これから先、二人に降りかかる災難とは…?
※5/17〜誤字報告、ありがとうございます!
いつもの酒場に四人の少女の姿がある。四人で座れるようになっている机に両手を重ねてその上に顔を伏せているのが癖っ毛の多い栗色の髪と橙の和服が特徴的な少女・カナタである。そのカナタの向かいに座るのが、桃色のショートヘアーに赤いウェイトレスみたいな服が特徴的な少女・リズベットである。リズベットは眠そうなカナタとその隣に腰掛けるこげ茶色のショートヘアーに赤と黄緑、黒で構成された複雑な服に身を包む少女・シノンを交互に見るとからかうようにニンヤリと笑う。机に伏せてるカナタの栗色の髪をツンツンと突きながら、意地悪な声音で問いかける。
「今日はいつにも増して眠そうね〜、カナタ。なぁに、今朝までシノンとラブラブだったのかしらぁ?」
だが、リズベットの思惑に引っかかったのはシノンだけでカナタに至っては頭をツンツンされてるにも関わらずに微動だにしない。
「なっ!?リズっ、そんなこと…」
「ん〜そんなとこ〜。うぅ…ねむぃ〜」
「って、旦那さんは言ってるわよ〜?シノン。ほら、恥ずかしがることなんて無いわ。吐き出しちゃいなさいよ!」
「本当にしてないわよ!」
「ずぅ…すぅ……」
「顔が赤いところを見ると怪しいわよ〜?」
「だからっ、違うって言ってるでしょう!?」
そんな三人を見て、穏やかに笑うのはリズベットの隣に腰掛ける栗色のロングヘアーに白と紅の騎士服が特徴的な少女・アスナである。カナタが相手にならないと思ったリズベットがシノンをからかうのを見て、白熱しそうになる二人の喧嘩を止めてから、寝息を立てているようにも見えるカナタを見つめる。
「ふふ、リズの冗談を相手しないなんて…よっぽど、カナちゃん眠たいんだね。リズも余り、シノのんをからかっちゃあダメだからね」
「分かったわ。ここでやめとく…これ以上からかうと矢が飛んできそうだし…」
リズベットの言葉通り、シノンがいつの間にかオブジェクト化していた弓をつがえるのを見て、慌ててアスナが止めに入る。
「ちょっと、シノのん ここで矢はやめようよ。他にお客さんが居るし…ね?」
「……そうね、誤って他の人に中ったりしたら迷惑かかるしね。でも…このイライラした気持ちは誰に当てればいいのかしら?」
「あはは…」
弓と矢をアイテム欄に入れたシノンはまだ釈然としないように眉をひそめている。そんなシノンの気をそらそうとカナタへと視線を向けたアスナはカナタが寝息を立てて寝ていることに気づいた。
「あら?シノのん。カナちゃん、寝てるみたいだよ?」
「え?本当。もう…カナタっ、こんなところで寝たら、店の人に迷惑でしょう?」
「Zzzz…」
「あはは…、完全に寝ちゃったね〜。どうしようか?カナちゃんが起きるまで、ここに居る?雑談でもしようか?」
「ごめんなさいね、二人とも」
その後、カナタが起きるまでの雑談が三時間くらいになった頃、バタバタと慌ただしい足音が聞こえて…三人が入り口へと振り返ると、水色の羽毛に包まれた小竜を連れてるビーストテイマーの少女がツインテールにしてる茶色の髪をぴょんぴょんと揺らしながら走ってくる。
ビーストテイマーの少女・シリカは肩を揺らしながら息を吸い込むと机に伏せたままのカナタへと声をかける。
「カナタさん!ここに居たんですねっ。それに…あれ?リズさんにアスナさんに、シノンさん…もしかして、何か大事なことを話してました?あたし…邪魔を…?」
確かにこの時間にこの三人が集まっているのは珍しいかもしれない、そう考えたシノンは穏やかに笑うと隣にいるカナタを指差す。
「いえ、この子が起きるまで雑談しようってことになってね。この子には朝から荷物とか意見とかを言ってもらったから…」
「あっ、買い物をですね…。それにそうですが、カナタさん寝てるんですね…」
肩を落とすシリカにリズベットがニンヤリと笑うと手招きする。その手招きと誘い文句に釣られそうになるシリカだが、寸前で踏みとどまるとリズベットが意外そうな顔をしてその頭を撫でる。
「えぇ、ぐっすりとね。あんたもこっちから見て見なさいよ。カナタのレア寝顔が見れちゃうわよ〜」
「それは魅力的……じゃなくてですねっ!」
「おぉ〜、この子にしては踏みとどまったわ。えらいえらい」
「リズさん、なんか酷いです〜」
リズベットを睨むシリカの周りを飛んでいた水色の小竜・ピナが左を向いて机に伏せているカナタの顔へと突然張り付く。そのピナの突然の行動に驚いたのはカナタだけではなく、周りにいた四人も驚きの声を漏らすとシリカはカナタからピナを引き剥がす。
「きゅるる!」
『あ…』
「……なんか、顔がやけにモフモフするなぁ〜って思ったら、ピナだったんだね。おぉ〜、視界が水色だ〜」
「あっ、ピナぁ〜っ!ダメだよぉ!カナタさん、ごめんなさい」
高速で頭を下げるシリカに自身の髪を撫でながら、右手を横に振るカナタは今更ながらシリカがここに居るに疑問を抱いた様子だった。そんなカナタにすかさずフォローを入れるのが隣にいるシノンだった。
「あはは、いいよいいよ。おかげで目が覚めたし…って、あれ?なんで、シーがいんの?」
「あんたに頼みたいことがあるんだって。わざわざ、走ってきてくれたのよ」
「そうなの?それはごめんね…寝てしまってて。それでシー、頼みたいことって?」
「はい、カナタさん。これを見てください」
自分のウィンドウを可視モードに切り替えたシリカがカナタへとあるクエストを見せる。その途端、カナタは前にいるシリカへと視線を向けると両手を掴んでその場に飛び跳ねる。二人して、その場にクルクルと回り続けるので周りの三人は興奮気味の二人を見て、唖然としている。
「やったね!シー。ついにっ!ついにあたし達の時代が来たんだねっ!」
「はい!カナタさん、あたし達の時代の到来ですよ!」
「こんなクエストを用意してくれるなんて…分かってるよね〜っ!カーディナルっ。憎いね〜っ!カーディナルっ!」
「さぁ、カナタさん。あたし達の時代のためにこのクエストへと向かいましょう!」
「あぁ、行こう!というわけで、行ってくるね!シノン」
「えぇ…、いってらっしゃい。あっ、シリカに迷惑かけるんじゃないわよ?」
入り口へスキップで向かっていた二人は、カナタだけ後ろに振り返って…唖然としている三人組の中にいる最愛の人へと手をパタパタと振っている。そんなカナタに気づいたシノンはカナタへ手を振り返すといつも言ってることを言う。
「心得てる!」
シノンの注意を胸を叩いて、返事したカナタはシリカとスキップしながら…転移門へと向かっていく。そんな二人が『ピナの装備♪ピナの装備♪』と鼻歌交じりに言ってるのを聞くと…二人が何にあんなに興奮していたのかが分かる気がする。
取り残された三人組は、そんな二人に苦笑いを浮かべつつ…その酒場を後にした……
ー その2へと続く ー
というわけで、シーさんことシリカさんとのクエストが始まりました〜。可愛いもの好きによる二人の旅路に待ち受けるのは何なんのか?
次回に乞うご期待です!