【完結】光ささぬ暗闇の底で   作:御船アイ

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今回出しているオリキャラの「斑鳩」はてきとうあき様(ID:142816)の作品『~如何にして隊長を尊敬している戦車道に対して真面目な黒森峰女学園機甲科生徒達は副隊長の下着を盗むようになったか~』から借りさせて頂いたキャラですが、該当作品を読んでいなくとも本作品を理解するには問題ない内容になっていると思います。


ガールズ&キョート

「京都だああああああああああああ!」

 

 百華鈴は、人が行き交う京都駅で両手を上げ、短い青い髪が震えるほどに大げさな動きをしながら大声を出した。

 

「ちょ、鈴さん恥ずかしいからやめてくださいまし!」

 

 その隣で、腰まで伸びる長い浅葱色の髪をゆらゆらと揺らしながら、鈴の親友である二瓶理沙が顔を赤くして止める。

 二人の周りでは、彼女達と同じ大洗女子学園の生徒がくすくすと笑っていた。

 

「えー別にいいじゃねーかよー周りはうちの生徒ばっかなんだし」

「それでもです! それでも、周囲に人がいるという事実を忘れないでくださいまし!」

 

 鈴は「へいへい」と不満そうな顔をしながら、両の手を腰にあてた。

 

「もう、鈴さんたらそんなに京都が待ち遠しかったんですか?」

「まーなー。やっぱ京都ってなんかこう、憧れみたいなものがあるだろ。歴史的建造物多いし、それになんていうか華の都って感じがするじゃん?」

「ま、そうですわね。確かに、学園艦住まいの高校生の身では京都なんてなかなか訪れる機会がありませんものねぇ。それこそ、修学旅行でもないと」

 

 そう、鈴と理沙は今、修学旅行で京都を訪れたのだ。

 学園艦が様々な寄港地に寄るとはいえ、各学校で修学旅行は普通に行われる。そして、大洗女子学園は主に修学旅行の行き先として国内を選択することが多かった。

 学園艦は海外に通用する人物を育成するため海外を修学旅行の行き先に指定することが多いが、大洗学園艦のように国内を選択する学園艦も少なくはないのだ。

 

「そうそう。それに修学旅行ってだけでテンション上がるじゃん? だって修学旅行だぜ? 修学旅行」

「そうですわねー。確かに学校の授業よりは元気になりますわ」

「お前勉強は本当に駄目だもんなー」

「う、うるさいですわね! いいんですのわたくしは! 戦車道の授業で挽回してるので!」

「ああうちの学校戦車道の授業だけは単位めっちゃくれるもんなー。何故か戦車道のときだけは頭良くなるお前にはぴったりだよなー」

「……ふふふ、どうやら死にたいようですわね?」

 

 理沙は指の骨を鳴らしながら鈴に迫る。

 

「あっやべっ怒らせた。す、すまん理沙! 許してくれ!」

「いいえ今日という日はしっかりとその体に分からせますわ。そもそもあなたはちょっと理不尽だと思いますの。なんで勉強が人一倍嫌いなのにわたくしより成績がいいんですの? 理不尽ですわよね? ですのでその鬱憤を今からついでに晴らします」

「ぬあー! そんなの横暴だー!」

「こらぁそこ! いい加減静かにしてついてきなさい! 出発するわよ!」

 

 騒いでいた鈴と理沙に担任の教師から声が掛かる。

 他の生徒はいつの間にか整列していた。

 

「あ、すいません! ほら理沙、並ぼう並ぼう!」

「はぁ……後で覚えていてくださいね」

 

 鈴は一安心という顔で、理沙は不満げな顔で列に戻った。

 二人の京都における修学旅行はこうして幕を開けた。

 

 

「さーて待ちかねた自由行動だ!」

「そうですわねぇ」

 

 鈴と理沙は京都の町中で二人立っていた。周りには他にも観光客と思しき人々が歩いている。

 

「にしても、最後まで意見が割れてこうして別行動することになるとはなぁ」

「仕方ないですわよ。わたくしと鈴さんの目的である京都名所観光と彼女達の目的の京都グルメ観光ではどうしてもルートが合わないんですもの」

「まーそうだけどよぉ」

 

 鈴の自由行動の班は元々四人組の班であった。しかし、今はこうして二人と二人、別々のグループに別れ行動しているのだ。

 

