sunny place 〜彼女の隣が私の居場所〜   作:律乃

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この回は、しばらく記憶の失ったシノの話が続き…百合要素が不足することへのお詫びと、お気に入り登録・100名を突破したことに対する感謝の気持ちを伝えたくて書いたものです。

元となっている話は、この〈ホロウ・フラグメント〉の前の〈インフィニティ・モーメント〉であったイベントで、この回もそのイベントに沿って書いております。

そして、この話はヒナタとフィリアが76層の街へ帰ってきて、数ヶ月後をイメージして書いてます。

では、百合ん百合んなヒナタとシノンにキュンキュンして下さい!




※4/11〜誤字報告、ありがとうございます!




ーーーこの話で出る人物ーーー

◎カナタ/ 香水 陽菜荼
本作の主人公。
シノンとはリアルで幼馴染であり、恋人でもある。シノンのことを二人の時は『シノ』と呼び、再開した後はシノンに多いに甘えている。

◎シノン/ 朝田 詩乃
本作のメインヒロインであり、もう一人の主人公。
カナタとはリアルで幼馴染であり、恋人でもある。カナタのことを二人の時は『ヒナタ』と呼んでいる。再開した後に甘えてくるカナタには手を焼かれつつも、頼ってくれることが嬉しい様子。

◎キリト/???
シノンとカナタを助けてくれた凄腕の剣士であり、原作での主人公。
全身、真っ黒な装いから『黒の剣士』と周りの人から呼ばれている。実力はSAOの中で一番で、ユニークスキル『二刀流』の所有者。アスナとは婚約している。

◎アスナ/???
SAOの中で最強と名高い血盟騎士団の副団長を務めている。また、美しくも早く剣捌きから『閃光』の二つ名がある。実力は折り紙つきで、キリトと婚約している。

◎リズベット/???
アスナの親友で、鍛冶屋を営む少女。鍛冶への情熱は凄まじく、手加減も知らない。そのため、彼女の店へと足を運ぶ攻略組が多い。キリトへ片思い中

◎シリカ/???
このSAOで珍しいビーストテイマーの少女。彼女の周りには、いつもふわふわな水色の羽毛が特徴的な小竜・ピナが羽ばたいている。キリトへと片思い中

◎リーファ/???
キリトの妹で、現実で剣道を習っているため、実力は折り紙つき。ある事件で助けてもらったカナタへと恋心を抱く。

◎フィリア/???
『ホロウ・エリア』に閉じ込められていた少女。共に、死地を乗り越えてきたカナタへと恋心を抱く。

◎ユイ
キリトとアスナの娘を名乗る幼い少女。

ーーーーーーー


閑話ーsubー
001 バッカスジュースの嫉妬


コンコンと部屋をノックする音が聞こえ、続けて、聞き慣れた声がドア越しから聞こえてきた。

 

『カナタ、少しいい?』

 

凛とした声の中に幼なさが混じっているーー間違いなく、詩乃の声だ。

 

“ん?シノ?”

 

こんな時間にどうしたんだろうか?

あたしからこの時間に彼女の部屋へ尋ねることは多々あるが…いや、毎日寝る前には彼女の部屋へとお邪魔しているが、その逆というのは本当に珍しい。

 

“なんか、急な用事でも出来たのだろうか?”

 

「どうぞ〜」

 

あたしの声で、ガチャと鍵が外れる音が聞こえて、ドアの向こうからひょっこりと焦げ茶色のショートヘアが姿を現す。同色の大きな瞳が此方を伺うように見ている。

 

“本当にどうしたのだろうか?”

 

彼女がこんな目をすることは稀で、あたし自身、今まで彼女と接してきた中で見たことない。まず、あたしよりも彼女の方が堪忍強いし、大人びている。そんな彼女が、こんな目をするとは一体、何が起きたというのだろうか?

