ストライク・ザ・ブラッド〜鬼の目にも涙〜   作:*天邪鬼*

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宿題が………


28話 模造天使

 

真夏の太平洋上に浮かぶ無人島。

そこは高温と湿気が混ざり合い常人なら即熱中症に陥り気を失ってしまいそうな環境だ。

しかし、現在は真逆の環境に変貌していた。

気温は氷点下まで落ち湿気は雪か氷に変わって吹雪を巻き起こしている。

吹雪の中心には天まで届く氷の塔が悠然と聳え立っては根を張るように辺りの海までも氷結させて一種の結界を張っていた。

その光景は異常気象の領域を超えている。

そんな中、南極のような極寒の地に寒さを忘れて二人の男が言い争っていた。

 

「そんなものがあいつの望んでいた幸福なのかよ。あんたが勝手にそうお思い込んで勝手に押し付けているだけじゃねーのか。世間じゃそういうのを道具扱いっていうんだよ!!」

 

「黙れ第四真祖………貴様にそれを口にする資格などありはしない。自分自身のことすら何もわかっていない貴様には!」

 

古城と今回の事件の首謀者たる叶瀬夏音の叔父の叶瀬賢生は睨み合って声を震わせていた。

お互い身体に霜が張り付いて人間である賢生に至っては唇が青く低体温症になりかかっている。

それでもお互いに譲れないものの為に言い争い続けているのだ。

 

「____下りなさい、賢生!!」

 

そこに、北欧の国アリディギアの第一王女であるラ・フォリア・リハヴァインが鋭い声で警告した。

しかし、その警告は間に合わず賢生の頭上で爆発が生じた。

爆発の衝撃で氷の塔の一部が崩壊して複数の氷塊が賢生に襲いかかる。

不幸にも、古城との言い争いに意識を向けていた賢生は落下してくる氷塊を躱す余裕はなく、まともに無数の氷塊を浴びることになってしまう。

賢生の声は氷塊の落下音にかき消されて聞こえず、姿も巻き上がる雪に隠れて賢生の安否が確認することができない。

突然のことに警告したラフォリアを始め、古城と雪菜も固唾を吞む。

 

「育児方針についてお話ししてるところ悪いんだけどさぁ。あたし達そろそろ帰りたいのよね。さっさと第四真祖をぶっ殺してくれないかしら」

 

三人の沈黙に気怠げな声が響き渡った。

賢生の後ろに待機していた女性の吸血鬼である。

吸血鬼は槍の形をした眷獣を手にして薄ら笑いを浮かべていた。

隣には獣人が吸血鬼と並んで唸り声をあげている。

吸血鬼の女が槍型の眷獣で氷の塔の一部を破壊したのだ。

 

「ベアトリス・バトラー!!」

 

氷の塔の一部を破壊した吸血鬼に気づいて雪菜は叫びながら雪霞狼を構える。

ベアトリスと獣人の男は賢生の護衛を担う者の筈だ。

突如起こった敵内部の裏切りに古城とラフォリアも遅れて臨戦体制に入った。

 

「出ないとこいつらが売れ残っちゃうからさぁ!!」

 

ベアトリスは叫ぶと同時に何やらリモコンを操作する。

すると、後ろに置かれていたコンテナが内部から弾け飛んだ。

白い煙が立ち込めて中からはゆっくりと二つの影が現れる。

朧げに現れたのは四枚の翼に魔術模様が全身に巡らせられている姿。

さらに特徴なのは金属製の仮面である。

 

「「仮面憑き!?」」

 

古城と雪菜が愕然と叫ぶ。

現れたのは数日前に夜如達も含めて戦った相手だったのだ。

賢生の計画はこの仮面憑き同士を複数回戦わせて蠱毒の要領で最強の一体を作り出し、天使を人工的に生じさせるものだ。

その名も”模造天使(エンジェルフォウ)

