【完結】光ささぬ暗闇の底で   作:御船アイ

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鋼鉄の狐

「…………」

 

 東美帆は白旗の上がったティーガーⅡのハッチから上半身を出しながら、目の前の光景を見つめていた。

 美帆の視線の先には、二台のIS―2が砲塔を向け合っていた。

 一方のIS―2の色は白、もう一方の色は黄土色をしている。

 それぞれの砲塔からは、砲撃後の白煙が上がっている。

 美帆は、その緊迫した空気のなかゴクリと唾を飲み込んだ。

 彼女がこの状況を目の当たりにした経緯の始まりは、数時間前に遡る。

 

 

   ◇◆◇◆◇

 

 

「んーやっと着きましたー!」

 

 黒いパンツァージャケットを着た美帆は、さんさんと輝く太陽のもと、バスから下りて大きく背伸びをする。

 その美帆の後ろでは美帆と同じく黒いパンツァージャケットを着た女性達――帝国エンパイアズの選手達がバスから下り始めている。

 

「お疲れですか、東さん」

 

 美帆は後ろから話しかけられる。振り向くと、そこにはすらりと伸びた長身が美帆を見下ろしていた。

 

「あっ、ノンナさん」

 

 美帆に話しかけたのはノンナだった。美帆に優しく笑いかけるノンナに、美帆もまた笑顔で返す。

 

「はい、どうもバスでの長距離移動というのは苦手で……」

「そうなんですか? 戦車の中と比べればかなり快適だと思いますが」

「そうですね。でも私はどちらかというと戦車の中のほうが居心地がいいです。なんででしょうね。慣れというやつなんでしょうか?」

「ふふっ、バスよりも戦車のほうがいいなんて、東さんは生粋の戦車乗りなんですね」

 

 ノンナにそう言われた美帆は、少し顔を赤くして手を振った。

 

「そ、そんな……ノンナさんほどの戦車乗りに言われると恥ずかしいです……」

「ふふっ」

 

 ノンナはそんな美帆を見て静かに笑う。そのノンナを見て、美帆は大人の余裕というものを感じていた。

 そしてそれと共に、なんだかノンナがいつになく上機嫌なように見えた。

 

「ノンナさん? もしかして機嫌いいんですか?」

「おや? どうしてそう思いますか?」

「いえ、なんとなくですけどいつもより元気だなって……」

「おーいお前らー、何やってんだ早く行くぞー」

 

 と、二人が話しているところにアンチョビの声が飛んできた。

 見ると、他の選手はすでに移動を始めようとしているところだった。

 

「あっ、はい今行きます!」

 

 美帆とノンナは、その集団に駆け足で近づいていった。

 

 

 その後、美帆達は荷物を宿に置くと、ある程度の作戦会議をした後、今回の目的地、北海道にある戦車道の試合会場へと向かった。

 美帆達はそこに白く塗られた戦車――帝国エンパイアズの戦車の色は白に統一されている。美帆はジャケットの色は黒なのに戦車は白な事を前々から疑問に思っていた――を並べ、その前に整列する。

 そして、美帆達の前には黄土色の戦車が並べられ、その前に同じ色のパンツァージャケットを着た選手達が整列していた。

 そして、両者整列を終えると、それぞれの隊長、副隊長が前に出た。

 帝国エンパイアズの隊長はミカ、副隊長はアンチョビであるから、ミカとアンチョビが前に出る。一方相手チームからは、他の選手よりも一回り小さい小柄な選手と片目に傷がある選手が前に出た。

 そして、両陣営挨拶をする。

 その挨拶の後、ミカは相手の隊長に話しかけた。

 

「やあカチューシャ、久しぶりだね。今日の北陸フォクシーズとの試合、楽しみにしていたよ」

 

 ミカは相手の隊長――かつてのプラウダ高校隊長であり、現北陸フォクシーズの隊長であるカチューシャに軽く挨拶をした。

 するとカチューシャは、少し不機嫌そうに鼻を鳴らした。

 

「ふん、心にも思ってないこと言っちゃって。ま、久しぶりだからそんなことは気にしないであげるけどね。カチューシャは心が大きいから」

「そうかい。ありがとう」

「相変わらず掴みどころがないわね……それよりも! ノンナ!」

 

