秘奥義しか使えない?・・・って、オーバーキルすぎるだろう!!   作:神谷秋光
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絶望からの希望

その日は晴天に恵まれ、たくさんの露天と人で活気に満ち溢れていた。

王都ルグニカの大通り。

現代日本とは違う、アスファルトの道ではなく、石造りの道が目立つ。ときおり、馬ぐらいの体格をしたトカゲの様な生き物が、その後ろに荷物と人を乗せた荷台を引き、その上を走る。

その道を歩いている人々も、また、奇抜だった。

日本人であるのであれば、黒髪黒目が普通だ。

まあ、中には自分で髪の色を染めて変えているものも、いるかもしれない。

だが、これはおかしいと誰もが思う事だろう。

例を挙げると、赤、緑、紫、青、金髪、オレンジなど、見渡す限り、カラフルな色の髪が目立つ。

赤色や金髪などは、外国人と考えれば分かるが、その他の色はおかしいと思ってしまうだろう。

その全てが、色を染めた様な違和感があるものではなく、地毛と呼ぶにふさわしい自然体のものだ。

見渡す限り、黒髪黒目の人物など、この中にはいない。むしろ、この中にいれば、逆に目立つのかもしれない。

極めつけには、人とは違う姿をした二足歩行で歩く、猫、犬、ドラゴン等の亜人種と思わしき者。

口を開けば、人の言葉を話し何気ない仕草や顔の表情は人間と同様、感情を持ち意思疎通が行えるのだろう。

この光景を最初に見たものは、明らかに異常だと言ってしまうだろう。

これを、言葉にするのであればまるでファンタジーの物語に入り込んでしまったのではないかと、錯覚するほどだ。

だが、ここにいる人たちは、これが当たり前の光景であり日常なのだ。だから、これを見て錯乱して夢だの現実ではないなどと言った人物がいれば、ここの人達にとってその人が異常でしかない。

そんな、日常に二人の男がいた。

二人で並んで座り込んで一様に地面を見つめている。

二人とも、日陰に座り込みこの暑さでやられたのではないかと、全く動かない二人を見るが所詮はここの人たちにとっては他人でしかない。

二人の前を通る時に、ときおり一瞬だけ通行人が二人を見るが、誰もがその後興味を失って通り過ぎる。

本当に熱中症で具合を悪くして、二人がこうしているのであればこの対応は、冷た過ぎるのではないか。

だが、この人たちからしてみれば見ず知らずの他人に優しくするほどではないのだ。

薄情といえば、それまでだがこれが普通なのだ。

衛兵という、犯罪をとりしまる人物達がいるがそれでもこの国の犯罪は後をたたない。真昼間であるのにも関わらず、薄暗い路地裏に入れば犯罪に巻き込まれるという事が人々の共通認識だ。

