死を見る大空   作:霧ケ峰リョク

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ランキング1位になってました。

正直な話し、驚きすぎてどう反応したら良いのかがわかりません。

取り敢えず更新頑張ります。


やりすぎ注意

想像以上に強い一撃が出た―――――。

自らの一閃を受けて吹っ飛び、壁に叩きつけられて意識を手放した持田を見てツナは思わずそう思ってしまった。そもそもとしてここまで威力のある一撃じゃなかった。というか自身の身体能力では本来ならあそこまで人体を飛ばせない。

なのに吹き飛んだ。それどころかよく確認してみると自分が立っている床が踏み抜かれて壊れている。どうやら移動した時に生じた衝撃で床を壊してしまったらしい。

 

「……………なんか予想以上にパワーが出てるんだけど」

 

リボーンがさっき撃ち放った弾丸、それに一体何の効果があるかは分からないがどうやら肉体を強化する特殊な能力を持つらしいようだ。でなければさっきのウェイト入りの竹刀を持てるわけがないのだから。だとしてもここまで身体の強さが制御できないとは思わなかったが。

ツナは強化された己の肉体をそう分析しつつ、己が竹刀で吹っ飛ばして壁に叩きつけた持田の姿に視線を向ける。

 

「あ、ぐぁ……………」

 

壁に叩きつけられた持田は肺に入っていた空気を絞り出すように声を出して床に倒れ込む。

倒れた持田は竹刀で叩かれた場所を胴着の上から抑えるように両腕で抱き締め、蹲り声にもならない悲鳴を上げていた。どうやらアバラ骨が圧し折れたらしいようだ。最もツナ自身、今の一撃を殆ど制御できていなかった為、折れても仕方がないとは思っていた。幸いなことに臓器にダメージが入っていないようだ。眼で見ても死の線と点が増えていない。

 

―――――しかし、どうしたら良いだろうか。

 

ツナは今もなお呻く持田と周囲の観客達に視線を配り見渡す。

周囲に居た生徒達は何が起こったのかを全くと言っても良い程理解できていない様子だった。恐らく理解できたのはほんの一割にも満たないだろう。

それはそれとして、審判はどうしたというのだろうか。疑問に思ったツナは審判に視線を向ける。

 

―――――どうやら、今の一撃は無効と判断したらしい。

 

その事実にツナはため息をつく。大方、持田が審判と共謀していたのだろうと大体の予想はつく。例え自身が一本取ったとしてもそれを無効とするように言われていた、そんなところか。

ならどうすれば良いか、答えは簡単な話だ。

ツナはゆっくりと一歩ずつ足を前に踏み出して歩き始める。その先に居る持田の下に向かって。

試合はまだ続いている、決闘はまだ続いている。ならば自身がやるべきことは一本を取ることだ。胴は流石にもう危ないが手や面が残っている。それでも駄目なら髪の毛をむしり取れば良い、それでも駄目なら全身の毛を一本も残らずにむしり取ってしまえば良い。

そこまでやれば自身に対して勝利を宣言しない八百長審判でも自身に対して勝利を告げるだろう。

そう考えながらツナは足に力を込めて持田に追撃を加えようとし、

 

「おっと、そこまでだぜツナ」

 

背後から肩に手を掛けられて抑え込まれた。

 

「―――――ッ!?」

 

突然の事にツナは驚きながらも背後に居る何者かに向かって竹刀を振るう。

しかし背後に居た人物はツナの一閃を容易く回避する。その事実に驚きながらもツナは再び竹刀を振るおうとして――――、

 

「落ち着けって、ツナ」

 

自分の肩に手を置いた相手が級友の山本武であることを初めて知った。

 

「なんだ…………山本か…………」

「おいおい、なんだって言い方は無いと思うぜ? それよりも勝負はもう決まったんだろ?」

 

いつも通りの呑気な武の声を聞いてツナは溜息をつく。

確かにその通りだろう。持田剣介はアバラ骨が圧し折られたのでもう動けない。

ツナも経験したことがあるから分かる。アバラ骨を折られたら痛くて本当に動けなくなる。だからと言って動かなかったら死ぬので痛みを我慢して動くしかないのだが。

 

