何でとは言いません…やらかすとだけ、皆さんにお伝えいたします。
なので、どんな場面でやらかしてしまうのか…?楽しんでいってください!
思わぬ味方からの精神攻撃あったあたしは、シノンとルクスの励ましと…リーファが首から下げているメダリオンを目にしたところから“落ち込んでいる場合ではない!”と思い直し、キリトの頭の上に鎮座していらっしゃる新形のインテリジェント・カーナビも裸足で逃げ出すナビゲーション・ピクシー様へと視線を向ける。
そして、ピクシー様ことユイ様のご指示の元に、あたしたちは逆三角形の形をしたダンジョンの中を駆け抜ける。途中でレバーだの歯車だの踏みスイッチだのを駆使したパズル系ギミックがあったのだが…それもユイ様に掛かれば、ちょちょいのちょいである。
キリトから旧アインクラッドでは攻略の鬼と呼ばれていた
まるでオリンピック選手顔負けに動きまわるあたしたちを第三者が見たならば、最速クリアのタイムアタックでもしているかなぁ〜?と思ったに違いない、あたしだってそう思う。だって、可愛らしい声に習い、一糸乱れぬ整列をした軍団が決められた場所へと向かい、またしても一糸乱れぬ動きで「えいやー!」とレバーなどを引っ張るのだから…。
そんなタイムアタック並みのハードな攻略な際、様々なドラマが生まれたのだった。
その中でもあたしの心に残ったものは、重量系パネルギミックで《女性パーティの中でいちばん軽い者と重い者を出せ》というもので…まぁ、みんなの視線と自身でもそう思っていたところがあるあたしと、やや強引にみんなから指名されたリーファの二人で重量系パネルに乗ったのだがーーみんなの予想通りの結果となり、無事にギミックは解除されたのだが…乗らされた二人はまさに正反対の反応をしていた。
黄緑のかかった金髪を揺らし、男性パーティの二人とおまけなあたしへと強烈なビンタを放ったリーファはポロポロと涙を流しながら、ルクスへと抱きついていた。
「体重が重いんじゃないもん…!」
「うんうん、分かるよ、リーファ。リーファは全然重くなんかない」
「ルクスぅ……」
ルクスはポロポロと涙を流すリーファを慰めている中、あたしはヒリヒリ痛む右頬よりも感動に満ちた視線で自分のある一部へと視線を落としていた…。
「おぉ…あたしって、あんなに体重あったんだ…。もしかして…こっちが成長…中…?」
ペタペタと蜜柑と檸檬を基調とした和服系戦闘着の上から平らに見える二つのふくらみを触る。触って見て、思わず目を疑ったーーだって、幻想かもしれないが僅かに膨らんでいる気がしたからだ。
“…ん!やっぱり、そうなんだね!”
この胸の中には夢と希望がいっぱい詰まっているのだもの!
現実でも縦は伸びるが…こっちは増えず終いの伸びず終いであった。だが、それも今日までというわけだ!
“ここから夢にあふれた日々が始まるんだねっ”
じーんとそんな事を思っていると、襟首をがしっと摘まれ、後ろへと引きづられてしまう。
「そんなこと言ってる場合じゃないから!こっちにくる!」
「ぐはっ!?くびっ、首がしまっております!シノンさん!」
一緒に乗った
「お願い………。私を………ここから、出して………」
上の声が聞こえたのは、通路の右側に作られた細長いツララで作られた檻の中であり、その中には一つの人影があった。
床にしなだれているため、正確な身長は分からないが…これだけは言えるのが、あたしよりも大きい事。そして、我がパーティの中では、ウンディーネのアスナの身長とどっこいどっこいという事だろう。
また、その人物の特徴を述べるならば…肌は、降り積もったばかりの粉雪のように白くきめ細かい。背中へと流れる髪は深いブラウン・ゴールド。身体を申し訳ばかりに覆う布から覗く胸元のボリュームは、恐らくこの場にいるあたしを含めた女性メンバーの誰よりも膨よかであるだろう。なよやかな両手両脚には、無骨な氷の枷が嵌められている。
立ち止まったあたし達の気配を感じ取った謎の美女はびくりと肩を震わせると、青い鎖を揺らして頭を上げる。
上げた顔立ちはこのゲームでは珍しい、西欧風の気品溢れるものであり…同じ女性のあたしでも思わず見惚れてしまった。
そして、何よりもあたしを惹きつけたのは…女性が身に纏う儚さであった。触れれば、視線を外してしまえば…何処かに消えていってしまうような脆さが、あたしが心から愛しているある人物と被り…不覚にもドキッと胸が高鳴る。
「お願い……」
そんな美女がか細い声で助けを求めているのだ、これを助けないでなんとするっ!
