「うーん……」
とある昼下がり。
美帆は部屋でうんうんと唸り声を上げていた。
「どうしたのよ美帆、そんな変な声だして」
その声を聞いて、近くに座っていたエリカが尋ねる。
「あっ、いえなんでもないんですよ、なんでも」
エリカの言葉に、美帆はぶんぶんと手を振って答えた。
しかし、その後すぐに美帆は物憂げな顔でぼうっと窓の外を眺めていた。
「……ふむ」
そんな美帆の様子を、エリカは訝しんだ。
普段はとても元気な美帆なのだが、最近はこうしてどこか沈んでいることが多かった。
その理由に、エリカはなんとなく心当たりがあった。
そのため、エリカは美帆本人に聞いてみることにした。
「ねぇ美帆、もしかしてあなた、プロでのことで何か悩んでいるのではなくて?」
「えっ!? ど、どうしてそれを!?」
どうやらエリカの想像は当たったらしい。
美帆は驚き声を上ずらせた。
「だって、あなたここ最近ずっとそんな調子なんですもの。それも、だいたいプロリーグが開幕してからの時期と重なるわ」
「あはは……エリカさんに隠し事はできませんね」
美帆は苦笑いしながらポリポリと頬をかく。
「そうですね……私は確かに、プロリーグであまり活躍できていないことを悩んでいます」
美帆がプロチームに所属してから、とうとうプロリーグが開幕した。
そしてプロリーグが開幕してから一ヶ月ほどの時間が流れていた。
「成績? でもラジオやテレビのスポーツニュースを聞いたりあなたからの話を聞いたりする分には、そんなひどい成績は出してないと思うけど」
「そうですね……たしかに悪い成績は出していません。でも、いい成績を出せていないのも確かなんですよ」
「それはまあ……そうだけど」
エリカは確かにと頷いた。
確かに美帆は、プロリーグで未だ華々しい成績を上げてはいなかったのだ。
「私は幸いにも期待のルーキーとして扱われ、開幕から一軍登用をしてもらいました。しかし、プロリーグでの戦いは苛烈で、私は隊長車の命令を聞くのに精一杯。そのせいか、地味な活躍しかできていないんですよ」
「足を引っ張っていないだけいいとも思うけど……戦車戦はチーム戦だから、個人の活躍がしづらい競技じゃない」
「それはそうですが……でも、やるからには活躍したいじゃないですか」
美帆のその言葉にエリカは「……確かにね」と頷いた。
戦車乗りは血の気の多い選手が多い。そのため、勝つために最善を尽くすのは当然として、それに加え華々しい活躍をしたいという気持ちは多くの戦車乗りが持っているものだった。
エリカは美帆が普段は落ち着いた態度なので忘れていたが、美帆もまた戦車に乗ると血の気の多くなる戦車乗りなのである。活躍をして勝ちたいと思うのは当然のことだと思った。
そして、かつて自分もそうだったのに、その気持ちを忘れていた自分自身に、老いというものを感じてしまうエリカだった。
「でもどうして活躍できないのかしらねぇ。あなたの能力なら、十分活躍できてもおかしくないと思うのだけれど」
「そうでしょうか……私には未だに自分の能力が足りないと思えてなりません。私にもっと能力があれば、搭乗員の能力をより活かせる指揮ができれば、もっと結果が変わったと思うんです。つまるところ、私の実力不足ですかね」
寂しげに笑う美帆。
その美帆の笑いを聞いて、エリカは心の内からどうにかしてあげたい、という気持ちが湧いてきた。
――美帆に能力がないなんて、そんなことはない。むしろ、その能力を活かせていないだけだと思う。そもそも、なぜ美帆は自分の能力を発揮できていない? 話を聞く限り、環境に問題はないように思える。とすると、考えられるのは……。
「……もしかして」
そこで、エリカは一つの発想に至った。
「エリカさん?」
「ねぇ美帆、あなた今度休みよね。その日、予定あるかしら?」
「えっ? いえ、特にないですが……」
「そう、だったらそのまま空けておいてね」
「……? は、はい……?」
美帆はよくわからないままエリカの言葉に頷いた。
そして、エリカは一旦美帆の側を離れると、ズボンからスマートフォンを取り出し、盲目者用のアプリによって音声ガイドによってガイドを受けながら、とある先に連絡した。
