【完結】光ささぬ暗闇の底で   作:御船アイ

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amusement for team

「うぐぅ……無念です」

 

 東美帆は、撤収される戦車を見ながら、煤けた体で輸送車の上で言った。

 美帆の車両は、その日行われた試合において、序盤に撃破されてしまったのだ。

 相手は大企業桐原コンツェルンをスポンサーとした、桐原ネロスズ。

 隊長は元知波単学園の隊長、西絹代である。美帆は試合の序盤において、同じくネロスズに所属している、元聖グロリアーナの選手であり、現ネロスズの副隊長である、オレンジペコの陽動に引っかかり、孤立させられたところを、西絹代の突撃にあい撃破されてしまったのだ。

 

「あのような陽動に引っかかるなんて、私もまだまだですね……」

「いえ、こればかりは相手の戦術が一枚上手だったかと……」

 

 砲手である米田(べいだ)が、黒い長髪をなびかせながら美帆に言う。

 それに対し美帆は首を振る。

 

「いえ、一枚どころか二枚も三枚も上手ですよ。でも、陽動自体はもっと冷静になれば見抜けたはずなんです。そこはやはり、私の未熟さゆえですよ」

 

 美帆は肩を落としながら言う。

 彼女がここまで落ち込むのは、最近の試合ではあまりなかったことだ。そのせいか、美帆の戦車の搭乗員達四人はどう声をかければいいか悩み、戦車の影に集まってこっそりと話し合う。

 

「……で、どうしよう」

 

 銀髪を輝かせた通信手の府頭間が言う。

 

「どうするなど、我に聞くな……」

 

 答えたのは米田だ。とても困った顔をしている。

 

「……ここは、時間が癒やすのを待つしかないかと」

 

 操縦手の歩場がショートヘアを揺らしながら小さな声で言う。

 

「そうね……美帆さんは微妙に繊細な部分があるものねぇ」

 

 装填手の甲斐路がツーサイドアップの髪をいじりながら言うと、他の三人が冷たい視線を甲斐路に向けた。

 

「な……何よ。ワタシの顔に何かついてる?」

「いや……それをお前が言うのかと思ってな」

「よくモノに当たるお主が言うことではないだろう……」

「……右に同じ」

「ワ、ワタシだって当たりたくて当たってるんじゃなくて! つい近くにモノがあると当たっちゃうだけであって!」

「まあ甲斐路の気性の荒さは置いておくとして」

「ちょっと米田さん! あなたにそう言われるとワタシすごく傷つくんだけど!」

「実際、我々にはどうしようもないのかもな。我々は、思えば美帆さんとの距離が少し遠い」

「そうだなぁ。なんというかビジネスライクな関係を未だに抜け出せてない感がある」

「……長い間同じ戦車に乗っているのにね。あんまり戦車道以外で絡んだことない」

 

 米田の言葉に、府頭間と歩場が同意する。

 

『…………』

 

 四人の間に、気まずい沈黙が流れる。

 

「こういうときは、だいたい逸見先生が解決してくれるんだけど……」

 

 その沈黙を破ったのは、甲斐路だった。

 確かにその通りだった。美帆が不機嫌なときは、常に彼女の同居人であり、恋人である逸見エリカ――美帆本人は秘密にしているつもりだがほぼ公然と知られた事実である――が美帆を慰めていた。

 

「でも今日は無理だな。逸見先生、久々に大洗女子学園に戻ってるし」

 

 そう、府頭間の言う通り、エリカはその日、美帆の試合会場から離れ、大洗学園艦にいるのだった。

 

「しかし先生も律儀だね。美帆についているから臨時講師をする必要がないのに、呼ばれれば行くのだから」

 

「そうだな。我もそう思う。だが、そういうところがあるからこそ、我らも美帆さんも逸見先生を好きになったのだろうな。まあ、好きの意味は違うが」

 米田の言葉に三人がうんうんと頷く。

 

「……そうだ」

 

 と、そこで歩場が小さな声ではあるが主張するように言った。

 

「ん? どしたの歩場?」

「……私達で、代わりに美帆さん慰めればいい」

「……なるほど、確かにそうすれば美帆さんも元気になるし、うまくういけば我々と美帆さんの距離も近づくかもしれない。よい提案だ、歩場」

 

 米田が歩場を褒める。

 そして四人は、どういう内容にするか四人で話し合い始めた。

 

「……はぁ」

 