「まあなんというか、こういうのも修学旅行らしいと言えばらしいじゃないですか。それよりも、わたくしは鈴さんが食べ歩きコースに賛成しなかったことが意外でしたわ」

「あ? 俺を見くびるなよ? 確かに食べ歩きは魅力的だ。だがそれ以上に、京都の歴史ある建造物を眺められるチャンスに比べたらよぉ……!」

「ああ確かに鈴さん、歴史の成績は地味にいいですものねぇ。案外歴史マニアなんですのね」

「悪かったな地味で。悪かったな案外で」

 

 苦笑いする鈴。

 対して、理沙は涼しい笑顔を見せていた。

 

「俺からしたら勉強アレなお前が京都の名所好きってのもなんか納得いかないけどな……」

「何か言いまして?」

「いえ! なんでもないっす! それよりほらさっそく行こうぜ! 時間は限られてるんだからよ!」

 

 鈴は慌てながら理沙の背中を押す。

 理沙はまだ少し納得がいっていないようだったが、時計を見て確かにと思い、二人で最初の観光地へと向かうのだった。

 

 

「さて最初に訪れたるは清水寺!」

「坂道大変でしたわ……」

 

 二人が最初に訪れたのは清水寺だった。

 長い参道を登り終えた理沙はすっかり疲れ果てている。

 一方の鈴はなんともなさそうにはしゃいでいた。

 

「なんだよぉもうへばったのか? 戦車乗りなのにその体力は恥ずかしいぞ?」

「うるさいですわね……女子高生の体力なんてこんなものでしょう」

 

 理沙は鈴にそう言いながらも、ゆっくりと山から突き出した、いわゆる『清水の舞台』へと歩を進める。

 鈴もその後を追った。

 

「まあ……」

「おお……」

 

 二人はその光景に言葉を失う。

 目に映る景色が二人を圧倒したのだ。

 季節は秋。よって、美しい紅葉が一面に広がっているのだ。その美麗さに、二人は飲み込まれた。

 

「すっげーなー……」

「ええ……この季節に修学旅行が行われたことを感謝しないといけませんわね。こんなの、学園艦では絶対に見られません」

「そうだなー……。それにしても高いな」

 

 鈴はふと舞台の下を覗き込んで言う。

 

「ですわね、確かに勇気を出すときに言う『清水の舞台から飛び降りる』という表現が分かる気がします」

「……なあ、俺この光景見て思うことじゃねえかもしれねえんだけどよ」

 

 鈴はなんだか申し訳なさそうな顔で言い始めた。

 

「はい?」

「……この清水寺って、戦車戦で戦う場合だとそれなりに要所になりそうだよなーって」

「ああ……」

 

 理沙は納得したような顔をする。そして、

 

「それ、わたくしも思いましたわ……」

 

 と同調した。

 

「だよなぁ!?」

「ええ、敵からは攻めづらく守るに易し。さらにこの高所からの展望は相手の動きを観察するには最適。まさに戦局を動かす一つの要因足りえそうですわ……」

「……考えることは一緒だなぁ」

「ええ……」

 

 二人がしみじみと舞台から紅葉を眺めながら言う。

 と、そのときだった。

 

「あれ? 鈴ちゃんに理沙ちゃん?」

 

 二人の背後から、突如二人の名前を呼ぶ声が聞こえてきたのだ。

 しかも、その声は聞き覚えのある声だった。

 鈴と理沙はまさかと思い振り返る。すると、そこにいたのは見知った顔だった。

 

「やっぱり! 鈴ちゃんと理沙ちゃんだ!」

「梨華子!?」

「梨華子さん!?」

 

 そこにいたのは、ウェーブのかかった金髪に眼鏡が特徴的な少女。鈴と理沙の幼馴染であり、黒森峰女学園戦車隊隊長でもある、渥美梨華子だった。

 梨華子は、黒森峰の制服を着て二人のすぐ側に立っていた。

 

「おいおい梨華子どうしたんだよこんなところで!?」

「それはこっちの台詞だよ! 鈴ちゃん達こそどうしたの!?」

「わたくし達は学校の修学旅行で……」

「そっちも!? 私もだよ!」

「マジで!?」

 

 三人はそれぞれ驚きの色を見せる。

 それはつまり、大洗と黒森峰の修学旅行が同じ日に行われているということである。驚くのも無理はないことであった。

 

「まさか同じ日に同じ場所で修学旅行するだなんて……」

「ははは……まあ京都は名所だしねぇ……」

「しかしこんな偶然もあるんだなぁ……」

 

 三人はしみじみと出会えた偶然の驚きと喜びを分かち合う。そして、そのまま三人で舞台から紅葉を眺め始めた。

 