 

「シノがあたしの部屋に尋ねてくるなんて、珍しいね〜。ほとんど、あたしが出向くのに」

「えぇ、そうね。ねぇ…ヒナタ、今から少し時間ある?」

 

彼女らしくないモジモジした感じで尋ねてくるシノに、いよいよあたしは心配になるが、顔を見た限り異常がないように見える。なので、あたしは頷くと答える。

 

「ん、あるよ。なくても…シノの滅多にないお願いだもん。何があったって付き合うよ」

「ッ、あなたって人は…もうっ。……誘おうか、迷ってた私がバカみたいじゃない…」

 

頬を真っ赤にして俯いて、何かをつぶやいているシノに首をかしげるあたし。そんなあたしの方を見て、シノは本来の彼女らしい表情になると、下を指差す。

 

「シノぉ?」

「…私のお願いは、下の酒場で限定メニューがでたらしくて、それをヒナタと食べたいって思ったのよ」

「へぇー、限定メニュー?どんなのだろう〜、メンチカツとかあるかな〜。すっごく楽しみ!早くいこ!シノっ!!」

 

椅子から立ち上がったあたしは、シノの左手を掴む。そんなあたしにシノは慌てた様子で注意するが、あたしの言い分に納得すると微笑む。

 

「ちょっ、ちょっとぉヒナタ。そんなに引っ張らなくても、メニューは逃げないから」

「でも、売り切れるかもしれないよ?」

「そうね、いきましょうか?」

「ん!」

 

あたしは掴んでいた手を、恋人つなぎへと変えると下の酒場へと歩いて行った……

 

 

γ

 

 

酒場の右側、一番奥の方の席に腰掛けているのが…白と赤を基調とした騎士服に身を包む、腰まで伸びた栗色の髪の少女・アスナと黒い戦闘着に身を包む黒髪の少年・キリトであった。

アスナは目の前に届いたパスタを口に含むと、笑顔を浮かべる。

 

「NPCレストランにしてはいいじゃない。すごく、おいしい」

「へぇ〜、アスナが言うんならよっぽどだな。それ、何?」

 

キリトも自分のパスタを口に含みながら、アスナへと問いかける。

 

「〈きのこのクリームパスタ〉だよ。キリト君もひとくち、どうぞ」

「ま、マジで?じゃあ、一口…」

 

アスナのパスタへとフォークを伸ばすキリト。そのキリトのパスタへとアスナも手を伸ばす。

 

「じゃあ、わたしもキリトくんのもらっちゃお〜」

「んっ!うまい…後を引くおいしさだ。もう一口…」

「ふふふ、いいよ。食べて…」

 

変わらずに、甘い雰囲気を醸し出す二人の対局線の席に腰を下ろしているのが…赤と黄緑色を基調とした戦闘着に身を包んだ焦げ茶色の少女・シノンと橙と黄色を基調とした戦闘着に身を包んだ癖っ毛の多い栗色を持つ少女・カナタである。

どうやら、二人もキリトとアスナと同じメニューを選んだらしかった。

 

「ん〜っ、これおいしいよ!シノ。一口食べてみる?あ〜ん」

 

ニコニコと満面の笑顔を浮かべているカナタが、シノンへと自分のパスタを差し出している。それを周りを気にしながら断ろうとしているシノンだが、カナタの言葉にとうとう負けてしまい、口を開ける。

 

「…ちょっ。それは…さすがに恥ずかしいからっ、やめて」

「大丈夫、大丈夫。誰も見てないよ、だから、あ〜ん」

「……あっ、あ〜ん。ん!あっ、おいしい…」

 

放り込まれたパスタを噛んだシノンは、目を丸くする。そして、そんなシノンを見たカナタが今度は自分の番といった感じで、親鳥から餌をもらうのを待つ雛鳥みたいに大きな口をシノンへと向ける。

 

「でしょ?だから、あたしにもシノのちょうだいっ。これは立派な物々交換ってもんですよ。あ〜んも同様にお願いします、シノさん」

「はぁ〜、最初からそれが目当てだったのね…。いいわ、その物々交換とやらに乗っかっちゃったのは、私なんだからね。はい、ヒナタ、あ〜ん」

 

嘆息を尽きつつも、シノンの顔には笑顔が浮かんでいた。まるで、手がかかる妹を世話するようにフォークをカナタへと差し出すと、満面の笑顔を浮かべるカナタに微笑みかける。

 

「ん。シノのもおいしいねっ、もう一口ちょう〜だいっ♪」

「はいはい。あ〜ん」

「あ〜ん。ん〜っ、おいしいっ」

「よかったわね、ヒナタ。じゃあ、今度は私の番ね」

「ん、はい。シノ、あ〜ん」

「あ〜ん」

 

こちらの席も変わらずに、甘い雰囲気を漂わせていた…

 

 

γ

 

 