 一方、美帆は未だに落ち込んでため息をつきながら試合の結果を映し出している巨大モニターを眺めていた。

 試合は、ネロスズが最適なタイミングで帝国エンパイアズの側面に突撃し、打撃を与えていた状況だった。

 試合はエンパイアズになかなかに厳しい状況になっていたが、最終的にはエンパイアズがネロスズの息をつかせぬ連続的な突撃を逆手にとり、ネロスズの部隊を包囲したことにより状況は逆転、エンパイアズの勝利に終わった。

 

 

「……あの、美帆さん?」

「はい?」

 

 試合後のブリーフィングも終わった後、美帆に話しかけたのは米田だった。米田は試合とは違った緊張感を持ちながらも、美帆に面と向かっていた。

 なお、米田の後ろでは部屋の外から歩場、甲斐路、府頭間がこっそりと米田を見守っていた。

 四人の中から米田が選ばれたのは、四人で話し合った結果、歩場では普段無口すぎて美帆とうまく喋られないだろうと判断され、甲斐路は何か失敗するとすぐモノに当たるので危なく、府頭間は普段の行いからドジをしかねないと考えられたからであった。

 三人はその評価に少しばかり不満を持っていたが、本当のことでもあるので米田に任せることにした。

 

「その……明日、予定はありますか?」

「え? いえ……明日はエリカさんもいないので特に予定はなく一人で過ごすつもりだったのですが……」

「そうですか……その、もしよければ我々同じ戦車に乗っている五人で遊園地にでも行きませんか? 実は、偶然チケットが五枚手に入りまして、我々四人は大丈夫なのですが後一人どうしようかと思っていまして……」

 

 そうして米田はチケットを見せた。もちろん手に入れたのは偶然などではない。歩場が急いで近場にある遊園地から手に入れてきたものである。

 

「遊園地、ですか……」

「……嫌ですか?」

 

 米田は不安そうに美帆の顔を見る。美帆はその米田の様子に、手をブンブンと振る。

 

「い、いえそうではないんですよ! むしろありがたいです、最近そういうところには行ってませんでしたからね。……ええ、そうですね。参加させてください。私なんかでよければ」

 

 美帆は笑顔を見せ言った。

 

「ありがとうございます」

 

 米田は無表情でお礼を言った。ただ、その背中に片手を回し、三人に見えるように親指を立ててみせた。

 三人は米田に見えないのを承知で親指を返した。

 

「それでは集まる場所と時間を決めましょうか。そうですね、集まる場所は――」

 

 そうして、米田は美帆と話を進めた。

 

 

   ◇◆◇◆◇

 

 

「うわー、すごい混んでますねぇ」

 

 翌日、遊園地。

 美帆は大勢の人混みを見てそう言った。

 

「そうですねぇ、平日なのにこの混みよう。さすがと言ったところですね」

「うむ、さすがは都市圏に近い遊園地、と言ったところか」

「うう、人酔いしそうだ……」

 

 それに甲斐路と米田が返し、府頭間が銀髪を太陽に輝かせながら少し辟易とした顔で言う。その側で歩場がコクリと頷く。

 

「まあ、しょうがないですよ。多分昨日の試合の影響で人が集まったのもあるでしょうし。それより、どこから行きます? 私はどこでもいいですよ?」

 

 美帆が先頭を歩いている米田の一歩後ろを歩きながら言う。

 米田はうーんと悩むように顎に手を置いた。

 

「そうですね……では、あれからどうでしょうか。少し並ぶことになりますが」

 

 米田が指し示したのはジェットコースターだった。ジェットコースターへの道には、少しばかり行列ができている。

 

「お、いきなりジェットコースターですか。いいですね、乗りましょう」

 

 美帆は笑顔で言う。だが、その笑顔は少しばかり元気がない。やはり昨日の影響がまだ残っているようだった。

 

「…………」

 

 歩場がトンと肘で府頭間をつく。

 

「えっ何だ!? 私に何かフォローしろと言うのか!?」

 

 府頭間が美帆に聞こえない程度の小声でヒソヒソと歩場に言うと、歩場はコクンと頷いた。

 

「そういうことはお前が……できないだろうなぁ。でも米田か甲斐路のほうが適任じゃないか? そういうのは。私はそういうのあまり得意じゃないぞ」

「……それもそう。人選を間違えた」

「あっ、ちょっと待て。今のはカチンと来たぞ。私だってやればできるのだ。今からそれを見せてやる」

「……まっ――」

 

 歩場はしまったと思い、府頭間を止めようとする。だが、その前に府頭間は美帆の横に行ってしまった。

 