 カチューシャはミカから視線を逸らすと、ミカの後ろ、すぐ近くに立っていたノンナに話しかけた。

 

「久しぶりねノンナ! 去年のシーズンオフのとき以来だったかしら?」

「はいカチューシャ、そうなりますね。カチューシャにこうして会える今日この日を楽しみに待っていました」

「私もよノンナ。去年は帝国エンパイアズに順位で負けてしまったけれど、今年はそうはいかないわよ? 敗北の屈辱を味あわせてあげるから覚悟しなさい?」

「ふふっ、それはこちらの台詞ですよカチューシャ。今年も私達が勝ち越します」

 

 カチューシャとノンナは互いに不敵に笑い合っていた。

 その二人の間には、他人には割って入れない何かがあると、美帆は感じ取った。

 

「……そこのあなた!」

「は、はい!?」

 

 と、そこで突然カチューシャがノンナに向いていた顔の向きを変え、美帆を指さしてきたのだ。

 美帆は突然のことに驚く。

 

「あなたが大物ルーキーなんて呼ばれている東美帆ね? ふぅーん……帝国に大枚を叩かれて買われたにしては思った以上にパッとしないのね。ま、せいぜいカチューシャ達の戦いの邪魔にならないよう頑張りなさい?」

「は、はい……」

 

 相手の隊長のカチューシャからの突然の言葉に、美帆はどう反応していいか分からなかった。

 なのでとりあえず答えを返すと、ミカの横にいるアンチョビが苦笑いをした。

 

「おいおい、うちの新人をあんまりいじめないでくれよー? お前ただでさえ威圧感あるんだから」

「ふん、威光と言って欲しいわね。それに、こんなことで縮んじゃうような子じゃ、どちらにせよ使い物にならないんじゃないの?」

 

 カチューシャが不敵な笑みで美帆を見ながら言う。

 美帆はそれに、曖昧に笑って返す。

 するとカチューシャは、「……ふん」と急に不機嫌そうに鼻を鳴らした。

 

「さあ、行くわよ(れい)! 私達の強さ、今度こそ帝国に教えてあげないとね!」

 

 カチューシャはミカ達に背中を見せると、自分のチームの副隊長――零に話しかけながら自分達の戦車へと向かい始めた。

 

「ああカチューシャ、私達の力見せてやろう」

 

 零はカチューシャのその言葉にそう勇ましく答え、二人でそれぞれ戦車へと向かっていった。

 

「それじゃあ私達もいこうか。総員、搭乗開始」

『了解!』

 

 ミカの言葉で帝国エンパイアズの選手も引き締まり、それぞれの戦車に乗っていく。

 美帆もまた、自分に割り当てられた戦車、ティーガーⅡへと搭乗員達と一緒に搭乗した。

 そしてそれぞれの戦車が初期位置へとついていく。

 

『これより、帝国エンパイアズ対北陸フォクシーズの試合を開始します。試合開始!』

 

 審判の声が高らかに試合会場に響き渡る。

 こうして、帝国エンパイアズと北陸フォクシーズの試合が今、始まった。

 

 

   ◇◆◇◆◇

 

 

「七時の方向敵のT―34/85、停車、撃て」

 

 美帆の冷静な声が車内に響く。

 その次の瞬間、美帆の乗るティーガーⅡは指示通り停車し、遠方にいる敵車両を砲撃した。

 そして、わずかな間を置いてその砲撃は敵車両に命中、白旗を上げさせた。

 

「見事です米田さん。撃破しましたね。それでは一旦後退、撃破した車両と共に進軍していた車両を味方のところまで引きつけます。歩場さん、低速後退」

 

 美帆のティーガーⅡは相手車両を引きつけるように後退する。

 それに相手車両は見事引きつけられ、二台のT―34/85が追跡してくる。

 

「敵の砲撃来ますから当たらないように蛇行してください。米田さん、撃破はしなくていいので威嚇射撃お願いします。こちらがあくまで逃げに徹しているように見せかけてください。府頭間さん、味方に連絡お願いします」

 

 美帆の命令を乗員は見事に遂行する。

 それによって、二台の敵車両は待ち構えていた味方車両の前にまでおびき出され、撃破された。

 