「もしもし? 私、エリカだけど。ちょっとお願い事があるの」
◇◆◇◆◇
そしてやって来た休日。
美帆はエリカと共に街にあるカフェに来ていた。
カフェの一角で、エリカはすまし顔で、美帆は怪訝な顔で座っていた。
「…………」
「うん、このコーヒー美味しいわね」
「え、ええ……あの、エリカさん」
美帆は満足気にコーヒーを飲むエリカに尋ねる。
「あの……こうして二人でお出かけできたことはとても嬉しいんですが、エリカさんが言う『待ち人』って誰のことなんです……? 今日は、誰かと会うためにこうして外に出てきたんですよね?」
「ええ、そうよ」
エリカは当然のことのように返す。
美帆はそんなエリカの態度に、少しだけ不機嫌になる。
「だったら誰を待っているか教えてくれてもいいじゃないですか。なんだか隠し事をされているみたいで、ちょっと寂しいです」
「まあまあそう拗ねないの。もう少しで来ると思うから……」
「逸見さん、東さん」
と、そのとき、美帆の背後からエリカと美帆の名を呼ぶ声がした。
美帆が振り返ると、そこにいたのは――
「ミ、ミカさん!? それに、安斎さんにノンナさんも!?」
美帆の背後に立っていたのは、ミカ、アンチョビ、そしてノンナだった。
「よう東! それに久しぶりだな逸見!」
「どうもエリカさん、お久しぶりですね」
「ああ、どうもミカ、アンチョビ、ノンナ。あなた達の声を生で聞くの本当に久しぶりだわ」
挨拶するミカ達に普通に返すエリカ。
一方で美帆は混乱し顔を交互にミカ達とエリカのほうに振っていた。
「えっ!? あ、あの、もしかして今回の待ち人って……」
「ええ、ミカ達よ。今日はこの面子で一緒に休日を過ごそうと思って」
「えっ、ええ~~~っ!?」
美帆の驚いた声が、カフェに響き渡った。
「もーそうならそうと早く言ってくださいよ……」
カフェを出てから少しして、美帆がエリカに言った。
「ごめんなさい、でも、あなたを驚かせるのも今回の計画の一つだったから」
「計画って、どんな計画ですか……」
美帆達は五人で街中を歩いていた。
手を繋いだ美帆とエリカを前に、その後ろにミカ、アンチョビ、ノンナが続いていた。
「東さんの気持ちを和らげる計画だよ。逸見さんは東さんの不調の原因を東さんが私達相手に萎縮しているからだと考えているのさ」
ミカが説明する。その説明に、美帆は意外そうな顔をした。
「私が、萎縮ですか……?」
「ああ、そうだぞ。現に東、今だって少し緊張しているだろう?」
「そ、そりゃあチームの大先輩がこうして一緒にいて緊張しないわけがないじゃないですか……」
「それがいけないんですよ東さん。私達はすでに同じチームメイトなんです。それなのに萎縮してしまってはいけません。なので、こうして一日オフを共にすることで、その萎縮を取り払おうというのがエリカさんの考えなのです」
アンチョビとノンナが更に美帆に説明する。
そのノンナ達の言葉を受けて、美帆はエリカのほうを見た。
「エリカさん……私、そんなに萎縮していますかね?」
「そうね、今まではプロのことは現場にいったことがないから分からなかったけど今こうして一緒にいると分かるわ。美帆、あなたは今ミカ達を前に萎縮しているわ。声色がどことなく硬いし、私の手を握っているあなたの手も硬いもの。普段のあなたらしくないわよ」
「そ、そうなんですか……自覚はないのですが……」
美帆は空いているもう片方の手を開いたり閉じたりして感触を確かめた。
そして、「言われてみれば確かに緊張しているかも……」と美帆は思った。
「だから、こうしてみんなで遊びに行くのよ。距離を縮めて、美帆がもう緊張しないようにね。そのために、最初はショッピングしましょう」
「は、はい。分かりました。それで最初のショッピングは、この先のデパートでいいんですよね?」
「ええ。ミカ達もそれに異存はないわね?」
「ああ」
「当然!」
「もちろんです」
ミカ達が応える。
そのミカ達の言葉を受けて、美帆は「……わかりました」と未だ整理のつかない自分の心をなんとか納得させた。