「それにしても、綺麗だねぇ」

「ああ、そうだな」

「そうですわね」

「あ、私思ったんだけど、ここって戦車戦するときになかなかの要所になりそうじゃない!?」

 

 梨華子が少し興奮気味に言う。

 それに対し、鈴と理沙は乾いた笑いを見せた。

 

「それ、さっき俺達も話したよ……」

「考えることは一緒なんですのねぇ……」

「ははは、そうなんだ」

「あれ? 梨華子どうしたの?」

 

 三人がそんなことを話していると、梨華子に話しかける声が聞こえてきた。

 それは梨華子と同じ黒森峰の制服を着た三人ほどの女子生徒であった。

 

「あ、みんな。紹介するね。私の幼馴染の鈴ちゃんと理沙ちゃん。大洗に行って戦車道やってるんだけど、どうやら修学旅行の日が一緒だったみたいで」

「へーそんな偶然あるんだ!」

「驚きー」

「あっ、鈴ちゃん理沙ちゃん、紹介するね。この子たちは私と同じ班の子達なの」

 

 梨華子がそう言ってそれぞれの名前を言う。

 そうしていると、黒森峰の生徒の一人が、鈴達の顔を見て声をあげた。

 

「あーっ! どっかで見たことあると思ったら、大洗の副隊長と分隊長さんじゃん!」

「え? あ、本当だ! さらりと紹介されたからそのまま受け入れたけど今更気づいたよ!」

「お? なんだ俺達ってそんな有名か?」

「いやあだって決勝で私達を負かした相手の役職持ちだよ? 今まで気づかなかったのが不思議なくらいだよ!」

「ほほほ、なんだか嬉しいような恥ずかしいような……」

 

 鈴と理沙は少し顔を赤らめながら言う。

 黒森峰の生徒も、今まで気づかなかった自分達が少し恥ずかしいようであった。

 一方で、梨華子はそんな様子を見てケラケラと笑っていた。

 

「ハハハ! まあなんというか、そんなこともあるよ」

「梨華子は大雑把だなぁ。よくそれで隊長やれるなぁ」

「隊長は普段は確かにちょっと雑だけど戦車戦だと凄いんですよ!」

「ええ、それはよく分かっていますわ」

 

 鈴達と黒森峰生はすぐに打ち解け、どんどんと話が弾んでいった。と、その話の途中でこんな提案が黒森峰生から飛んできた。

 

「あ、そうだ梨華子。せっかくだし自由行動の時間は大洗の副隊長達と一緒に行動したら?」

「えっ!?」

 

 梨華子は驚く。さらに、鈴と理沙もその提案に驚く。

 

「おいおい大丈夫なのかそれ?」

「大丈夫ですってー集合時間までに集まればいいし!」

「だけど……」

「ほらほら梨華子は気にしないで! 遠くにいる友達と遊べる機会なんてそうそうないでしょ? 私達なら大丈夫だから! ね?」

「そう……それじゃあ、お言葉に甘えようかな! ありがとうみんな!」

 

 梨華子は笑顔で黒森峰生に頭を下げた。

 黒森峰生もまた笑顔で手を振る。

 

「いいのいいの。いつも隊長には世話になってるしね。こんなときぐらい、ハメはずして遊びなよ」

「梨華子……お前、いい仲間を持ったなぁ」

 

 鈴が梨華子の肩に手を置きながら言う。梨華子はというと、今にも泣きそうな顔で笑顔になっていた。

 理沙がそんな梨華子を見てくすりと笑う。

 

「ふふふ、梨華子さんは意外と泣きやすい質なんですからもう」

「わ、悪かったね!」

 

 腕を組んで、ぷいと一同から顔をそむける梨華子。

 そんな梨華子を見て、一同は笑うのであった。

 

 

 そして鈴と理沙は、梨華子を仲間に加え三人で京都を回ることになった。

 三人で次に訪れた場所は、数多の仏像が長いお堂に並んでいる、三十三間堂だった。

 

「はー……」

「ひー……」

「ふー……」

 

 三人はそこに居並ぶ仏像に圧倒され、間抜けな声を出す。

 

「凄い数……」

「だなぁ……全部でいくらぐらいあるんだこれ」

「えーっと……確か千と一体だったかなぁ」

「そんなに」

「どうも一個一個微妙に顔かたちが違うと聞いたよ」

「マジで」

 