そして、そんな二席が見える席へと腰をかけているのが四人の少女達だ。二席の様子を黙って見ていた少女達は、誰ともなく気まずそうな…羨ましそうな表情を浮かべる。

四人のうち、まず声を出したのは…四人掛けテーブルの前側の左側へと腰掛けている茶色の髪をツインテールにしている少女である。赤と黒の二色を基調とした戦闘着に身を包んだ小柄な少女の名前はシリカで、いつもは彼女の周りにふわふわな水色の羽毛がかわいいドラゴンが羽ばたいている。そのドラゴンの名前はピナといい、シリカの親友で大事なパートナーである。そんなパートナーの姿が見えないところを見ると、部屋の中で留守番をしてもらっているのだろう。

そして、そんなシリカだが、複雑な表情を浮かべて…二つの席を交互に見ている。

 

「…あの二組、仲いいですね…。キリトさんのところは当然と言えば、当然ですけど…」

 

そんなシリカの声に頷いたのは、シリカの隣に座る桃色のショートヘアとウェートレスみたいな服に身を包んだ少女・リズベットである。この四人の少女たちの中で、自分の店を鍛冶屋としてもっている。鍛冶屋としての誇りと腕は、確かで多くの攻略組が彼女の店へと顔を出している。

そして、そんなリズベットもシリカと同じというよりも呆れを多く含んだ表情で、二席を眺めている。

 

「でも、それ以上に向こうの方がイチャついてるわね…。周りにいる人たちが気まずそうで、少し同情するわね…」

 

そんなリズベットのどこか冷たい声にうなづいたのは、リズの向かい側に腰掛ける金髪をツインテールにしている少女である。白と黄緑色を基調とした戦闘着からは成長しすぎた二つの双丘が、彼女が身動きする度に上下に揺れる。そんな少女の名前はリーファで、彼女も苦笑いを浮かべながら…主に、カナタとシノンの方へと視線を向けている。

 

「あはは…、本当ですね。しかし、シノンさんとカナタさんって本当に幼馴染だけなんですかね?あの仲の良さは…それだけじゃないような…」

「なあに?リーファ、嫉妬?」

 

リズベットが意地悪な感じで、そう問うとリーファは顔を真っ赤にして否定する。

 

「ちちちちっ違います!べっ、別に気になっただけで…それ以外に下心なんて…」

「はいはい、わかってるわよ〜。気になっただけよね〜」

「絶対、わかってないですよね…その言い方…」

 

頬を膨らませるリーファの隣には、項垂れるように机に伏せている金髪をショートヘアにしている少女が腰掛けている。青と水色を基調とした戦闘着に身を包んだ少女は、羨ましそうにカナタとシノンが腰掛けている席へと視線を向けてはブツブツと呟いている。

 

「……もう、あんなに仲良くしちゃって…。いいなぁ…わたしも、カナタにあ〜んしたい…」

 

その呟きが聞こえたらしいリズベットとリーファが苦笑いを浮かべて、二席へと視線を向けては他の二人へと視線を向ける。

 

「…フィリアに至っては、嫉妬どころか欲望が出ちゃってるわね…」

「でも、そうですね…。あの二組…特に、カナタさんのところに入っていくのは疲れそうですね…。……あたし、あそこに入っていくほど勇気出ないし…、でも…あたしもカナタさんとあ〜んしてみたかったなぁ…」

「えぇ、あたしもあの二人の中には入りたくないわ。だから、あたしたちはあの二組をここから生暖かい目で見てあげましょう。それで異論ないわよね、シリカ、フィリア?」

 

そんなリズベットの言葉に、他の二人ーーシリカとフィリアがどこかトロンとした視線で大きな声を出す。そんな二人にリズベットとリーファが目を丸くする。

 

「いえ、異論あります!」

「うん、異論ありだよ!」

「シリカ?」

「フィリアさん?」

「あたしたちはおおいに異論ありありのましましですよ!」

「そうだよ!なんで、遠くから見ていないといけないの!」

 

異常なテンションの二人の元に置かれてある、ある飲み物へと視線を向けたリズベットが声を上げる。

 

「はっ。あんたたち、もしかしてバッカスジュースを飲んだのね!」

「バッカスジュースは、ステータスではなくプレイヤー本人の感覚信号を強化して、一定時間運動能力を増加させるアイテムです。ただ、信号強化状態がプレイヤーに擬似的な酩酊感を発生させてしまうので正式サービスには採用されなかったはずなのですが…」

「ユっ、ユイちゃん!?いつの間に!?」

 

突然、側に来ていた長い黒髪に、白いワンピースといういでたちの少女・ユイにリーファが驚きの声を上げる。

 