これほどまで、活気に満ち溢れている場所もあるが逆にスラムと呼ばれる無法地帯もこの国にはある。

そこでは、明日をどうやって生きていこうか、正に生死を考える様な生活を余儀なくされている者だっている。

だからこそ、そんな極限状態では生き抜くためにも、犯罪を行わなければいけなくなるわけで自然と犯罪者が増える。

現代日本とは違い、この国は治安が悪いと言わざるをえないだろう。

どこか、中世のヨーロッパの様な景観であるが、技術水準が魔法という考えられない事象の恩恵もあって、ある程度あるからといってそれでも高いとは言えない。

もちろん、贅沢なんて普通の人ができるわけもない。

ましてや、面倒ごとにわざわざ首を突っ込むほどでもないのだ。

しばらく、無言の状態が続いだったがそのうちの一人の少年が顔をあげる。

その顔は、無表情そのもの。目の光は消え暗い深淵を見てきたような生気を感じない死者のような目は、たまたま通りがかった小さい少女に恐怖を植え付ける。

悲鳴を上げてその場から逃げるようにいなくなるが、少年の知ることではない。

少年・・・神谷(かみや)翔(かける)は深いため息をはいた。それだけで、彼の今までの苦労がなんとなく理解してしまう。

隣にいる、同じように暗い雰囲気をまとった少年、菜月昴を見てどうしてこうなったのかと考えてしまう。

あの後・・・例のごとく、魔女教徒に連れ去らわれたのだ。

魔女教徒という翔達の中では狂信者という位置づけだが、風貌は一般人のそれとなんら変わらない。

こうしてルグニカの大通りを歩けば、人込みという景色の一部に違和感なく溶け込めるほどだ。

ゆえに、一般人と魔女教徒の判別は容易ではない。それこそ、人込みの中で連れ去るというのは難しいことではないのだ。

今回は、少女ではなく翔よりも4つか5つぐらい離れた青年だった。

少女ならともかく、成人の男性に手を引かれては翔も抵抗ができない。というよりも、抵抗すればなにをされるか分かったものではない。

それは、少女の時と似たようなものだった。

違うのは今回は青年というのと場所が路地裏の今にも崩れそうな廃屋だったのだ。

ただ、翔を迎え入れたのはペテルギウス。そこは何も変わらない。

案の定、ペテルギウスは翔を歓迎し魔女教へ勧誘したのだ。

自分たちの意に反した、存在を容易に殺すことのできる集団。平和な日本では、その狂気とは無縁の生活を送っていた翔にとって決して納得できるものではない。

困ることは、拉致するほど魔女教の人たちが翔に好意を寄せているのだ。あわよくば、自分たちの宗教の司教になってほしいと強く願っているほどだ。

ここまで、固執されているのは翔自身よくわかっていない。召喚される前までは、ただの学生だったのだ。無神論者というわけではないのだが、少なくともよくわからない宗教に入る気もない。

そんなことを考えていると、再び抗うことのできない睡魔に襲われ気づけば、八百屋の前。再びガラの悪そうな店主を何度も見て、正直運命を感じてしまうほどだった。

ここまでくれば、嫌でも気づく。











「やっぱり、時間が巻き戻っている気がするんだよね・・・」















誰に言うわけでもなく、独り言のようにつぶやく。

時間が巻き戻るなんて突拍子もないことだが、思えば心当たりはあった。

最初に時間が巻き戻ったと感じたのは、リアと名乗る銀髪少女が殺されペテルギウスをはじめ、魔女教徒達に放った召喚特典ともいうべき秘奥義を使った直後。

いきなり、瞬間移動したかのような一瞬の出来事の後に八百屋の前に気づけばそこにいた。

初めての邂逅ででもないのに、店主は翔とスバルのことを見たことないと言っていた。いくらこのルグニカの大通りに人が多いにしても、珍しい翔とスバルのいでたちを見れば少なからず心あたりがあってもよいのではないか。

極めつけは、さきほどまで夕日が沈む夕方ぐらいの時間だったはずなのに、太陽が昇っている青空だったのだ。時間が巻き戻っているか、知らず士らのうちに、次の日になっているのかと考えるしかない。

まだ、その時までは違和感としか感じていなかったが、次に魔女教の少女にあった時に再びペテルギウスと邂逅することになったのだが、当の本人は翔自身と会ったことはないと言っていた。

店主はまだしも、自分を探していたペテルギウスが翔のことを忘れることがあるはずはないのだ。

そのあとは、突然の睡魔と共に気づけば八百屋の前。

自分たちのことを知っているかと聞けば、知らないの一点張り。

合計三回。そのほか、いろいろと考えられるが一番はこの仮説が正しいと翔自身は思ってしまう。

何かを起点に巻き戻っているのか、それとも誰かの力の介入によって起こっているのかはわからない。

ただ、一言。この状況に慣れてきている自分が嫌だった。それこそ、唯一自分だけが使える能力さえ行使さえすればこの問題は解決するのではないか。

それは、できない。と、翔は首をふる。

なぜ。と、問われればもう一つの召喚特典によるものだ。

翔は、制服の内ポケットに入っている黒い装飾の本を取り出す。

最初こそは、異世界という舞台で行動するにあたり、これからどうすればよいのか道を指し示す攻略本のようなものだと考えていたのだったが、違った。

魔女教徒、一人一人が同じ物を持っており、福音書と呼ばれる物は今では不気味な呪いの本のように思えて仕方がない。

「・・・」

表紙を開き、中身を見る。

この本の中身はほとんどが白紙であり、書かれている内容も同様に少ない。

『銀髪ハーフエルフと行動を共にしろ』

「・・・」

書かれている文字一つ一つをかみしめるように読む。

『秘められし奥義に全てを委ねろ』

そして、最後の一文を読む。















『私を愛してくれるものに危害を加えてはならない』













三回目となる、今回。突然、八百屋の店の前で違和感を感じたのだ。

それを例えるなら、何かを忘れているのに気づてはいるが、その忘れた物さえも思い出せない様な曖昧な状況。

何か、しなければと自分をかりたてる焦燥感ともいえる感情。

そうして、無意識のうちに福音書を取り出して読んでみれば新たな一文が追加されていたのだ。

読んだ瞬間。ああ、これかとなぜか安心したのだった。

この感情が何なのか、翔自身よくわからない。















ただ、一つ言えることは自分がこの書かれていることに逆らえないということだけ。





















今まで、書かれている内容は読んで終わりだったが、この文はまるで心に刻まれたかのように抗うことができそうにないと、断言してしまうほどだった。

自分は、狂っているのではないかと翔は考えるが、思考ははっきりしている。

なぜ、そう思えてしまうのか?なぜ、違和感を?そもそも、自分はなにをしたいのか?自分は、争いのない学生だったのではないか?なぜ、福音書が?

