすればそれは何としても阻止しなければならない。

ついでにお燐さんの仇も。

既に第1迎撃ラインに近づいている。

「エコーより各員。ターゲットマージ。ボギーは2B42より接近」

 

『了解。こちらグール。ターゲットコピー。シーカーオープン、マスターアームオン』

 

「迎撃用意…」

 

まだ…まだ引きつけて…

 

今‼︎

地底の迎撃装置が一斉に稼働した。




サポートの方々は制止をしていましたがことごとく無視された模様。
なお防衛システムは全てにとり達による手作り品

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