 梨華子の解説に、鈴が驚きのあまり単調な言葉で返す。

 一方で理沙は、それぞれの仏像に近づいては、ゆっくりと観察していた。

 

「あら本当……少し違いがありますわね」

「よく分かるな。俺は全然わかんねぇよ」

「鈴ちゃんは間違い探しとか苦手だからねぇ」

「まあな。戦車の違いなら分かるんだけどな」

 

 そんなことを話しながらゆっくりと仏像を回って見る三人。

 と、そうして見ているときふと鈴が言った。

 

「……千と一体てあれかな、大隊かな」

「あー言われてみれば確かに!」

「千の隊員と一人の指揮官ですわね」

「数としては一個大隊だけど、ずっと昔からあると考えるとみんな一騎当千の古強者だよな」

「一個大隊で総兵力百万と一人の軍集団となりえるわけだね」

「ラストバタリオン!」

「三千世界の鴉を殺すような闘争を望んでそう」

「仏像だけに?」

「仏像だけに!」

 

 そこで三人は一旦会話を止めて、ふむとお互いの顔を見合った。

 

「なんというか……歴史的建造物とか見てこんな会話が出て来るあたり、駄目だね私達……」

「うん……」

「ええ……」

 そうして三人はがっくりを肩を落としたのであった。

 

 

「さて次は銀閣寺だ!」

 

 鈴が銀閣寺を指差しながら言った。

 

「おおーこれがかの有名な」

「情緒がありますわねぇ」

「だなぁ」

 

 三人はその雰囲気に圧倒されたのが短い感想を言った後に、まじまじと銀閣寺を見た。

 

「……銀色じゃないんですのね」

「……それ言っちゃう? 理沙」

「お前本当に馬鹿だよなぁ……」

「う、うちは洋式だからそういうことには疎いんですの!」

 

 頭を抱える梨華子と鈴に、理沙が顔を赤くし握りこぶしを作って言う。

 そんな理沙を見て、梨華子と鈴は苦笑いをするのであった。

 

「……まあこの馬鹿は放っておいて、。砂盛り見ようぜ砂盛り。人によっちゃそっちがメインなんだろ?」

「うん、そうだね」

「ちょ、放っておいてとはなんですのー!?」

 

 喚く理沙を二人は無視し砂盛りのある場所に入っていく。理沙も文句を言いながらもそれに続く。

 そして三人は細い道を通り、砂盛りを目の当たりにした。

 真っ白な砂が波打つ庭に、綺麗に山として守られている砂盛り。その芸術的な美しさに、またしても三人は言葉を失った。

 

「おお……話には聞いていたがすげーなこれ」

「うん……なんか、ここまで綺麗なもの作れちゃうんだなって感じだね」

「本当に素晴らしいですわ……うちにも一つ欲しいぐらい」

 

 そしてまた無言で庭を見る三人。

 と、そこでまたもや鈴が思いついたように口を開いた。

 

「……なんかこの庭の模様、履帯跡みたいじゃね」

「鈴ちゃんー! 私が言おうとして我慢していたことをー!」

「まあわたくしも思いましたわ……皆さんも思ってらしたのね……」

 

 三人はお互いの顔を見合わせ、そして苦笑いした。

 

「私達、頭の中が本当に戦車漬けだねぇ」

「だなぁ」

「ですわねぇ」

 

 そうして、三人はしみじみとした笑顔で銀閣寺の庭を見て回った。その後も銀閣寺の情景はさておき、戦車道話に盛り上がった三人であった。

 

 

「さて、今度は金閣寺だー!」

 

 今回も気分が高揚している鈴が、金閣寺を目の前にして言った。

 

「おおー……」

「あらまあ……」

 

 文字通り金色に輝く寺に、三人は本日何度も味わった感動を受けた。

 

「こっちは本当に金色ですのねぇ」

「うむ。実際に目にすると凄いな」

「うん……これって確か数十年前に一回貼り直したんだっけ金箔。火事で燃えちゃったとかなんかで」

「へぇ、そうなんだ?」

「うん。なんかあれだね、戦車のレストアみたい」

「あー古いものを改修するってのは通ずるかもな」

 

 うんうんと納得しながら首を振る鈴。

 それに、理沙が指を顎に当てながら言った。

 

「んー……戦車を金色にレストア……?」

 

 理沙がそう言うと、梨華子と鈴は「……っぷ。あっははははは!」と、大きな声で笑った。

 

「ないない! そんなの目立ちすぎだろ! アハハ!」

「そうだって! そんなの自殺行為だよー!」

「ですわよねぇ、ふふふ」

 

