取り敢えず六月は多く更新したいと考えてますので、どうかお待ちください。
「ツナ、今から出掛けるぞ」
学校から帰って来た瞬間、玄関で待ち構えていたリボーンが言ったその言葉に綱吉は盛大に溜め息を吐いた。
「人の顔を見て溜め息を吐くなんて失礼だな」
「溜め息の一つや二つしたくもなるよ」
つい先日、意識を失った際に風紀委員会風紀委員長雲雀恭弥の根城、応接室に親友の獄寺隼人と山本武を唆して運び込んだという前科があるのだ。
コイツの考えている事は分からない。だが、考えている事は間違いなくろくでもないないものだろう。
とはいえ、それが分かっていたところで逆らう事は出来ないのだが。
「それで、どうしてなんだよ」
「マフィアのボス同士の顔合わせだ。歳が近い奴同士、親交を深めておくというのも悪くないからな。まぁ、正確には殆どがボス候補なんだがな」
リボーンの発言を聞き、綱吉は二度目の溜め息を吐く。
やっぱりろくでもないことだった。マフィアのボス同士の顔合わせ等、はっきりいってやりたくはない。そもそもマフィアのボスになるつもりは無い、なりたいと思う気持ちすら皆無なのだ。
「リボーンおじ様、支度を終えました」
綱吉がそう考えていると、ユニが玄関にやって来た。
その装いは普段家に居る時の服装とは違い、自宅に居る時でも可愛らしい格好をしているが、それでも一目見ただけでおめかししているのが分かる。
その事に訝しんでいると、自身が家に帰って来た事に気が付いたユニは視線を此方に向ける。
「ツナさん、お帰りなさい」
「ただいま。ところでユニ、その格好は…………?」
「ユニも今回の顔合わせに参加するんだぞ」
ユニに問い掛けた質問にリボーンが答える。
すっかり忘れていたが、ユニはそもそもジッリョネロファミリーのボス、アリアの一人娘である。それを踏まえて考えるならば、顔合わせに参加するのは当然の話だ。
「お前より歳下のユニがしっかりやっているのに、歳上のお前はやらないなんて情けないな」
「うるさい」
リボーンの発言に少しだけ苛立ちながら、綱吉は家に帰って来てから三度目の溜め息をつく。
「ユニ。出たく無いのなら出なくても良いんだよ?」
マフィアのボス、もしくは次期ボスの顔合わせ等、間違いなくろくでもない話である。
綱吉はそんなろくでもない事に妹分であるユニを行かせる事に忌避感を抱いていた。
だがユニ笑みを浮かべたままゆっくりと首を横に振る。
「いいえ、必要な事ですから」
「…………そっか」
ユニの言葉に綱吉は何とも言えないような表情を浮かべて空を仰ぐ。
そして何かを決意したかのように眉間に皺を寄せてリボーンに視線を向けた。
「分かった。オレもその顔合わせに出る」
「出ないんじゃなかったのか?」
「オレ一人なら出るつもりなんてなかったよ。でも、ユニが行くのならオレも行くよ。そんな所にユニを一人で行かせるわけにはいかないから」
本当の事を言えば、マフィアのボスやボス候補が集まる場所に行きたくなんてないし、顔合わせなんてしたくもない。実の妹のように大切にしている妹分もそこに行かせたくなんてない。
だがユニが自分で行くと決めた以上、止める事は出来ないだろう。それならば自分が側に居た方が安心だ。
そう考える綱吉にユニは顔を少しだけ赤くし、リボーンはそんなユニを見てボルサリーノを深く被る。
「ダメツナ。今度から特別授業で女性への接し方について教えてやる」
「えっ、何で?」
言っている意味が理解出来ない、そう言わんばかりに視線を向ける。
綱吉から向けられる視線にリボーンは少しだけ顔を逸らし、困ったかのように溜め息を吐いた。
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「ここが待ち合わせの場所?」
「ああ、そうだぞ」
正装に着替え、顔合わせの場所であるホテルに着いた三人。
並盛町にある唯一の高級ホテル。なんでこんな町に都会であるような、こんな立派なホテルが存在するのだろうか。思わずそう考えてしまう綱吉だったが、よくよく考えれば別におかしい話ではないという事に気がつく。
「雲雀さん辺りが作らせたのかな?」
この並盛町の表から裏まで取り仕切っている風紀委員長だ。
群れるのは嫌いだが、かといって下手なものを作って景観を損ねる事を嫌ったのかもしれない。
