*この話はこれから先の話も含まれており、ネタバレ要素があります。
そういうのが嫌いな方はお手数ですが…第一章を全部ご覧の上でこの話を見てください。
これはある少女の話ーー〈人よりも目立ちたいと願い、他者からは特別な存在になりたかった〉その少女は、ある日を境にその欲求を果たせなくなる。その理由はとても簡単であって、少女よりも魅力的な人物が現れたからであった。
「
「はぁい」
担任となる男性教師が呼ぶ声に、間延びした声で立ち上がったその人物は、少女の目から見ても美しく感じられた。癖っ毛の多い栗色の髪に、大きく空のように透き通った蒼い瞳。適度に整った顔立ちは、
「はぁ…美人だな…」
「本当にいるんだな…、あんな美人…」
「……」
その後も、彼女に向けられる視線が減ることもなく…むしろ、増えていくのであった…
γ
その少女は自分よりも注目される者が許せなかった。
すなわち、あの〈香水 陽菜荼〉という存在自体が少女にとってイレギュラーであり、正直消えて欲しい存在であった。あの忌まわしい存在にデレデレする周囲を見ていると、イライラしたし…無意識で彼女の後を追っている自分自身にも苛立ちを覚えた。
「はい、これ。君のでしょ?君のポケットから落ちた気がしたから」
教室の入り口から、少女が最も憎むアルトよりの声が聞こえてきた。遠くにいる少女から見ると…どうやら彼女は柱の影になって見えないが、誰かに何かを手渡しているようだった。整っている顔立ちを微笑みの形に崩して、優しい声音でそう話しかけている彼女に、柱の影にいる誰かが礼を言おうと口を開こうとしているのがわかった。
「あっ、かすっ…ありが…」
「陽菜荼ぁ〜、何してるの?早くしないと、置いていくわよ」
だが、その誰かの声も彼女の隣にいつも居る焦げ茶のショートヘアーに黒縁眼鏡という出立ちの女子生徒の声によって消される。女子生徒の声に、ハッとしたような表現を浮かべた彼女は柱に隠れている誰かに右手を上げると、申し訳なさそうな表現を浮かべてからその場を離れようとする。
「あっ、ごめん、友達が待ってるから。じゃあね!ちょっ、待ってって 詩乃!」
「…ッ。香水!その、ありがとな!」
駆け出していく彼女の後を追って、飛び出してきたこの男子生徒がどうやらさっきから聞こえてくる声の主なのだろう。後ろからだから見えないが、声からして…その顔を真っ赤に染めていることだろう。
“チッ、あんな女の何がいいってのよ…。あたしの方が数倍魅力的だっての…”
少女に対する嫉妬心や妬みが徐々に心へと募っていく。鋭い視線を向ける少女に気づかない彼女は、その男子生徒から声をかけられて振り返ると、もう一度ニッコリと笑って…その場を後にした。
「ん、次は落とさないようにね。せっかく、カッコいいハンカチ持ってんだからさ」
彼女がいなくなったその場に残るのは、放心状態のあの男子生徒とその男子生徒の友達と思える男子で、放心状態の男子生徒へと呼びかけている。
「ーー」
「行っちまったな…」
「……」
無意識で受け取ったハンカチを鼻へと持っていこうとする男子生徒に、その男子生徒の友達が引き気味でつっこむ。
「おい、匂いとか嗅ぐなよ。いくら、親友でも…そんな変態には、俺引くからな」
「嗅がねぇよ!」
呆れ顔を浮かべる友達に、男子生徒が大声をあげる。その後も、喧嘩みたいな口論が続く。
「どうだか。お前、入学時から香水に一目惚れだったもんな〜。あれはお前みたいな凡人には、届かない高嶺の花だよ。見てみろ…、香水が通った後に振り返らない奴が居ねえもの」
