【完結】光ささぬ暗闇の底で   作:御船アイ

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突然ですが今回で失明エリカIFルートは最終回となります。
今までお付き合いくださりありがとうございました。


光さす満天の空の上で

「…………」

 

 逸見エリカは、東富士演習場の観客席で、黙ってラジオに耳を傾けていた。

 ラジオは、演習場に並ぶ戦車道の選手達が互いに頭を下げる様子を熱く語っている。

 

「とうとうここまで来たわね、美帆」

 

 エリカは静かに言う。

 その表情は、普段の柔和な笑みからは想像できないほどに真剣なものだった。

 

「ずいぶんと気を張り詰めているな、エリカ」

 

 と、そこでそんなエリカに声をかけてきたものがいた。

 西住まほだ。

 

「っ!? まほさん……」

「やはりいたかエリカ。エリカなら、最前線でこの試合を聞きに来ると思っていたよ。戦車道プロリーグの日本一を決める戦い、殲滅戦にて行われるファイナルシリーズをね」

 

 ファイナルシリーズ。それはまほの言う通り日本戦車道プロリーグの優勝を決める試合の事である。

 その試合に、東美帆の所属する帝国エンパイアズは出場を決めたのであった。

 

「ええ……美帆の晴れ舞台ですもの。聞きに来るのは当然です」

「ああ、しかし相手はあの澤さんの指揮する大阪レジスタンス。一筋縄ではいかないだろう」

 

 そして、相手チームは澤梓率いる大阪レジスタンス。

 東京に拠点を置く帝国エンパイアズと、大阪に拠点を置く大阪レジスタンス。

 この両雄が並び立つことは、シーズンの始めからある程度予想されていたことであった。

 

「ええ……でも、私は美帆が勝つことを信じていますよ」

「それは、希望的観測か?」

「……確かに、それもあります。でも、美帆は私の恋人であると同時に、愛弟子でもあります。だから、美帆の戦いは私の戦いでもあります。だから、その勝利を信じないでどうするんですか」

「その相手が、みほの愛弟子と言える、澤さんであってもか」

「……はい」

「ほう」

 

 わずかにためらいがちになりながらも言い切ったエリカに、まほは少しばかり驚きの色を見せる。

 

「確かに、私はみほが生きている間彼女に勝つことができませんでした。でも、美帆なら、勝てるんじゃないかと、そう思うんです」

「……ふふっ、なるほどな」

 

 まほはくつくつと笑う。そして、にやつきながらも横目でエリカの事を見た。

 

「みほの姉である私の前でそんな言葉を言うなんて、やはり随分と彼女の事を信頼しているようじゃないか」

「うっ、えっ、あっ、それは……」

「ふふふ。まあそう萎縮するな。悪い、少しいじめすぎた。でもまあ、どちらが勝つかは私にも分からないところだ。あなたが育てた美帆が勝つか、みほが育てた澤さんが勝つか、この戦いは、そういう意味でも見ものだと思っているよ」

「……まほさんも、人が悪いですね」

「そうか? ふむ、カレー屋を始めてから、昔よりも心穏やかになったと思ったのだがな。……と、そろそろ始まるようだぞ」

 

 まほが会場に目を向けて言う。

 エリカも、ラジオに耳を傾ける。

 時刻は十五時五十分。

 視界開始、十分前だった。

 

 

   ◇◆◇◆◇

 

 

「…………」

 

 十五時五十五分。

 美帆は、ティーガーⅡの中で目を瞑りながら、静かにそのときを待っていた。

 戦車の中の他の乗員も、みな緊張しているのか真剣な表情で黙っている。

 

『――あー、各車聞こえるかい?』

「っ!?」

 

 と、そこで無線越しにその緊張を破る呑気な声が聞こえてくる。

 隊長であるミカの声だ。

 