そうして、一行は少し歩いた先にあるデパートへと入っていったのだった。
「それじゃあ、最初はどこから回りましょうか」
デパートについてから、エリカが言った。
入り口には沢山の人の山が往来している。その中で、美帆達は相談を始めた。
「そうですねぇ……最初は無難に服を見てみるのはどうでしょうか?」
「私はまずご飯を食べたいかな。ここのデパートにはいいレストランがくっついていると聞いたよ」
「言っておきますけど、おごりませんよ」
「おや、ノンナは心が狭いね。ここはノンナがみんなに食事をおごってくれるものとばかり思っていたよ私は」
「誰があなたに食事を奢りますか。馬鹿も休み休み言ってください。それはそれとして、私も東さんの意見に賛成ですね。最初は服を見たいです」
「うーん私はミカに賛同かなぁ。まずは腹ごしらえだろう。色々買い込む前に満腹になったほうがいいと思うんだが」
意見は服を観に行く派と食事をする派に別れた。
ニ対ニで意見が別れたために、必然的にまだ自分の意見を言っていないエリカに視線が集まった。
「私? そうねぇ……」
その視線を感じ、エリカは考え込む。そして、パンと両の手のひらを合わせ言った。
「食事にしましょう。アンチョビの言う通り、最初にご飯を食べてからゆっくりと色々回りたいもの」
「決まりですね。それでは最初は食事で」
「おや東さん。最初に服と言っていたのにもかかわらずそこにこだわらないのですね」
「ええ、エリカさんの意見は絶対ですから」
美帆が何気なく言った言葉に、ノンナ達は苦笑いをする。
「ん?」
その微妙な空気の変化の理由が、イマイチわからない美帆であった。
そうして五人はデパートに付属しているレストランへと向かった。
レストランはちょうど食事時なのもあって人が多かったが、五人の入れるスペースはなんとかあったため、そのまま五人はレストランの奥へと案内された。
「それじゃあ食べましょうか、美帆、メニューに何があるのか教えて」
「はい。ええと……」
そうして美帆はエリカのためにメニューを読み上げた。そしてその美帆の読み上げたメニューの中から、エリカはハンバーグを選択する。美帆はカレーを、ノンナはボルシチを、ミカは日替わりランチを、アンチョビはパスタを頼んだ。
料理は少し時間を置いたが運び込まれ、五人の前に並べられた。
そして、五人は歓談しながらその食事を食べ始めた。
「それにしてもエリカさんとこうして会うのは本当に久しぶりですね」
「そうねぇ、最近は全然会えてなかったから、こうして一緒に食事する機会なんて全然なかったものね。みんなの活躍、ラジオとかでよく聞かせてもらってるわ」
「逸見の活躍も聞いてるぞー。大洗で名コーチなんて呼ばれているらしいじゃないか」
「名コーチなんて……言い過ぎよ。目の見えない私にできることなんて限られてるわ。頑張ってるのは大洗の子達の頑張りのおかげよ」
「そんなことないですよエリカさん! エリカさんのお陰で少なくとも私はすごく頑張れました!」
「ほら、教え子がこう言っているんだ。下手な謙遜はよくないよ逸見さん」
「そ、そうかしら……」
エリカは少しばかり顔を赤くする。そんなエリカの僅かな変化に、ミカ達の目がいたずらに光る。
「おや? 照れているのかい? あの逸見さんも、随分と可愛らしくなったものだね」
「べ、別にそんなんじゃないわよ……!」
「素直になったほうがいいぞぉ逸見ぃ。私はともかくミカとノンナは面倒だぞ?」
「私をミカさんと一緒にされることは心外ですね。私は好奇心からそういうことをすることは確かにありますが、ミカさんは完全に悪意の塊です。質が違います」
「おや、悪意で言ったらノンナもなかなかに強いと思うんだけれどね」
「否定はしないんですね……」
美帆が苦笑する。和気あいあいとした空気に、美帆は先程の緊張がほぐされていた。
思えば、最初に歓迎会で会ったときもそうだったと美帆は思った。
ノンナ、アンチョビ、ミカの三人はとても親しげな空気を出しているが、そこに入りづらい雰囲気はなく、むしろ自然に溶け込ませてくれる。
そこに美帆は三人の優しさを感じた。