「ふぅ……これで四台、ですかね」

 

 美帆は停車すると軽く息を吐きながら言った。

 

「そうですね、味方の撃破した車両と合計すれば、右翼の敵はこれでほとんど撃破したと言っていいでしょう」

 

 米田がそれに答えた。

 試合はすでに中盤から終盤に差し掛かっていた。

 試合は序盤、お互いにお互いを包囲しようとして隊列が横に伸び、そこからの緊迫したにらみ合いが続いた。

 互いに遠距離から砲撃するも、致命打となるダメージを相手に与えられずにいる状況だった。

 その均衡を良しとしなかったのは隊長のミカだった。

 ミカは互いの砲撃が続く中、敢えて左翼に前進命令を出した。

 普通に考えればいい的である。

 だが、ミカは他の全火力を敵の左方面に集中させることで敵の砲撃の精度を落とす作戦に出た。

 その結果、左翼の前進は成功し、膠着していた状況を動かすことができた。

 そこからは激しく試合が動いた。

 フォクシーズも囲まれまいと前進を開始、それに呼応するようにエンパイアズも全軍前進。

 互いに距離を詰め合い両軍の距離はどんどんと縮まっていった。

 そこからフォクシーズはさらに両側へ伸びてエンパイアズを挟撃しようと動く。

 その動きに対応して、エンパイアズは両側の車両を地形にある森林地帯へと分散させた。

 これによってエンパイアズは中央の守りが薄くなったかと思いきや、中央部隊もまた後退、小高い丘に登り攻撃してこようとするフォクシーズに対し防御陣を敷いた。

 試合はフォクシーズの挟撃が成るか、それともエンパイアズの攪乱作戦が功を奏するかという状況になった。

 美帆はその中で右翼を担当し、少しずつ敵の右翼の戦力を削っていた。

 結果、敵の右翼をほぼ壊滅状態に追い込むことができたのであった。

 

「これで敵の挟撃作戦は失敗ですね。連絡によれば左翼はまだ手こずっているようですが、この調子なら応援にいけるのでは?」

 

 府頭間が言う。

 

「そうですね、しかし油断はできません。未だこちらの主力の中央部隊が丘の上に釘付けにされていることには変わりないんです。中央部隊をやられれば、今度はこちらが狩られる番になります」

 

 美帆はそう言うと、手にタブレットを持ち地図を確認する。

 そして美帆は少しの間考え、言った。

 

「……府頭間さん、右翼の指揮を取っている副隊長に連絡してください。内容はこうです。中央部隊の後方の攻撃許可を求む、と」

「分かりました」

 

 美帆は手こずっている左翼ではなく、隊長車含め主力部隊を釘付けにしている敵中央部隊を叩く方を選んだ。

 

「敵左翼を叩いていない以上挟まれ壊滅する可能性のある危険度の高い作戦ですが、成功すれば敵隊長車をやれるため、逆にこちらが勝利を手に入れたも同然の状況になります。とはいえ、その危険性を冒すかどうかはアンチョビさんの采配次第ですが……」

「美帆さん、連絡ありました」

「はい、どうでしたか?」

「了解。右翼部隊を敵中央に進軍させる、とのことです」

「分かりました。……副隊長にこう返信しておいてください、私の賭けに乗ってくれてありがとう、と」

「はい」

 

 そうして右翼部隊は敵中央部隊への進軍を開始した。

 右翼部隊が敵中央部隊の後方につくころには、丘の上のエンパイアズの中央部隊はかなり追い詰められている状況にあった。

 

「やはりこれが正解でしたね……左翼を助けに行っていたらこちらの中央部隊がやられていたかもしれません」

『右翼部隊、突撃!』

 

 無線越しからアンチョビの命令が響き渡る。

 その指示に従って、右翼部隊は敵中央部隊への攻撃をしかけた。

 後方からの攻撃に、敵中央部隊が反転、迎撃体制を取る。

 その動きは美帆の予想以上に早く、その攻撃をカチューシャが予想していたことを美帆は感じ取った。

 そこから激しい砲撃戦が始まる。

 敵中央部隊は丘と後方、二つを相手取った厳しい状況に置かれていた。

 とは言え、反応が早かったのもあって右翼部隊も丘の上の味方中央部隊も用意には敵中央部隊に近づくことができない。

 