「美帆さん!」

「ん? 府頭間さん? どうしたんですか?」

「えっと……そうだ! 下見だと思えばいいんですよ! 今度逸見先生と一緒に来る用にって!」

「……そうですね。でも、無理だと思いますよ。エリカさんみたいに目が見えない人には、遊園地は少し危ないと思いますから」

「あっ……」

 

 やってしまった。府頭間はそう思った。

 

「美帆さんちょっとすいません」

 

 その瞬間、府頭間は米田と甲斐路に両脇を掴まれ、美帆と距離を離された。

 

「貴様なーっ! よりによって一番繊細な部分をなーっ!」

「何考えてるのよあなたは! あなたのドジはいつものことだけどどうして肝心なところでやらかすの!? 馬鹿なの!?」

「……デリカシーがない」

 

 米田、甲斐路、歩場からそれぞれ怒られた府頭間は、反省してしゅんとうなだれる。

 

「す、すまない……ああ、私はなんてドジなんだ……!」

「あ、あの皆さん? 私は気にしてませんからそんな府頭間さんを責めないでください。むしろ、エリカさんが普段は健常者と変わらないぐらいの生活を送れているってことの証左みたいなものですから、ね?」

 

 四人の声は聞こえておらずとも、府頭間が責められているのが分かったのか美帆は三人に言う。

 その美帆の言葉に、米田と甲斐路は府頭間を離し、美帆の元へと戻った。

 

「すいません本当に……」

 

 米田が代表で謝る。それに、美帆は少し困ったようにハハハと笑って手を振った。

 

「だからいいんですよ。さ、それよりも早くジェットコースターに乗りましょう。今並べば十五分ぐらいで乗れるっぽいですよ?」

 

 美帆達はそこで話を一旦区切り、行列に並び、ジェットコースターに乗った。

 ジェットコースターに乗る頃には美帆以外の四人からも怒りは抜け、純粋にジェットコースターを楽しむことができた。

 

「いやぁ楽しかったですねぇジェットコースター」

「そうですね」

「……よかった」

「ふぅー……死ぬかと思ったぁ……」

「戦車とはまったく違った激しさがあって新鮮だったな」

 

 美帆に続き、米田、歩場、甲斐路、府頭間の順でそれぞれ感想を言う。

 

「歩場さんはずっと黙ってましたけど本当に楽しめたんですか? 私もジェットコースターがぐるんぐるんと回転するところでは思わず声を上げてしまったんですが……」

 

 そこに、美帆が疑問を歩場に投げかけた。

 歩場はコクンと首を縦に振った。

 

「ああ大丈夫ですよ美帆さん。歩場は昔から無口だけど楽しむときは楽しむ子ですから。それに実は微妙に表情が変化しているんですよ?」

 

 甲斐路が解説するように言う。

 

「へぇ……そうなんですか? 皆さんよく分かりますね。私には全然」

「まあ、私達は幼稚園の頃からの付き合いですからね」

 

 府頭間が付け足すように言う。

 

「ああ、そう言えばそうでしたね。みなさん、東京の同じ幼稚園から同じ小学校、中学校に通ってたんでしたっけ」

「ええ。私達四人は昔からずっと一緒で戦車道も一緒にやろうって決めてたんです。それで、名門の大洗に入学したんです。まさかプロになれるとは思ってもみませんでしたが」

 

 米田が解説する。それに美帆は納得するように手を打つ。

 

「なるほど……だからみなさんの連携は素晴らしいんですね、納得です」

「いえ……それも美帆さんの指示があるおかげですよ」

「ありがとうございます、お世辞でも嬉しいですよ」

 

 米田の言葉に、美帆が笑って返す。米田はその言葉に頭を横に振った。

 

「いいえ、お世辞などでは……」

「ふふっ、そういうことにしておきます。では、次は何に乗りましょうか」

 

 話を区切るように美帆は言った。米田はお世辞だと思われたことに少し納得がいっていないようだったが、話を引き伸ばすのもよくないと思い、あたりを見回した。

 

「……あれとかよさそう」

 

 そこで歩場が小さく声を出す。歩場が指さしたのは、コーヒーカップだった。

 

「コーヒーカップですか、ジェットコースターの後にはまったりしていいですね。ただ、五人全員はさすがに狭そうですね。二人と三人に分かれたほうがいいかもしれませんね……」

「はいはいはい! じゃあ私と米田で一緒に乗りますから、三人で楽しんでください!」

 

 そこで、割って入るように甲斐路が米田の手を掴み、言った。

 

「お、おい。こういうのは普通ジャンケンとかで決めるのでは……」

「いいじゃないの米田! ね、美帆さんもそれでいいですよね!」

「え? ええ……」

 