「このシステム異常で、なぜかレストランのメニューに並んじゃってるのよね……」

 

リズベットの声を遮って、フィリアがたんと机を叩いて、声を荒げる。

 

「そんなことより!!私たち、なんのために76層にいるって思ってる!?」

「いや…戻れなくなったからでしょ…」

「違いますっ!もう、ぜんっぜん違う!だから、お二人は甘いっていうんです!」

「そう!すっごく甘い!リズとリーファは甘すぎるよ!」

「どっ…どうします?リズさん…この二人…」

「えぇ、手につけられないわ…」

 

頬を染めて、怒涛の攻め口で二人を追い詰めて行くシリカとフィリア。リズベットとリーファは困った顔をして、顔を見合わせる。アイコンタクトで話し合った結果としては、〈まぁ、二人の好きなようにさせよう〉ということだった。

 

「受け身の姿勢でいてもなにも変わりません、もっと攻めなきゃだめですよ!花の命は短いんです!!」

「そうだよ!シリカの言うとおり、私たちはもっと攻めなきゃいけないの!じゃないと、いつまで経っても、意中の相手はこっちを向いてくれないの!」

「あたし、キリトさんのところに行ってきます!」

「わたしもカナタのところ、行ってくる!」

「え?あ…」

「行っちゃいましたね…」

 

そして、好きなようにさせようと二人をほっといた結果、二人はそれぞれの想い人のところへと向かってしまった。その後ろ姿を見ながら、リズベットとリーファは二人がいい戦果を持ち帰ってくることを願った…

 

 

τ

 

 

数分後、それぞれの席から帰って来た二人にリズベットとリーファが声をかける。すると、微笑みながらシリカとフィリアがそれぞれの戦果を報告する。

 

「…おかえりなさい。シリカちゃん、フィリアさん」

「で、戦果は?」

「〈クリームパスタ〉おいしかったです」

「わたしも食べさせてもらったよ。おいしかった」

 

その戦果に、ズコっと倒れるリアクションを取ったリズベットが、二人へと呆れた声を出す。

 

「なんであんたたちまで、食べさせてもらってるのよ!そうじゃなくて、キリトやカナタをかっさらってくるぐらいのことをしに行ったんじゃないの?」

「敵が硬くて…攻撃が通りません…」

 

そう答えたシリカの赤い瞳に涙が溜まる。その様子に、リズベットは頷く。

 

「まあ、だよね…。キリトのヤツ、かなーり鈍いから。で、フィリアの方は?」

「わたしの方は攻撃は通るんだけど…。トドメを刺そうと思うと…邪魔されるっていうか…懐に入るまでに、強力な壁によって攻撃が弾かれるというか……」

 

そう答えたフィリアの水色の瞳にも、シリカと同様に涙が溜まっている。そして、フィリアの答えにリズベットとリーファはある少女を思い浮かべて、苦笑いを浮かべる。

 

「ああ〜」

「……確かに、あのシノンさんから、カナタさんを奪うなんて無理ですよね」

「うぅ…、そういうこと…」

 

溢れそうになる涙を溜めつつ、シリカとフィリアはリズベットとリーファへと向き直ると

 

「ううう…みなさんっ。あたしたちはこの世界に数少ない女子同士」

「仲良くして行こうね…」

 

と言うと…シリカはリズベットへと、フィリアはリーファへと抱きついた。

 

「おー、よしよし…」

「フィリアさん、大丈夫ですか?」

「リーファ〜。わたし、頑張ったんだよ〜」

「はい、わかってますよ。フィリアさんは頑張ってましたよ」

 

 

 

 

 

ー『バッカスジュースの嫉妬』完ー

 




ーウラバナシー

・キリトとアスナの元へ向かったシリカですが、果敢に攻めるもキリトが鈍感なため…撃沈。しかし、キリトからもらったパスタは美味しかった様子です。

・カナタとシノンの元へと向かったフィリア。カナタはフィリアの顔が赤いことと目が潤んでいることから→熱がある→風邪と考え、おでこに手を添えて熱を測ろうとしたが……シノンのヤキモチによる攻撃・足踏みにより、手を引っ込める。その後も、フィリアが攻めてもシノンの邪魔により…撃沈。しかし、カナタからもらったパスタは美味しかった様子です。

ーーーーー

※このウラバナシは私が勝手に考えて、解釈したものですので…原作とは異なっております。

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