「このままでは敵左翼部隊に合流され挟み撃ちにあいますね……こうなったら、さらにもうひとつ賭けに出たほうがいいかもしれませんね……」

「美帆さん!」

 

 美帆がそう考えていると、通信手の府頭間が美帆に言った。

 

「ミカ隊長からの命令です! 『これより、中央部隊と右翼部隊によって敵中央部隊へ同時に前進する』だそうです!」

「ああ、さすがミカさん……! コインをベットするタイミングを分かっている……! それではいきますよみなさん、タイミングをあわせて……パンツァーフォー!」

 

 美帆の声に合わせて、美帆のティーガーⅡは前進する。

 その前進にフォクシーズ側は虚を突かれたのか、一瞬砲撃の精度が鈍った。

 その隙を、エンパイアズは見逃さなかった。

 

「砲撃!」

 

 美帆は高らかに命令する。

 その命令によって、距離を縮めたことにより撃破圏内にはいった敵車両を確実に撃破していった。

 もちろん、エンパイアズの車両も無事では済まず、右翼、中央隊それぞれに被害が出た。

 しかし、敵主力を撃破する可能性に比べれば、その被害は微々たるものであったと言えよう。

 美帆はそのとき勝ちを確信した。

 だが、そのときだった。

 

「っ!?」

 

 先頭をきっていた美帆のティーガーⅡを、激しい衝撃が襲った。

 どうやら履帯をやられたらしかった。

 美帆がハッチから頭を出して見ると、そこには美帆のように、IS―2から頭を出して不敵に笑うカチューシャの姿があった。

 その次の瞬間、敵中央部隊は右翼部隊に向けて進軍を開始した。

 右翼部隊を撃破し左翼部隊と合流するつもりなのだろうと、美帆は思った。

 アンチョビの命令が飛ぶ。

 

『右翼部隊、後退しながら攻撃! 敵を近づけさせるな!』

 

 しかし美帆のティーガーⅡは履帯をやられているためその命令に従うことはできなかった。

 敵に襲われている中悠長に履帯を直している暇もない。とりあえずの砲撃はするも、うまく避けられてしまう。

 美帆はその瞬間、詰んだと思った。

 

「クソッ!」

 

 戦車の中で装填手の甲斐路が装甲内部を蹴る。

 

「甲斐路さん、落ち着いて……」

 

 美帆はその甲斐路をなだめる。やられたことは悔しいが、これもまた作戦の結果である。そう考えると、美帆はそこまで悔しい気持ちにはならなかった。

 

「私達は作戦を遂行しました。その過程で犠牲が出るのは仕方のないことですよ」

 

 そう言っているうちに、いつの間にかフォクシーズの戦車が美帆のティーガーⅡに肉薄していた。

 なぜ砲撃しないのか不思議だったが、接近したカチューシャを見て納得した。

 カチューシャは、笑っていた。

 

「見事だったわ東美帆。ただ、運が悪かったようね」

「ええ、そのようです」

「それじゃあ最後に言い残すことはある?」

「狐は狩られるものですよ? カチューシャさん」

「ふん、言ってなさい。それじゃあさようなら、ピロシキー」

 

 そうして、美帆のティーガーⅡはカチューシャのIS―2によって白旗を上げさせられた。

 その直後だった。丘からエンパイアズの中央部隊の戦車が下りてきたのは。

 

「各車迎撃! 敵の後方部隊よりも先に敵の主力部隊を叩くわよ!」

 

 カチューシャの命令が直に聞こえてくる。

 美帆はその様子をじっと眺めていた。

 敵と味方の中央部隊が入り混じり、混戦が発生する。

 その中で、敵味方共々次々と倒れていく。

 その中で最も激しい戦いをしていたのが、カチューシャのIS-2と味方の白いIS-2、ノンナの乗る戦車だった。

 互いの戦車はギリギリの距離での砲撃を打ち合いながら、近づいては離れ近づいては離れを繰り返していく。

 それはまるで一種の決闘のようであった。

 その二両の戦いに他の戦車も手を出さない。いや、出せないといったほうが正しかった。

 いつまでも続くかと思われた決闘。

 しかし、その戦いにもついに終止符が打たれる。

 白と黄土のIS-2がそれぞれ急停車し、砲塔を向けあったのだ。

 そして、その刹那、両車両から激しい砲撃音がした。

 広がる沈黙。

 動かないIS-2。

 それは一瞬でありながら永遠のように感じられた。

 だが、次の瞬間、白旗を上げたのは、黄土色の戦車――カチューシャのほうだった。

 