完成体に選ばれた模造天使は氷の塔の中心にいて一時的に行動不能状態にいるのだが、未完成の状態でも古城達は仮面憑きに苦戦を強いられた。

それが二体もいるのだから古城と雪菜には緊張が走る。

 

「クローンか………私が用意したのとは別に作っていたな」

 

落下した氷塊の中から賢生がよろめきながらも出てくる。

偶然なのか大きな怪我をしている様子はなく軽傷で済んでいた。

 

「こっちも商売なんでね。完成体には性能面とか色々程遠いけど制御できるあたりこっちの方が使い勝手はマシってところかしら」

 

賢生とベアトリス達が完全な協力体制にある訳ではないように示唆できる会話が交わされる。

リモコンをおもちゃのように扱うベアトリスは賢生を心配する様子もなく槍の眷獣を片手に歩き出す。

古城は敵ながらベアトリスの行動に歯を食いしばり怒りを覚える。

 

「お姫様、あんたのクローンは兵器化しなくても雄どもには高く売れるだろうし?全身バラバラにして増やせるだけ増やしてやるよ____ぐはっ!?」

 

「ベアトリス!」

 

悠々と古城達を見下しながら歩くベアトリスの演説は最後まで続くことはなかった。

ベアトリスは突如として全身を痙攣させてその場に蹲ってしまったのだ。

後ろを歩いていた獣人は咄嗟にベアトリスへと駆け寄る。

 

「黙れよ年増………天使だとか王族だとかクローンにして増やすだとか………好き勝手言いやがって………!」

 

古城の瞳は赤く染まっていた。

これまで溜りに溜まった怒りが引き金となり吸血鬼としての力が活性化しているのだ。

抑えきれなくなった魔力は雷撃として辺りに撒き散らされ、雪菜とラフォリアは巻き込まれないよう距離をとっている。

ベアトリスが倒れ込んだのは古城の魔力の影響だ。

しかし、それは古城の意思で攻撃した訳でなく古城の魔力が漏れ出してたまたまベアトリスに当たっただけなのだ。

 

「いい加減頭に来たぜ!お前らの計画全部をぶっ潰してやるよ!!」

 

「調子に乗るなよ餓鬼が!!!」

 

禍々しい覇気を放って叫ぶ古城に対してベアトリスも負けじと魔力を放出する。

仮面憑きをも操作してベアトリスは完全に古城を倒そうと槍の眷獣を差し向ける。

同時に雪菜とラフォリアも迎え撃つ態勢に入った。

 

「「キリィィィィ!!」」

 

仮面憑きは甲高い悲鳴にも似た声をあげて上昇し、眩い光を発して古城達に襲いかかる。

古城も右腕を引き絞り第四真祖が持つ強大な魔力を込めて迎え撃つ。

 

「ここから先は、第四真祖()戦争(喧嘩)だ!!」

 

「キリィィィィ!!」

 

古城の魔力と仮面憑きの光が空中で激突する。

尋常ならざる二つの力同士が衝突して周囲に強烈な一種の災害の余波が撒き散らされた。

 

 

 

______と誰もが予想したその瞬間。

 

 

 

 

「はぁぁぁあ!!!」

 

真紅の半透明なオーラで象られた拳が怒号と共に二体の仮面憑きを後ろから殴り飛ばす。

その光景はこの場にいる全ての人物の虚を衝くこととなり、意気込んでいた古城とベアトリスも金縛りにあったかのように固まる。

巨大な真紅の拳に殴られた仮面憑きは凄まじい勢いで吹き飛び無人島に聳え立つ氷の塔の根元にめり込んだ。

同時に海からやって来たそれは賢生やベアトリス達が乗って来た船の上に勢いよく片膝をついて着地する。

拳同様の真紅のオーラを纏い船を半壊させながら着地した男は第四真祖とは別種の覇気を放出していた。

ベアトリスも獣人も仮面憑きを殴り飛ばす規格外な存在に目を見開いて後退りしてしまう。

異質な存在に恐怖を抱いているのだ。

そして、

 

「痛った〜〜〜!!!!膝打った!膝打ったー!」

 

