sunny place 〜彼女の隣が私の居場所〜   作:律乃

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002 二人のクズと落伍者

「少し下がっててね」

 

ユージオは栗色の親友からそう言われ、言われた通りに一歩後ろに下がってから彼女が繰り出す技を見ていた。

 

ーーーーカナタは良い意味でいい加減なんだ。

 

それはいつか、黒髪の心友(しんゆう)が言ってた栗色の親友に対する評価だ。

 

最初、キリトがそう言った時、ユージオは彼が何を言っているのか、理解出来なかった。

だが、故郷のルーリットから央都へと向かう道中、ユージオはキリトが言っていた言葉の真意を知ることになる。

確かにカナタの技の一個一個はキリト、ユージオに比べると乱雑で幼稚なものが多いように思えた。

踏み込みは一つ一つと毎回違い、構え方も決まったものがないように思えた。

技を放つ時は同じ動作なのだが、それに至るまでの動きは毎回毎回適当でいい加減である。

 

ーーーー毎回適当で幼稚。カナタの技はとても完成されているとは言えない。でも、それだけにモーションに入るまでの動作でどの技が来るかが分からない。

 

"確かにキリトのいう通りかもしれない"とユージオは丸太へと続けざまに技を放っていくカナタの立ち振る舞い、足運びを見ながらそう思う。

 

鼓膜を破れてしまうような破裂音。鮮やかな閃光がユージオの目へと電光が走らせる。大地を轟かせ、鼓膜を振動する暴風が頬にぶつかっては亜麻色の髪をさわさわと揺らす。

 

それを放つカナタはまるで水の流れのようにゆらゆらと掴み所のない足運び、身体運びで次々と技を放っていく。

実態のない。得体の知れない。不透明ながらも力強い動作にユージオは息をするのも忘れ、見入っていく。

 

キリトのように起動モーションに忠実で正確なわけではない。

確実さでいうとカナタの技はキリトにもユージオにも劣っているだろう。

だが、彼女はその劣えを技運びで補っている。

 

ユージオはどちらかというとキリトのように繰り返し鍛錬をし、身体に構えやモーションを叩き込むのだが……カナタは違うようだ。否、もう身体自体に染み込んでいるように思えた。

どんな体勢でも確実にモーションへと持っていける腕を、能力を、彼女は持っている。とても自分では真似出来ない。

 

(やっぱり、凄いな……。カナタもキリトも……僕には真似出来ないや)

 

カナタもキリトも唯一無二の物を持っているが、僕にはそれがない。

 

「ユオ?」

 

ユージオは自分の顔を不思議そうに見上げてくる栗色の親友。

蒼の瞳と碧の瞳が交差し、一瞬の逡巡の後にユージオはハッとしたような顔をする。

その顔にニマニマするカナタ。

 

「おやおや。これはユージオ剣士殿はしっかりと技を見ていなかったご様子。これは、もう一回、技をお見せした方がよいかな?それとも、(わたくし)めのようなちんけな技ではユージオ剣士殿の高貴なお目にも止まらないでしょうか?」

 

「よしてくれよ、カナタ」

 

ニヤニヤと笑う栗色の親友に困ったような顔を浮かべるユージオ。

カナタはクスクスと意地悪に笑いながら、近づいていた顔を遠ざけた後でトントンと刃先を木刀を叩く。

 

「ふざけてごめんね。でも、技の方は本当にそう思っているんだよ。どう?もう一回した方がいいかな?」

 

「……ううん。しっかりと技も見ていたよ」

 

「も?つまり技以外にも見ていたということ」

 

そう言って、両手を胸の前でクロスさせるカナタ。しばし、彼女の奇妙な行動にポカーンとしていたユージオだったが、瞬時に栗色の友人が何を勘違いしているかを想像し、パフっと顔から湯気を出しながら大きな声で間違いを正す。

 

「違うって!」

 

「やっぱりチェリーボーイは違うね。視点のつけ方が」

 

うむうむと勝手に納得するカナタにユージオがだんだんムキになっていく。

 

「だから違うって!それにチェリーボーイってなんだよ」

 

顔を真っ赤にするユージオにカナタはケタケタと笑う。

 

「ふふ。冗談だよ。ごめんね。ユオが面白い反応してくれるから、ついついからかっちゃって。しかし、ユオは本当に勉強熱心だよね。毎日毎日、技の稽古を欠かさないなんて。あたしは飽きっぽいから、とてもじゃないけど真似出来ないや」

 

腕を後ろに組みながら、クク…と自傷気味に笑うカナタ。そんな彼女の様子にユージオはいつか感じた栗色の友人がふと見せる裏側を見た気がした。黒髪の友人もだが、この友人もたまにこういった暗い表情を浮かべる。

 

「……そんな事ないよ。カナタもキリトも」

 

「そーかなー。あたしはキリトみたいに正確でもないし、ユージオみたいに愚直に一つのことを続けることもめんどくさくて、とても出来ない。何事も中途半端なんだ。だから、いつも怒られちゃう」

 

「怒られちゃう?誰に?もしかして、同室の娘?」

 

ユージオはカナタがぽろりと零した"怒られちゃう"というセリフに怪訝そうな声をあげる。

ユージオが知る限りだが、カナタへと怒声をあげる人物など居なかったように思えるが。

同室となった貴族の女子生徒や他の女子生徒たちとも仲良く話しているし、上手く立ち回っているように見えたのだが……。

やはり、自分の知らないところで彼女も何か苦労をしているのだろうか。

 

ユージオは笑顔から苦虫を噛み潰したかのような表情にシフトチェンジしているカナタを見つめる。

その瞬間、ユージオはやっとカナタの裏側が見えるような気がした。

 

「ああ……んー、まー。そんなとこ」

 

だが、そう簡単に見えるものでないらしく、渋い顔でそう言ったカナタはパッと表情を変える。そして、まだ悪戯っ子のような顔を浮かべて、ユージオへと視線を向ける。

 

「そんな事よりも。ユオ。さっきからあたしになにか聞きたそうだけど、何かな?」

 

「……え?」

 

ユージオははぐらかされてしまったと思う。

折角、この栗色の友人の本質的なところが分かるエピソードだったかもしれないのに……。

少ししょんぼりしてしまいそうになるのをグッと耐え、ユージオはこの訓練何処かで聞きたいと思っていた質問をカナタへとぶつけるのだった。

 

「カナタは剣に何を込めてるの?」

 




 003へと続く・・・・

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