「はぁ…………山本は呑気で、良いね―――――審判、勝負はもうついたよね?」

「え…………?」

「もしまだついていないなら俺は持田先輩を嬲らなくちゃいけなくなるわけなんだけど」

「あ、赤!!」

 

ツナの発言に恐怖を感じたのか、審判は一瞬遅れて赤い旗を上げる。

その瞬間、ツナの勝利が確定し観客達の歓声が上がる。それは何をやってもダメダメな少年が剣道部部将に勝利したという事実に対する歓声なのかもしれない。しかし、それとは逆に敗北した持田に侮蔑の視線を向ける者やツナに対して懐疑的な視線を向ける者も居た。

しかし態々相手をするのも面倒なのでツナはあえて無視することにした。

 

「うぅ……………疲れた」

 

そう言って竹刀を床に向かって放り投げる。ウェイトが入っていた為なのか、床を傷つけてしまうが、今更気にした話しでは無いだろう。

決闘を終えたツナは脱力し息を吐き出す。すると額に灯っていた炎が鎮火し、最初から何も無かったかのように消え失せた。それと同時に両の瞳から何か生暖かい液体が流れ出る。

涙でも出てきたのか? そう思ったツナは手で目元を拭い、それが血であるということを理解する。

 

「うわっ、ツナ大丈夫か? 眼でも使ったのか?」

「いや…………そんなに使った覚えは無いんだけど…………」

 

自身が血涙を流していることに気が付いたツナは疑問を抱く。

直死の魔眼を使い過ぎれば負荷がかかり、血の涙を流してしまうのは既に知っている事実だ。だがそれは見えない物の死を見ようとするから掛かる負荷であり、今回は生物以外の物の死を見ただけでそこまで負荷は掛けていない。だというのに血涙を流しているのは――――、

 

「リボーンに問いただしてみなくちゃな……………」

 

理由も何もそんなことは最初から決まっている。

あの赤ん坊が撃った銃弾がその理由だ。ならばその銃弾を放ったリボーンに聞けばすぐにわかることだ。

 

「ツナ君!」

 

そう思っていたツナに京子が駆け寄って来る。その顔は心配していると言わんばかりに青褪めている。

一体どうしてそんなに青褪めているのか、疑問に思ってしまう。

 

「大丈夫!? 目から血が出てるけど…………」

「ん。ああ大丈夫だよ。見た目ほど酷くは無いから。まぁ、暫く出っ放しだけど…………」

 

直死による負荷である為どうしても防ぐことが出来ない。とは言え、逆に言えばどれだけ使っても血涙を流すだけで済むのだからマシだろう。最も、それでも脳の処理が追い付かない時もあるのでそこまで便利な物でも無い。

よくよく考えると本当に不器用で使い辛い能力だ。自分の事ながらどうしようもない、とツナは溜め息をつきつつそう思う。

しかしながらここまで疲れるのは久しぶりだ。本当にこの眼を使い過ぎて脳の処理が追い付いていないような気がする。

そう思っていると京子はポケットからハンカチを取り出してツナに渡す。

 

「はい。これハンカチ、使って良いよ」

「え、でも悪いんじゃ…………」

「大丈夫だよ。ほら、使って使って」

「うん…………ありがと」

 

京子から半ば押し付けられるような形で渡されたハンカチで血涙を拭う。

まだ出て来るがそれでも最初よりは勢いが弱くなってきている。

 

「でも、ツナ君ってこんなに凄かったんだね」

「…………別に凄くないよ。正直褒められた強さじゃないし」

 

特にこの瞳の能力がまさにそれだ。根本的には命を奪う力、本当に危険で取り扱いが難しい物だ。

人を傷つけるだけの能力だ。それを応用して人を救うことにも使えるようにしているが、どちらかと言えば暴力的な意味でしか使っていないこの能力。まぁ日常的に使っている為、無くなられると困るのだが。

