まだ発展する以前のブロードウェイでエリザベートと遭遇したのは昨日の事である。
「この芸術(的に酷い歌)を広めるためにも、どうか私たちに力を貸していただけないでしょうか?」
という大天使マシュの若干黒い説得によりエリザベートは仲間に加わった。
彼女もこの長い旅路でいい意味でも悪い意味でも成長したのだろう。
「久しぶりね仔イヌ!ってあら?見ない顔ね。あなたは・・・そう!小カピパラ、小カピパラね。」
何故か出合い頭にげっ歯類扱いをされたが、彼女のネーミングセンスは謎である。
とりあえず俺は無難に挨拶を行い、親睦を深めた。
「はじめまして。ぐだ男君の同僚の葉山慎二といいます。よろしくお願いします。とりあえず初対面でいきなりげっ歯類扱いとか無礼にもほどがあるので黒ヒゲ嗾けますね?行け!黒ヒゲ!君に決めた!!」
「ぴ、ぴ○ちゅ~でござるよ!!」
「きゃあああ!!イキナリなんか小汚いオッサンがああ!?」
うん。
親睦を深めた結果、エリザベートにどちらが上かその身に刻みこんだ。
それから噂のセイバー(型月世界のジャイアンリサイタル二大巨のもう片方)がいるらしき場所へと移動するまでもエリザベートは必ず俺(と黒ヒゲ)の間にマシュやぐだ男君を挟んだ位置取りを行っていた。
恐がらせ過ぎたか・・・。
目的の街に到着すると人っ子一人居ない西部劇のような街並み、その中で純白の花嫁衣裳に身を包んだ美しい少女が、ドリルのような形状の剣を持った巨漢と相対していた。
今にも戦闘が始まりそうな不穏な気配であったため、俺はロビンフッドに純白の花嫁の援護を頼んで先行してもらった。
ぐだ男君もそれを追って先行していたがキャスニキ曰く敵サーヴァントと思われる巨漢はフェルグス・マック・ロイ、ケルトが誇る大英雄である。
残念ながら浅学である俺は詳しくないのだが、クー・フーリンの剣の師匠といえばその脅威度は分かるであろう。
「クハハハ!クー・フーリン!よもや素面な貴様に会えるとは思わなかったぞ!」
「よう。フェルグス。敵味方別れるのはケルトの常だけどよ、なんでまた滅ぼす側に立ってんだよ?後、素面ってーのはもう一人いるって言う俺と関係あるのか?」
「ふむ・・・まあ俺にもいろいろとあるのだ。何せ女王が此方に入るからな!一応は俺の主だし、身体だけは良い女だからな!」
「おいおいおい、あの女が居るのかよ!?」
何か昔なじみと出会って話が盛り上がっているようだが、不意討ちしちゃダメかな?
でも俺は容赦はしないが浪漫を好む男だ。
空気読めないことをするのもなあ・・・あ!ロマンじゃないよ、浪漫だからね。
「だが流石に俺一人ではこの数のサーヴァントは相手出来んな。よし!多勢に無勢だ!女王の力を借りるとしよう!」
どうでも良いことを考えていると、フェルグスが多勢に無勢だと堂々とケルト兵を多数呼び出した。
量産型ケルト兵とはいえその数は100近くおり、俺やぐだ男君、そして地味に死にかかっているラーマ君を守りながらではキツイものがある。
俺がどうしたものかと迷っているとぐだ男君から念話が届いた。
(どちらかが囮になって片方脱出、その後もう片方も脱出、か。)
俺達はこの特異点に来る以前から、いくつかの戦術パターンを組んでいた。
その中には強敵(アチャクレス等)が出てきた場合、多勢に無勢、俺達マスタ―がピンチなどのシチュエーションもあり、今回のようなパターンももちろん含まれていた。
(・・・俺が残る。いざとなれば俺らは機動力があるし、搦め手も得意だ。失礼ながらぐだ男君のサーヴァントは酒呑を除けば足が遅い。先に逃げてくれ!)