そして、食べ終わる頃にはすっかり美帆はリラックスできていた。
食後、美帆達は少しゆっくりした後に衣服が売っている階へと行った。
その階の女性服コーナーには、実に様々な服が売られていた。
「おおー……こういうところってあんまり来ないんですけれど、来るとなんだか感動するものがありますね」
「大げさだなぁ東は。女の子ならちゃんと服装を気にしたほうがいいぞー?」
「服装には一応気をつけてはいるつもりなんですが……でも、最近はどうしてもそういうのが億劫になってしまっていて」
「まあ気持ちは分かりますよ。戦車乗りはそういうところはどうしても野暮ったくなってしまう部分がありますからね。でも東さんはテレビにも注目されることが多いですから、私服は気にしたほうがいいですよ」
「はい、ノンナさん……ありがとうございます、気を使ってくれて」
「いいえいいんですよ。同じチームメイトじゃないですか。それに、私にも経験はありますしね」
「ノンナは見た目だけはいいからね。そういう取材も、よく来るよね」
「だけ、とは引っかかる言い方ですが、まあいいでしょう。あなたの発言をいちいち気にしていては時間がいくらあっても足りませんから」
「もーまたすぐ喧嘩しようとするー!」
「ふふふ……」
美帆はそんなノンナ達のやり取りを聞いて笑う。
その笑顔は、とても朗らかなものだった。
「それじゃあ服を見て選びましょうか。エリカさんのものは、私が選びますね」
「ええ、頼むわ」
美帆はそうしてはずエリカのための服を選び始めた。
二人だけなら美帆の姿だけなら見えるエリカの目によって、美帆が一回エリカ用の服を着てみるということもするのだが、今はミカ達の他にも多くの客がいるためそういった行動はしないでおいた。
エリカが美帆を『視』ることができるのは二人だけの秘密というわけでもないのだが、下手にいいふらしてエリカの目が見えないことを疑われても困るためあえて口外はしないようにしていたのだ。
「んーエリカさんには……これがいいかもしれませんね!」
美帆が選んだのは黒いブラウスにロングスカートだった。どこか大人びた印象を与える服だった。
「あら、いいですね。それなら確かにエリカさんにも似合いそうです」
「そうだね。なかなか素敵だと思うよ。いいセンスをしているじゃないか、東さん」
「ありがとうございます」
ノンナとミカに褒められ、美帆は笑って応える。
「二人がいいと言うのなら本当にいいのね。美帆の選んでくれる服なら信頼しているけど、第三者の意見があるとより安心できるわね」
「ふぅむみんなセンスあるなぁ。私はそういうの自信ないからなー」
「何を言うんですか安斎さん。多分、この中で一番センスあるのは安斎さんですよ」
美帆がアンチョビに言うと、アンチョビは驚いた顔をする。
「えぇ!? ないない! 私なんてセンスないんだから普段野暮ったい服ばっか着てるんだぞー!」
「その普段の服のセンスがいいものだと思うけれどね私は」
「ええ、そうですね。本当にセンスのある人間はそういった普段の服装からセンスがにじみ出るものですから」
ミカとノンナが言う。その瞳には、どこかからかうような視線が篭っていた。
「う、ううー……そういうの、恥ずかしくなるから禁止!」
アンチョビはそう言うと、自分の服選びに戻っていった。
それを機に、四人はそれぞれ自分の服選びをし始めた。エリカはそれを楽しそうな様子で聞いていた。
そうして服も選び、五人はさらにデパートのいろいろな階を回った。
食品売り場、家具売り場、更には普段は絶対に見に行かないおもちゃ売り場にまで、五人は回った。
五人のその行動は、ショッピングを楽しむというよりは、五人でいられる時間を楽しむというものになっていた。
そうしているうちに、あっという間に時刻は夕方になった。
五人はデパートめぐりを終え、外に出た。
「ふぅ、今日は楽しかったぞ!」
「ええ、楽しめましたね」
「そうだね、たまにはこういった休日の使い方も悪くはないんじゃないかな」
アンチョビ、ノンナ、ミカがそれぞれ言う。
そんなミカ達に、美帆は頭を下げた。
「みなさん……今日は私のためにありがとうございました!」