そう考えながら京子から貰ったハンカチに視線を向ける。ツナの血で真っ赤に染まっており、控えめに言って酷かった。鮮やかなピンク色のハンカチはツナの血で汚れてしまい、見る影もない。

 

「笹川さん。ゴメンね汚しちゃって……………洗濯して返すよ」

「気にしなくていいよ。それと、私の事、名前で呼んでも良いよ」

「えっと、京子さん? いや、これじゃあちょっとあれだな…………なら京子ちゃん、うん、これからは京子ちゃんって呼ぶよ」

 

ツナの言葉を聞いて京子はとても明るい笑みを浮かべる。その笑顔を見て遠くで花がにやにやとしていたが、一体なんなのだろうか。

そう思いながらツナは目元を抑える。本当に頭が上手く働かない、直死を使い過ぎた状態みたいだ。心の中で自身の状態を簡単に思案しつつも歩き始めようとする。早く魔眼殺しの眼鏡をかけて休めないと、直死の状態も元に戻さなければいけない。恐らくリボーンが持っているだろう。

恐らく校内にまだ居るであろうリボーンを探そうとした瞬間だった。

 

「君達、邪魔だよ」

 

聞き覚えのある物凄く不機嫌そうな少年の声が響いたのは。

その声がしたと同時に、まるでモーセの奇跡の如く道を作った。観客達が避けて出来た道を通って一人の少年がツナ達が居る場所まで歩いてくる。その少年はこの並盛中学校の一昔前の制服、所謂学ランと呼ばれる物を着ており上着は肩に掛けて羽織っていた。

この学園でそのような格好をするのは風紀委員会と言う名の不良集団だけであり、そして此方に歩み寄って来るのはその中でも頂点に立つ並盛中学風紀委員会風紀委員長―――――、

 

「雲雀、恭弥……………!」

 

ツナは思わず、その者の名を呟いてしまう。

何でこんな人が多い所に居るんだ、内心そう吐き出してしまっても無理は無かった。何故なら風紀委員長の雲雀恭弥と言う人間は集団を嫌い、気に入らない者や群れる者を「草食動物」と言って所持している仕込みトンファーで滅多打ちにする過激な性格なのだ。

一体どうしてこんな所に居るのだろうか、そう思うツナであったが恭弥は肉食動物のような鋭い眼光をツナに向ける。

 

「君、その髪は校則違反だよ」

「……………え?」

 

恭弥の発言にツナは思わず呆気に取られた声を出し、自身の髪に触れる。

そう言えばかなり髪が伸びていた、と思い出す。

 

「それに体育館の床を壊しているね。校則違反に校舎での器物破損、言い訳の余地が無いね」

 

そして恭弥は懐に隠し持っていた仕込みトンファーを持ち、構える。

 

「沢田綱吉、校則違反者にして器物破損をした君を―――――、かみ殺す」

「ゴメン山本! 俺この後サボるから!!」

 

トンファーを構えた恭弥を視認した瞬間、ツナは山本にそう告げると先ほど斬り飛ばした持田の竹刀を手に持って壁に向かって駆け出した。

そして壁の前に立つと持っていた竹刀で壁に浮かび上がっていた線をなぞる。すると体育館の壁は見事なまでに綺麗に切断され、人一人が通れるくらいの穴が出来る。ツナは出来た、もとい作った穴を通って外へと逃げ出す。

 

「……………また校舎を壊したね。絶対にかみ殺す」

 

先ほどよりも殺意を募らせた恭弥は更に速度を上げて加速し、ツナが出て行った穴から同じように外に出て行く。

その光景を見ていた山本は「あはは、大変なのなー」と呑気な声を出していたが追い掛けられるツナとしてはたまったものじゃなかった。

 

「…………このままだと追い付かれるよな」

 

素の身体能力だと雲雀恭弥の方が上なのだ。それに直死の魔眼を使ったとしても彼ならすぐにそれに気づいて対策をしてくるに違いない。そう考えたツナはあることを思い出す。

そう言えば雲雀さんってバイクを持っていたな、と。

 

「よし、雲雀さんのバイク借りて逃げよう」

 

