邪教の幹部に転生したけど、信仰心はありません   作:ellelle

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正義の味方と狂科学者

 黒い夜とかいう事件がどんなものかは知らないが、少なくともそんなものを持ち歩くなんて普通ではない。

 ある種の精神病患者か頭の悪い平和主義者、彼女の両親がノーベル平和賞を受賞しているとも思えない

 それこそ核弾頭を片手にビールを飲むような人間と同じというか、目の前の幼女やその両親も含めて素敵な一族である。

 

 

 個人的にはそんな得体の知れないものを作った彼女とその両親、そしてそれの使用を許可した協会の人間に言ってやりたい。

 それこそ彼等のようなMADは心臓発作でも起こして、その上で某第三帝国の悪魔と同じようにその最期を教科書にでも乗せてくれ。

 

 

 

「御主が不安がるのもわかるが、わっちにも色々と事情というものがあっての。

 四城戦に勝って御父様の理論が正しかったこと、そしてあの事故は天使衣(セフィロス)が原因でなかった事を証明せねばならぬ」

 

 

 MADにしては些か可愛らしい風貌だが、どんなに可愛らしくても所詮は狂科学者である。

 個人的にはそんな得体の知れないものではなく、それこそピンク色のバックパックでも持ち歩いてほしい。

 その中に手作りのお弁当と数百円の分の御菓子を入れて、わけのわからない目標と適当な夢を見ながらピックニックでもしてくれ。

 

 

 

「奉天学院との戦いではセフィロスの使用が認められず、あのような不本意な結果を残してしまったが今回は違う。

 御父様の発明を嘲笑った協会の間抜け共を見返し、その上でわっち等一族に与えられた不名誉な称号を返上する。

 全てはブラヴァツキー家を復興させる為、そして御父様と御母様の名誉を取り戻す為の四城戦じゃ」

 

 

 全く、よくわからない実験に付き合う私の事も考えてほしいものだ。

 なぜ私が聞いたこともないような理論を証明する為、これまた聞いた事もないような実験を手伝う必要がある。

 これが四城戦という一種の競技だということ、そして教皇様や生徒会長様の御言葉がなければ殺していただろう。

 

 

 私はブラヴァツキー家とか言う家の復興に興味はないし、会った事もないような人間に力を貸すのも御免だ。

 あの箱になにが入っているのかは知らないが、少なくとも私は収容所の人間でもなければモルモットでもない。

 それこそMADらしい発想と言えばそれまでだが、私に言わせれば目の前の幼女と死の天使は同類である。

 

 

 

「では始めようかコスモディア学園の大将、セフィロスのデータ収集が終わるまでは倒れるでないぞ!」

 

 

 

 開始を告げる鐘が鳴り響き、それと同時に彼女の足元に巨大な魔法陣が浮かび上がる。

 ある種の歯車を彷彿とさせるそれはとても複雑で、どことなく本社の宝物庫を守っていた魔法陣と似ていた。

 見た事もないような文字が重なり合って光を放ち、その全てがセフィロスと呼ばれる箱に吸い込まれていく――――――ハハハ……そんな乾いた笑いが私の口からこぼれ、そして彼女は新しい玩具を前に子供のようにはしゃいでいた。

 

 

――――――いやはや、それをなんと表現すればいいのか私にはわからない。

 どこかのアニメやライトノベルに出てくるような武器というか、少なくともこれを一言で表現するのは不可能だろう。

 最低限の急所を守るように彼女の体を包み込む金属と、その周りに浮かぶ独特な形をした飛翔体、左右に浮かぶ超電磁砲(レールガン)も含めて正にオーバーテクノロジーである。

 

 

 ふむ、サムおじさんがパワードスーツの開発に力を入れていたらしいが、彼女をその国に紹介したら研究者たちは卒倒するだろう。

 あれがどういう原理で動いているのかはわからないが、少なくともその技術は私のいた世界よりも明らかに進んでいた。

 もしもこの技術がお昼のワイドショーで紹介されていたら、それこそ画面越しに拍手でも送っていただろう。

 

 

 それほどまでに素晴らしいと言うか、なんとも鬱陶しそうな代物である。

 まさか機械工学という概念がこの世界にも存在したとは、彼女の右胸に埋め込まれた赤い宝石を見ながら私は思ったよ。

 

 

 

「なんと言うか……出来の悪いロボットアニメでも見ているようだな」

 

 

 そして彼女の両目が同じように赤く染まったかと思えば、その宝石に向かって無数の回路が伸びていく。

 おそらくあの宝石が車でいうところのエンジンであり、溢れ出す魔力はそれを動かすガソリンなのだろう。

 それは周りに浮かぶ飛翔体にも言える事で、どうやら全ての飛翔体に同じものが埋め込まれているようだ。

 