自問しては、答えのない考えがぐるぐると回る。

だから、こう考えることにした。

秘奥義が使える代償として、福音書に書かれていることをしなければいけない。

いうなれば、制約のようなものだ。

万能な能力にも、欠点はある。それが、これなのだ。

『私を愛してくれるものに危害を加えてはならない』・・・魔女教徒にこれからは、危害を加えることはできない。むしろ、少しばかりの親近感を感じるほどだ。

皮肉にも、今の翔の表情はペテルギウスと同じく狂気を孕んでいるものだった。

ちょうどよく、福音書に書かれていることは、スバルには読めない。翔が黙っている限り、思惑は露見しない。

自分は、悪くないと翔は思う。制約であり、破ることはできない。

だから、スバルとは良き友人であり続ける。スバルが悩めば力を貸し、気持ちが落ち込んでいるようなら元気になってもらうために、笑わせる。

とにかく、まずはスバルに声をかけよう。

この時間の巻き戻りの原因を追究するのだった。






















☆ ★ ☆



























「・・・って、わけなんだよね」

翔は、この世界が何かが原因で時間が巻き戻っているとスバルに伝えた。無論、福音書の内容は話していない。

「・・・」

「って、スバル?おーい、聞いている?」

「聞いているよ。だって、俺だってそう思ってたところだしな・・・」

「じゃあ、なんで視線を合わせないの?」

「・・・」

気まずそうに、視線をそらすスバル。

何かしたのだろうかと、心当たりを探す翔。考えてから、思い当たることが多すぎてどれなのかとわからなくなる。

思えば、絶望的な状況を何度もギャグへと変えた翔。あれか、これなのかと考えるうちに、

「・・・時間が巻き戻っているのは、翔が言うように俺も気づいてんだ。ただ・・・」

「ただ、なに?」

「あーっと・・・」

歯切れの悪い、スバル。

聞けば、妖艶な女性・・・エルザというらしい。翔が秘奥義を初めて使った相手のことだ。スバルは、その人に盗品蔵で会ってたらしいという事実だ。

「また、殺されたんだよな・・・」

「えー・・・」

「死んでたはずのじいさんと、少女・・・ロムじいと、フェルトが生きていてな。徽章をフェルトから譲ってもらうために、3人で交渉してたんだよ」

だが、交渉は決裂。スバルの、うっかりともいえる言動にエルザは豹変しその場は、戦闘へと流れになった。

その時に、スバルはエルザの持っているククリナイフに腹を切り裂かれ死んだらしい。

らしいというのは、スバルが無傷でこの場にいるという事実が、曖昧なものへと変える。

「たぶん、翔が召喚特典というものがあるように俺にもあるはずなんだ。そのあと、すぐに八百屋の目の前だしな」

「ってことは・・・」

「死に戻りっつーのか?たぶん、俺にはそれがあるんだと思うぜ」

その前も、チンピラに殺された後に戻ったしな。と、スバルが続けて言う。

「・・・あるかもね。俺の場合は、突然眠気が襲うだけだしね。スバルのそれが、原因かな?」

「はあ・・・。翔の召喚特典が便利だっつーのに、俺のはなんて使い勝手の悪い能力なんだよ・・・」

スバルの死というトリガーによって、時間が巻き戻る現象。

スバルと翔の二人を除いて、現象を観測できるものはいない。だからこそ、あったことのある人たちでもスバルと翔のことを知らないのだ。

そもそも、巻き戻るたびに初対面へと戻る。なぜ、時間が巻き戻り二人とも記憶が残っているのかわからないままだったが。

「あれ?ということは・・・」

そこで、翔は気づいてしまう。

何度も、時間が巻き戻っているということは分かったが、一つ気になることがあった。

それは、最初の時間の巻き戻り。ペテルギウス魔女教徒に、秘奥義を使った時だ。

秘奥義・・・ビックバン。

文字通り、宇宙のビックバンを彷彿させる力の奔流と大地を揺るがす爆音。

それを、使った直後時間が巻き戻っていたのだ。

つまり・・・そういうことなのだろう。

「え、スバルの最初の死って・・・もしかして、俺のせい?」

「・・・」

再び、気まずそうに視線を逸らすスバル。

スバルの顔を見れば、もしかしてではなく、そうなのだ。

「てへっ☆」

「・・・何がてへっ☆だ!おまえまじでふざけんなよ!?結局こうなるのかよ!」

「いや、だって。まあ・・・しょうがないじゃん?」

「それにしたって、限度ってものがあるだろうが!」

「起こったことは嘆いてもしょうがない。結果的に、うまくいったでしょ?」

「そのせいで、俺はそのあと何度も死んでいるのですがそこんところは、どうなんでしょうかね!?」