そう考えているとリボーンがユニを連れてホテルの中に入っていく。
「おい、ダメツナ。早く行くぞ」
「分かってるよ」
リボーンに急かされ、綱吉は駆け足で進み、扉の前に到着する。
「はぁ、何だか…………緊張するな」
この扉の先に居るのはマフィア関係者だけである。
果たして、どこような人外魔境がひしめいているのだろうか。
「とっとと開けろ」
緊張から扉を開けることが出来ないでいると、痺れを切らしたリボーンが容赦なく扉を蹴り開ける。
バタンと盛大に音を立てて扉が開かれた瞬間、中に居た人達の視線が一斉に綱吉達に向けられる。
「お、おいリボーン…………何で勢いよく蹴り開けたんだよ」
「主役の登場だからな。目立った方が良いだろ」
「良くないよ!」
「本当は扉を蹴り破りたかったんだけどな」
「もし蹴破ってた場合、お金とか誰が払うんだよ」
「勿論お前だぞ」
「お前本当にふざけんなよ!!」
目立たないように静かに入ってやり過ごそうと考えていたのに、このタレ眉のせいで全てがご破産となった。
その事実に綱吉は殺意を込めてリボーンを睨み付けるものの、当の本人はどこ吹く風だった。
「ったく…………」
綱吉は不貞腐れながら頭を掻きながら周囲に視線を向ける。
赤毛で傷だらけ、そして根暗そうな雰囲気を身に纏う少年。その少年に付き従っているようにも見える巨乳の少女。
何故か見覚えがある赤毛の騒々しそうな少年。そんな彼の隣に居るおじさん。
ここからでは距離が遠くて顔が見えないが、金髪の少年少女。
中に居る人数はそこまで多くは無いが、誰も彼もが自分の事を観察しているようにも見えた。
本当にあまり長居はしたくない場所だ。
「はは、相変わらずだな。リボーン」
内心、家庭教師という名の理不尽に対して怒りを募らせていると、金髪の青年が近付いて来た。
その背後には髭を生やした黒スーツの男性が立っている。
「久しぶりだなディーノ。相変わらずへなちょこなのは変わんねえな」
「こう見えても成長してるんだぜ?」
「どうだかな。ボスはまだまだ俺達が居ないと不安で仕方がないぜ」
「ロマーリオ、お前なぁ…………」
にかっと朗らかな笑みを浮かべながら三人は楽しそうに談笑する。
「おじ様が今話してらっしゃるのはキャバッローネファミリーのボス、跳ね馬の異名を持つディーノさんとその部下のロマーリオさんです」
「なんか、随分とリボーンと親しいみたいだけど…………」
「ディーノさんはおじ様がツナさんの家庭教師をやる前に受け持っていた人です。ツナさんから見たら兄弟子になりますね」
「ふぅん…………成る程…………」
ユニの説明を聞いて綱吉は納得する。
通りで随分と親しいわけだ。だがあのリボーンの教え子をやって、よくあんなに親し気に話せるものだ。
そう考えていると、金髪の男、ディーノは自身の方に視線を向ける。
「で、そいつがボンゴレの後継者か?」
「ああ。その通りだぞ。まぁ、マフィアになりたくないってごねてるけどな。昔のお前みたいに」
「へぇ、どれどれ……………」
リボーンの言葉を聞き、ディーノは綱吉の方に歩み寄り品定めでもするかのように眺める。
「んー、何つーか…………色々いっぱいいっぱいって感じがするな。そう、余裕が無さそうだ」
「えっ…………えっと」
「あれだな。マフィアのボスとしては未熟もいいところだな」
「結構失礼な事を言うなこの人」
ニカッと笑みを浮かべながらそう言い放つディーノに綱吉は思わずツッコミを入れる。
「ただまぁ、何も心配する事は無いぜ。オレも昔はへなちょこディーノって呼ばれてたからな」
「いや、そもそもマフィアのボスになるつもりなんか欠片も無いんですけど」
「最初からマフィアのボスになりたいだなんて言う奴は碌な奴じゃねぇからな。お前ならきっと良いボスになれるさ」
「あの、話聞いてます?」
爽やかに笑いながら会話を続けるディーノに綱吉は溜め息を吐く。
良い人ではあるのだろう。ただ何処かズレている。
とはいえ、今まで会った中ではかなり常識的な人間だ。
リボーンの弟子であるというマイナスポイントさえなければ、仲良くしたいと思ったのに。
その事実に綱吉は両肩を落とし、自身の近くに一人の少女が立っている事に気が付く。
「久しぶり、ツナ」
少女はそう呟くと同時に綱吉の顎に手を添え、驚く暇も無く唇を重ねた。