『さて諸君、試合開始まで残り五分を切った。我がチームの日本一がかかった試合だ。みんな、緊張しているだろうね。特に、プロ一年目なのにこの舞台に立った東車とかは』

「なっ!? ミ、ミカさん!?」

『ふふっ、その声を聞くと図星のようだね。でもみんな、緊張しなくていい。これは私達の長い戦車道生活において、一つの歴史に過ぎないんだ』

「一つの、歴史……?」

『ああ。優勝すればそれこそ日本一という結果が残り、負ければその年は残念だったという事になる。でも、それはこれまで行われてきて、そしてこれからも行われるであろう私達チームの歴史の一つに過ぎない。時代は次々と塗り替えられていく。空に瞬く星のようにね。だから、あまり気にする必要はないのさ。空に星はいっぱいあるからね』

「…………」

『ま、そういうことで、人生において勝ち負けは重要なことじゃない。みんな、それに気づいていないだけなのさ』

「重要な、ことじゃない……」

『そんな事言って、わりと勝ち負けにこだわっているように思えますけどね』

『そうだなー、わりとミカは根に持つからな』

 

 と、そこで無線からノンナとアンチョビの横槍が入る。

 すると、無線越しにドッと笑い声が聞こえてきた。

 

「ふふっ」

 

 それにつられ、美帆達も思わず笑い出す。

 

『まったくひどい言い草だねぇ。ま、みんなの緊張が解けたならそれでよしとするか。それじゃあ各車、そろそろ開始だ。準備するように。オーバー』

 

 そこで一旦ミカとの無線は切れた。次に繋がるのは試合開始の号令だろう。

 美帆はそう思いながらも、先程よりも体から力が抜けている自分がいることに気づいた。

 

「さすが、隊長ですね……」

「そうだな」

 

 そこに、砲手の米田が頷く。

 

「……こっちも、正直すごく緊張してたから助かる」

「そうね、正直プロ一年目で優勝争いって、荷が重いなって思ってたもの」

「さすが、長年プロでリーダーをやっているだけのことはある」

 

 それに、操縦手の歩場、装填手の甲斐路、通信手の府頭間が続く。

 みな、一様に緊張していたようだった。

 

「私も、無駄に張り詰めていた部分はありますからね。エリカさんの戦車道を証明する、それが私の戦車道をやる動機の一つでしたから、そりゃこんな大舞台、緊張だってしますよ」

 

 美帆は苦笑いしながら言う。そして、すぐに柔和な笑みになる。

 

「でも、今の無線で大分気が楽になりましたね。エリカさんの戦車道を証明したい気持ちはありますが、それにこだわってチームの足を引っ張るわけにはいきません。こちらはこちらのベストを尽くし、空により美しく輝けるようにしないと、それこそエリカさんに申し訳が立ちません」

「……本当に美帆さんは、逸見先生の事が好き」

 

 歩場が静かに言う。

 それに美帆は――

 

「ええ、当然です」

 

 と、笑みで返した。

 そんな美帆を見て、乗員みなが笑う。車内には、先程までの重苦しい雰囲気は消え去っていた。

 

「さてみなさん、そろそろ作戦開始時刻です。肩の荷が降りたのはいいですが、いつまでもほんわかした空気じゃいけませんね。気を引き締めていきましょう」

『了解!』

 

 美帆の言葉に、搭乗員達は応える。

 時刻は十六時〇〇分。

 戦車戦の火蓋は切って落とされることになる。

 帝国エンパイアズと、大阪レジスタンスの、日本一を決める戦いの、始まりである。

 

 

   ◇◆◇◆◇

 

 

 十八時四七分。

 視界は完全な膠着状態に陥っていた。

 まず試合開始後三十分の十六時三十分、両陣営が防衛陣地を構築。

 両者はそれぞれ丘を隔ててにらみ合いとなった。

 先に丘の上を取ろうとするも、釣瓶撃ちにあう状況をお互いに作り出してしまったのである。

 ここに、両者の作戦が完全に開幕一致してしまったことをお互いに察知。

 それからと言うもの、なんとか防衛陣地を維持しつつも相手の裏手に回ろうと移動を開始。

 しかし、両者共互いの動きを警戒しているため、それはうまくいかずに僅かな小競り合いが行われるのみで、大規模な戦闘へは至らなかった。

 次に戦況が動いたのは十八時〇四分。

 大阪レジスタンスが重戦車での中央突破を仕掛けてきたのである。

 当然、帝国エンパイアズはそれに対応。重戦車は見事に討ち取られるもの……と思われた。

 しかし、それは大阪レジスタンスの作戦であった。

 大阪レジスタンスは、重戦車で攻めると見せかけて、夕日の落ちてきた頃合いを見計らって中戦車を密かに接近させていたのである。そして、その中戦車で重戦車を迎撃しようとしていた戦車の履帯部分を狙撃。