ぐだ男君は物凄く渋い顔をしている。
頭では俺が残った方が合理的だと理解しているのだが、感情が納得していないようだ。
好感が持てるが、今はそんなことをしている暇はない。
(ぐだ男君・・・俺には100%フェルグスの注意をこちらに向ける策がある。それに早くしないとラーマ君が持たない。)
卑怯かもしれないがラーマ君を出汁に使う。
まあ一切嘘をついてないし、策があるのも出まかせではない。
「走れ!!」
Xの支援砲撃がどこからともなく降り注ぎ、黒ヒゲが煙幕を炊き、エミヤが矢を放つ。
俺はマルタと共にぐだ男君とは反対方向へと駆けながら、虚数魔術により虚空にTVの砂嵐のような色合いの棘を生み出し放つ。
ばらきーちゃん?笑顔でケルトに突貫してミンチやら焼肉を大量生産してるよ。
ぐだ男君たちが脱出した。
脱出際にジークフリートの幻想大剣・天魔失墜が飛んできてケルト兵の何割かが消し飛ばされた。
中々憎いことをしてくれたので、いやが応にもコチラのテンションが上がるものだ。
「く!お前たち!此処は任せた!」
どうにもフェルグスは昔なじみのキャスニキやたった今宝具による圧倒的戦闘能力を見せたジークフリートにご執心のようである。
現在こちらにいるのは俺、俺のサーヴァント達、ジェロニモ、ロビンフッド、ビリー・ザ・キッド、ネロだ。
戦闘タイプのAランクサーヴァントが居ないからだろうか?
まあ暗殺者だったり、なんちゃって聖女だったり、乗り物に乗ってないライダーだったり、ステータスが低かったり、皇帝だったりするのでその戦力評価はあながち間違いではない。
だが間違いでないからと言って数が多いだけのザコをこっちにぶつける?
完全に舐めてやがる。
「・・・ムカつくな。」
「あっ。(あ、マスター本気でムカついてる。まあ確かにあの舐めた態度は頂けないからしょうがないわね。私もステゴロなら・・・駄目駄目!今の私は皆を癒す聖女だもの。)」
「あっ。(これはあの岩タイプ使いそうな顔の剣士酷い目に遭うでござるな。まあ・・・舐められたら海賊家業はおしまいだからなあ・・・。海賊じゃないけど。)」
「あっ。(酒呑の分の肉を確保しといた方が良かったかな?)」
「あっ。(何か嫌な予感がする。)」
「・・・・」
俺はすぐさま行動を示す。
「令呪を以って命ず、エミヤ今念話で指示したことを全力で行え。」
「!?くっ了解だ!地獄へ落ちろマスター!!」
「X本気で気配遮断してまでネロの首を狙うな。狙うなら後で正々堂々と狙え。」
色々あって忘れていたが、ネロはセイバーでアルトリア顔で「青はオワコン」と言い放った、ある意味モーさんを超えるX(アルトリア)煽りキャラである。
彼女を見てから即殺しにかかるかと思ったXは以外にも切りかからなかった。
俺は流石にフェルグスという強敵を相手にして自重したのかと思ったが、何のことは無い。
このアマ、乱戦になって皆の意識が散漫になるまで耐え忍び、下手なアサシンよりもアサシンらしく気配遮断までしてネロの首を狙ってやがった。
フェルグスをぐだ男君の方へ行かせないために周囲を見回したら偶然見つけれたから良かったものを、貴重な味方が減るところだった。
「そんな!?」
「うお!?何故お前は背後から余の首に剣を近づけておるのだ!!?」
何でXは止めるなんて信じられない!みたいな顔で俺を見るのか。
信じられないのはお前の頭だ。
そんなことをしつつも皆俺の周りに集まる。
「後は任せた。『エミヤ勝て!』」
強化魔術に加えて更に令呪を重ねる。
エミヤは頷き、動き出す。
「(───体は剣で出来ている)Steel is my body, and fire」
前世で画面の前で何度も耳にした呪文が紡がれる。
残念ながら処刑用BGMは聞こえてこないが、そこは俺の脳内で保管する。
(♪チャララララン!チャンチャンチャン!!)