それが一番手っ取り早いと結論付けてツナは駐車場がある方に向かう。

いくら恭弥が強いとはいえバイクにそう簡単には追い付けない。そう考えたが故の行動だった。

 

この後、更に怒り狂った恭弥と町内全域を駆け巡る鬼ごっこを繰り広げられることになるのは言うまでもない。

 

   +++

 

―――――――一人の少女が居た。

 

少女は大凡全能と言っても差し支えない力を有しており、されどそれ故にこの世の全てに退屈していた。その気になれば未来すらも見て、自身が望んだ通りの未来を手繰り寄せることすら出来るだろう。しかし、だからと言って未来を見るのはつまらないものであり、彼女が唯一自らに制限として自分の行きつく先だけは見ないようにしていた。

そして全能とはいっても彼女個人にも限界はあり、叶えたい願いを叶えるには単純な出力が足りなかったのだ。

人間一人では、否、恐らく自身の目的を達成するためには自身も含めた人類を一人残らず燃料にする必要がある。それも今この時間、つまり現代では無く一秒単位で時間を遡り、人類を燃料とし続ける他無い。だがいくら全能の少女と言えどそんなことは出来なかった。大凡世界の理すらも書き換えることができるだろう少女であっても途方もない昔に逆行することだけは出来ないでいた。

 

だからこそ、少女は獣を求めた。

 

少女の目的を果たす為、愛しい王子様の故郷を救うために、人類史を台無しにしてしまう獣を何者よりも求めた。

結果として少女は失敗し、王子様の手によって止められはしたものの、まだ時間はあった。

再び聖なる杯を求めて数多の英雄が覇を競う聖戦、次の聖戦にも彼は再び召喚されるだろう。ならばその時までに準備をしていれば良い。今度こそ完璧に彼を救ってみせよう。

己が生贄とした少女たちの亡骸の上で、邪悪なる笑みを浮かべた少女はくるくると踊りまわる。

 

そんな時だった、本来ならば関わり合う筈がない、平行世界でさえ無いものを観測したのは。

 

「あら?」

 

少女は疑問を抱く。大凡全能と言っても良い彼女でも今回の事は予想外過ぎたのだ。

しかしながらそんなことはどうでも良く、彼女が観測した一人の少年に対して感じたこの想い――――。

それは慈愛のような優しい祈りだった。愛しい王子様に抱いた天地を焼き尽くさんばかりの恋情とは違い、見ていて何故か優しい気持ちになる。その気持ちに少女は困惑するも、すぐに結論に至る。

 

「そう、これが家族愛、というものなのね」

 

恋愛ではない、家族に対して向ける普遍的な愛情。

初めてその感情を抱いた少女は観測した少年のことを愛おしそうに眺める。

皮肉な話である。本来その愛情を向けるべき家族には向けず、全く関りが無い、世界すら違う少年に向けるのだから。あるいは、同じ同胞だからこそ彼女がそう認識出来たのだろうか。

 

「凄く、すっごく良い子ね。もし私の王子様(セイバー)との間に子どもが出来たら、彼のような子になってほしいわ」

 

しかし、だからこそ少女はそこで眉を顰める。

 

「でも少し残念ね。全然使いこなせていない、でも出来が悪い子の方が可愛いわね」

 

少女はあることを決意した。己があちらの世界に行くことはできないだろう。

しかし彼の為に出来ることがある。彼に使い方を教えることができる、そして彼の遊び相手を用意することだってできる。

それに――――、

 

「貴方は我慢しすぎよ。だからもう少し素直にならなくちゃね」

 

獣の飼い主である少女は決意する。きっと彼も同じだと、理解する。

だからその祈りが間違っていないと、弟とも呼ぶべき少年にそれを教える為に、伝える為に旅に出た。

 

――――――願いを踏み躙る争いが起こる前の断章とも呼ぶべき彼女の物語、迷宮を突破した彼女は飛翔するのであった。




と、言うわけで邪ロリはお姉ちゃん枠です。
そして家庭教師枠です。

ちなみに方法は某花の魔術師が騎士王となる少女に英才教育(睡眠中)を施していたような感じでございます。

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