 

 取りあえず私は彼女の出方を伺おうと刀を抜き、そのまま大きく踏み出して距離を詰めた。

 狙いは彼女の急所を守っているあの金属、あれがどれほど固いのかが気になったからね。

 一応最悪の事も考えてある程度手加減はしたが、それでも彼女の動きは私の予想を超えていた。

 

 

 大方周りの飛翔物を使って反撃するか、あるいは魔術壁を使うと私は考えていたがね。

 彼女が私よりも早く動けるようには見えないし、それこそヒーロー君並の剣術を使えるとも思えない。

 だからこそ突然巻き起こった突風と眩い光、そしてなんの感触もないまま空を切った一撃に困惑してしまう。

 

 

 

「協会のジジイ共は大っ嫌いじゃが、今回ばかりは感謝した方が良いかもしれぬの。

 それこそ御主の事を事前に聞いておらねば今の一撃、そしてこれからの戦いにも支障が出たかもしれん。

 さすがはヴェリデリッド家の嫡子を圧倒し、更にはあれだけの惨状を作り出した異常者じゃ……しかし悲しいかな、こうなっては魔法の使えぬ御主に勝機はないの」

 

 

 その言葉は頭上から無数の光と共に降り注ぎ、数秒後には眩い閃光と共に轟音が響き渡る。

 私の足は無意識の内に動いていたが、もしもあの場にいたらどうなっていたか――――――目の前の光柱(ライトピラー)を見ながら苦笑いしたよ。

 これほどの魔力は初めて見るというか、明らかに学生の領分を超えているだろう。

 

 

 天才だったからMADになったのか、それともMADだからこそ天才なのかはわからない。

 しかし無数の飛翔体に囲まれながら空を飛んでいる幼女、メディア=ブラヴァツキーを見上げながら私は思う。

 これは今までの戦いとは比べものにならないというか、あまりにも相性が悪くてため息すら出て来ない。

 

 

 その証拠に間髪入れずに二つのレールガンが光を放ち、まるで生き物のように私を追尾してくる。

 私は地を這う蛇のように動き回りながら機会を伺うが、飛び回っている彼女に反撃する手立てがなかった。

 やっと休憩することが出来たのはそれから数分後、レールガンの攻撃が止んで剣の形をした飛翔体が飛んできた時でね。

 

 

 

「魔法が使えない?ハハハ、そんな事を言われたのは生まれて初めてだよ。

 まさかそんな風に思われているとは、さすがの私も少しだけ不快というか――――――君がどうしてそう思ったのかは知らないが、そんな言葉で私の動揺を誘っても無駄だと思うがね」

 

 

 その飛翔体を刀で弾きながらレールガンの攻撃に備えていたが、どうやら二つ同時に攻撃する事は出来ないようでね。

 そもそもレールガンの攻撃が止まったのは熱くなった筒身の、その熱を逃がす必要があったからだろう。

 レールガンの攻撃は避けるほかに手立てはなかったが、こう言った物理攻撃であればいくらでも対処できる。

 

 

 取りあえず飛翔体に埋め込まれた宝石を壊してみれば、それは糸の切れた人形のように虚しく転がった。

 一瞬の閃光と響き渡る金属音、私は飛んできたそれを全て破壊した上で彼女を見上げてね。

 まだ同じような飛翔体は無数にあったが、それでも当の本人は私の動きに驚いているようだった。

 

 

 ただ、さすがにこの高低差では彼女の言う通りどうしようもないというか……そもそも魔法が使えない事をなぜ彼女が知っているのだろう。

 あの言葉がただの時間稼ぎであったならいいのだが、そう言った駆け引きをしてくるようなタイプにも見えない。

 無論私はその言葉を否定したが、それに対して彼女は私を見下ろしながら言ったのさ。

 

 

 

旋律眼(サードアイ)、さすがの御主もこの程度の事は知っておるじゃろう。

 他人の魔力をなにかしらの色として知覚出来る能力……いや、病名と言った方が正しいか。

 これのせいでわっちは協会のジジイ共に疎まれ、そして両親が死んでからはそれに拍車がかかった」

 

 

 サードアイ――――――確かに私はその言葉を知っていた……いや、調べたといった方が正しいかもしれない。

 なぜならサードアイとはギアススクロールを見破る唯一の能力であり、交わした契約を解除する事も出来るからだ。

 まさかこんなところで御目にかかるとは、サードアイとは一種の特異体質でありその希少性はかなり高い。

 

 

 なぜなら他人の魔力がなにかしらの色に見えて、その魔力量からよく使う魔法まで正確に見抜くことが出来る。

 そして彼女の言う通りサードアイを持つ者の多くは差別を受け、この国ではある種の障害者として扱われていた。……ただ、その理由がなんとも馬鹿らしいと言うか、要するに他人の力を正確に読み取る彼等が怖いそうでね。