 これは、大阪レジスタンスの選手の技量の為せる技であった。

 そこで混乱をつくのが大阪レジスタンスの作戦であった。しかし、帝国エンパイアズも一筋縄ではいかない。

 ギリギリ相手の思惑を察知した帝国エンパイアズは戦車を引かせなんとか致命打を回避。

 そのまま重戦車の迎撃に向かおうとしたが、大阪レジスタンスが重戦車をすぐ引かせたため、結局大きな戦闘にはならなかった。

 その後、大阪レジスタンスは演習場にある市街地へと撤退、防御陣地を築く。

 帝国エンパイアズはそれを阻止することができず、市街地へと攻めあぐね、仕方なく市街地を包囲。結果、互いに手を出せない状況になり、膠着状態へと至ったのである。

 だが、それで終わるミカと梓ではない。

 互いに、次なる奇策を練っているところであった。

 そんなときだった。

 美帆が、ミカに作戦の提案をしたのは。

 

 

『敵陣に奇襲を仕掛ける、と言うのかい?』

「はい」

 

 美帆は無線越しにミカと話す。

 

『しかし相手は十分な防衛陣地を構築している。それを、どう突破するつもりだい?』

「まず大量のスモークをおそらくもっとも防衛の薄い背面に炊き、そこに重戦車を向かわせます。そこで、相手の意識が背面に集中したところで、あえて防衛の厚い正面に攻撃をしかけます。その二正面作戦を行えば、どちらかは確実に相手の陣地を崩せるかと」

『なるほど。その勝算はどこから?』

「……私は、殆ど澤さんと話したことはありません。でも、分かるんです。私はエリカさんにエリカさんの戦術を教え込まれると同時に、それに最も敵対するであろう、西住みほさんの戦術をも教えられていますから。だから、その戦い方ならどうするかを、私なりに考えた結果、そうなったんです」

『ふむ、なるほど……』

 

 少しばかりミカは考える。

 そして、言った。

 

『いいだろう。君の提案に乗ってみようじゃないか』

「っ!? いいんですか!?」

『何を驚いているんだい? 提案したのは君じゃないか』

「そ、それはそうですが……犠牲覚悟の提案ですよ?」

『ふふ、別にいいのさ。なーに、言ってしまうと、その案は私も考えていた。ただ、他の案との成功率を検討していた段階だったわけさ。どちらにせよ、攻めないと話は始まらないからね。そこに、君が後押しするように検討中であった案の一つを言ってくれた。ならば、この風に乗るのも一興だと思ってね。みんなもそれでいいよね?』

『ええ、隊長がそう言うならば』

『私は何も問題ないぞー! 面白そうじゃないか!』

 

 ノンナやアンチョビ、さらに他の車の車長達からも賛同の声が聞こえてくる。

 チームメイト達からの信頼を受けている、美帆は今そう思った。

 

『その代わり、と言うのはおかしいけど、正面の最も防衛の厚い部分への先陣は東さん、君に頼みたい』

「……! はい、分かりました!」

 

 ミカからの重要な任務を預かり、気が引き締まる思いになる美帆。

 この作戦だけは必ず成功させねばと、美帆は思った。

 そうして、ついに状況は動き出す。

 時間にして、十九時〇三分のことであった。

 

 

『じゃあいくよ……後方部隊、スモーク点火! 進軍開始!』

 

 ミカの号令が響き渡る。

 それと同時に、後方への攻撃が始まる。

 大阪レジスタンスの防衛部隊は、後方へ防御を集中し始める。

 そのタイミングを、美帆は見計らって言った。

 

「それではいきます……パンツァーフォー!」

 