「おいおい頭なんて下げなくていいんだぞ? 気にするな」
「でも、せっかく私のために貴重なオフの時間を割いてくれて……私、とても嬉しかったんです! だから、お礼を言わせてください」
「そのお礼は、私達よりも先に逸見さんに言ってあげなよ。私達に最初に頭を下げたのは、逸見さんなんだからさ」
「……あっ」
ミカの言葉に、美帆はハッとする。
そして、すぐさま美帆はエリカのほうを向き、エリカに頭を下げた。
「エリカさん……ありがとうございます!」
「いいのよ美帆。美帆のためですもの。美帆がプロで頑張ってくれるなら、私はそれでいいわ」
「エリカさん……!」
美帆はエリカのその言葉に感極まり目に涙を浮かべる。
そんな美帆の様子を見て、ミカ達は柔らかい笑みを浮かべた。
「いいものですね、若いというのは」
「ああ、そうだな。まあ私はまだまだ若いつもりなんだけどな!」
「ふふっ、そうだね。私達もまだまだ負けてはいないさ。けど、ああいう次の世代のために頑張るときが私達にも来たのかもしれないね」
美帆は瞳の涙を拭うと、今度はそんな話をしていたミカ達のほうを向いて、再び頭を下げた。
「改めて、ありがとうございました! 私、今日で先輩方と一緒に戦えること、嬉しく思いました。私、これから頑張ります! 東京エンパイアズの一員として、見事な戦果を上げて見せます!」
「ふふ、期待してるよ、東さん」
ミカが美帆の肩に手を置く。以前の美帆なら、そのミカの行為に萎縮していただろう。だが、今の美帆は違う。今の美帆は、そのミカの手が大変誇らしく思えていた。
美帆は、ミカ達三人と過ごした時間の中で、すっかり彼女達と距離を縮めたのだった。
◇◆◇◆◇
――数日後。
「放送席、放送席。今日のヒロインインタビューは、帝国エンパイアズの東美帆選手です!」
美帆はミカ達と一緒に行動を共にした次の試合で、見事な活躍を試合中にしてみせた。
そして、その結果その日のヒロインインタビューにまで選ばれることとなったのだ。
「よろしくお願いします、東選手」
「はい、よろしくお願いします」
「いやー今日の試合は素晴らしかったですねぇ。一両で相手戦車を五両撃破し、かつ陽動作戦を成功させるとは。見事なご活躍でした」
「いいえ、これも隊長のミカさんの采配によるものです。私は私にできることをしただけです」
「謙虚ですね。しかしそれをやってのける美帆さんの実力も見事なものだったと思います。プロになっての初の活躍でしたが、気分はどうですか?」
「はい。今まではあまり貢献できてなかったので、今回こういう形でチームに貢献できたことを大変嬉しく思います。できることなら、この調子でチームのために頑張って優勝させたいですね」
「ありがとうございます。東選手の力強い表明を聞くことができました。お立ち台より東美帆選手でした」
「……優勝させたいとは、大きく出たわねぇ」
「い、言わないでくださいエリカさん。ちょっと自分でも言い過ぎたかなって思ったんですから」
その日、帰った美帆はソファーに座ったエリカにそう言われた。
エリカはニヤニヤと美帆を見つめている。一方の美帆は、顔を赤くしてもじもじとしている。
「その、初めてのお立ち台でつい舞い上がっちゃったというか……うう、もう許してくださいよ」
「しょうがないわねぇ……」
エリカはそう言うとソファーから立ち上がり、美帆に近寄った。
「でも、頑張ったからそれはそれとして、ご褒美あげる」
「エ、エリカさ……んっ!?」
エリカは、美帆の体を抱くと急に美帆に口づけをした。エリカの舌が、美帆の口内を味わうように舐めまわす。
「んっ……んっ……」
「んっ……あっ……かはっ……!」
二人は顔を紅潮させながらも口を離す。その二人の口には、よだれでできた橋がかかっていた。
「……エリカさん」
「……何、美帆」
「……もっと、ご褒美ください……」
「……しょうがないわね……」
エリカは美帆の言葉に頷き、美帆の服の下に手をまさぐらせながらゆっくりと床に押し倒した。
初の活躍をした日は、二人は何度となく交わしたはずなのにいくらでも燃え上がる、熱い夜となったのであった……。