 

 

 サードアイとは私の世界で言うところの共感覚に似たもので、日常生活を送るのに何等問題はない。

 むしろその能力はとても強力であり、こればかりは生まれもっての才能である。

 それこそどれだけ訓練しても身につける事は出来ないし、対人戦だけでなく魔物との戦いでも重宝されるだろう。

 

 

 しかし人間とは得てして自分とは違うものに対して、往々にしてよくわからない称号をつけたがるものだ。

 サードアイはその性質上本人の意思に関わらず色を認識し、そしてそれをある種の情報として脳に伝える。

 つまり無断で相手の能力を覗き見ているわけで、彼等を差別している人間はそれを嫌がっているのさ。

 

 

 ほら、たとえば魔術師協会の御偉いさんが能無しだったとしよう。

 普通の人間には相手の魔力量を正確に読み取る事は出来ないし、その人が得意としている魔法だってわからない。

 だからこそ能無しであっても上に立てるわけで、世渡り上手の人間は権力(コネ)を使ってその地位に座るだろう。

 

 

 しかし彼女のような人間が組織内にいては、その実力を一瞬で見抜かれてしまう。

 金や権力で地位を手に入れた人間からすればこれほど厄介な事はないし、なにより自分の存在意義すらも疑われてしまうからね。

 魔術師協会の幹部が一介の生徒よりも魔力量が少なく、更には使える魔法まで劣っているとなれば……ふむ、その後の事は言うまでもないだろう。

 

 

 だからこそ彼等はよくわからない権利を主張して、その立場を守る為に彼女のような人間を迫害している。

 私には目の前の幼女がどんな生活を送っていたのかはわからないが、少なくともあまり楽しくはなかっただろう。

 サードアイを持つ者の両親が不祥事を起こせばどうなるか、そんな事は彼女の顔を見ていればなんとなくわかる。

 

 

 

「サードアイに関しては私も知っているが、確か能力の代償として右目が紫色になるはず――――――」

 

 

「ふん、その程度の事は魔法でどうとでもなるわ。

 サードアイの者が最初に教えられる魔法がそれ、要するに瞳の色を変えるものじゃからな。

 わっちの言葉が正しいかどうかは御主が一番わかっておる筈、もっともその魔力量を見る限り否定したくなるのもわかるがの」

 

 

 彼女の言葉を信じるならば先程の発言、魔法が使えない事を見抜いたのも納得できる。

 それにしてもまさかこんなところで出会うとは、彼女の発言によって不本意ながら私の体質が知られてしまった。

 これにはさすがの私も困ったというか、近くにあった飛翔体を思わず切り刻んでね。

 

 

 しかし視点さえ変えればこれはチャンスであり、やり方次第でいくらでも覆すことが出来るだろう

 私は持っていた刀を投げる事で彼女の周りに浮いているそれを貫き、まずはその下準備から始める。

 さすがに動き回るそれに当てるのは難しかったが、これといってやれる事もなかったのでそれを繰り返してね。

 

 

 降り注ぐそれはひとつの例外もなく切り刻み、そして彼女の攻撃が止まれば刀を投げて破壊する。

 もしもの事も考えて彼女自身を狙う事は出来ないが、その代り周りに浮いているそれを破壊させてもらう。

 これにはさすがの彼女も予想外だったのか、次々と破壊されていくそれに焦っていたよ。

 

 

 一応彼女の方も私のやろうとしている事に気づいたらしく、一生懸命飛び回っていたがやはり優先順位というものはある。

 周りの飛翔体よりも二つのレールガンを優先して守り、そしてそのレールガンよりも守るべきは自分の体である。

 私には彼女を狙うつもりなど初めからなかったが、彼女からすれば気が気ではないだろう。

 

 

 

「くっ、たかが銃剣(バヨネット)を破壊したくらいで調子に乗るとはの。

 しかしその程度の攻撃で勝つつもりなら御主には失望したぞ。このセフィロスは両親の研究を元にわっちが完成に導いた魔導兵器、悪いがバヨネットの補充などいくらでも出来る!」

 

 

 その言葉と共に彼女の雰囲気が変わり、バヨネットと呼ばれたそれがサークル状に回転している。

 このままでさすがに分が悪いと思ったのか、そのまま急降下してくる彼女を見ながら私は微笑んだ。

 まさか彼女の方から向かってくるなんて、私の間合いに飛び込んできた彼女にハグでもしてあげよう。

 

 

「短絡的な思考に判断能力の欠如、悪いがその代償は支払ってもらおう――――――」

 

 

「戯け、その程度の反撃は折り込み済みじゃ!」


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