「よしっ!」

 

 美帆は思わずガッツポーズをする。

 そんな美帆の横を、敵の中央部隊を壊滅させた味方主力部隊が横切っていく。

 そのとき、美帆は見た。

 ノンナは美帆に軽く頭を下げたのを。

 まるで、カチューシャと決闘する機会をくれてありがとうと言わんがばかりに。

 そして、どんどんと美帆の元から離れていく主力部隊と右翼部隊を見ていると、美帆の元に回収車がやってきた。

 その回収車に回収されながら、美帆は試合の顛末を見た。

 勝負は、帝国エンパイアズが勝利を収めた。

 

 

   ◇◆◇◆◇

 

 

「うう、負けちゃった……」

 

 カチューシャは試合後、悔しげに言った。

 

「仕方ないカチューシャ、相手のほうが上手だった。それだけのことさ」

「何よ零! もともとあなたが敵右翼を抑えられていたらこんなことにはならなかったんだからね!」

「うっ、それはそうだが……」

「カチューシャ」

 

 副隊長の零と話しているカチューシャのところにやってきたのはノンナだ。

 ノンナは、微笑みながらカチューシャに歩み寄り、そして頭を下げた。

 

「ありがとうございました。とてもいい試合でした。やはり、カチューシャは素晴らしい指揮官ですね」

「ふん、だったら私の下で昔みたいに戦ったらいいのに」

「それはできません。私は、プロではカチューシャと対等に戦いたいと思っているのですから。共に並び立つためには、これが一番だと私は高校の卒業式、あのときに決めたんです」

「ノンナ……」

「でもカチューシャ、私にとってあなたは最高の指揮官であることには変わりありません。愛しています、カチューシャ」

「ノ、ノンナ……!? ちょ、いきなり……!?」

 

 ノンナのいきなりの告白で、カチューシャは目を白黒させる。

 だが、すぐさま咳払いをし、ノンナを見直した。

 

「……ありがとうノンナ。私も、ノンナのこと好きよ。こうしてお互い堂々と気持ちを伝えられるのも、こうして敵味方になったおかげかしらね」

「はい。きっと」

「……ふふふ」

「……ふふっ」

 

 ノンナとカチューシャはいつしか笑い合っていた。そこには、二人にしか分からない絆が、確かにあった。

 

「はえー……」

 

 その光景を、美帆は口をポカンと開けながら見ていた。

 

「なんだか、とても立ち入れない世界ですね……」

「そうねぇ」

 

 と、美帆に同意する声。その声の主に、美帆は驚きの視線を向けた。

 

「えっ、エリカさん!? どうしてここに!?」

「あら、試合を聞きに来ていることは事前に知ってたでしょ?」

「そ、それはそうですけど音もなく現れるとびっくりするじゃないですか! 忍者か何かですか!?」

「あら盲目の忍者って結構格好いいわね。今度から忍法の勉強でもしようかしら」

「いろいろひどいことになりそうなので止めてください……」

 

 美帆がエリカに頭を下げる。

 その美帆の態度に、思わずエリカは吹き出す。

 

「……っぷ。あっはははははははは!」

「ちょ、笑わないでください!」

「ごめんなさいね。あなたがあまりに可愛いものだから……」

「え、エリカさん……」

「……ふふ、もう一度言うわ。可愛いわよ、美帆」

「ありがとうございます……エリカさんもそ、その……美しいです……」

 

 美帆とエリカの間に甘い空気が流れる。

 カチューシャとノンナ、エリカと美帆。

 それぞれ愛し合う者同士は、それぞれ思いを伝え合い、お互いの絆を確かめるのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なあミカ、私達場違いじゃね?」

「この場所にいる。それは私達にとって必要なことなのかな?」

 

 

 

 


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