 その強引な態度に困惑する美帆。そこに、府頭間が美帆に耳打ちした。

「……甲斐路の奴、米田のことが好きなんですよ。もちろんラヴの意味で」

「……ああ、なるほど」

 

 美帆は納得したように頷いた。そして再び米田と甲斐路を見る。美帆は改めて二人を見ると、確かに甲斐路の米田への好意は一定以上のもののように見えた。

 

「……わかりました! それでは、私、歩場さん、府頭間さんで乗りましょう。お二人は二人でゆっくり楽しんでください」

「……は、はい。美帆さんがそう言うなら……」

 

 米田は一人納得していないような顔をしながらも、美帆の言葉だからと頷いた。

 そして、美帆達はそれぞれ二人と三人に分かれコーヒーカップに乗った。

 コーヒーカップも五人は童心に返ったかのように楽しんだ。美帆達はコーヒーカップを勢いよく回し、激しい回転を楽しんだ。

 米田と甲斐路は、まったりと回転を楽しんだ。

 

「ふぅ……コーヒーカップってこの歳で乗っても楽しいですね」

 

 美帆はコーヒーカップを降りてそう言った。

 

「うん、良かったです……」

 

 甲斐路は恍惚とした顔で降りてきた。その表情に、米田は少し不思議そうな顔をした。

 そのように、五人は遊園地を満喫した。

 フリーフォールで美帆は大声を上げたし、お化け屋敷では米田が「実は霊感があるんですけどここにはいますね」と爆弾発言をして四人は戦々恐々としたし、遊園地内にあるバッティングセンターでは甲斐路が全然打てずに怒ってバットを何度もマウンドに叩きつけてあわや店の人を呼ばれそうになったし、メリーゴーランドでは府頭間が乗りそこねて馬の上から転げ落ちて笑われるなど色々あった。

 そうしているうちに、すっかり日が暮れた。

 

「もうこんな時間ですか……さすがにお腹が空きましたね」

「そうですね。今日はこのぐらいにして、どこかに食べに行きましょうか」

「おっ、いいですね。そうしましょう」

 

 米田の提案に、美帆は頷いた。

 そうして五人は遊園地を出ようとした。そのときだった。

 

「うえええええん!」

 

 一人の少女が、泣きわめいているのを五人は見つけたのだ。五人はその子供に駆け寄った。

 

「どうしたんですか?」

「おかーさんと、はぐれたの……」

「そうですか……では、迷子センターに行きましょう。アナウンスして貰えば、すぐにでも親は来るはずです」

「やだぁ! ここから離れたらおかーさんと会えないぃ!」

「ああ、なるほど……うーん……じゃあ、せめて名前を……」

「うえーん!」

「あはは……」

 

 少女は泣きわめいて美帆を困らせる。美帆はどうしたものかと頭をポリポリとかいた。そのときだった。

 

「ねえお嬢さん、見てご覧」

 

 米田が、なんと子供の眼の前で突然ボールを取り出し、それを宙に浮かして見せたのだ。

 美帆も驚いた。マジックだ。米田にそんな特技があるとは美帆は知らなかった。

 

「お姉ちゃんすごい! お姉ちゃん魔法使いなの!?」

「まあ、そんなところだな。これは理力と言って宇宙に伝わるエネルギーを……」

 

 米田が少女に説明している間に美帆が回りを見ると、他の三人がいつの間にか消えていた。

 

『迷子のお知らせです。ウェープスインガーの近くでお母さんを待っている女の子がいます。特徴はピンクのワンピースに三つ編み……』

 

 と思ったら、突然そのような放送が流れてきた。三人のうち誰かが迷子センターに伝えたのだと思った。

 

「すいませーん! 迷子がいるんですけどー! お母さんはいませんかー!」

「今こちらで見ていまーす! 心当たりのあるお母さんはぜひウェープスインガーの近くにー!」

 

 さらに、遠くから叫びかける声が聞こえた。甲斐路と府頭間だった。

 放送だけではなく、実際に自分達の手足で母親を探しているようだった。

 そして数分後、府頭間が母親を見つけ、美帆達のところへと連れてきた。

 

「ああっ! みっちゃん!」

「おかーさん!」

 

 迷子の子と母親は感動の再会を果たす。そして、美帆達に何度も礼を言って去っていった。

 

「ふぅ……良かった。これで一安心だ。……さ、夕食に行きましょうか、美帆さん」

「えっ? ええ……」

 