そんな思いを抱くあたしと赤いバンダナを頭へと巻いている
「おい待て、そこの二人」
「何、ふらっと檻に近寄ろうとしてるのよ」
「こんなの罠に決まってるでしょう?」
上のセリフはキリト、リズベット、フィリアが発したもので…捕まったあたしとクラインさんは顔を見合わせると小さく唸る。
「罠…なんだよな…?なぁ…、カナタ…」
「あぁ…うん…罠…なんだよね…?クラさん…」
「罠なんだろうけどさ…」
「それでも…罠と決まったわけじゃないからさ…」
往生際悪くそう言い、またしても檻の奥にある深窓の令嬢を心ここに在らずの様子で見つめるあたし達へと嘆息したキリトがちらりと自分の肩に止まるピクシーへも問いかける。
「この人はNPCです。ウルズさんと同じく、言語エンジンモジュールに接続しています。ーーですが、一点だけ違いが。この人は、HPゲージがイネーブルです」
【Enable】ということは、有効化されているということだ。普通のクエストに登場するNPCはHPゲージが無効化されており、ダメージを受けない。例外が、援護クエストの対象となっているか、あるいはそのNPCが実はーー
「カナちゃん、クラインさん、これは…」
「罠ですよ」
「罠だよ、カナタ様」
「そうだよ、しっかりして!カナタ君らしくないよ、こんな罠にかかりそうになるなんて」
「ほら、クラインも!僕たちは今、一刻も早くスリュムに行かなくちゃならないんだから」
「ーー」
「シノンさん?なんで、さっきから無言なんですか?」
「気にしないで、リーファ。今、胸の中にある黒い感情をなんとか抑え込んでいるところだから」
「そ…そうですか」
アスナ、シリカ、ルクス。レインにユウキ、リーファ、そして終いはもう既にお見せできない表情となっているシノンが立て続けて、檻に吸い寄せられるあたし達を止めようとしている。
だがしかし、あたしとクラインさんはそんなみんなから離れると揃って振り返って、思っていることを言う。
サラマンダーの刀使いは右手に愛刀を、プーカの刀使いは左手に愛刀を携えて。
「もちろん!わかってるよ!みんなが言いたいことも全部、全部」
「あの人が罠ってことも…そうかもしれないかもしれないってことも…」
「あの人を助けてしまって…それでこのクエストが失敗しちゃっても…」
「アルンが崩壊しちまっても…」
「それでも!!」
「俺たちはあの人をここに置いていくわけには行かないんだ!!」
「「それがあたし(俺)の生き様ーー武士道ってヤツなんだよ!!!」」
そこで叫んだあたしとクラインさんはそれぞれ持った愛刀で氷の檻を切り裂き、揃って囚われの令嬢へと手を差し出す。
「お嬢さん、お手をどうぞ」
「お怪我はないですか?」
「……ありがとう、妖精の剣士様たち」
既になりきっている二人の刀使いを遠目に見ていたみんなはなんとも言えない表情を浮かべている。そんなみんなから一歩後ろにいるケットシーの弓使いの表情はなぜか知らないけど…見てはいけない気がした、なのでみんなは全力で水色の髪を揺らしているケットシーから視線を逸らすと…囚われの女性へとデレデレしてる二人を見て、こう思ったそうな。
“あいつら…アホなのか、かっこいいのか分からんな…”
と。
というわけで、やらかしましたよ!遂に主人公が!!(大汗)
今まで滅多なことが無ければ…恋人のシノンさん以外には目移りしなかったあの主人公が初めて、目移りしました…(汗)
これはやばい状況です!最後の決戦が残っているというのに…
あぁ…主人公の命もここまでやもしれませんね…(大汗)