 美帆が号令を出す。

 その号令により、美帆を先陣に重戦車部隊が移動を開始する。

 正面に構えるは、大阪レジスタンスの重戦車部隊。それは、美帆の乗っているティーガーⅡと同じく、ドイツ製のティーガーⅠなどであった。

 意表を突かれた正面部隊の僅かな隙を狙い、重戦車部隊は敵の正面部隊を撃破していく。

 そうして、美帆は防御陣地を崩し市街地への第一歩を踏んだ。

 

「よし……!」

 

 と、美帆が確かな感触を感じていると、突如戦車が揺れた。

 

「きゃっ!?」

 

 美帆が驚いてキューポラから頭を出すと、そこにはいつの間にかギリギリまで接近してきていたⅣ号戦車があった。そして、そのキューポラから顔を覗かせているのは、他の誰でもない、梓だった。

 

「……なるほど。分かりました。後方各車の皆さん! このⅣ号は私が惹きつけます! その間に進軍を!」

『……! 了解しました』

 

 それに答えたのは、IS―2で後方から進軍してきたノンナだった。

 ノンナは、すぐさま美帆の思いを受け取り、すぐさま対応したのだ。

 そして、了承されたと分かってからの美帆の行動は早かった。

 

「歩場さん! キングティーガーを相手のⅣ号にぶつけてください!」

「……無茶を言う、でも、了解」

 

 美帆は、撃破のために接近戦を挑んできたⅣ号を逆手に取り、その車体を無理やりぶつけて相撲のように押し出し始めたのである。

 それは、ティーガーⅡの火力を考えれば利点を潰す、むしろ撃破してくださいと言わんばかりの愚策にしか思えなかった。

 そのせいか、頭をのぞかせている梓の顔に驚きが見えた。

 その一瞬の隙をついて、美帆の後続に続いていた戦車達が次々と市街地へ入っていく。

 梓はその僅かにつかれた意表によって、指揮が遅れ、侵入していく戦車への対応が遅れていたようだった。

 それこそが美帆の狙いだった。

 梓の恐ろしいところは戦車指揮の技量もそうだが、全体的な指揮能力にある。

 それがある限り、市街地へ入れたとしてもすぐに対応される可能性があった。

 だが、その指揮能力を僅かでも鈍らせることができたとしたら?

 そのために、美帆は自らを犠牲にするような戦略を取ったのである。

 戦車と戦車がぶつかり合い、砲塔がつばぜり合いにある。

 そこで、美帆と梓は顔をあわせた。そして、そこで互いに笑いあった。

 それは、互いへの賛辞か、それとも極限状況が生み出した精神的昂ぶりなのかは分からない。

 だが、お互いに笑っていた。そして、それからは二両は戦車での格闘戦を行うことになる。

 

「米田さん! 狙えますか!?」

「無理だな! この距離と速度じゃ、ティーガーⅡの砲塔回転が間に合わん!」

「歩場さん! 相手と再び距離を取れますか!?」

「……無理。ぴったりつかれて重さの差が出ちゃってる」

「甲斐路さん! ダメ元で撃つんで装填もっと早く!」

「これでも頑張ってるのよっ!」

「府頭間さん! 全体の戦況は!?」

「今こっちが優勢!」

「それさえ分かれば十分!」

 

 美帆はそう搭乗員に指示を出しながらも、視線は梓から離さなかった。梓もまた、視線を美帆から離さなかった。

 そうして繰り広げられる格闘戦は、とても長く感じたし、短くも思えた。

 だが、ついに決着がつく。

 

「っ!? Ⅳ号が急に離れた!? とにかくこれはチャン――」

 

 美帆が指示を飛ばそうとした刹那、一旦離脱したかのように思えたⅣ号はドリフトし急接近、再び肉薄し、美帆のティーガーⅡが照準を合わせ撃つ前に、接射した。

 

「ぐっ!?」

 

 大きな衝撃をティーガーⅡが襲う。

 そして、ついにティーガーⅡから白旗が上がった。

 

「ふふ、負けましたね……対決に。でも、試合はどうでしょう?」

 