 三人はそんなのありえない、と笑い合うのだった。

 

 

「あ、そろそろお互い時間だな」

 

 鈴が腕時計を見ながら言う。時刻はそろそろ夕方近くになりそうだった。

 

「そうだね。それじゃあ鈴ちゃん、理沙ちゃん、ばいばい」

「おう、じゃあな」

「ええ、さようなら」

 

 三人は京都駅で二人と一人に別れた。そこがそれぞれの集合場所だったからだ。

 お互い背を向け歩く三人。

 と、そこで鈴が一回振り返って大声で言った。

 

「あ! そうだ! 今夜の通話、来るよな!」

 

 それに梨華子が答える。

 

「うん! もちろん!」

 

 梨華子は鈴と理沙に元気よく手を振り、そして自分の集合場所へと戻っていった。

 

 

 その夜である。鈴と理沙は宿泊先の部屋でノートパソコンを開いていた。その画面に、同室の子達も注目している。

 

「……そろそろかな」

 

 と、鈴が言ったとき、ピコンとノートパソコンが鳴った。通話用のアプリの反応した音だ。

 そのアプリ上に、『梨華子』という名と『アールグレイ二世』という名が出てきた。

 

『やっほー二人とも。お昼以来だね』

『どうもみなさん、紅茶の園からこのアールグレイ二世がやってきたわよ』

「おうおう二人とも。時間通りだな」

「ですわねぇ」

 

 ちなみに鈴と理沙は置くタイプのマイクで喋っている。それにより、二人の声が入るようになっていた。

 

『まだ中継始まってないかな?』

「うーん、そろそろじゃね? ……と、言っている間に」

 

 鈴はアプリの横に表示している画面を見た。そこには、インターネットテレビによる中継が行われている画面が映し出されていた。

 その画面には、沢山の記者がテーブルに向かい合っており、そのテーブルには、鈴達のよく知った顔がいた。

 

『どうもみなさん、このたび帝国エンパイアズに入団させていただくことになりました東美帆です』

 

 それは美帆だった。

 美帆が画面の向こうで挨拶すると、激しくフラッシュが炊かれた。

 

「あー美帆、エンパイアズに決めたのか」

『なるほど、まあ順当だねぇ』

『まあそうね。小娘が入るには妥当ではないかしら』

 

 四人が一緒に見ていたのは美帆のプロ入団会見だった。その中継が丁度修学旅行中に行われる予定だったので、こうして部屋にパソコンを持ち込み、美帆と関わりの深い面子でそれを見ようということになっていたのだ。

 画面の向こうでは、様々な質問が美帆に飛び交っていた。

 美帆はその一つ一つに答えていく。

 

『スポーツジャパンの小西です! プロに入団するのをしばらく迷っていたと聞きましたが、本当ですか?』

『はい。私はしばらくの間、プロに進出するかどうか悩んでいましたが、周りの人たちの温かい後援により、プロになることを心に決めました』

『月刊戦車道の斑鳩です。プロリーグでの意気込みを教えてください』

『はい。今回は皆様に大型新人と言われてもらっていますが、私としてはそのようなつもりはなく、一人の戦車乗りとしてチームの力になれるよう頑張りたいと思っています。そして、できれば私は私に戦車道を教えてくれた大切な人のためにも自分の持てる力を発揮したいと思います』

 

 美帆のその言葉に更にフラッシュが炊かれる。

 それを見て聞いていた鈴達は、一様に頷いた。

 

「まあつまり、逸見先生のために頑張りますってことだよなぁ」

「ですわねぇ」

『わかりやすいわね』

『アールグレイさんじゃないけど、確かにそうだね』

 

 そして、鈴は「よし!」と両手を合わせて口を開く。

 

「こりゃあ、例の計画はますますやるしかないようだな!」

「そうですわね。美帆さんがせっかくやる気なんですもの。わたくし達も頑張らないと、ですわね」

『うん、もちろん私達も助力するよ』

『ええ……あ、言っておきますがこれは小娘のためではないですわよ? あくまでこれは私のためであって――』

「わかってる、わかってるから」

 

 言い訳のようにまくしたてるアールグレイを鈴は抑えながら、ニヤリと笑った。

 

「まあ、とにかく楽しみだよ。この作戦を決行する日がね」

「ええ」

『うん』

『ええ』

 

 四人は、それぞれ画面の向こうで笑みを見せた。

 水面下で一つの大きな作戦が今、動き出そうとしていた……。

 


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