 美帆は唖然としながらも、そう言う米田について行き、ファミリーレストランに入った。

 そこで五人は夕食をそれぞれ注文し、食べ始める。

 

「……それにしてもすごかったです」

 

 その食事の最中、美帆は言った。

 

「へっ?」

「さっきのことですよ。あんな迅速に四人で連携して動けるなんで、やっぱり皆さんは仲がいいんですね」

「いいえ……ただ、私達はずっと四人でいて、色んなことがあったからだいたいの事には対応できるようになっただけですよ」

 

 府頭間が照れくさそうに言う。それに美帆は首を振る。

 

「いいえ、本当にすごいです。私、大洗では昔からの友達は誰も戦車道をやってくれなかったし、そこまでずっと一緒にいた友人もいなかったので、羨ましいです」

「そうだったんですか……でも美帆さん。私達は、あなたともそうなりたいと思っています」

「え?」

 

 美帆は突然の米田の言葉にきょとんとする。一方で、米田は続ける。

 

「美帆さん。今日遊園地にお誘いしたのには理由が二つあるんです。一つは、昨日の試合で落ち込んでいた美帆さんを元気付けること。そしてもう一つは、美帆さんと仲良くなること。なぜなら、私達は同じ戦車に乗っているのに少し距離がありましたから」

「……そうですね」

 

 美帆はコクリと頷く。

 

「確かに、私達には距離がありました。……いえ、私が多分一方的に距離を作っていたんです。その、なんていうか、四人がとても仲良く見えたので、入るのをつい遠慮しちゃったんですね」

「そんな……」

「馬鹿みたいな話ですよね。……多分、私の中にそういう憧れがあって、眺めていることに満足していたんだと思います。あなた達や、鈴と理沙と梨華子のような間柄に……。鈴達とはある程度距離を詰められたのは、本当に偶然の重なりが多かっただけ……それに、四人とは戦車道でつながりが多い分またいつかでいい、チャンスはあると思ってしまって、逆に時間がかかってしまいました。ま、つまりは私が面倒なだけってことなんですよね。……こんな私でも、大丈夫でしょうか?」

「……もちろんですよ! なあ、みんな!」

「……うん」

「もちろんですよ!」

「ああ!」

 

 四人はそれぞれ頷く。その様子に、美帆は嬉しそうに笑った。

 

「ありがとうございます! じゃあ……最初のステップとして、みなさん! 私に普通に喋りかけてください!」

「えっ!?」

「だって皆さん、私に敬語じゃないですか。それにさん付け。私はそれがデフォですから普通ですけど、皆さんで喋るときは普通にタメ口ですよね? 私にも、それでお願いします」

 

 美帆は「さあ!」と両手を広げる。その様子に四人は顔を見合わせ、そしてコクリと頷きあった。

 

「では……み、美帆。どうだ、こんなもので」

「そうそう! そんな感じです米田さん! 他のみなさんも!」

「……美帆。……どう?」

「よ、よろしくね! 美帆!」

「これから頼むぞ! 美帆!」

「はい! みなさん!」

 

 美帆は敬語を使わなくなった四人に、満面の笑みを返した。それが、美帆なりの素直な感情表現だった。

 そして五人はファミリーレストランで話し続けた。これまでの時間を取り返すかのように。

 結局、五人は深夜になるまでずっと語り合っていたのであった。

 

 

   ◇◆◇◆◇

 

 

「……ということがあったんですよ、エリカさん」

「へぇ、よかったじゃない」

 

 後日、大洗から帰ってきたエリカに美帆はその顛末をすべて話した。

 

「あなたと搭乗員のあの四人との関係性が大洗の頃から気にはなっていたのよ。それがやっと進展してよかったわ」

「そうですね、本当に良かったです」

「いい、美帆。仲間との絆は、戦車道にとって大切なものよ。私はそれに気づけなかったからこんな目になったけど、あなたはそんな心配はないみたいね」

「エリカさん……」

 

 少ししゅんとした顔の美帆のおでこを、エリカはパチンとデコピンする。

 

「こらっ、そんな顔しないの。あなたのことを素直に褒めてるんだから、ね」

「……はい!」

「うん、いい笑顔。じゃあ、ご褒美上げる」

「……あっ」

 

 そう言って、エリカは美帆を床に押し倒す。そして、ゆっくりと美帆の唇に、自分の唇を重ねた。

 

「エリカさん……」

「……ふふっ、米田と甲斐路に先輩面できるよう、存分に楽しみましょう?」

 

 そうして、その日も二人は濃厚な夜を過ごしたのであった……。

 


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