 ボロボロに煤けた美帆だったが、あえて笑みを崩さない。

 そしてⅣ号がその場から離れようとしたときだった。Ⅳ号の履帯が外れた。

 梓がはっとする。

 後ろを向くと、そこには他の戦車を全滅させてきたミカ達の姿が。

 それは、殆どゲームセットを宣言したも同然だった。

 梓は諦めたように、ふっと笑う。その直後、次々にⅣ号に向けて砲撃が行われた。

 それで、試合終了だった。殲滅戦ルールによって行われた日本一をかけた戦いは今、決着がついた。

 時刻にして十九時四二分のことだった。

 

 

   ◇◆◇◆◇

 

 

「すごかったよ、東さん!」

 

 試合後、お互いの健闘を称え合う両チームの選手の中で、梓が美帆に駆け寄ってきた。

 

「まさかあそこであんな力技を使ってくるなんて! 私、想像もしてなかったよ!」

「あ、ありがとうございます……でも私、戦車戦では負けましたし……」

 

 とても嬉しそうな表情で詰め寄ってくる梓にやや気圧される美帆。

 美帆は両手を振って謙遜しながら、上半身を逸らしていたが、その逸らした分だけ、梓が詰め寄ってくる。

 

「ううん、それでも凄いよ。私、つい熱くなっちゃったもん。それで、全体への指揮がおろそかになって……それで、負けちゃった。勝負には勝ったけど、試合には負けたね。さすが、逸見さんの弟子だね!」

「あ、ありがとうございます……!」

 

 そこで美帆の顔は真っ赤になった。さすがエリカの弟子と言われたことが、とても嬉しかったのだ。

 そんな光景を遠目で見、そして聞きながら、まほとエリカは笑っていた。

 

「……勝負は東さんの勝ち、かな」

「どうでしょう。戦車戦では負けましたし。試合の勝利はチームのものですから、私の戦車道が勝ったとは言えませんよ」

「それもそうだな。とすると……引き分けかな?」

「……そうしておいてください。負けと言われるとちょっと悔しいので」

「ふふっ、そうだな。ふふっ」

「ははっ」

 

 笑いあうまほとエリカ。その姿は、黒森峰時代には見ることのできない姿だった。

 

「……しかし、こうして時代の選手は育っていくんだな」

「そうですね。……最初、みほが死んだとき、私は絶望し、その死を否定し続けていました。でも気づいたんです。受け継いでくれるものがいれば、記憶にとどめてくれる人がいれば、その人は死なないって。だからみほは生きているんです」

「そうか……そうだな」

「そして、私の戦車道も……だから、もし梓が誰かに彼女の戦車道を受け継がせて、美帆が私の戦車道を誰かに受け継がせれば、その中に私達は生きていく。私達は、生き続けていく。それって、とても素敵なことだと思いませんか? 私も、みほも、そしてまほさんも、ミカも、ノンナも、カチューシャも、ダージリンも、愛里寿も、みんな、みんな永遠になるんです。私には今見えていないけど、きっと空の上で輝いている、満天の星空のように」

「そうだな……きっと受け継がれていくさ。きっと、な」

 

 二人は楽しそうに話す美帆達を前に、そう語り合った。

 

 

   ◇◆◇◆◇

 

 

「ちょ……美帆、どうしたの?」

 

 その夜、美帆は家に帰るやいなや、エリカの事をベッドに押し倒した。

 

「エリカさん……私、今日頑張りました。エリカさんの戦車道はここにありって、頑張りました」

「ええ……」

「だから今私、すっごく興奮してるんです。こころのドキドキが止まらないんです。だから今日ぐらいは、こうやって私が責めても、いいですよね……?」

 

 そう言いながら、美帆はエリカに口づけをする。口づけをしながら、エリカの服を脱がしていく。

 

「……んっ……あっ……もう、仕方のない子ね。いいわ、たまにはあなたが私を導いて。私の、光となって」

「……はい! 私はこれからずっと、エリカさんの光になります! ……例えこれが、虚構であっても、偽りであっても、私達はここにいると、証明してみせます……!」

 

 こうして、二つの光は今日も一つとなる。ただ、今日は小さな星が大きな星を包み込んだのは、いつもと違う夜の証だった……。

 


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