(何でござるか!?どこからともなく妙に心躍るBGMが!?)
(っていうかマスターの念話じゃない?)
(何故でしょう、妙に聞きなれた気がします。)
(余もだ。)
(おお!吾もこのような演出が欲しいぞ!!)
そして原作では彼の代名詞ともいえる名シーンに用いられる戦闘方法。
それが今目前で再現された。
「我が骨子は捻れ狂う」
いつ間にかエミヤの手にフェルグスの持つ剣とうり二つの剣が現れる。
そのまま俺たちの、そして目前のフェルグスによく見えるように剣を掲げて、より細くより捻じれるように変形させる。
「―――“偽・螺旋剣”」
それをゆっくりと弓につがえてフェルグス・・・ではなくケルト兵に向けて放つ。
ドゴン!
空気の壁を超える音だけを残し、矢は赤い彗星の如く音速で飛び、こちらへ接近していたケルト兵を紙屑のように抉っていった。
矢はそのまま彼らの中心の大地に突き刺さり、閃光と共に弾けた。
「壊れた幻想」
一瞬、全ての音と光が無くなり、直後大地と共に吹き飛んだケルト兵達は優に全体の7割以上が死亡もしくは戦闘不能状況に陥った。
「エミヤ以外は動けない奴にトドメを、エミヤはフェルグスを。」
続けて両手に干将莫邪を作り出したエミヤは独り静かに歩き出す。
歩き出す先にはぐだ男君たちを追うのをやめ、バーサーカーもかくやともいう程の憤怒の表情を見せるフェルグス。
「すまないな。ついちょうどいい武器を持っていたので撃たせてもらった。」
「・・・それが、それが貴様の遺言ということで良いんだな!?」
「さて、何をそんなに怒っているのかね?たかだか雑兵達を使い捨ての道具で吹き飛ばしただけだろう?まさか俺の仲間を!などとセンチメンタルなことを言ったりしないだろうな?何、君たちの言葉を借りるならばこれは『戦争』なのだ、たかだか一度まあまあな出来の贋作を砕いたからと言って冷静さを失っては英雄とは言えないぞ?」
「貴様あ!!言うに事欠いて人様の剣を勝手に贋作し、なおかつ勝手に不格好に改造して撃ちこんだだけでは飽き足らず!粉々に爆破しておいてその言葉かああぁあ!!!」
「ふっ。これだからケルトは。(鼻で笑う)」
「・・・・・・。」
急に黙り込み、剣を思い切り大地に突き立てるフェルグス。
一度俯き、深呼吸を一つ。
数秒ほどして頭を上げてエミヤを睨み付ける。
「殺す。」
計画通り、エミヤの挑発によってフェルグスは完全にぐだ男君たちのことは忘れて、いやエミヤ以外どうでも良くなったようだ。
ちなみに俺がエミヤに命じたことは唯一つ。
「カラドボルグⅡを用いて全力でフェルグスを煽れ。」
である。
まあエミヤじゃないが彼らの言葉を借りるならコレは『戦争』だから、相手を挑発して有利な状況に持っていくのはショウガナイヨネ?
やめて!フェルグスの虹霓剣で抉られたら、妹のクロエちゃんよりも低ステータスのエミヤなんてボロぞうきんになっちゃう!
お願い、死なないでエミヤ!あんたが今ここで倒れたら、カルデアの食生活はどうなっちゃうの? 魔力はまだ残ってる。ここを耐えれば、フェルグスに勝てるんだから!
次回「エミヤ死す」。デュエルスタンバイ!