「うっせーよ!絶対、振り向かせてやるって。さっきのも、手応えあったし!」
「おっ、頼もしいことで」
「そういうお前はどっち派なんだよっ」
「俺?香水と朝田でってことか?」
「そうだよ。あの二人なら、断然 香水だろ?」
「……俺は…朝田かな」
「マジかよ!あんな地味な奴のどこがいいんだよ!」
「地味じゃねぇーよ!朝田、眼鏡外したら…すげぇ美人だったんだからな!俺、見たし!!お前も1度、じっくり見てみろよ!俺、タイプだったし!!」
「お前も、俺のこと言えないじゃん」
そうつっこんだ男子生徒は彼女から受け取ったハンカチを大事そうにしまう。その様子を見て、少女は思った。
“なら、あの香水 陽菜荼を自分のグループに取り込めば…また、同じように注目されるんじゃないか?”と
そう、考えた次の日には…少女は香水 陽菜荼たちへと声を掛けた。「友達にならない?」とーー
γ
少女のその言葉を喜んでくれたのは…香水 陽菜荼ではなく、いつも隣にいる〈|朝田 詩乃《あさだ しの〉〉という女子生徒であった。普段の様子と異なりノリが悪い彼女と違い、朝田 詩乃はノリがよく…少女にとって有効な駒となりうる存在であった。
「香水は?」
「陽菜荼は…こういうの嫌いだからね。極度の面倒くさがりだから」
「へ〜、そうなんだ。意外」
朝田 詩乃から聞き出す彼女の情報はどれも少女の心に溜まったどす黒い感情を溶かしていった。だって、学校で受け取る彼女の印象と朝田 詩乃から聞く彼女の印象は異なっていたから…
“ふ、そんな事も出来ないなんて…香水って対したことないんじゃない”
いつしか、少女の心は醜くどす黒い嫉妬心や妬みといった感情ではなく…敵うはずないと思っていた相手を心であざ笑える
γ
その昂揚感を味わうために、少女はいろんなものに手を出し始めた。
あの忌まわしい〈香水 陽菜荼〉がやらないであろうことを片っ端から全て…そう全て体験して、あの〈香水 陽菜荼〉を見下してやるんだとーー。
「あれ?この子、美人じゃん。紹介してよ〜」
しかし、少女の携帯にある画像を見ながら…そう言う金髪の柄の悪そうな男に、今まで培ってきた昂揚感が全て破壊されるのを感じた。
だが、だからといって…男たちの頼みを
待っている間に彼女たちの部屋を改めて、しっかりと見たが…生活感があまり感じられない質素なものだった。しかし、彼女たちの部屋に飾ってある写真はどれも仲良さそうな彼女たちが写っており、今更ながら…少女は彼女が大事にしている朝田 詩乃が、彼女ではなく自分たちを優先していたことに気付いて、そこに僅かな優越感を感じた。
「ここはあたしと詩乃の家だよ。決して、あんたらの家なんかじゃない」
そう言い放つ香水 陽菜荼の後ろで、怯えたような表情で少女たちを見ている朝田 詩乃を見た瞬間に少女の中にある何かが壊れた……
少女は自分自身を壊した香水 陽菜荼に復讐すべく…彼女の過去を調べ尽くし、学校中にばら撒いた。そして、今まで向けられたことのない感情を向けられた時に、あの昂揚感が湧き上がってきた。涙をポロポロ流し、感情のままに…少女を殴り続ける香水 陽菜荼を見ながら、少女・遠藤は心の中でこう思った。
ーーざまぁみろ、と
というわけで、遠藤さんの心境でした。
あんな事をしでかした遠藤さんですが、根っから悪者ってわけじゃないと思うんですよね(微笑)
まぁ、彼女をあそこまでの悪人にしてしまった私が言うのも間違っている気もしますが(苦笑)
なので、そんな彼女がもう少し今の性格よりも違うものだったら…もしかしたら、ヒナタといい関係をきずけていたのやもしれません。