「・・・ご愁傷様としかいいようがないね」

「よし。お前の、喧嘩買おうじゃねえか」

スバルの中では、銀髪少女が殺されたとか自身が痛みの中死んだとか、そんなことよりも規格外なことを成し遂げる翔に不満をぶつける。

加えて、さきほどまで落ち込んでいたのは大半は翔が原因である。

シリアスにギャグをぶち込む存在。翔という、一人の少年で考える暇もないぐらいスバルの頭を悩ませた。

「それよりも、早くしないとまたさらわれるよ?」

「いや、なんでさらわれることが前提なんだよ!ちょっとは、抵抗しろよ!」

「こんだけ、人が多いと魔女教徒探すの無理でしょ。それとも、無差別に秘奥義使ってみる?テロリストじゃないんだから、だめでしょ」

こうして、怒鳴っていたとしても二人には時間がなかった。

例によって、魔女教徒による翔の誘拐だ。

本人は、抵抗という抵抗をしないから攫われる前提なのだ。

そもそも、福音書に文章が書かれてからは危害を加えるつもりは、翔の中では存在していなかったのだが・・・。

「スバル。よく聞いて」

いつになく、真剣な声で翔がいう。

その、空気を機敏に感じ取ったスバルは押し黙った。

「時間が巻き戻っているってことは、これから起こることもある程度はわかっているよね?」

「・・・そうだな。エルフたんの徽章が盗まれるのは、これまで死に戻りしているたびに変わらねえよ。その間に、チンピラに絡まれたりエルザってやつに殺されているけどな」

「スバルは、これからどうしたい?」

「どうしたいって・・・」

スバルは、そこで気づいてしまった。

最初は、ちょっとした親切心から生まれた感情。厳密にいえば、翔の持っている福音書がきっかけとなったが、それでも死に戻りするたび銀髪ハーフエルフと関わっているのだ。

自分から、やっかいごとに突っ込んでいるスバルに何がしたいのか再度翔は問う。

それこそ、自分が辛い思いまでして助ける義理もないのだ。死に戻りしているということは、スバル達があったという事実さえ存在しない。

いうなれば、他人。初対面であるのにも関わらずどうしてそこまで固執するのか翔は聞きたかった。

「・・・自分でもわかんねえよ。一人の少女のために、死んでまで助けたいなんてニートしてた俺が考えもしてなかったからな・・・。でも・・・」

「でも?」

「あんな、辛そうな顔している美少女なら助けないわけないだろ」

今までにないぐらい、晴れやかな笑顔。

自分を犠牲にしてまで、なんでそこまでやるのか普通の人なら思うのかもしれない。だが、短い間でスバルという人間を翔は理解してしまった。

切り捨てたら、どんなに楽なのにも関わらずスバルは少女を助けることを強く願った。

異世界召喚され、自分が主人公にでもなったと陶酔しているのかもしれない。そうであったとしても、友人の純粋な願いを翔はくみとらなくてはいけない。

「・・・惚れたの?」

「正直、銀髪でエルフとか大好きだぜ?それに、あの天使のような声!まさに、メインヒロインという言葉がふさわしいぜ!」

・・・スバルは、どこまでもスバルだった。逆に、そんなスバルを理解しようとした自分に翔は少なからず後悔する。

「それに、名前を聞きそびれたしな!ここで、助ければメインヒロインルート待ったなしだぜ!」

「はいはい、わかったよ。・・・安心したよ。スバルが、元気で」

「どういう意味だ?」

「生きているとはいえ、普通殺されたら正気保っていられる?」

「そこは、アニメとゲームと漫画で培ったニート思考でカバーだぜ!」

「俺は、魔女教をどうにかしないと。聞くところによると、魔女教自体そんなに束縛力がないっぽいんだよね。うまくいけば、すぐに解放されると思う」

「だったら、そのあと合流だな」

「・・・気を付けてね?こういったら、あれだけど。スバルには、死に戻りっていう特典があるからと言って攻撃とか自衛の手段ないからね?」

「わーってるよ。死んだら、元もこもないしな」

「・・・それ、今言う?まあ、いいや」

どちらともなく、片手で握ったこぶしをつきあう二人。

「俺は、銀髪ハーフエルフたんを救う!」

「俺は、魔女教から解放される!」

かたや、主人公的なセリフに対しもう片方は実に残念なことを言う二人の少年。

言った本人が、ちょっとないかなどと思ったが、水をさすことはしない。

「じゃあな、相棒!」

「うん!また、後で」

二人は、お互いをたたえ通行人に紛れるようにその場から離れる。

その直後、翔は魔女教徒に攫われたがその表情は、何かを決心したかのようだった。























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