夜如は思わず敵を目前に転げ回った。

 

 

 

_____________________________________

 

 

夜如が光に気づいたのは氷海を走っていたときだった。

浮き輪で泳いでた夜如だが途中で氷海が現れたことで上に乗り走ることに切り替えたのだ。

すると、二体の天使が眩い光を発して古城達と対峙してるのを確認して後ろから天使達を問答無用に殴りつけたのだ。

いつもの打撃とは違い、鬼気を拡大させて放った擬似的な拳は体力は消費するものの範囲も威力も格段に上がっている。

最近、強敵と戦うことが多くなったことで眷獣を使えるアスタルテからアドバイスを受けて習得した新技だ。

 

「南宮さん!!その人達を倒して下さい!!」

 

一瞬の硬直から逸早く抜け出したのは剣巫として訓練を受けて来た雪菜だった。

誰よりも早く状況を理解してベアトリス達が硬直している隙を逃さず叫ぶ。

ラフォリアも同様の判断力はあるのだが、夜如の存在を知らなかった為に雪菜と僅かながら差が生まれてしまう。

古城は言わずもがなだ。

 

「はい!!」

 

そして、自分で考えるよりも命令されて動く方が得意な夜如は雪菜の叫びに即座に反応できた。

転げ回るのをやめたと思った瞬間に鬼気を拡大させて巨大な真紅の手を作り出す。

魔力でも霊力でもないその異質な力は右手で獣人を左手でベアトリスを押し潰した。

 

「ぐぅ………何よこれ!?ロウ!!獣人ならこれどうにかしなさい!!」

 

「無茶言うな!こんなのどうにかできるものじゃねぇ………!」

 

ベアトリスにロウと呼ばれた獣人は口では否定していても一応は脱出しようと力一杯もがく。

しかし、関節技のように押さえつけているのではなく巨大な手で地面へと押し付けられている状態ではまともに動くことはできない。

力尽くに抜け出そうにも獣人と鬼では鬼の方が身体能力は圧倒的に高いのでそこいらの有象無象の獣人が抜け出すのは実質不可能であった。

 

「貴様は鬼か!」

 

真紅の手を見て賢生は目を見開いて驚く。

絶滅危惧種に指定されて世界的に見ても希少な鬼の能力は未知数。

歴史書のような文献でしか記録がないのだ。

それ故、オニとは古来、姿形は曖昧で存在が不確かなものとして伝わっている。

天使の研究をしていた賢生が驚くのは無理もない。

 

「空隙の魔女が手懐けているとは聞いていたが………」

 

「………そんなペットみたいな」

 

夜如は賢生の思わぬ言葉に肩を落とす。

 

「まぁ、嘘ではないですね」

 

「犬だよな」

 

「ほう、あの空隙の魔女は鬼を買ってるのですか?」

 

古城達も続けて口を揃えるので夜如の気はさらに落ちる。

しかし、夜如自身も従順に好き好んで従っているので雪菜の言う通り嘘ではない。

自覚しているからこそ、こそばゆいのだ。

 

「だが、単に希少なだけの鬼ではこの次元に存在しない存在に勝てる訳ない」

 

「………何のことですか?」

 

賢生がニヒルな笑みを浮かべる。

夜如が何のことだと首を捻ると無人島に衝撃が走った。

衝撃の中心地に視線を向けるとそこは氷の塔だった。

下から上にかけて巨大な亀裂が入り氷の塔は崩壊して行く。

しかし、その光景よりも夜如は別のものに目を奪われていた。

 

「我が娘には絶対に勝てん」

 

「キリィィィィィィィィ!!!」

 

三対六枚の羽を広げた白い天使。

叶瀬夏音はハイライトの無い瞳で舞っていた。

 

 




遅くなってごめんなさい!
いや、夏休みって忙しいじゃないですか。
アニメ見たりラノベ読んだりゲームしたりね。
まぁ、更新ペースは遅いですが、何とかやって見ます。

では、評価と感想お願いします!!

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